SSブログ
都筑道夫 ブログトップ

誘拐作戦 [都筑道夫]

その女は、小雨に洗われた京葉道路に横たわっていた──
ひき逃げ現場に出くわしたチンピラ四人と医者ひとり。世を拗ねた五人の悪党たちは、
死んだ女そっくりの身代わりを用意し偽誘拐を演出。一方、身代金を惜しむ金満家族に、
駆け出しの知性派探偵が加勢。アドリブ任せに見えた事件は、次第に黒い罠を露呈させ始める。
鬼才都筑道夫がミステリの枠の極限に挑んだ超トリッキーな逸品。
史上初の〈文庫連載小説〉、都筑道夫の幻の雑誌連載長篇「ジェイムズ・ボンドはアメリカ人」併録。

以下、ネタバレあり。





これは傑作です。
よくぞ復刊してくれました。

都筑道夫先生は、推理作家として再デビューし、次々とトリッキーな作品を生み出すのに
全力投球していたのが伺い知れます。
いかに読者を驚かせてやろうか?という思いをひしひしと感じます。
『やぶにらみの時計』→『猫の舌に釘を打て』→『誘拐作戦』と、まさに怒濤のような傑作群。

最初、本書は嘘っぱちではない、本当にあった事件だとしつつ、あんまり、ありのままに
書くと、迷惑する人がいる、だから適当に嘘を交えて、という、もう開始2ページ目で騙し
が来ます(笑)
この記述、ある意味本書の核心を突いてますよね。
適当に嘘を交えるんだ、と。

さらに「第一歩は盗難車で」を読み終わると、なんと書き手は2人いるという、
さらなる騙し。
素人探偵の名前が赤西一朗太から茜一郎とくるくる変わる(笑
仮にも事件を解く役を与えられている探偵の名前が、コロコロ変わるミステリは
出合ったことがありません。

千寿子の死体をバラバラにし、3人でそれを処理させるシーンがあるのですが、
これは本来であればかなりグロテスクなシーンなんだけど、生首をボウリングの玉入れに
入れたなんて、なんという表現だと思います。スリラーを書くと最初に言っていたのに、
かなりのギャグ要素が盛り込まれてます。

ミステリ慣れ、している方は(私もそうなのかもしれませんが)、
かつて、大虎やブタらがかつて女を死なせた事が明らかになる辺りから、
この事件がどうも何かあるなと思ったり、
上記の死体、本当にバラバラなのか?と思ったり。

しかし凝ってますね。2人語りに一人二役。
最後に真相を語る場面も、また凝ってます。本を逆にして読むところとか。
この逆にして読むところは、この小説のある種欠けている視点であるから、
余計に面白い。
玉木刑事が共犯でないことを見事に証明しているんですよね。
そして、この楽屋話から「著者からの一言」までで、本作は2人語りではなく、
ある意味作中作の体裁でもあったというオチが待っています。

ところで、次作の復刊は当然ながら『三重露出』でしょうか?


誘拐作戦 (徳間文庫)

誘拐作戦 (徳間文庫)

  • 作者: 都筑道夫
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2022/08/09
  • メディア: 文庫






nice!(5)  コメント(5) 
共通テーマ:

猫の舌に釘をうて [都筑道夫]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

「わたしはこの事件の犯人であり、探偵であり、そして被害者にもなりそうだ。」
一人三役という奇想天外な設定に加え、叶わない愛と明日に希望を持てない主人公の
哀切な心理を描いたセンチメンタリズムな作品。
数ある都筑作品の中でも最重要作に挙げられる傑作長篇、ついに復刊。


これは傑作です。
都筑道夫先生作品はやはり群を抜いて「退職刑事」が好きでしたが、
このような長編、いや有名長編ですが、今回なんと7回目の刊行(復刊)で
初めて手に取ることができましたが、ミステリ作家・都筑道夫ここにあり、という感じ。

まず、紹介文や帯にある「私はこの事件の犯人であり、探偵であり、被害者」というのは、
特に現代では結構よくありそうな、良い意味で売り出しように使う煽り宣伝のよう。
しかし、だいたいそれは期待外れに終わるのです。

ところが、本書はこの一人三役を見事にやってのけます。
かつて辻真先先生が「仮題・中学殺人事件」で犯人は読者という、犯人の意外性という点を
突き詰めた作品がありましたが、本書も犯人の意外性を発揮しつつ、さらに犯人が被害者で
あるという、驚きの捻りを加えています。

また、本書が手記、という体裁を取っているところもポイント。
上記のような、一人三役であること等に触れられていなければ、ミステリ好きならば、
まず手記という体裁に何らかのトリックを予想して、注意してよむでしょう(苦笑)。
ところが、初めから手記の作者が上記のような告白をしているので、叙述トリックなど
考えもせず、本人が記録に残しておく、というのをまるっきり信じて読んでました(笑
ここは実に上手い。

そして、これもですが泡坂妻夫先生が苦心して作った、本そのものへのトリック。
これは本当に泡坂先生以来、初めて見ました。手記の内容だけでなく、手記そのものに
罠を仕掛けるという。このトリックは、束見本に書かれた手記、というのが大きな大前提。
なぜそんなのに手記を書いているのかというのが良く解るトリックです。

そして、本書が『猫の舌に釘をうて』という束見本に手記を書いているというのも
面白く、唐突に登場する「読者への挑戦状」に驚きました。
むろん、これは手記者が書いたものではないのですが、手記にトリックが仕込まれている
ならば、この読者への挑戦状は、もう一人の犯人が記したミスリードなんでしょうか?
それとも実際に解けるのか?ここはわかりませんでした。

とにかく上記のように、二重三重にトリックを仕込んだ本書ですが、一方で、
法月綸太郎先生の解説も必読です。本書を読む前に読んでも良いくらいです。
というのも、解説を読んだ後では、本書の捉え方がまた違ってくるのです。

都筑道夫先生が手がけてきた翻訳作品、学生時代の淡い思い出、自身の葛藤等々・・・
『推理作家の出来るまで』や他エッセイ・評論をも踏まえて、まさに本書を読み解いた
法月解説は、本書のもう一つの傑作だと思います。

タイトルで避けている方、後悔します!


猫の舌に釘をうて (徳間文庫)

猫の舌に釘をうて (徳間文庫)

  • 作者: 都筑道夫
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2022/02/08
  • メディア: 文庫






nice!(5)  コメント(7) 
共通テーマ:

やぶにらみの時計 [都筑道夫]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

昨日までの『きみ』はもう居ない。
恋人、友人、知人に否定された男の奇妙な自分探しの迷宮。

「あんた、どなた?」妻、友人、そして知人、これまで親しくしていた人が〝きみ〟の存在を否定し、
逆に見も知らぬ人が会社社長〈雨宮毅〉だと決めつける──
この不条理で不気味な状況は一体何なんだ!真の自分を求め大都市・東京を駆けずり回る、
孤独な〝自分探し〟の果てには、更に深い絶望が待っていた……。
都筑道夫の推理初長篇となったトリッキーサスペンス。
幻の連載長篇『アダムと七人のイヴ』第一話も特別収録。

「トクマの特選!」として復刊した都筑道夫先生の最初の1冊。
すでに『猫の舌に釘を打て』も刊行されています。

トクマの特選!、とは復刊レーベルであり、
Z世代に読んでほしい名作」としてミステリやSFのほか、一般小説、エッセイ、
ノンフィクションなども刊行される。、とのこと。

こうした試みはうれしい限りですね。
笹沢左保先生の作品群もすでに刊行されていますし。
徳間文庫の購入がどんどん増えそうです。

ところで都筑道夫先生作品は、河出書房さんや筑摩さんからも次々と復刊されており、
ちょっとしたムーヴメントのような感じにここ数年なっています。
この勢いにのって、物部太郎も出てほしいなあ。
(ちなみに電子書籍版は出てます。)

さて、本書は都筑さんの初長編作品とのこと。
この辺りの話は、解説で法月綸太郎先生が非常に詳しく書かれているので、
ぜひそちらをじっくり読んでください。

私の中ではかつて創元推理文庫で復刊した「退職刑事」がやはり浮かびますね。
全て購入しました。今調べてみたら、なんと元々は徳間書店刊行とは・・・
いや、ぜひともトクマの特選!で再び!!

話が色々と飛んでしまいました。
本書、タイトルは当然聞いたことがあるのですが、初読です。
そもそも「やぶにらみ」という言葉、最近では馴染みが薄いのではないでしょうか。

『日本国語大辞典』によると、
「藪睨』:①物を観るとき、両眼の視線が平行しないで、一眼が他方を向く状態の俗称。斜視。
     ②言動・思考などが見当違いなこと。

明らかにこの小説では②の意味を指しています。
しかし、このタイトル、秀逸だなあと感じました。

そしてやはり文体、「きみ」という二人称で描かれる全編。
(これも詳しくは解説を)

自分が生きてきた世界が一瞬にして変わってしまうという、
衝撃的な朝から始まる物語。
自分は浜崎誠治だと思っていたが、実は違うのか・・・?という所まで
追い詰められていく「きみ」
特に255頁は、そう思い込んでいるということを、<殺し屋>こと鈴置の猫の話から
引用して、かなり哲学的な考えまで及んでいるところが印象的です。

ところで、猫についてはかなり残酷な描写も出てくるので、
その点は閲読注意ですが、先ほど挙げた『猫の舌に釘を』もタイトルだけみると、
かなり残酷というか目を背けたくなるタイトルです。
都筑先生は何か猫に独特な観点があったのかなあ、とふと考えてしまいました。

狂言回しというか、名探偵役?で登場する猪俣がかなり良い味出してます。
このまま彼が一気に謎を解くのかと思っていたのですが、結構情けない状態になるところも
ちょっとおもしろい。
むしろ、たまたま一緒にいた、女性・千沙子の方が最後は活躍するという・・・(笑

本書の最大の問題点と私が思うのは、やはりラストなんだろうと思います。
自分を他人に仕立てたのは誰か、そうしなければならないのはなぜか。
これらを追って浜崎は1日中奮闘しますが、最後の犯人の独白というか、
それが実のところよくわからないんですよね。

しかもかなりあっさりしてます。
むしろラストの浜崎の感想(279頁)の方がより読ませます。

都筑さんなりの推理作家としての<再スタート>の作品として試行錯誤した
結果なのだろうか。他の作品や評論含め、色々と読んでみないとわからないのかも
しれませんね。


やぶにらみの時計 (徳間文庫)

やぶにらみの時計 (徳間文庫)

  • 作者: 都筑道夫
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2021/11/09
  • メディア: 文庫







nice!(5)  コメント(5) 
共通テーマ:

都筑道夫恐怖短編集成1~3 [都筑道夫]

筑摩書房からちくま文庫としてだされた全三冊。
最後の三冊目はオカルトハンター雪崩連太郎が主人公の作品が
全て収録されています。
単なる怪奇、というよりどこか焦燥感がただよう作品です。

雪崩連太郎全集―都筑道夫恐怖短篇集成〈3〉    ちくま文庫

雪崩連太郎全集―都筑道夫恐怖短篇集成〈3〉 ちくま文庫

  • 作者: 都筑 道夫
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2004/07/08
  • メディア: 文庫

一冊目「悪魔はあくまで悪魔である」
おすすめというか、最も僕が恐怖を感じたのは「夜のオルフェウス」
これは恐ろしい・・・登場している「過去」の人間があたかも
普通にふるまっていて、とても恐ろしい。主人公の妻はあの「店」
の中で何を見たのだろうか・・・

悪魔はあくまで悪魔である―都筑道夫恐怖短篇集成〈1〉

悪魔はあくまで悪魔である―都筑道夫恐怖短篇集成〈1〉

  • 作者: 都筑 道夫
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2004/05
  • メディア: 文庫


二冊目「阿蘭陀すてれん」
この中では「猫の手」「手を貸してくれたのはだれ?」の二編
前者は主人公たちが「救世主」になるものの、その結末は彼らにとっては
破滅だったというもの。
後者は・・・説明が難しいのですが(・Θ・;)アセアセ…
主人公たちが旅行に行く計画をたてるのですが、果たして「主人公」にとってどちらに行くのが幸せだったのか?
説明になってませんねm(*T▽T*)m オ、オユルシヲ・・・

3冊ともおすすめです。是非読んでみてください。

都筑道夫恐怖短編集成2 阿蘭陀すてれん (全3巻)

都筑道夫恐怖短編集成2 阿蘭陀すてれん (全3巻)

  • 作者: 都筑 道夫
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2004/06/10
  • メディア: 文庫




nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:
都筑道夫 ブログトップ