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濱地健三郎の幽たる事件簿 [有栖川有栖]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

江神二郎、火村英生に続く、異才の名探偵の事件簿、待望の第2弾!

年齢不詳の探偵・濱地健三郎には、鋭い推理力だけでなく、幽霊を視る能力がある。
新宿にある彼の事務所には、奇妙な現象に悩む依頼人のみならず、警視庁捜査一課の
強面刑事も秘かに足を運ぶほどだ。助手の志摩ユリエは、得技を活かして、
探偵が視たモノの特徴を絵に描きとめていく―。郊外で猫と2人暮らしをしていた姉の失踪の謎と、
弟が見た奇妙な光景が意外な形でつながる(「姉は何処」)。資産家が溺死した事件の犯人は、
若き妻か、懐具合が悪い弟か?人間の哀しい性が炙り出される(「浴槽の花婿」)など、
驚きと謀みに満ちた7篇を収録。ミステリの名手が、満を持して生み出した名探偵。
待望のシリーズ、第2弾!


江神二郎、火村英生に続く、というところに違和感を持ってしまいました(苦笑
(作品と関係無く、すいません。)
ソラもいれば、地蔵坊(笑)も居ます。

とはいえ、火村英生シリーズから派生して、こうして探偵役が登場するというのは
これまでには確かに無かったですね。
島田荘司先生の、犬坊里美とか意識してたりとかあるんでしょうか。

本作所収で最もホラーなのは「それは叫ぶ」
ホラー小説はあまり読んだことが無いのですが、基本的には「論理じかげの奇談」でも、
合理的解釈も成り立たないものが、ある意味一番怖いのではないかと思います。
なので、最も恐ろしいのは、こうした正体不明の、濱地のいう「幽霊の屑」ではなかろうか。

解説にもあるように、本作はホラー小説ながら、探偵小説でもあるんですよね。
濱地の持つ不思議な能力のみならず、探偵能力もしっかりと発揮されているんですが、
上記の作品のみは、全くそんなことは無いので、探偵小説として考えた場合、
極めて異質な作品ですが、心霊探偵シリーズとしてみると、ついに来たとも思えます。

「ホームに佇む」もやや似た印象のある作品です。
依頼人の吉竹と、怪奇を結びつける「合理的」理由は無く、彼が「視えた」から。
実際そのくらいの理由なんでしょうね。よく視えても、視線を合わせるなとか
聞いたりします。

そこをいくと、「お家がだんだん遠くなる」「ミステリー研究会の幽霊」は
しっかり探偵小説です。理由もしっかりあり、終わり方もよい。

ミステリー的な要素を一番含んでいるのは「姉は何処」でしょうか。
私一番のオススメです。
姉(の思念)の行動を見て、見事な名推理をみせる濱地と
一番のホラーを体験してしまった助手のユリエ。
最後の1行は中々怖いですよね。

直球の怖さではなく、変化球的怖さなのが「浴槽の花婿」
これは意表を突かれました。
犯人を言い当てるでも無く、アリバイを崩すでもなく、確かに幽霊的なものが
語っていることを濱地は刑事に伝えますが、それだけ。
その後の記述で、読者は犯人がわかるも、あの幽霊的な思念の正体も判明するラストは
「それは叫ぶ」とは全く違う、ゾクゾクする怖さです。

すでに第3弾も刊行されているようで、またまた楽しみですね。
しかし、語呂合わせの良い電話番号って何番だろうか?(笑


濱地健三郎の幽たる事件簿 (角川文庫)

濱地健三郎の幽たる事件簿 (角川文庫)

  • 作者: 有栖川 有栖
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2023/01/24
  • メディア: 文庫






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まほり [高田大介]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

大学院で社会学研究科を目指して研究を続けている大学四年生の勝山裕。
卒研グループの飲み会に誘われた彼は、その際に出た都市伝説に興味をひかれる。
上州の村では、二重丸が書かれた紙がいたるところに貼られているというのだ。
この蛇の目紋は何を意味するのか? ちょうどその村と出身地が近かった裕は、
夏休みの帰郷のついでに調査を始めた。偶然、図書館で司書のバイトをしていた
昔なじみの飯山香織と出会い、ともにフィールドワークを始めるが、
調査の過程で出会った少年から不穏な噂を聞く。その村では少女が監禁されているというのだ! 
謎が謎を呼ぶ。その解明の鍵は古文書に……?


主人公裕は、膨大な古文書のデータの中から上州に伝わる子間引きの風習や毛利神社や
琴平神社の社名に注目し、資料と格闘する。裕がそこまでするには理由があった。
父が決して語らなかった母親の系譜に関する手がかりを見つけるためでもあったのだ。
大した成果が得られぬまま、やがて夏も終わりに近づくころ、
巣守郷を独自調査していた少年・淳が警察に補導されてしまう。
郷に監禁された少女を救おうとする淳と、裕の母親の出自を探す道が交差する時――。
宮部みゆき、東雅夫、東えりか、杉江松絶賛の、
前代未聞の伝奇ホラーミステリーにして青春ラブストーリー! 
感動のラストまで目が離せない、超弩級エンターテインメント。


感動のラストという解説文が付いてますが、本作のミステリ的側面が
一番強かったのが、このいわゆる「最後の一撃」だと思いました。

というのも、ある程度の結末が見えているものの、
それを、言ってみればいわゆる「状況証拠」で固めていく過程が、
本書は続いていきます。

古文書の捜索と解読、そして伝承・口承(こちらは協力得られてませんが)、
歴史学(文献史学)と考古学、そして民俗学、これらの学問手法を用いて、
蛇の目紋と、さらにその先の謎を解いていきます。
私個人は、この謎解きはそれなりに楽しめたのですが、
人を選ぶミステリというか、小説ですねえ。

個人的には解説にあるように、飯山香織とのラブストーリーというのが
一番しっくりくるかもしれません。
二人の関係進展が真相より楽しみでした(笑)
しかし、上州のどこなのか・・・あんなに方言は出ないだろう。
そこがものすごく違和感を感じました。



まほり 上 (角川文庫)

まほり 上 (角川文庫)

  • 作者: 高田 大介
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2022/01/21
  • メディア: Kindle版



まほり 下 (角川文庫)

まほり 下 (角川文庫)

  • 作者: 高田 大介
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2022/01/21
  • メディア: Kindle版









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カルトからの大脱出 [鯨統一郎]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

教祖V.S.マジシャン!?
カルト宗教に消えた娘を救うため、
信者たちに「本当の奇跡」を見せろ!

保険営業員として働きながら高校生の娘・あすかと二人で楽しく暮らしていた好美。
だがある日、あすかは家を飛び出し、謎のカルト教団〈新しい神のルール〉の中へと消えた。
憔悴する好美に救いの手を差し伸べたのは、保険の顧客であるマジシャンの谺だった。
娘奪還のために谺が用意した奇策とは? 大・逆・転ミステリー!


本書が書き下ろしで、昨年末に刊行されたというのは、
鯨先生の意図がどこにあるのかはわかりませんが、時事的な問題をかなり真正面から
取り上げた作品であるのは、間違いありません。

あすかが入信する動機も、確かに納得できるところはあるものの、
それだけで?!と感じたり、当たり前ではないことを、さも当たり前のように話す
信者やあすかの同級生、好美が驚くのも無理ありません。

最後の大逆転、これいくつか意味がありますよね。
現実問題として、こんな大舞台で教祖たちの嘘を暴くことは、まず難しいと思いますが、
まあ小説だから良いのかなと。
もう1つの「大逆転」はミステリとしての趣向で、ここは純粋に上手い。
ミステリとして本書を見ると、関係者の死などはあからさまに途中で語られているので、
そうした点でのミステリらしさは楽しめない一方で、
この最後のトリックは、お見事だなと。

<スリーバレー>シリーズ、そろそろ出ないでしょうかねえ。



カルトからの大脱出 (中公文庫)

カルトからの大脱出 (中公文庫)

  • 作者: 鯨統一郎
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2022/12/21
  • メディア: Kindle版






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清里高原殺人別荘 [梶龍雄]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

冬、シーズンオフの別荘地・清里──〝内側から開かない窓〟を設えた奇妙な別荘に、
五人の男女が忍び込んだ。彼らがある連絡を待って四日間潜むその隠れ家には、意外な先客が。
密室での刺殺、毒殺、そして撲殺……相次ぐ死によって狂い始めた歯車。
館に潜む殺人鬼の仕業か? 逆転に次ぐ逆転! 伏線の魔術師・カジタツが巧緻の限りを
尽くした極上の「雪の山荘」ミステリ。待望の初文庫化!

梶龍雄 驚愕ミステリ大発掘コレクションの2として発売された本作。
楽天ブックスのお気に入り的な所に出てきたので、購入してみました。
なんといっても「雪の山荘」に惹かれました。

本作は、よくよく考えてみると、犯人はある意味すぐ目星はつくのですが
(トリックやアリバイはともかく)
5人の男女が一体何の目的で、この別荘に忍び込んだのか、
彼彼女たちは一体何をやってきたのか、
この辺りを謎に包んでいることで(途中明らかになるのですが)
上手く事件の構図を隠しています。

ミステリにおける「雪の山荘」というのは、その山荘になぜか集められ、
次々に殺されていき、最後に探偵役が謎を解く、というのが
まあステレオタイプ的ですが、常道だと思います。
犯人当て、つまりは「フーダニット」なんでしょう。

しかし本書は、この体裁を取る姿勢を見せつつも、
上記書いたように、そもそもこの山荘になぜ彼彼女たちが居るのか、
時折電話してくる沢木なる男は誰なのか、
その辺りに謎があるため、フーダニットでは終わらず、
解説の阿津川辰海さんが書かれているように、ホワットダニットであるというのは
全くその通りで、流石です。

しかも、フーダニット&ホワットダニットいずれも楽しめる作品であり、
かつ第7章では探偵役の謎解きと、ある種のどんでん返しまで仕掛けてあります。
最後の仕掛けは驚きました。こんな結末とは。

ところで、阿津川辰海さんは『本格ミステリ・フラッシュバック』で
梶さんを知ったと書かれているのですが、私も読んだけど覚えてない(苦笑)
しかしこういう作家さんが居た事を知れたのは、非常に良かったです。
これからまた読む楽しみが増えました。
さすが徳間文庫さん、ありがとうございます!


梶龍雄 驚愕ミステリ大発掘コレクション2 清里高原殺人別荘 (徳間文庫 トクマの特選!)

梶龍雄 驚愕ミステリ大発掘コレクション2 清里高原殺人別荘 (徳間文庫 トクマの特選!)

  • 作者: 梶龍雄
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2023/02/08
  • メディア: Kindle版






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