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フェティッシュ [西澤保彦]

まずはAmazonさんの紹介ページから。


触れられると仮死状態に陥るという特異体質をもつ美少年・クルミ。
葬儀巡りをする老人、潔癖症の看護師、息子を亡くした母親etc.
さまざまな事情を抱えた者たちがクルミに魅了され、
その体に触れた結果、無残な姿で死に果ててしまう。
連続殺人犯の正体と目的は……? 妖しくも美しいサスペンス・ミステリー。

以下、ネタバレあり。






コスミック文庫、初めて買いました。
西澤先生の作品が結構出ていて、どういう繋がりからなのか、とかどうでも
いいことが気になりました。

本書、説明文ではサスペンス・ミステリーとなってますが、
そもそもミステリなのだろうか。
西澤保彦節は全開なのは間違いありません。それは保証します(笑

とにかく登場する人物たちが個性的というか、いや性癖は人それぞれなので
そこは致し方ないと思いますが、変わりすぎな人もいて、志自岐幸夫は完全に
クルミの登場で崩壊します。

事件を追う刑事である長嶺尚樹にも、ある性癖があります。
しかし、彼は事件の核心に迫り、犯人に制裁を加えた唯一の人物でもあります。
だた、クルミに真実を伝えることが出来なかったのが、心残りだろうなあ。

犯人の目的は、クルミの妄想を既成事実化して、やってる、という理解不能すぎる
理由で、大量殺人を繰り返します。
いや、これももしかしたら本書で語られる性癖の1つとして書かれているのかもしれません。

被害者たちの中で印象的なのは、やはり<聖餐>を割り当てられた澤村智津香でしょう。
彼女の人生が語れるとともに(これが相当に凄惨すぎます)、彼女の最期が
かなり衝撃でしたね。

しかし救われない物語ですね。クルミはもちろんですが、登場人物たちも。
ただ澤村や他に殺された人たちは、果たしてどうだったのか。自ら救われたと
感じていた人も居たかもしれません。

クルミにとっては絶望的な日々が続くのかもしれませんが、真実を知らせる人物が
登場してほしいなあ。


フェティッシュ (コスミック文庫)

フェティッシュ (コスミック文庫)

  • 作者: 西澤保彦
  • 出版社/メーカー: コスミック出版
  • 発売日: 2022/04/29
  • メディア: Kindle版







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少年検閲官 [北山猛邦]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

旅を続ける英国人少年クリスは、小さな町で家々の扉や壁に赤い十字架のような印
が残されている不可解な事件に遭遇する。奇怪な首なし屍体の目撃情報も飛び交う中、
クリスはミステリを検閲するために育てられた少年エノに出会うが…。
書物が駆逐される世界の中で繰り広げられる、少年たちの探偵物語。
本格ミステリの未来を担う気鋭の著者の野心作、「少年検閲官」連作第一の事件。



『オルゴーリェンヌ』が文庫化されたので、シリーズを読み始めようと
購入した1冊。

あくまで私個人のこれまでの嗜好として、メルヘンというか、特殊世界というか、
異世界というか、そうした場所を舞台としたミステリは避けていました。
北山先生の作品は『『アリス・ミラー城』殺人事件』が初で、
その後引きこもり探偵シリーズを読み始め、『猫柳十一玄』を読み・・・と
きたところで、以前書いた講談社文庫の2冊や、本シリーズなどは
意図的に避けていた、という感じです。

が、ここにきて色々と幅を広げるという意味でトライしているという。

本作は、書物がない、禁止されている世界、焚書が当たり前、
人類には政府の大本営発表的なラジオから発信される情報しかないという、
ディストピア的な世界で、描かれる殺人事件を、検閲官が解き明かすというストーリーです。

なので、本書を読んでいく際には、事件の謎だけでなく、この世界観、世界の種々の
謎(まあ設定でしょうか)も合わせて考えていく、知っていく必要があるので、
中々読み応えがありました。

犯人の動機は極めてこの世界の中においては極めて単純ですが、
それを実行すると、これほどまでに残酷になるのか、というのが最初の感想。
物語の中では平然と語られていますが、想像を絶しますね。
それを平然と聞いていられる関係者も凄かったな。
この辺りが、この世界に住む人々の特殊性なのかもしれません。

ミステリそのものは、かなり練り込まれていて、
最初で描かれた小屋が消えるトリックや、少女が「復活」する話。
そして事件の中心的トリックたる湖での犯人消失。また、家に赤い印を付ける意味。
これらの謎が見事に論理的に解き明かされていくのは流石の一言。

また、この世界観から、犯人が探偵と呼称され、事件を解決するのが検閲官というのも
面白いですね。クリスが物語中で苦しむのも理解できる。
しかし、なぜこの街の人々は、この犯人を「探偵」と名付けたのか?
その辺りはよく分かりませんでした。

また、「ガジェット」という、本作世界観では欠かせなそうなシロモノが
出てくるのですが、いまいち重要性がわからなかったなあ。
「首切り」のガジェットというのがあって、それを持っていた、だから
犯人は首切りを行っていた?訳ではないですよね。
(私の読み込みがまるで足りてないのかもしれません、すいません。)

物語全体としては、ミステリとしては非常に面白いものの、
作者が創ったこの世界観をそれに充分に活かせているかはかなり疑問。
焚書や書物のない世界、もミステリだけない訳ではなく、他の本もないですしね。
それと、探偵は謎を解く存在なのだ、というクリスの思いも、本世界観だけでは
中々説明しにくい。実際に書物を知っている人たちも大勢まだいるようですし。

とはいいつつ、次もそのうち読み始めよう。


少年検閲官 〈少年検閲官〉シリーズ

少年検閲官 〈少年検閲官〉シリーズ

  • 作者: 北山 猛邦
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2014/06/11
  • メディア: Kindle版







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御手洗潔のメロディ [島田荘司]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

何度も壊されるレストランの便器と、高名な声楽家が捜し求める美女。
無関係としか思えない2つの出来事の間に御手洗潔が存在する時、見えない線が光り始める。
御手洗の奇人ぶり天才ぶりが際だつ「IgE」のほか、大学時代の危険な事件「ボストン幽霊絵画事件」
など、名探偵の過去と現在をつなぐ4つの傑作短編を収録。


短編集第3弾。
前作、前々作とはかなり趣向が変わっています。
どちらかというと、『御手洗潔と進々堂珈琲』シリーズにやや近い短編集でしょうか。

「ボストン幽霊絵画事件」は、今までの奇人・変人ぶりから、天才への道程を
描く先駆け的なものでしょうか。だからといって事件の謎は非常におもしろい。


とはいえ、やはり「IgE」は群を抜いています。奇人・変人ぶりは健在で、
まるで繋がりの見えない2つの事件、これを見事に看破する御手洗の大活躍が
素晴らしい。そして、このタイトルの付け方がまた秀逸です。

ノンミステリ2編が含まれますが、この「IgE」を目当てに購入しても、
まったく損はありません。
作品、普通に読んでもまず解けません(笑)いや、普通じゃなくても解けないか。
便器が何度も壊される、などという謎から、壮大な大事件への繋ぎは
素晴らしいの一言に尽きます。

御手洗短編集、「挨拶」から「メロディ」まで今もまだ文庫で新品を購入
することができるというのは本当に有り難い。
他の長編作品もお願いできませんかねえ、講談社様。


御手洗潔のメロディ (講談社文庫)

御手洗潔のメロディ (講談社文庫)

  • 作者: 島田荘司
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/10/31
  • メディア: Kindle版







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午後の脅迫者 新装版 [西村京太郎]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

警察官が手を染めた犯罪のからくりは、想定外の結末にいたる。私立探偵が夢みた成功報酬の三千万円は、いったい誰の手にわたるのか? 妻は会社を経営する夫の素行調査を探偵社に依頼した。夫は探偵にしっぽをつかまれるが、逆に妻に「男」を作ってくれれば三千万円を出すという。成功直前のある夜、探偵の眼の前でフラッシュが光って……。トリックの妙を示した秀作ぞろいの作品集。

数多くの著作を遺された西村京太郎先生。
私もこのブログでいくつか紹介させていただきましたが、まだまだ傑作・秀作は
埋もれているようです。

先生の作品は長編が多いので、短編集というのは中々珍しいのではないでしょうか。

所収作愁眉は「職業婦人」。これはダントツに面白い。
むろん、これが書かれた時代と、時代背景。そもそもこのタイトルからしてもう?の方
も多いと思いますが、今のこの時代にこれを読むと、またまるで違う味わいも出てきますね。
一方、動機、ハウダニットを追及したミステリとしても、一級品ではないかと思います。


「二一・〇〇に殺せ」は、このタイトルが秀逸。本編で出てきますが、なぜ午後9時では
なく、このように表現したのか。そこから推理を組み立てる展開が面白いです。

「美談崩れ」は特ダネを追う、ある地方記者の物語。
どういう結末に落ち着くのか、高木が到達したある結論は、読者からすると、
おおよそ予想がつくものなのですが、そこで終わらないところが本作の狙いでしょうか。

「柴田巡査の奇妙なアルバイト」は現代社会で実際に行われていそうな、
ドキュメンタリーかと思う話です。
ラストの切れ味はは本書所収作で一番かと。

西村作品はトラベルミステリーだけにあらず。
皆さんもぜひ色々手にとってもらいたいです。


午後の脅迫者 新装版 (講談社文庫)

午後の脅迫者 新装版 (講談社文庫)

  • 作者: 西村 京太郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2022/03/15
  • メディア: 文庫







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