SSブログ
三津田信三 ブログトップ

白魔の塔 [三津田信三]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

『黒面の狐』で連続怪死事件を解決し、炭鉱を後にした物理が「復興の現場」として
次に選んだ職場は「灯台」。戦中は軍事設備としての側面もあり、海運の要である灯台を
献身的に支える灯台守という仕事にやりがいを見出した物理だが、新たな赴任先である
轟ケ埼灯台にいわくいいがたい不穏なものを感じる。案の定、灯台に至る道から怪異に遭い、
「立ち寄るな」と警告されていた山中の一軒家に迷い込んでしまった。
そして、ようやく辿りついた灯台で物理を待ち受けていたものは――。

そこそこネタバレあり。




物理波矢多シリーズ第2弾。
前作『黒面の狐
を読んだのがおおよそ2年前なので、波矢多に出会うのも久しぶりです。

前作が、三津田先生が得意とする、ホラーや怪奇が全面に出されておらず、
かなり本格ミステリだったのに対して、本作はまるで違いました。
正直、読んでいて良い意味で愕然としてしまいました。傑作です。

3部構成で描かれる物語ですが、なんと第1部は轟ケ埼灯台までようやく到着する所
までしか描かれていません。白衣の森は、迷いの森レベルではなく、
不思議のダンジョンレベルの道程ですね(笑)

それはやや冗談としても、この1部で語られる白子村、白神様、白屋、白もんこ、
これらのキーワードや波矢多が体験した不可思議な出来事は、そっくりそのまま
2部の入佐加灯台長が体験し語られる物語とそっくりそのままなのです。

なんという構成なのかと驚いてしまいました。すでに怪異的な現象は
描かれているとしても、果たしてこの物語は何を描こうとしているのか。
白子村や白神様、そして憑物筋の家と思われる白屋、白もんこと呼ばれる化け物。
これらの謎を波矢多が解き明かすのか?とぼんやり考えていたのですが、
まるでそんな気配はない。そもそも舞台はほとんど灯台です。

3部、ここは波矢多の真骨頂でもあり、物語が一気呵成、怒濤の展開を見せ始めます。
まずかつて横山教官から聞いた、アイリーン・モア島の灯台の事件。
この謎の事件に1つの合理的解釈を波矢多が示します。

この解釈、さらっと書かれているのですが、「日記」という誰かの筆記体の内容を
どう捉えるのかということを1つの見事な推理だなと。
綾辻行人先生の『黒猫館の殺人』もこの『手記』を元に大がかりなトリックが仕組まれています。

さらに自分が出遭った白もんこにも合理的解釈を示します。
この解釈、なるほどと思いつつも、彼がそこまでやるのかなあという疑問。

そもそもの前提として、白子村の人々は白衣の森に入ることに恐懽している
のにも関わらず、ここまで堂々(?)とした振る舞いが取れるのか?
いや、そもそもその前提が間違いなのか。波矢多の弁当箱に入れられていた
白屋に泊まるな、という警告は、彼が入れたのか?
彼が入れたとすれば、実は波矢多の解釈と一致するところも多いのですが、
なんとも解答は示されず。

入佐加灯台長へ突きつけた、1つのある事実は確かに驚きました。
「路子」の推理は秀逸。「白」が多いと波矢多が考えていたの描写がありましたが、
それがここに通じてくるのかと思いました。

しかし問題はその後なのです。3部が「五里霧中」というタイトルを付けられているのは
この後があるからでしょう。417頁からの展開は全く予想出来ません。

2部の入佐加灯台長の体験談はともかく、1部最後の轟ケ埼灯台到着と灯台長夫妻との出会い、
ここからが全て狂っているのです。
そもそも入佐加灯台長と路子、そして灯台守の浜地はどこへ消えたのか?
そしてなぜ消える必要があったのか?
全くその点は語られません。余計に恐ろしく、波矢多が記憶を失うのも無理は無いでしょう。
白い巨人が迫ってくるという波矢多の悩みは、彼の推理がある種正しいことを示して
いるのですが、この轟ケ埼灯台に波矢多が着いた時から起こっていた事象は、
一体何なのか。
彼が海上から灯台へ向かっている時に見た、白い人=浜地or入佐加だったんでしょうか?
ここを怪奇(灯台にある怪奇の1つ)として残されてしまうというのは、
本書の性格から納得できる部分はあるものの、ここにも波矢多の合理的解釈を
どうにか付けてもらいたかったなあ。まあこれは高望み過ぎるのでしょうけど。

前作とは全くベクトルの違うシリーズですが、私にとってはここ最近読んだ中では
紛う事なき傑作でした。



白魔の塔 (文春文庫 み 58-2)

白魔の塔 (文春文庫 み 58-2)

  • 作者: 三津田 信三
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2021/10/06
  • メディア: 文庫







nice!(6)  コメント(6) 
共通テーマ:

黒面の狐 [三津田信三]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

敗戦に志を折られた物理波矢多は、九州で炭坑夫となる道を選ぶ。
意気投合して共に働く美青年・合里光範もまた、朝鮮人の友を過酷な労働に従事させた過去に
罪悪感を負っていた。親交を深める二人だが、相次ぐ変死体と“黒い狐面の女”の出現で
炭鉱は恐怖に覆われる。ホラーミステリーの名手、新シリーズ開幕!

三津田さんの著作も久しぶりです。
刀城言耶シリーズを読んでいないのですが、新シリーズもので、他ブログ様で紹介
されていた本書を購入して早速読んでみました。

本格(+民俗学的側面)かと思いきや、本書は社会派ミステリといって
差し支えないでしょう。
かつて日本の産業の中心であった炭鉱が舞台の本書は、戦前・戦後の炭鉱の有り様や、
そしてそこで働く労働力の確保、そこにある戦前の日本軍の関与など、
様々な面を垣間見ることができます。

主人公の物理波矢多がまたどこかつかみ所がないというか、中々面白い人物に
描かれていて、飄々としている面、復員直後だからなのか、人生を諦めている感も
あり、かなり好感が持てます。

ミステリとしては、いわゆる「顔のない死体」が炭鉱から発見されますが、
このトリックのさらに裏をかいた仕掛けがお見事。
この仕掛けは、本書が戦後の混乱期を示す一場面となっている点でもあります。


一点だけ、これは民俗学というか都市伝説的なものだから仕方ないのかもしれませんが、
黒い狐面をかぶった女性の存在が、気になりました。
そんな話が伝わっている、といえばそれまでなのですが、
この話にもできれば何らかの解釈が欲しかったところです。


すでに次回作は発売されているようなので、ぜひ早く文庫化を!


黒面の狐 (文春文庫)

黒面の狐 (文春文庫)

  • 作者: 信三, 三津田
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2019/03/08
  • メディア: 文庫



nice!(5)  コメント(5) 
共通テーマ:

七人の鬼ごっこ [三津田信三]

三津田信三さんの著書は初。
刀城言耶シリーズ、いつも気になって
読もうかどうしようか悩むのですが、
長さに僕がついて行けるのか・・・といつも購入を
控えてしまいます(ミステリファンとは思えませんね。申し訳ありません)

本書は生命の電話にかかってきた1本の電話から物語りが
始まります。
「だ~れまさんが、こ~ろした」
奇妙な子どもの声、そしてだるまさんがころんだに似たフレーズ。
小学生時代の友人が次々と殺されていく・・・
犯人の目的は?そして正体とは。

速水晃一の最後の推理は読み応えあり。
悩みに悩み、可能性を一つずつ消していく、
その推理の過程を描いているのはおもしろかったです。

犯人は物語が進むにつれてその候補が狭まっていくのですが、
実はそこにトリックがあるのです。
ここは上手いなあと感じました。

ラストはややモヤモヤかなあ。
結局達磨堂の御神体や過去の犯罪の謎は残されたままなのが
個人的には惜しい。
最後の1文はメタ感もあり良いですけどね。


七人の鬼ごっこ (光文社文庫)

七人の鬼ごっこ (光文社文庫)

  • 作者: 三津田 信三
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2013/09/10
  • メディア: 文庫



nice!(2)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:
三津田信三 ブログトップ