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件 もの言う牛 [田中啓文]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

件は牛から生まれ、予言をしてたちどころに死ぬという。卒論取材で全国の一言主神社を
調査する美波大輔は、件の誕生を目撃し、命の危険に曝される。件の予言は的中。
首相が急死する。次期首相人事も左右するという宗教団体・みさき教に囚われた大輔は
予言獣・件の恐るべき正体に気づく。書下ろし伝奇ホラー。

田中さんといえば、落語・ダジャレ・伝奇、そして本格ミステリ(ジャズ)と極めて作風の
幅が広い作家さんかと思います。
私が初めて知ったのは、PS2「かまいたちの夜2」のシナリオライターをされた事から
だったと思います。
講談社文庫では「私立伝奇学園高等学校民俗学研究会」シリーズが(私の中で)超名作。
本書は同じ講談社文庫でも、「猿猴」に近い作品になるかと思います。

以下、ネタバレ含みます。




そもそも「件」とは、頭が人間で体が牛、話すことは全て真実をかたる妖怪。
よく古い文書、古文書で最後に「仍如件」で終わる文書がありますが、
これは、「ここに書いてあることは、件が言うこととおなじで、全て事実です」という
意味でよく用いられます。

本書に登場する「件」は見た目は完全に牛ですが、その件を目撃してしまった美波大輔、
偶然彼が助けた浦賀牧場の一人娘・浦賀絵里。朝経新聞政治部記者の宇多野礼子、
彼女の元彼氏で、牛に襲われたという怪奇な事件を担当することになる奈良県警の村口毅郎。
この4名がいわば主人公たち、でしょうか。

なぜ「大悪天皇」とまで呼ばれた雄略天皇が、その後半生は善政を敷いたのか。
「ウシトラ教団」、母牛に「イ」という特殊な餌を食べさせることで「件」が誕生する。
GHQによる当該教団の弾圧、ウシトラ教団からミサキ教へ姿を変えて、
長年、日本の裏で暗躍してきた教団ということまで説明されます。

さらにはギリシャのクレタ島に潜んでいた「牛鬼」という、ギリシャ神話に話は波及。
この「牛鬼」、ミノタウロスのことです。七人ミサキもギリシャ神話から来ているという
大胆な発想!
最後の章で、雄略天皇が出会った「一言主」が告げた詞が明かされますが、
それより「ヒトコトヌシ」→「ヒトシヌコト」の言い換え!!よく思いつきました(笑
358頁に出てくる一文、「岡山の新見の地で太郎牛、新・見の太郎牛・・・ミノタウロス」
ここを読んだとき思わずあっという驚きと思わず笑ってしまいました。
いや、さすが田中先生。本書は伝奇そしてホラー、グロに加え、ダジャレが相当数
入ってます。

本書で最大の活躍をみせたのはグライムズ兄弟でしょう。アメリカ人なのですが、
とにかく行動が本当にアメリカらしい。バンバンミサイル打ち込むし、
国会議事堂の地下の件養成施設を思いっきり爆破したり。

それにしても、誰かの寿命を知る事というのがそこまで国家を牛耳れるかというのが
根本的に疑問に思いました(笑)
下手すると、自分の方が先に亡くなる場合もあるわけです。
つまり運命を自分に都合良く変えることはできないので、絶対に当たる予言に
留まるんですよね、となんかまじめに考えてしまいました。

しかし本書は一気読みしてしまいました。本当に面白い。
久々にあの「私立伝奇学園高等学校民俗学研究会」を思い起こしました。
壮大な物語の中に、多くのダジャレを入れてくる、見事に重なるんですよね。
伝奇や民俗学、神話などが好きな方にはオススメの一冊です。


件 もの言う牛 (講談社文庫)

件 もの言う牛 (講談社文庫)

  • 作者: 田中 啓文
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/12/15
  • メディア: 文庫



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友達以上探偵未満 [麻耶雄嵩]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

三重県立伊賀野高校の放送部に所属する伊賀ももと上野あおは大のミステリ好き。
ある日、部活動で訪れた伊賀の里ミステリーツアーで事件に巻き込まれる。
探偵に憧れる二人はこれ幸いと、ももの直感力とあおの論理力を活かし
事件を解決していくが…?(「伊賀の里殺人事件」)。
見立て殺人?お堀幽霊の謎?合宿中にも殺人事件…。勝てばホームズ。負ければワトソン。
この世界に名探偵は二人も、いらない。女子高生探偵・ももとあおの
絶対に負けられない推理勝負、開幕!


「伊賀の里殺人事件」、これ記憶にあります。
BSプレミアムで放送してました。ちょっと観た気がしますが、
それをノベライズし、さらに2作を加えたものなんですね。

TVの推理クイズというと、マジカル頭脳パワーでそういう問題があったらしいですが、
私が見始めた頃にはもう終了してましたね。

上岡龍太郎さんが司会の特番で、有名作家さんたちがシナリオライターとして
参加していて、様々な事件の謎を解く、というのを何度か観た記憶があります。
これは面白かった。

閑話休題。

本書は上記の内容からもわかるように、読者(視聴者)への挑戦状が挟み込まれています。
有栖川有栖先生の初期昨でもありましたが(解説が有栖川先生なのは人選が素晴らし過ぎます)、
私も有栖川先生同様、謎を解くより真相が早く知りたかったので飛ばしました(苦笑)

「伊賀の里」はコスチュームに何らかのトリックがあることは想像がつくのですが、
そこにさらに捻りを加えてくるのが麻耶先生。『貴族探偵』を彷彿とさせます。

「夢うつつ殺人事件」も犯人が逆手に取った事件です。所収作では個人的オススメ。
なにせ容疑者も少ない、しかも男性も少ない中で、ですからね。
見立て殺人かと思いきや・・・これまた最後のところであっと驚く仕掛けが施されています。

最終話の「夏の合宿殺人事件」はももとあお、二人の心情、特にあおの心情というかももへの
思いみたいなものが描かれていて、事件とはまた別に楽しめますね。
ワトソン役を欲するあおですが、ももの時折(失礼!)魅せる閃きに感心し、
世界は探偵と群衆とワトソン役の3分割でなく、自分とももと群衆とワトソン役の4分割の様相を
呈し始めている、とその心境の変化がうかがえます。

ももの兄であり、刑事の空からの情報も事件解決への重要なものなので、
難しいかもしれませんが、雪の山荘や、絶海の孤島で起きる殺人事件という、
極めて探偵役が輝く長編作品で、本シリーズを描いてもらいたいなと感じました。


友達以上探偵未満 (角川文庫)

友達以上探偵未満 (角川文庫)

  • 作者: 麻耶 雄嵩
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/11/21
  • メディア: Kindle版



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刑事コロンボの帰還 [海外ミステリ]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

【 コロンボ生誕60周年記念 】
いまなお名作と語り継がれる「 刑事コロンボ 」。
2020年は、『 殺人処方箋 』の原点となったレビンソン&リンクによる
ドラマ"Enough Rope"が放送され、初めて「コロンボという名の刑事」
がテレビに登場して60周年のアニバーサリーイヤー
(さらに2021年はシリーズ放送開始50周年)にあたります。
本『 刑事コロンボの帰還 』においては、作家・山口雅也氏の製作総指揮として、
研究のみならず著名作家による短編作品や新訳作品など創作を数多く掲載しています。


Amazonさんの商品紹介を載せておいて大変恐縮なのですが、
楽天お買い物マラソンで購入した商品(苦笑)
いや、こんなのが出ていたのかと。知りませんでした。

しかも発売元は、刑事コロンボのノベライズを刊行してきた二見書房!
いよいよ本命が登場かと。

ただし内容的には『刑事コロンボ完全捜査ブック』に軍配でしょうか。
作品解説は読み比べできるかと思いますが、
トリビュート小説編をどう捉えるか、で本書の評価が変わってくるのだろうと思います。

私としては(まだ全て読み終わってませんが)こうした試みは良いと思いますが。
(例えば『金田一耕助に捧ぐ九つの狂想曲 』なども非常におもしろく読みました。)
ちょっと頁数を取り過ぎかなと思います。
特にノベライズ版を出していたという強みみたいなものを入れてもらいたかったなあ。
(無いものねだりかもしれませんが)

トリビュート小説を書かれている大倉崇裕さんが作品解説してもらいたかったですね、

ところで本作はあくまで旧シリーズのみを対象とし、
私がリアルタイムで観ていた「新刑事コロンボ」は対象外です。
『完全捜査記録』が全シリーズを網羅していたのにたいし、この点も不満です。

確かに新シリーズは旧シリーズに比べ、作品の出来が良くない、というのは
あるのですが、やはり全作網羅すべきでしょう。
(よく読むと、『刑事コロンボの帰還2』で解説予定とありますが、それはちょっと
フェアじゃないような気もしますね。)

とかなり辛口に言いつつも、『帰還2』が出たら購入してしまいそうです(笑)


刑事コロンボの帰還

刑事コロンボの帰還

  • 出版社/メーカー: 二見書房
  • 発売日: 2020/10/26
  • メディア: 単行本



刑事コロンボ完全捜査ブック

刑事コロンボ完全捜査ブック

  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2015/02/27
  • メディア: 単行本



刑事コロンボ コンプリート ブルーレイBOX [Blu-ray]

刑事コロンボ コンプリート ブルーレイBOX [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: ジェネオン・ユニバーサル
  • 発売日: 2011/12/02
  • メディア: Blu-ray



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忘れられた花嫁 [赤川次郎]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

結婚式直前に花嫁が失踪。控え室を片付けるため、アルバイトの明子が部屋へ向かうと、
そこには、花嫁が着るはずだったウエディングドレスを着た、見知らぬ女性の死体が。
翌日には、式場の主任の光子が何者かに刺され、帰らぬ人となってしまう。
次々と起こる事件に関係はあるのか?
なぜか調査を任されることになった女子大生明子が、事件の真相に迫る!

新年明けましておめでとうございます。
本年も拙ブログをよろしくお願い申し上げます。

さて、やはり首都圏(1都3県)に緊急事態宣言発出とのニュースが出ていますが、
当然というか、この状況を打開しなければいけませんから。
とはいえ、さっさと特措法を改正して、前年度比売上の7割保証とか、そのくらいを
国がしっかりやらないと、閉店倒産で大変な事にもなりますし。
いずれにせよ、今年もそこまで変わらない年になりそうです。

本年一作目は、今年読んだまさにホヤホヤの一冊。
現在まで続く「花嫁シリーズ」の第2作で、その後探偵役を務める塚川亜由美ではなく、
同じ女子大学生でも、合気道を嗜む永井明子が主人公。本作しか彼女は登場しませんので、
かなりレア作品です。

後に彼女の設定も(大学講師と恋仲)も塚川亜由美が取り込みますから、
徐々に徐々に一体化が図られたのかもしれませんね。
というか、かなり似ている主人公なので、同シリーズ内で描き分けは難しいだろうなあ。

しかし、何か久しぶりに「花嫁シリーズ」を楽しめた感じがしました。
そこかしこに出てくる、赤川さんのちょっとした言い回しが良いんですよ。
物語冒頭にはそうした言い回し、良く出てくるのですが、本作はかなりそれが
ちりばめられていて、ある種のクッションになっていて、実にいい。

主人公の明子は性格は亜由美より短気で、即座に行動に出るタイプです。
そして、本作では死にそうな目に(本当に!)何度も遭遇しつつも、猪突猛進。
母親の啓子も若干トボけた感じですが、最後の台詞でそれは親譲りであることもわかります(笑

彼女の勤務先の結婚式会場の社長がまた良い味出してます。
名前、苗字すら全く出てこないにも関わらず、充分にメインキャラクターです。

謎解き部分はもう少し丁寧であって欲しかったなあと思いますが、
最初誰だか分からない女性が、貸衣装のウエディングドレスを着て、
結婚式場で亡くなっていたり、明子の上司にあたる人物が突然辞表を提出したり・・・
物語序盤の掴みは最高です。

現時点では永井明子にとって、最初で最後の事件ですが、
可能であれば、奇跡的に復活して欲しいと思います。



忘れられた花嫁 (実業之日本社文庫)

忘れられた花嫁 (実業之日本社文庫)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2020/12/04
  • メディア: 文庫



忘れられた花嫁 (角川文庫)

忘れられた花嫁 (角川文庫)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 1987/10/01
  • メディア: 文庫



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