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龍神池の小さな死体 [梶龍雄]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

「お前の弟は殺されたのだよ」
死期迫る母の告白を受け、疎開先で亡くなった弟の死の真相を追い大学教授・仲城智一は
千葉の寒村・山蔵を訪ねる。
村一番の旧家妙見家の裏、弟の亡くなった龍神池に赤い槍で突かれた惨殺体が浮かぶ。
龍神の呪いか?座敷牢に封じられた狂人の霊の仕業か?
 怒涛の伏線回収に酔い痴れる伝説のパーフェクトミステリ降臨。
〈トクマの特選!〉
イラスト やまがみ彩

梶龍雄 驚愕ミステリ大発掘コレクションの第1弾。

戦前、疎開先で事故で死んだと聞かされていた弟は殺されていた。
母親から死ぬ前の告白を受けて、智一は弟の足跡を辿るが・・・

本作は傑作です。主人公の弟捜しと、研究成果との見事な絡みもさることながら、
全編に伏線が張り巡らされ、それが一気に回収されていく、まさに本格ミステリ。

特に素晴らしいのは、吉爺殺害の誤認トリック。さり気ない描写なのですが、
ここは本当に上手い。

ラスト、というか終幕については確かに賛否両論ありそうですが、
これは梶作品を研究されている方の意見とかもお伺いしたいところですね。


梶龍雄 驚愕ミステリ大発掘コレクション1 龍神池の小さな死体 (徳間文庫 トクマの特選!)

梶龍雄 驚愕ミステリ大発掘コレクション1 龍神池の小さな死体 (徳間文庫 トクマの特選!)

  • 作者: 梶龍雄
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2022/04/13
  • メディア: Kindle版






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リア王密室に死す [梶龍雄]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

7人のエリート学生の友情を引き裂く毒注射の
密室+焼かれたノートの謎
話題の〝龍神池の小さな死体〟と対になるもうひとつの逆転劇

「リア王が変なんだ!中で倒れてる!」京都観光案内のアルバイトから帰宅した
旧制三高学生・木津武志は、〝リア王〟こと伊場富三が、蔵を転用した完全なる密室で
毒殺されているのを発見する。下宿の同居人であり、恋のライバルでもある武志は第一容疑者に-。
絶妙の伏線マジック+戦後の青春をリリカルに描いた
〝カジタツ〟ファン絶賛の名作復刊。


またまた久しぶりの更新になってしまいました。
この梶龍雄作品は、<青春迷路ミステリコレクション>と<驚愕ミステリ大発掘コレクション>
の2系統で<トクマの特選!>から刊行されています。

前回が後者の作品でしたので、今回は前者の作品を読みました。
まず最初に、この2つの分け方を見ると、いかにも現在の新本格ミステリが後者のように
感じますが、全く違います。
本書『リア王密室に死す』は、タイトルに「密室」があることからも、
そして、その驚くべき構成からも、紛れもなく新本格・本格のミステリです。

そこに、旧制高校生(今のまあ大学生)の生活、青春群像、そして淡い恋。
これらが実に上手く融合し、傑作を生み出しています。

本書は大きく前篇と後篇に分けられ、
前者は「ボン」こと木津武志が、「リア王」こと伊場富三を殺害した容疑が
掛けられ、その窮地を救い出すところから始まります。
登場人物全てにニックネームが付いているのが、いかにも当時の大学生ぽいなあと。
解説の大山誠一郎さんは、このニックネームについて『十角館の殺人』を挙げています。

ボンのアリバイを確認するところから始まり、それと同事に物語も始まります。
大山誠一郎さんの解説が全てなので、もはや書き足すことはないのですが(苦笑)
本当に絶妙な伏線が張られていて、感嘆します。
リア王が東京大空襲により火事がトラウマ、非常に苦手であるというのが
寮が火災になったときに語られますが、
なにせ物語の舞台は戦後すぐ。戦争の悲惨さを語れるような状況では当然ありません。
むろん、ヤミ市も出てきます。
この伏線が実に上手く隠されていて、最後の密室の謎に結びついていくのです。

前篇の「ナ・チ・コ」がまたボンとナチコのなんというか、微妙な関係から親密な関係、
さらにライバルだったリア王との会話とか・・・とにかくここはミステリを読んでいるのか?
という錯覚に陥りました。

そして驚きはこの「ナ・チ・コ」終了後、後篇のスタートです。
「昔の人たち」と題され始まる後篇は、なんと30数年後の現在が舞台です。
そこに驚くべき探偵役が登場します。
事件の謎を解いていく過程だけでなく、この後篇ではどうやっても過ぎ去ってしまった時間を
元に戻すことはできない、そんな無力感に襲われます。
ボンだけでなく、ナチコやカミソリ、バールト、マーゲン、カラバン、有馬夫人・・・
彼彼女たちにとっての「時」の重さを痛感する結末になっているのも非常に印象的でした。

また、後篇にも大学生が登場するのですが、これがこの旧制高校生との対比が実に面白くて、
梶さんもその辺りは狙って、あえて書かれた当時の大学生を登場させたんだろうなと。

物理トリックである密室は、今でも十分に通用する見事なトリックで、
かつ、カミソリが前篇で看破する謎解きも、(確かに不十分な点は感じるものの)
後篇の事情を読んだ上で考えるならば、あれ以上の謎解きはないでしょう。

事件の謎と解いた探偵役と、30数年にわたり、自身がある種苦しんできた事件の謎が
解けたボンこと武志の対比もまた感慨深いです。
探偵役には告げず、ボンはある行動に出るのですが、ここでもボンにとっては
辛い思い出になったのではないでしょうか。

いや、素晴らしい作品でした。徳間文庫さん、ありがとうございました。


梶龍雄 青春迷路ミステリコレクション1 リア王密室に死す 〈新装版〉 (徳間文庫)

梶龍雄 青春迷路ミステリコレクション1 リア王密室に死す 〈新装版〉 (徳間文庫)

  • 作者: 梶 龍雄
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2022/09/08
  • メディア: 文庫






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清里高原殺人別荘 [梶龍雄]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

冬、シーズンオフの別荘地・清里──〝内側から開かない窓〟を設えた奇妙な別荘に、
五人の男女が忍び込んだ。彼らがある連絡を待って四日間潜むその隠れ家には、意外な先客が。
密室での刺殺、毒殺、そして撲殺……相次ぐ死によって狂い始めた歯車。
館に潜む殺人鬼の仕業か? 逆転に次ぐ逆転! 伏線の魔術師・カジタツが巧緻の限りを
尽くした極上の「雪の山荘」ミステリ。待望の初文庫化!

梶龍雄 驚愕ミステリ大発掘コレクションの2として発売された本作。
楽天ブックスのお気に入り的な所に出てきたので、購入してみました。
なんといっても「雪の山荘」に惹かれました。

本作は、よくよく考えてみると、犯人はある意味すぐ目星はつくのですが
(トリックやアリバイはともかく)
5人の男女が一体何の目的で、この別荘に忍び込んだのか、
彼彼女たちは一体何をやってきたのか、
この辺りを謎に包んでいることで(途中明らかになるのですが)
上手く事件の構図を隠しています。

ミステリにおける「雪の山荘」というのは、その山荘になぜか集められ、
次々に殺されていき、最後に探偵役が謎を解く、というのが
まあステレオタイプ的ですが、常道だと思います。
犯人当て、つまりは「フーダニット」なんでしょう。

しかし本書は、この体裁を取る姿勢を見せつつも、
上記書いたように、そもそもこの山荘になぜ彼彼女たちが居るのか、
時折電話してくる沢木なる男は誰なのか、
その辺りに謎があるため、フーダニットでは終わらず、
解説の阿津川辰海さんが書かれているように、ホワットダニットであるというのは
全くその通りで、流石です。

しかも、フーダニット&ホワットダニットいずれも楽しめる作品であり、
かつ第7章では探偵役の謎解きと、ある種のどんでん返しまで仕掛けてあります。
最後の仕掛けは驚きました。こんな結末とは。

ところで、阿津川辰海さんは『本格ミステリ・フラッシュバック』で
梶さんを知ったと書かれているのですが、私も読んだけど覚えてない(苦笑)
しかしこういう作家さんが居た事を知れたのは、非常に良かったです。
これからまた読む楽しみが増えました。
さすが徳間文庫さん、ありがとうございます!


梶龍雄 驚愕ミステリ大発掘コレクション2 清里高原殺人別荘 (徳間文庫 トクマの特選!)

梶龍雄 驚愕ミステリ大発掘コレクション2 清里高原殺人別荘 (徳間文庫 トクマの特選!)

  • 作者: 梶龍雄
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2023/02/08
  • メディア: Kindle版






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