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11文字の檻-青崎有吾短編集成 [青崎有吾]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

なんと、『体育館の殺人』の衝撃から10年!
平成のエラリー・クイーンは、短編もここまですごかった
本格ミステリ、SF、人気コミックのトリビュートまで、全8編
傑作「11文字の檻」(書き下ろし)収録

大事件に遭遇したカメラマンが感じた違和感を描く「加速していく」、
全面ガラス張りの特異な屋敷での不可能殺人の顛末「噤ヶ森の硝子屋敷」、
人気コミックのノベライズ「前髪は空を向いている」、
どんでん返しの切れ味鋭い「your name」、百合小説として評判となった「恋澤姉妹」などに、
力作書き下ろし「11文字の檻」を加えた全8編。『体育館の殺人』で衝撃のデビューから10年、
著者の集大成ともいえるノンシリーズ短編集。

以下、ネタバレ少しあり。





アンソロジーものが多いので、それを知らないと???な短編もいくつか
ありますが、表題作がそれを吹っ飛ばしてくれます。

「your name」は『長短編!どんでん返し』収録の一編。
登場する探偵が良いですね。このトリックというか、謎解きの一撃は、
ワープロ時代から通じるもので、容疑者を動揺させることはまず間違いないです。

「噤ヶ森の硝子屋敷」。著者の解説にもあるように、新本格30周年を記念した
アンソロジーに収録された一編。中村青司を最大限リスペクトした作品で、
本書愁眉かもしれません。墨壺深紅なる奇妙な建築家の創造した数々の奇妙な屋敷。
そこに登場する、薄気味良悪という、本名か?と思わせる名前の探偵。
何でも、探偵組合的なもの、探偵への連絡役や差配を行う仲介屋も登場。
あっという間に謎を解きます(笑
星影龍三みたいだ。

この辺りは、この墨壺深紅の<館>シリーズとしてシリーズ化してほしいですね。
トリックは言われてみれば確かにその通りだという、盲点を上手く突いてます。

「飽くまで」は、東野圭吾さんの傑作『悪意』に通じるものがある、
究極的なホワイダニット作品の1作でしょう。

「11文字の檻」は世界観と、この監獄から逃れる11文字の日本語の2つが
アイロニーというか、真逆であるというところが非常に面白く、かつ
謎解きの過程も一歩一歩の詰め将棋的な面があり楽しめました。

「恋澤姉妹」、百合アンソロジーに収録された一編ですが、
これが一番謎だったかも。主人公の目的はともかく、この姉妹は何なのか?と。
とんでもなく強いのはわかるんですけどね。

青崎先生、そろそろ<館>シリーズ新作もよろしくお願いします!



11文字の檻 青崎有吾短編集成 (創元推理文庫)

11文字の檻 青崎有吾短編集成 (創元推理文庫)

  • 作者: 青崎 有吾
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2022/12/12
  • メディア: Kindle版






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三世代探偵団 生命の旗がはためくとき [赤川次郎]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

女子高生の令奈は通学途中、ふと覗き込んだ車中で男が刺殺されているのを発見する。
なぜかその男は、駆け落ちして姿を消した姉・美樹の名前が書かれたメモを持っていた。
姉の身に何かあったのかと心配する令奈。一方で、美樹は駆け落ちした婚約者が
裏組織の息子であることを知ってしまい、口封じのため命を狙われていた。
さらに組織はあることをきっかけに、対立相手と武力闘争を起こそうとしていて……。
天才画家の祖母、マイペースな母と暮らす娘の有里。友人の家族が巻き込まれた抗争に、
三世代が立ち向かう!

相変わらずの赤川節。
裏組織の本気の抗争って結構赤川作品に登場しますよね。
それを暴力や武力で解決しないのが、赤川先生の神髄というか、
赤川作品の根幹の1つなのだろうと。

次々と新たな登場人物が出てきますが、全く混乱しないところも赤川作品ならでは。
ところで三世代の中間・文乃はマイペースと紹介されていますが、
ある意味登場人物の中では数少ない常識人ですよね(笑
常識というか、ある意味人間らしいというか、そういう思いや判断を下していると思います。
私だけのけ者にして!とか私には何も知らせないで!とか、シリーズでそうした発言を
する文乃ですが、これは幸代や娘の有里があまりにぶっ飛んでるから。
何しでかすかわからないので、家族として共有しないとマズイという危機感から、と
私は思いましたが、買いかぶりすぎかも(笑

ラストは大団円とはいかないまでも、落ち着くところに落ち着く結末。
次作は、村上刑事を巡る逆の鞘当ても語られるかも。


三世代探偵団 生命の旗がはためくとき (角川文庫)

三世代探偵団 生命の旗がはためくとき (角川文庫)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2022/09/21
  • メディア: 文庫






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死の黙劇 山沢晴雄セレクション [山沢晴雄]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

月のない夜、華奢な欄干を破り、一台のタクシーが崖下に転落した。
運転手は一命を取り留めたが、乗客の男は即死する。死者は顔いちめんに
包帯を巻きつけていたものの、その下にはなぜか傷ひとつなかった。
さらに死者の所持品からは探偵砧順之介の名刺が発見されたが、
その名刺を死者が所持することは論理上不可能だった――
奇怪な謎が読者を魅了する表題作ほか、書籍未収録の犯人当て短編などを所収。
職業作家の道を選ばず、生涯に亙って緻密極まりない作品を執筆、
巨匠鮎川哲也も畏敬した本格推理作家、山沢晴雄。
その作風を一望できる作品を精選して贈る〈山沢晴雄セレクション〉。

更新がちょっと滞りました。
御無沙汰しております。

本作は、今年刊行された『このミス』か『本格ミステリ』でランクインされていた
作家さんで、聞いたことないなあと思い、購入しました。
これははっきり言って、素晴らしい短編集です。
とにかく読者を騙すというのを嬉々として、書かれているなと感じます。

名探偵・砧順之介が登場する作品が本作には収められますが、
やはり愁眉は「死の黙劇」でしょうか。アリバイトリックに、包帯を巻いた謎の男。
さらには犯人が予想しえない事象まで、とにかく本格要素が詰め込まれています。

砧登場作品ではアリバイ崩しが非常に多いですね。しかも多種多様で実に面白い。
同じようなトリックに感じる、いや実際あるかもですが、そう感じさせないうまさがある。

意味ありげな現場の絵図を登場させ、密室トリックかとミスリード
させる「見えない時間」も素晴らしい。
これも極めて単純なアリバイトリックなんですが、そこを上手く隠しているんですよね。

後半はロッカーの山沢の異名を取る(?)、とにかく色々なロッカーが事件に登場。
よくロッカーだけでこれだけ考えたなと。しかも犯人当て!
「ふしぎな死体」は、密室(ロッカー)、アリバイ、予期せぬ出来事の3つが揃った快作。

私のオススメは「京都発“あさしお7号”」。
このタイトルから、どう考えてもトラベルミステリーだと思います。
だから当然時刻表も登場します。
しかし、一番肝心のアリバイトリック、それを解く鍵が人間のある思い込みなんですよね。
これは驚きました。
あれだけ時刻表を駆使して、見事なトリックを使ったのに、最後の一撃が
思い込みという、なんということだ。

とにかくアリバイトリックにこだわり続けた作者の見事な作品集。
読んで損はありません。


死の黙劇: 山沢晴雄セレクション (創元推理文庫 M や 8-1)

死の黙劇: 山沢晴雄セレクション (創元推理文庫 M や 8-1)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2021/07/29
  • メディア: 文庫






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追憶(recollection)田沢湖からの手紙 [中町信]

まずはAmazonさんの紹介ページから。


妻は殺された--
封印された呪いの扉を開いて……。

解っていても騙される!
叙述トリックの鬼才が仕掛ける騙しの迷宮にようこそ!

一本の電話が、彼を栄光の頂点から地獄へと突き落とした。
脳外科学会で、最先端技術の論文発表を成功させた大学助教授・堂上富士夫に届いたのは、
妻が田沢湖で溺死したという報せだった。彼女は中学時代に自らが遭遇した奇妙な
密室殺人の真相を追って同窓会に参加していたのだった。現地に飛んだ堂上に対し
口を重く閉ざした関係者たちは、次々に謎の死に見舞われる。
(旧題「田沢湖殺人事件」)

以下、ネタバレがあります。






中町信先生作品は久しぶりです。
かつて創元推理文庫で復刊した『三幕の殺意』、そして光文社文庫で復刊した
『暗闇の殺意』と『偽りの殺意』を拙ブログでも紹介しました。

今回、徳間文庫でかつて刊行された、いわゆる「湖」シリーズの改題し、刊行。
シリーズは「死の湖畔 Murder by The Lake 三部作#1 」とありますね。
これ、タイトルに入れるべきなのか微妙に悩みつつ、ひとまずこちらで紹介しました。

ところで、徳間文庫は他にも過去に復刊しているのを今回知りましたので、
こちらも購入したいと思います。

このミステリ、密室、アリバイ崩し、トラベルミステリ、過去の事件を解き明かす、
とにかく本格要素が詰め込まれている、とてもバラエティに富む作品です。

「15年前の12月の事件」、この謎を追ったがために、堂上富士夫の妻・美保は
殺されたのではないか?
冒頭からこの「15年前の12月の事件」がキーワードとして示され、
物語も、この過去の事件を解き明かす過程で、美保の同級生が次々と殺されていきます。
「15年前の12月の事件」とは何なのか?美保が解き明かした真実とは何か?

この謎は(不謹慎ですが)非常に魅力的で、次々と新たな登場人物も出てきますが、
グイグイ物語に惹き込まれます。
しかし、しかし、この事件の謎はなんと物語中盤で解き明かされてしまうのです。
では、一体後半は何が書かれるのか?
元々の本書のタイトルは『田沢湖殺人事件』、今回の改題は『追憶』
これ、完全にミスリードですよね(笑
いや実に上手い。

そして美保が遺していたという手紙、これを読んだ秋庭ちか子の
「信じられないような、恐ろしいこと」という言葉の意味、これ、
上手くミスディレクションされています。

それから谷原卓二が堂上に急に会いに来た場面。何か話があったにも関わらず、
同窓会で撮影したスナップ写真と4枚のフィルムを渡して、早々に電車に乗ってしまう・・・
犯人である人物が一緒に居たから、というのは、なるほど納得できる理由ですが、
ここもかなり上手くミスリードさせています。
叙述トリックとは言えないものの、堂上視点でこの箇所は書かれているので、
この渡したものの重要性を非常に上手く隠しています。

ラストが美保の手紙が終わるのは非常に余韻を残す終わり方で良いのですが・・・
問題は、本作で描かれたもう1つの事件の真の動機。

真犯人にとって、確かに致命的のように思えますが、
美保の病気は、再発とあります。
それは真犯人がどうしても隠さなければならないものだったのかと。
5年前の手術は成功した、しかし病気が再発した。
この点がどうも動機としてどうなんだろうかと、個人的に思いました。

ただ、この病気についてそこまで深く語られていないので、
まあ許容範囲でしょう。

それよりも、このいくつもの本格要素を詰め込み、読者を巧みに騙した本書、
是非とも一読してほしいです。


死の湖畔 Murder by The Lake 三部作#1 追憶(recollection) 田沢湖からの手紙 (徳間文庫)

死の湖畔 Murder by The Lake 三部作#1 追憶(recollection) 田沢湖からの手紙 (徳間文庫)

  • 作者: 中町信
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2022/01/12
  • メディア: 文庫






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