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追憶(recollection)田沢湖からの手紙 [中町信]

まずはAmazonさんの紹介ページから。


妻は殺された--
封印された呪いの扉を開いて……。

解っていても騙される!
叙述トリックの鬼才が仕掛ける騙しの迷宮にようこそ!

一本の電話が、彼を栄光の頂点から地獄へと突き落とした。
脳外科学会で、最先端技術の論文発表を成功させた大学助教授・堂上富士夫に届いたのは、
妻が田沢湖で溺死したという報せだった。彼女は中学時代に自らが遭遇した奇妙な
密室殺人の真相を追って同窓会に参加していたのだった。現地に飛んだ堂上に対し
口を重く閉ざした関係者たちは、次々に謎の死に見舞われる。
(旧題「田沢湖殺人事件」)

以下、ネタバレがあります。






中町信先生作品は久しぶりです。
かつて創元推理文庫で復刊した『三幕の殺意』、そして光文社文庫で復刊した
『暗闇の殺意』と『偽りの殺意』を拙ブログでも紹介しました。

今回、徳間文庫でかつて刊行された、いわゆる「湖」シリーズの改題し、刊行。
シリーズは「死の湖畔 Murder by The Lake 三部作#1 」とありますね。
これ、タイトルに入れるべきなのか微妙に悩みつつ、ひとまずこちらで紹介しました。

ところで、徳間文庫は他にも過去に復刊しているのを今回知りましたので、
こちらも購入したいと思います。

このミステリ、密室、アリバイ崩し、トラベルミステリ、過去の事件を解き明かす、
とにかく本格要素が詰め込まれている、とてもバラエティに富む作品です。

「15年前の12月の事件」、この謎を追ったがために、堂上富士夫の妻・美保は
殺されたのではないか?
冒頭からこの「15年前の12月の事件」がキーワードとして示され、
物語も、この過去の事件を解き明かす過程で、美保の同級生が次々と殺されていきます。
「15年前の12月の事件」とは何なのか?美保が解き明かした真実とは何か?

この謎は(不謹慎ですが)非常に魅力的で、次々と新たな登場人物も出てきますが、
グイグイ物語に惹き込まれます。
しかし、しかし、この事件の謎はなんと物語中盤で解き明かされてしまうのです。
では、一体後半は何が書かれるのか?
元々の本書のタイトルは『田沢湖殺人事件』、今回の改題は『追憶』
これ、完全にミスリードですよね(笑
いや実に上手い。

そして美保が遺していたという手紙、これを読んだ秋庭ちか子の
「信じられないような、恐ろしいこと」という言葉の意味、これ、
上手くミスディレクションされています。

それから谷原卓二が堂上に急に会いに来た場面。何か話があったにも関わらず、
同窓会で撮影したスナップ写真と4枚のフィルムを渡して、早々に電車に乗ってしまう・・・
犯人である人物が一緒に居たから、というのは、なるほど納得できる理由ですが、
ここもかなり上手くミスリードさせています。
叙述トリックとは言えないものの、堂上視点でこの箇所は書かれているので、
この渡したものの重要性を非常に上手く隠しています。

ラストが美保の手紙が終わるのは非常に余韻を残す終わり方で良いのですが・・・
問題は、本作で描かれたもう1つの事件の真の動機。

真犯人にとって、確かに致命的のように思えますが、
美保の病気は、再発とあります。
それは真犯人がどうしても隠さなければならないものだったのかと。
5年前の手術は成功した、しかし病気が再発した。
この点がどうも動機としてどうなんだろうかと、個人的に思いました。

ただ、この病気についてそこまで深く語られていないので、
まあ許容範囲でしょう。

それよりも、このいくつもの本格要素を詰め込み、読者を巧みに騙した本書、
是非とも一読してほしいです。


死の湖畔 Murder by The Lake 三部作#1 追憶(recollection) 田沢湖からの手紙 (徳間文庫)

死の湖畔 Murder by The Lake 三部作#1 追憶(recollection) 田沢湖からの手紙 (徳間文庫)

  • 作者: 中町信
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2022/01/12
  • メディア: 文庫






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