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湖底のまつり [泡坂妻夫]

本作は本当に泡坂妻夫が書いたのかと
思うような作品でした。
もちろん良い意味で。

「乱れからくり」や亜愛一郎シリーズとは
全く異質の、そして一線を画した、
フランスミステリ風、とでも言えばいいのでしょうか。
官能的な表現も多くみられ、
その点からも上記作品とは全く異なります。

傷心の旅に出た香島紀子は、山間の村「千字村」
で増水した川に流されてしまう、
しかし居合わせた村の青年、埴田晃二に助けられ、
その夜二人は結ばれる。
翌日晃二の姿は消えていた。
村祭で賑わう神社で、紀子は晃二がひと月前に
殺されたと知らされる。
それでは昨日逢った「晃二」は誰なのか?

第一章だけ読むと、
閉鎖された村による隠蔽、それを紀子が
明らかにしていくのかと勝手に思いましたが、
全く違った(苦笑

章立てが各登場人物の名前を冠している
ところがおもしろい。
この章立てにより、我々は同じ情景を何度も読まされているかの
ような錯覚に囚われるのですが、実は
そこに大きなトリックが隠されています。

ある程度ミステリを読んだ方ならば、
「晃二」の正体は途中でわかるかもしれません。
NやPといったイニシャルも。
(イニシャルが分かると言うよりも、とある女性の日記の
記述からおおよそ検討がつきます。)

しかし、本作ではその謎を明らかにする探偵も、
その描写もありません。
婚約を申し込んだ館崎刑事だって、
わかってないでしょう。

さらに最後の描写、
紀子と「晃二」が再び出会う場面。
二人はどうなったのか。
それは我々の想像に任されているのでしょうか。
もしかしたら、再び同じあやまちが繰り返される
可能性を秘めて、物語は幕を閉じます。

来月は「妖女のねむり」が出るそうで、
また楽しみです。




湖底のまつり (創元推理文庫)

湖底のまつり (創元推理文庫)

  • 作者: 泡坂 妻夫
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1994/06
  • メディア: 文庫



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