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烙印 [大下宇陀児]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

狡猾な犯罪者が企みを傾けた殺人の顚末
自らの罪を蔽うべく男は計画を練る――
探偵小説界の巨匠、文庫傑作選決定版

日本探偵小説草創期に江戸川乱歩や甲賀三郎と並び称された巨匠・大下宇陀児の短篇の精髄を
全二巻に集成した文庫傑作選。本巻では、証書偽造が発覚した青年事業家が破滅を逃れるため
練り上げた周到な殺人計画とその顛末を描いて傑作と名高い表題作をはじめ、
奇抜な毒殺方法を用いた倒叙短篇「爪」、著者最後の短篇となった「螢」まで、
戦後の作品を含む全八篇を収める。

前作がどちらかといえば、探偵小説が筆者の言うような、トリックを用いた短編で構成
されていたような気がします。
対して本書所収作は、「人間が描かれていない」という、筆者の批判を
自らが受け止めた作品集だと感じました。

「決闘街」「情鬼」「凧」「不思議な母」「螢」などは、そういう意識を非常に
感じました。
特に「情鬼」と「蛍」「凧」は傑作。
「決闘街」は、サイコホラーのようなテイストで、ラストもまた謎を残して嫌な余韻が
残りますね。

「烙印」は由比祐吉の独り相撲が少しマヌケな感じもしますが、犯人視点で語られる
ところが見事で、みえない探偵に追い詰められる犯人が上手く描かれています。
さらに、さり気ない記述が伏線になっていたりと、読み応え充分です。

「爪」もやはり犯人視点。これは物理トリックといえるのかどうか微妙なところですが、
最後に明かされる謎解きが面白い。

「危険なる姉妹」。これもサイコホラーのような一編です。姉妹が佐久間を狙わない所が
また捻りがあるのかなと思いつつ読みました。

「情鬼」は、長尾新六の生涯が語られていくのですが、いやあ、ようやく信ずるに足る
愛する人が出来たのに、この結末というのは、あまりに悲しいですね。
ただ、それだけに上で書いたように傑作なのです。

エッセイ「乱歩の脱皮」の中で、探偵小説が主食になり得ないことの、他の一つの原因
として「ある事件について語るけども、人間については何も語らないことであろう」と
述べているのは、慧眼というか、私自身が物知らずなだけなのですが、
当時からこうした論争があったのだな、というのを初めて知りました。
書かれたのが1955年。本当に探偵小説、推理小説の歴史は深いと改めて感じました。


烙印 (創元推理文庫)

烙印 (創元推理文庫)

  • 作者: 大下 宇陀児
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2022/09/12
  • メディア: Kindle版






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偽悪病患者 [大下宇陀児]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

日本探偵小説草創期に活躍、江戸川乱歩や甲賀三郎と並び称された巨匠・大下宇陀児。
その短篇の精髄を全二巻に集成のうえ、二ヶ月連続で刊行する。
本巻では、兄妹による往復書簡の形式で構成された表題作をはじめ、
子供の視点から家庭の悲劇を描いた佳品「毒」、ひねりの利いた骨董奇譚「金色の獏」、
幻想小説としても世評の高い逸品「魔法街」など、戦前に発表された全九篇を収める。

すでに『烙印』も予約ました(笑
初めて読む作家さん、いやいや日本の探偵小説界における巨匠に失礼ですね。
今回復刊するということで、しかも短編集(どうも自分は短編好きです。)ということで、
購入しました。

全てにおいて捻りが効いている作品ばかりで、とても楽しめました。
表題作は往復書簡形式で語られる物語ですが、「偽悪病」とはまず何なのかというところ
からスタートする人も多いのではないでしょうか。
佐治が偽悪なのか、そうではないのか、その心配をする兄と、兄の心配を受け止めつつも、
信じていない妹。果たして佐治の正体は?
書簡で繰り広げられる疑惑や推理、そして事件。
表題作と佐治という人物の掘り下げでをミスリードとし、実に上手い構成です。
この兄、苗字も名前も出てこず、(調査を友人にさせてはいるものの)安楽椅子探偵的な
面もあるなと感じました。

「毒」はとにかく子どもたちによる純粋小説。ハッピーエンドでよかった。

「金色の獏」は騙しの世界。長編にするならば、この「金色の獏」の秘密を探るところですが、
登場する老人や女性、そして古物商、彼らの背景諸々ほとんど明らかにされなくても、
見事に成り立ちます。古物商の苦労は気の毒ですが・・・

「情獄」は、犯人による手紙という体裁をとった、独白小説。
これは潤子があのタイミングで犯行を暴いたのが、なんともいえないですね。
なぜ事件の翌日に気付いたのに、これほど長い時間黙っていたのか。
彼女の心情に謎が残る一編です。

「死の倒影」、これは超意外な「証拠」から自身の犯罪が露見する名作。
本作も書簡ではないですが、犯人の手紙という体裁で、大下さんはこうした形式を
好んだのでしょうかね。

「決闘介添人」、これも意外な結末。
これも「情獄」に構図は似ているのですが、犯罪が暴かれる結末が全く違います。
「二枚のドガの絵」に近い。強烈な一撃です。

「紅座の庖厨」と「魔法街」はSF作品になりますかねえ。
前者は行われていることは、極めて残忍なんだけれども、それを微塵と感じさせない
ところがすごいな。ユーモア的に書かれているのですよね。
登場人物(少なくとも提供を受ける側)は、全くこの行為について残酷であると
思っていないところが、非常に怖いところでもありますね。

後者は、提示された不可思議な謎を、合理的に解き明かす、
というのをぜひ読んで見たかった作品。
最初の怪事件の2つには、探偵役が見事な推理を披露しますが、推理小説としてはここまで。
この先は、まさに不可思議な世界に突き進んでいきます。

「灰人」は、ルルウという犬と、若き刑事の活躍が光ります。
これもハッピーエンド(失明しているので微妙ですが)、ラストはよかった。

残り二編は評論ですが、探偵小説論争、これは一度まとめたものを読んで見たいですね。



偽悪病患者 (創元推理文庫 Mお 16-1)

偽悪病患者 (創元推理文庫 Mお 16-1)

  • 作者: 大下 宇陀児
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2022/08/12
  • メディア: 文庫







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