SSブログ

三毛猫ホームズの裁きの日 [赤川次郎]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

片山たちは、観光で訪れた岬の突端で、
目の前で起きた一家心中から浜中美咲という少女を助け出す。
しかし美咲は、「私たち一家を死なせた人たちに仕返しする」と書き置きを残し、
行方をくらましてしまう。
美咲の父は、勤務先の不正を告発し、裏切り者として報復を受けていたのだ。
そんな中、美咲の父を追い込んだ上司・室田の不倫相手が殺され、室田が逃亡を始める……。
国民的ミステリーの第53弾、待望の文庫化!


シリーズもはや53弾とは・・・長寿という言葉だけでは言い表せませんね。
前々からも書いていますが、赤川先生のシリーズで、位置づけが大きく変わっているのは
花嫁シリーズと、この三毛猫ホームズシリーズでしょう。
両者とも、明らかに現代社会の問題を意識して書かれています。
(あくまで私見ですが。)


今回も解説部分に、カッパノベルズ版の「著者のことば」が引用されています。
ー今回の物語のきっかけになったのは、NHKのドキュメンタリー<事件の涙>である。
(中略)内部告発を勤め先への裏切り行為とみなす風土は、日本に深く根を張っている。
ここで、片山やホームズたちは企業のモラルだけでなく、
私たち日本人にとって、「正義」とは何なのかを問いかけているのだ。-

赤川先生は作品を通して、こうした社会の問題に目を向けてほしい、ともすべれば、
本作品の解決にように、一筋の光明がみえるようになってほしいと思っておられるの
かもしれません。

ところで本作では、ホームズがそこまで活躍(?)していない印象。
もちろんポイントはしっかり抑えてます、鳴き方で片山らにわからせます(笑)

そして、これも何度も書いてますが、登場する女性達はとにかく強い。
いや、最初は死体をみて気を失ってしまったのですが、須藤克代、川崎ちづる、佐川睦・・・
最後は彼女達に追いかけられる片山刑事で終幕という、いつもの日常なのが良いですね。
片山を評して「あったかい感じの人」というのは言い得て妙でしょう。

ちなみに犯人というか、真犯人や謎の女性は全然わかりませんでした(苦笑)

最近長編が多いので、ぜひ短編集をまたお願いしたいですね。


三毛猫ホームズの裁きの日 (光文社文庫)

三毛猫ホームズの裁きの日 (光文社文庫)

  • 作者: 赤川次郎
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2021/04/13
  • メディア: 文庫








nice!(6)  コメント(6) 
共通テーマ:

密室から黒猫を取り出す方法 名探偵音野順の事件簿 [北山猛邦]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

密室殺人を企てる犯人の前に一匹の黒猫が現れた。あろうことかその猫は、
今まさに密室にならんとする部屋に入り込んでしまい……。思わぬ闖入者に翻弄される犯人だが、
さらに猫探しに訪れた探偵も現れる! 完全犯罪を目論む犯人の焦燥を描いた表題作をはじめ、
音楽室で起こった犯人と凶器が消失した殺人事件を解き明かす「音楽は凶器じゃない」など
気弱で引きこもりがちな名探偵・音野順の五つの活躍を収めた短編集、シリーズ第二弾!


またまた久しぶりの更新です。
このところ読書時間<Youtube時間となっており(笑)、あまり読んでない状況です。
しかしGWは少し積ん読本を読みたいですね。たまにはゆっくりのんびりと。

さて、そんな久しぶりの更新ですが、これまた超がつくほど久しぶりのシリーズ。
青崎有吾さんの解説にもあるように「ようやく!」文庫化です。

なんとこのブログでも前作『踊るジョーカー』を書いたのは2011年。
つまり10年ぶりです!そしてこの作品がいつ文庫化するんだ!と叫んでいたのが
猫柳十一玄の失敗』,2016年の記事です。
それから数えても5年ですから、よく私が生きていたなと思います(苦笑
以下、ネタバレあり。





四六版が出てから文庫化まで12年かかっているので、登場する携帯とか時代を感じますねえ。
とはいえ、ミステリとしては色あせません。
なんといっても、名探偵が解く謎の第一ともいうべき密室殺人が5編中2編もあるという、
『アリス・ミラー城殺人事件』などで魅せてくれたトリック・メーカー北山先生は
やはり伊達ではなかった。

解説で青崎さんが指摘している、引きこもり探偵、あるいは名探偵の使命という点での
シリーズ白眉ともいえるのは「停電から夜明けまで」。
確かにシリーズ探偵である音野順は、本当に何もしていない。
兄である音野要が事件を推理し、殺人計画を見抜くのです。
しかし、その決定的な証拠がまさか名探偵その人という。名探偵不要論を吹き飛ばす作品です。
なんというか、最後があまりに鮮やかな終わり方なので、
刑事コロンボの「二枚のドガの絵」を思い出しました。
さらに犯人の兄弟二人のバカさぶりもすごいです(笑


「クローズド・キャンドル」は王道の密室トリックですが、
ある意味叙述トリックの面もあるんですよね。
しかも双子という事実を隠しておきながら、そこにトリックがあるわけではないというのも見事。
琴宮探偵が良い味だしてます。

個人的オススメは「人喰いテレビ」。
目撃者の怪しげなUFO研究会、テレビに人が食われるという謎、想像できない結末・・・
一番惹き込まれましたね。

『踊るジョーカー』、再読します。
というか、猫柳十一玄も復活希望!


密室から黒猫を取り出す方法 (名探偵音野順の事件簿) (創元推理文庫)

密室から黒猫を取り出す方法 (名探偵音野順の事件簿) (創元推理文庫)

  • 作者: 北山 猛邦
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2021/01/28
  • メディア: 文庫








nice!(6)  コメント(5) 
共通テーマ:

ミダスの河 名探偵・浅見光彦 vs.天才・天地龍之介 [柄刀一]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

骨髄移植の取材で山梨を訪れた浅見光彦は、ドナーの誘拐事件に巻き込まれた。
一方、砂金採りのイベントに参加していたIQ190の天地龍之介は、事故車から落下する死体を目撃。
出火した車内は金色だった。別々の事件を追う二人は、甲斐の黄金王と呼ばれる名家に辿り着く。
ところが、二人に殺人容疑が。埋蔵金伝説の地で連続して起きる悲劇の真相に、名探偵コンビが迫る。

久しぶりの更新です。
このところほとんど読書に時間を割いておらず、寝てばかりいました・・・
積ん読本が増えるばかりでしたが、ちょこちょことまた楽しく読んでいきたいと思います。


さて、これまた久しぶりの柄刀一先生の作品です。
柄刀先生の他作家さんのキャラクターリスペクト作品では、
『御手洗潔対シャーロック・ホームズ』が即座に思い浮かびます。


そして今回は浅見光彦という、国民的名探偵を登場させました。
しかも、ご自身のシリーズキャラクター・天地龍之介との共演です。

<天才!龍之介が行く>、ずっと読んでましたねえ。
『殺意は幽霊船から』が確か祥伝社文庫が始めた400円文庫か何かだったと
記憶してますが、そこから読み始めて、他も読みあさり・・・だったような。
ところが、『紳士ならざる者の心理学』より後の作品がなぜかノベルズ版のみで、
文庫化されず、その後は未読です・・・(ノベルズ版を買え!とお叱りを受けそうですが)。
『青列車』とか好きですねえ。

浅見光彦シリーズももちろん相当久しぶりです。
本当に久しぶりに光彦に会えました。

本作の光彦、ルポライターという仕事にかなり積極的、アグレッシブに行動しています。
『旅と歴史』の取材というわけではなく訪れていたり。
そういや、珍しく藤田編集長が大活躍でしたね(笑

本書は基本的には浅見光彦、内田康夫先生リスペクト作品かなと思います。
浅見光彦シリーズの『日蓮伝説』『菊池伝説』『隠岐伝説』など、
主に角川文庫で刊行されていた『伝説』シリーズを思い起こさせます。

光彦の容姿を記した場面(309頁)
「風貌は中村俊介に近く、もう少し成熟すれば辰巳琢郎と榎木孝明を足したような渋みも
生まれるかもしれない」
なるほど、柄刀さんはこのお三方のシリーズを観ていたなと勝手に思いました(笑)
しかしこの描写だと、かなり若い頃の光彦の印象を受けますね。

ただ、天才ぶりというか、推理力ではいずれもその能力を発揮しているものの、
龍之介に軍配かなあと思いました。さすが天才。
光彦お得意の、あの閃きの瞬間がものすごく具体的に書かれていたのも
印象に残りました(何頁か失念・・・)。
思わず笑ってしまったので(失礼)、みなさんも是非読んでほしいです。

本書全体としては、追う謎が意外と多い。まあタイトル通りではあるのですが、
殺人事件と平行しているので、余計にややこしいんですよね。
最初の連れ去り事件が、なんというか曖昧なんですよね。

それから光彦がルポしていた細胞移植の話は、タイムリミット(つまり時間との勝負)
という所に押し込められてしまって、そこをもっと活かしても良かったのではと。
ただ、そうすると龍之介の登場は難しいんですよね。
『箱庭』や『透明な遺書』『中央構造体』『遺骨』などの、いわゆる社会派になってしまう
ので、中々難しい。

まあ無いものねだりなんですけどね(すいません)。

最後に龍之介が披露した、楢崎聡一郎の事件の推理は、かなり見事。
あの場で、あの状況を打開するために思いついたと思われますが、
実際、あれが真相だったのかどうか、意外と語られていないんですよね。
でもまあ、あの場面での「推理」と考えると、お見事すぎます。

後読みどころとしては、光彦の龍之介評と、光章の光彦評が読めること。
(たしか龍之介の光彦評は明確にはなかったような。間違ってたらすいません。)

すでに第2作『流星のソード』も文庫化していますので、こちらもそのうち
読み始めます。

令和の時代の光彦の活躍も楽しみです。
これを記念して、残りの龍之介シリーズの文庫化を望みます!





ミダスの河 名探偵・浅見光彦vs.天才・天地龍之介 (祥伝社文庫)

ミダスの河 名探偵・浅見光彦vs.天才・天地龍之介 (祥伝社文庫)

  • 作者: 柄刀一
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2020/12/11
  • メディア: 文庫







nice!(8)  コメント(8) 
共通テーマ: