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裁く眼 [我孫子武丸]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

法廷画家が描いたその絵は危険すぎる――。
美人被告人は残忍な殺人鬼か、それとも聖女なのか?

漫画家になりそこね、路上で似顔絵を描いて生計をたてていた袴田鉄雄。
ある日、テレビ局からの急な依頼を受け、連続殺人事件裁判の「法廷画」を描くことに。

注文通り仕上げた絵が無事に放送に使われた直後、何者かに襲われて怪我を負う。
鉄雄の絵には一体なにが描かれていたのだろうか?

容疑者の美人被告人は残忍な殺人鬼なのか、それとも聖女なのか?
頭の回転の速い姪っ子、警察官、テレビ局、それぞれの思惑と発言が絡み合い、裁判の展開は意外な方向へ。予測不能、驚愕の法廷サスペンス。

以下ややネタバレ。




法廷ミステリといえば、検事・弁護士・裁判官いずれかが主人公の場合が
多いですが、本書は法廷画家が主人公という、おそらくミステリ史上、初めて
ではないでしょうか。

主人公の袴田鉄雄は、今風な感じだけど、夢を追い続けたけども、
屈折してしまったという、すこし拗ねた感もある人物。
そしてどこかボーッとしており、逆な意味で危なっかしい人物。

それと対照的なのが、相棒役を務める中学生の姪の蘭花。
若さからくる行動で、叔父が襲われた事件の捜査を買って出ます。

本書で扱われる事件は、結婚詐欺事件、そして殺人事件。
被告は希代の悪女と報道されている佐藤美里亜。
物語の中で本事件について検事・弁護士、そして証人、被告人尋問を通じて
その内容が明かされていきますが、それはあくまで物語核心の背景音なのかもしれません。

あくまで法廷画家の視点で描かれるため、事件の詳細な内容よりも、
法廷そのものに焦点を合わせているからです。
ここは本書最大の面白さでもあるし、十分シリーズ化できるのではと思うのですが、
一方で、本書ラストまで読むと、この点がデメリットな部分もある気がします。

なぜ鉄雄の描いた法廷画が原因で鉄雄が襲われ、そして同じ法廷で画家をしていた
聖護院桜まで殺害されてしまったのか。
本書はこの謎がメインであり、あくまで佐藤美里亜の事件は法廷画を描く場面でしか無いのです。

むろんそれは頭では分かっていながらも、本書ラストでは被告へ判決が下されますが、
事件は謎のまま。こちらの事件にも決着をつけて欲しかったというのが個人的感想。
ただし、続編が本事件の控訴審というならば話は変わりますが。

鉄雄の描く法廷画のもつ真の意味は最後に明らかになるのですが、
これは本書タイトルの「裁く眼」とシンクロしているの言うまでもありません。
で、また矛盾することを書くのですが、
この真相だと、本作のシリーズ化は難しいのだろうなという(苦笑
なぜなら鉄雄の法廷画を視れば、ある程度事件の真相にたどり着けてしまうから。

しかしまあ、人形シリーズのように、腹話術師が本来人形を喋らせているのに、
人形が独自に喋っている(かのような)シリーズを出した我孫子先生なら、
鉄雄の「眼」と「行動」を分けて、探偵役に蘭花を添えればいけそうな気もします。


裁く眼 (文春文庫)

裁く眼 (文春文庫)

  • 作者: 我孫子 武丸
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2019/06/06
  • メディア: 文庫



裁く眼 (文春文庫)

裁く眼 (文春文庫)

  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2019/06/06
  • メディア: Kindle版



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