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失われた過去と未来の犯罪 [小林泰三]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

女子高生の梨乃はある日、記憶が短時間で消えてしまうことに気付く。
この現象は全世界で発生し人類はパニックに陥った―。それから数十年。
記憶する能力を失った人類は、外部記憶装置なしでは生きられなくなっていた。
記憶=心が切り離せるようになった世界で「わたし」は何人分もの奇妙な人生を経験する。
これは本当に自分の記憶?「わたし」は一体、何者なのか…?『アリス殺し』の鬼才が贈る、
予測不能のブラックSFミステリ。

人類が体験した、わずか10分程度しか記憶を保つことができなくなる「大忘却」
しかし、人類はこの未曾有の危機を、外部記憶装置に記憶を留め、
それを装着できる人類を創り出すことで乗り越えます。

そして本書は、外部記憶装置が当たり前となった世界の中で、
各人が体験した物語が(連作的に)語られます。

外部記憶装置の人体間での入れ替えや、記憶装置のコピーなどが
物語の中核となるのですが、本来人類は10分程度しか記憶が保たれないにもかかわらず、
なぜか最初の人格の記憶が残っていたり、自分が誰なのかわからなくなったり、
どちらが自分自身なのか、いや同じ記憶装置にもかかわらず、別人格が形成されたり、
果ては、現在起こっている事が現実なのかどうか、それすらあやふやになることに。

つまり、外部記憶という極めて科学的かつ合理的な方法を採ることで、
人類を安定化させているのですが、にもかかわらず、
上記のような科学とはかけ離れたことが起こるという矛盾が生じていくのです。

生と死とは何か。肉体と魂、肉体と心は?
記憶が保持できなくなることを科学的に解決したのに、上記のような哲学的、非科学的
な問題が襲いかかってくるという、SFなのですが、人の根源を突いている小説でした。

最後の場面は、イタコを生業としていた「人物」が各人格の記憶等を持ち続けているのか、
それとも、その「イタコ」に装着されている外部記憶装置が、それらの記憶等を上書きせず
持っているのか、実はここはうまくあやふやにしていて、後者の解釈を取れば、
SFホラーでもあり、機械にある意味支配されていく人類を描いているとも考えられます。

しかし、ここまで酷いことは起きていないとしても、スマホ、PCなどにより、
電話番号もいつの間にか暗記する必要もなく、漢字も覚える必要ない日常が
当たり前になってきています。
脳は記憶装置だけではもちろんありませんが、案外と記憶を保てなくなる人類は
近い将来来そうな気がしますね。


失われた過去と未来の犯罪 (角川文庫)

失われた過去と未来の犯罪 (角川文庫)

  • 作者: 小林 泰三
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/08/23
  • メディア: 文庫



失われた過去と未来の犯罪 (角川文庫)

失われた過去と未来の犯罪 (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/08/23
  • メディア: Kindle版



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