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福家警部補の考察 [大倉崇裕]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

福家さんには、全部お見通しなのね。

類稀な洞察力を駆使して容疑者たちと対峙する警察官探偵
現代の倒叙ミステリを代表するシリーズ第5集

パスタを一本つまみ上げ、噛んでみる。まだ少し早い。水洗いしてボウルに入れておいた
レタスに手を伸ばそうとしたとき、金属音と、それに続いて重いものが屋根を転がり
落ちていく音が聞こえた。誠が屋根から落ちたのだ。もう少し待ってくれてもいいじゃないの、
パスタが無駄になっちゃうわ。いつも間が悪いんだから――夫の“事故死”をめぐり、
一見おっとりした妻の中本さゆりと福家警部補が熾烈な心理戦を繰り広げる「上品な魔女」ほか
三編を収録。類稀な洞察力を駆使して容疑者たちと対峙する警察官名探偵の活躍を描き、
現代の倒叙ミステリを代表するシリーズに成長した〈福家警部補の事件簿〉第五集。


これぞ倒叙ミステリ。どれも素晴らしい短編で良い読書時間を過ごせました。
前回の福家では、少し福家が超人的になっていっているのを不満で書いたと思いますが、
本作では、福家と会話した人物にちょっと変化があるものの、いつもの福家で安心(笑)

コロンボでいう、ヨレヨレのレインコート、ボサボサの髪、ポンコツな車・・・
良い意味でステレオタイプの福家警部補が読めた気がします。

「東京駅発6時00分 のぞみ1号博多行き」、これは古畑任三郎の「殺人特急」を思い出しました。
もちろん、殺人場所など全然違うのですが、列車内で事件を解くのと、福家のある仕掛けが
見事です。

「安息の場所」は、犯人と探偵がそれぞれ尊敬し合う作品のようになっているのですが、
やはり読み所は最後でしょう。福家は決して生半可な返事はしません。
調べるといえば、とことん調べる。それが最後の3ページに出てきます。

「是枝哲の敗北」、完璧な殺人と思われて居ましたが、自分のいつもの行動から
足が付いてしまいます。それを見破ったのは流石の一言。

しかし、やはり本書の愁眉は「上品な魔女」。とにかく犯人の性格というか、異常性というか、
文章で読むから余計に恐怖を感じますね。
とはいえ、福家は特段変わりなく、犯人をどんどん追い詰めて行きます。
最後の仕掛けも見事。これは映像で視たい。

これからも本シリーズ、ずっと続いてほしいです。


福家警部補の考察 福家警部補シリーズ (創元推理文庫)

福家警部補の考察 福家警部補シリーズ (創元推理文庫)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/12/11
  • メディア: Kindle版






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うらんぼんの夜 [川瀬七緖]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

片田舎での暮らしをきらう高校生の奈緒は、東京から越してきた亜矢子と親しくなる。
しかし、それを境に村の空気は一変し、亜矢子の口数も少なくなってしまう。
疑念を抱く奈緒は、密かに彼女の自宅に忍び込もうとするが……。解説・西上心太。


川瀬先生の作品は『女學生奇譚』以来ですね。
こちらも同じノンシリーズ。

本作では、田舎の弊害、旧村の因習とか、そういうモノが描かれますが・・・


村に祀られている地蔵の謎は、やや消化不良かなあと。
ちょっと真相が唐突すぎるし、それまで経緯があまり語られていないので、
やや難しい印象。

この村の地蔵と村の因習、都会から来たよそ者という2つが、上手く組み合わされば
中々面白かったのだと思いますが、いかんせん、都会から来たよそ者が
引っ越してすぐに地蔵に願掛けするという行為をしているので、
余計に話が見えにくくなっている。

よそ者(亜矢子)がこの村の因習を知っていたとは到底思えないので、おそらく偶然なのですが、
彼女たちの引っ越しの目的を達するには極めてちょうど良かったわけで、
その意味で、よそ者と内部落の人が実は協力しているという事実を、
最後まで奈緒は気付かなかった。
ここはかなり面白く読めましたが、亜矢子たちは実は村の因習を知っていた(調べてきた)
のだろうという予測は容易にたつでしょう。
(特に亜矢子の兄と姉が調べている。)

内部落の人も東京へ調べに出ているというのも中々面白く、極めて閉鎖的に描かれている、
いわばステレオタイプ的な田舎なのに、実は相当な調査をしているという、面白い矛盾だなと
思いました。
その割に、奈緒の両親とか、いくらなんでも価値観が古すぎだし、どうなってるんだろうと
いうのもまた矛盾ですかね。



うらんぼんの夜 (朝日文庫)

うらんぼんの夜 (朝日文庫)

  • 作者: 川瀬 七緒
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2023/12/07
  • メディア: Kindle版






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網走発遥かなり 完全改訂版 [島田荘司]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

東京郊外の高級住宅が並ぶ丘の上を毎日観察する老人の狙いは何か?
また都心のデパートや地下街に出没するピエロの正体は?
そして江戸川乱歩の古い写真を持つ老女の素顔とは?
現代の東京に表出した奇妙な出来事はやがて四十年前の雪の北海道で
起きた惨事の謎解きに結集する。
著者が周到に企みをほどこした驚異の野心作を改訂完全版として新装復刊、
著者による巻末解説も収録。

2024年春公開予定映画『乱歩の幻影』を収録。
江戸川乱歩の知られざる秘密に迫る「乱歩の幻影」。
島田荘司のリアルな体験から発想された名作がついに映像化!
出演 結城モエ 高橋克典 山口大地 嘉島陸 小貫莉奈 高橋努 加藤雅也(友情出演) 常盤貴子
原作・脚本・音楽 島田荘司
監督・プロデュース 秋山純


島田御大に、こんな傑作があるとは知りませんでした。
連作短編集、あるいは壮大な長編。
1組の「夫婦」が全編においてキーワードになりますが、
最初の「丘の上」は当時のバブル崩壊後という世相を色濃く反映させつつ、
奇妙な行動を取る隣家の老人と、丘の下に住む住民の葛藤と邂逅を描く作品。

ここから果たしてどう連作短編となるのか、まるで想像がつきませんでした。
「化石の街」は、東京の中心に眠る「宝探し」が核となる物語。
やはり奇妙なピエロが登場しますが、最後には主人公がピエロになるというのは
実に皮肉が効いている。
そして、老紳士が登場。主人公の名前は里美。

圧巻は「乱歩の幻影」。島田先生の「完全改訂版に寄せて」に拠ると、
ほとんどノンフィクションとのこと。
主人公の里美へ老婆が「あんたには崩せないよ、壁」という言葉の
なんとおどろおどろしい、恐ろしいことか。
その場面を想像するだけでゾクゾクします。
(種を明かせばなんてことはないのですが、ここはものすごく印象に残りました。)

そして里美(島田先生)がいかに乱歩に惹かれていたのかも、実によくわかる一編。
いや、島田先生だけでなく、「少年探偵団」による明智小五郎、江戸川乱歩は
当時の少年少女の関心を一心に集めていたのでしょう。

過日、別冊太陽で『横溝正史』が発売されたのですが、その1年前に
『江戸川乱歩』が発売しているのです。
これ、2冊続けて読むのがお勧めです。

閑話休題。
最終話が表題作ですが、「完全改訂版に寄せて」によると、本編が一番最初に
書かれた作品とのこと!
初めから連作短編を意識していたわけではないのです。
そして本編は御手洗潔シリーズを彷彿とさせる、実に奇妙な密室・消失事件。
犯人が予想しえなかった事態が、より事件を複雑化しているところも面白い。

1組の「夫婦」の足跡と、(読者にとっては)そこに乱歩の幻影を見つつ、
物語は幕を閉じます。

御手洗潔シリーズを思い起こす「丘の上」の老人や「化石の街」のピエロや老紳士の
奇妙な行動。本格ミステリの「網走発遥かなり」、ノンフィクションかつ江戸川乱歩
の幻影を追う表題作。
いずれをとっても傑作です。


網走発遙かなり 改訂完全版 (講談社文庫)

網走発遙かなり 改訂完全版 (講談社文庫)

  • 作者: 島田荘司
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2024/01/16
  • メディア: Kindle版






江戸川乱歩: 日本探偵小説の父 (305;305) (別冊太陽)

江戸川乱歩: 日本探偵小説の父 (305;305) (別冊太陽)

  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2023/02/27
  • メディア: ムック



探偵小説の鬼 横溝正史: 謎の骨格にロマンの衣を着せて (313;313) (別冊太陽)

探偵小説の鬼 横溝正史: 謎の骨格にロマンの衣を着せて (313;313) (別冊太陽)

  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2024/03/13
  • メディア: ムック









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あと十五秒で死ぬ [榊林銘]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

撃たれて死ぬまでの十五秒間で、
私は必ず犯人を告発してみせる。

〈十五秒後に死ぬ〉という奇抜な状況設定で起きる
四つの事件。この真相をあなたは見破れるか?

第12回ミステリーズ!新人賞佳作を収録、衝撃のデビュー作品集!

死神から与えられた余命十五秒をどう使えば、「私」は自分を撃った犯人を告発し、
かつ反撃できるのか? 被害者と犯人の一風変わった攻防を描く、
第12回ミステリーズ!新人賞佳作「十五秒」など四編を収録。
〈十五秒後に死ぬ〉というトリッキーな状況設定で起きる四つの事件の真相を、
あなたは見破れるか? 単行本刊行後に反響を呼んだ、第12回ミステリーズ!
新人賞佳作収録のデビュー作品集、待望の文庫化!

タイトルに一番合致する「15秒」が第1作に配されていて、
これはまさに、あと自分に遺された時間は15秒のみ。
それが過ぎれば死んでしまう。その15秒で自分を殺した犯人を他者に伝える手段はあるか?!
案内人として黒マントの猫が登場しますが、ちょっとした狂言回しやコメディリリーフな
感じがありますね。まあ死神なんですけどね。
本作は、どことなくジョジョの奇妙な冒険第3部、DIOの丈太郎の対決を読んでいるような
印象も受けました(笑)まさに時を止める、そして動かすという動作を繰り返しつつ、
主人公がいかに最大限思考を巡らせるか、与えられた15秒でヤツを叩くのみだ!という(笑

で、私は所収作全てがこの15秒に関わるというのを最後まで読んで、ようやく気付きました。
いや、これは凄い。
特に最終話の「首が取れても死なない僕らの首無殺人事件」は特殊設定ミステリでありながら、
見事な本格ミステリで、本作愁眉です。
首脱という珍しい体質?を持つ者たちが住む島で起こる殺人事件。
しかも、本作は「首の無い死体」というミステリのお約束に対して、現代ミステリ的な回答
の1つを示したといっても過言ではないと思います。

高校生同士の他愛ない会話、身体能力がどうとか云々が、実は重大な伏線であること、
最後の両角巡査の鬼気迫る首脱による胴体交換。しかもここには本人曰く「鬼の末裔」、
とにかく謎解き含めて、15秒間のみ首脱できるという能力だけに限らず、
非常にレベルの高い本格ミステリだと思いました。




あと十五秒で死ぬ (創元推理文庫)

あと十五秒で死ぬ (創元推理文庫)

  • 作者: 榊林 銘
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/08/31
  • メディア: Kindle版






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龍神池の小さな死体 [梶龍雄]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

「お前の弟は殺されたのだよ」
死期迫る母の告白を受け、疎開先で亡くなった弟の死の真相を追い大学教授・仲城智一は
千葉の寒村・山蔵を訪ねる。
村一番の旧家妙見家の裏、弟の亡くなった龍神池に赤い槍で突かれた惨殺体が浮かぶ。
龍神の呪いか?座敷牢に封じられた狂人の霊の仕業か?
 怒涛の伏線回収に酔い痴れる伝説のパーフェクトミステリ降臨。
〈トクマの特選!〉
イラスト やまがみ彩

梶龍雄 驚愕ミステリ大発掘コレクションの第1弾。

戦前、疎開先で事故で死んだと聞かされていた弟は殺されていた。
母親から死ぬ前の告白を受けて、智一は弟の足跡を辿るが・・・

本作は傑作です。主人公の弟捜しと、研究成果との見事な絡みもさることながら、
全編に伏線が張り巡らされ、それが一気に回収されていく、まさに本格ミステリ。

特に素晴らしいのは、吉爺殺害の誤認トリック。さり気ない描写なのですが、
ここは本当に上手い。

ラスト、というか終幕については確かに賛否両論ありそうですが、
これは梶作品を研究されている方の意見とかもお伺いしたいところですね。


梶龍雄 驚愕ミステリ大発掘コレクション1 龍神池の小さな死体 (徳間文庫 トクマの特選!)

梶龍雄 驚愕ミステリ大発掘コレクション1 龍神池の小さな死体 (徳間文庫 トクマの特選!)

  • 作者: 梶龍雄
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2022/04/13
  • メディア: Kindle版






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多重迷宮の殺人 [長沢樹]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

聖域を穢す者は、必ず殺される。
首都圏を震撼させる連続切り裂き魔事件!
地下施設に閉じ込められた9人。
絶対絶命の状況下で、連続殺人が始まった――

首都圏で発生した、地下建築での連続切り裂き魔事件。犯人も被害者の共通点も不明のまま、
捜査は難航していた。そんな最中、探偵・七ツ森とその助手・風野は、
地下探索サークルを主催する大学生・藤間とともに政治家が遺した別荘を訪れる。
その近辺の地下シェルターを調査中に壁が崩壊、一行は内部に閉じ込められてしまった。
さらに地下でも連続殺人が起き……大学生たちは犯人の手を逃れ、閉鎖空間から脱出できるのか。(『武蔵野アンダーワールド・セブン 多重迷宮』改題・改稿版)


初めて読むと思いきや、『消失グラデーション』の作家さんとは。

ところで、解説にもあるとおり元々の作品とは改題・改稿しているというもので、
東京創元社のページを見ると、登場人物や物語も結構異なっているようですね。

地下遺構という舞台設定は非常に魅力的だと思います。
普通はそこに閉じ込められたらパニックになりそうですが、登場人物たちの
経験からか、パニックは起こらず。

さて、少し先に進んでしまったのですが、本書は最初何か続編なのかと思うような、
いわばかなり色々な設定があるんですよね。
これが中々・・・理解するのが難しいというよりも、読んでいると気恥ずかしくなる(苦笑)
名探偵の登場や助手とか。神子都の過去とか、捜査コンサルタントという職業、
時代設定が1970年代~80年代で、学生運動が大きく影響していて、
地下に潜った彼彼女たちを執拗に探す公安部と刑事部の対立等々・・・
とにかく設定も多すぎる。

地下遺構での殺人事件は、なぜ閉じ込められた状態で行うのか?という動機も、
さらにどうおこなったのかという方法も、かなり物語にのめり込む面白さなのですが、
ラストがかなり消化不足なのと、様々設定したものがほとんど活かせていないのが残念ですね。

様々な地下遺構をめぐる、という感じのシリーズ化も目指せそうなのだけどなあ。
(ラストでそれはもう無いことはわかるのですが)


多重迷宮の殺人 (創元推理文庫)

多重迷宮の殺人 (創元推理文庫)

  • 作者: 長沢 樹
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/10/31
  • メディア: Kindle版






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幽霊たちのエピローグ [赤川次郎]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

〈幽霊屋敷を取り壊すのをやめよ。さもないと幽霊の復讐がある〉

大宅令子は警視庁捜査一課のベテラン警部を父に持つ大学生探偵。
家庭教師の生徒である末川ひとみに連れられて「幽霊屋敷」に忍び込んだ。
そこでひとみは殺人を計画する幽霊の話し声を聞いたのだという。
命を狙われているのはひとみの父親ではないか――疑う令子の顔に滴り落ちてきたのは、
なんと真っ赤な血! 見つかったのはひとみの恋人の死体で……。
(表題作「幽霊たちのエピローグ」)


大宅令子が探偵役を務める2編が収録された中編集です。
読んだ記憶がないので、初ですね(笑
解説の山前譲さんも書かれているのですが、
赤川次郎先生と幽霊は非常に親和性が高いのです(笑
タイトルに入っているのも(当然ながら「幽霊」シリーズ)
今ならば、「怪異名所めぐり」シリーズが該当しますね。

実際に幽霊が出てこないのと、出てくるもの合わせるとまた多い。
後者は『怪談人恋坂』『三毛猫ホームズの怪奇現象』『幽霊はテニスがお好き』
もっとたくさんあると思いますが、思い出すのはこのあたり。

さて本書はというと、先に挙げた事例ならば、実際には出てこない前者のグループ。

「幽霊の前半分」、これは双子のことを指しているのかなあと。
最後の最後まで、本当に双子のどちらが亡くなったのかがわからなくするところがよい。

表題作、劇団「幽霊」というのはいいですね。
本作は色々と解かないといけない謎が多すぎて、ちょっと渋滞している印象。
地下道をもう少し活かしてほしかったなあ。


幽霊たちのエピローグ (徳間文庫)

幽霊たちのエピローグ (徳間文庫)

  • 作者: 赤川次郎
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2023/12/08
  • メディア: 文庫






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不思議のダンジョン 風来のシレン6 とぐろ島探検録 [ゲーム]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

1000回遊べるダンジョンRPGシリーズ最新作
【『不思議のダンジョン』最新作が発売決定!】
長年に渡り多くのファンの皆様に愛されてきた「不思議のダンジョン」シリーズ。
入るたびに構造が異なるダンジョンを、知識と経験、閃きと運を駆使して踏破する― 
本シリーズの根源的な面白さはそのままに、新たな要素を加えてさらにやりこみ度も
遊びの幅も広がった『不思議のダンジョン 風来のシレン6 とぐろ島探検録』が、
Nintendo Switchに登場いたします。
【新要素でさらに楽しい不思議のダンジョン】シレンがなんか大きくなったかと思えば、
巨大なモンスターがダンジョンを徘徊!?何度も挑戦を重ねることで物語が進行し、
不思議のダンジョンをさらに楽しく、より長くプレイできる数々の新要素が用意されています。

久しぶりの、というよりまさか出るとは思わなかったシリーズ最新作。
初代から全部している、一応シレンジャーとしては(笑)当然買いました。

最初のエンディング、というか、不思議のダンジョンはそこからがスタートですが、
それをクリアした後も、結構謎を残しているので、初見の人はそこでは中々
止めない仕様にしているのかと感じました。
あと、道具は初期からかなり良いものが出ます。これは初心者向けなのか。
というか、シレンジャーでも最初のエンディングまで中々厳しい(私だけ?)

今はヤマカガシ峠やら鬼木島をプレイ中。99階ある火口付近のダンジョンはまだ。
持ち込み可ダンジョンからとも思ったのですが、この2つのダンジョンで足止めです(苦笑

○○祭りとか、クロンの挑戦(試練)とか、この辺りのアイデアは素晴らしいですね。
あと今回食べ物も意外と豊富という。
要は、大幅なチェンジはせず、基本路線を守りつつも、そこかしこに新たな試みを
しているのが、良いんですよね。

杖と巻物の領域って、アスカにもあったなあ。
常にアスカを移植して欲しいと思ってます。あれ最初のエンディングの後、
完全に積んだんですよね・・・

というわけで、しばらく離れていた方も、初めての方も、ぜひプレイした欲しいです!


不思議のダンジョン 風来のシレン6 とぐろ島探検録 -Switch

不思議のダンジョン 風来のシレン6 とぐろ島探検録 -Switch

  • 出版社/メーカー: スパイク・チュンソフト
  • 発売日: 2024/01/25
  • メディア: CD-ROM






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もしかして ひょっとして [大崎梢]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

バスケ部の雰囲気が最悪になったのはなぜ? 長年勤めてくれていた家政婦さんは、
なぜ辞めてしまったのか? 会社の同期は罠にはめられたのか? 
友人がどうしても猫を隠さなければいけなかった理由とは? 部屋で亡くなっていた叔父さん。
何があったのか? あの日隠した、胸の痛み。計り知れない、あの人の心の中。
秘密が明らかになるとき、人生が少し、輝き始める。
日常の謎解きの魅力がたっぷり詰まったミステリー短編集。

大崎さんの光文社刊行は、ノンシリーズが多いですね。
前回自分が読んだのは『ドアを開けたら』(長編)で、結構久しぶりかも。

「小暑」は、おそらく本書内でも、もう普通に小説と言って良いと思うくらいの
軽いジャブ。「日常の謎」ですらない。悪い意味ではありません。
本当にそんな感じ。

次から怒濤に攻めてきます。
「体育館フォーメーション」、青春小説だなあ。解説を書かれている似鳥先生
の作品に近似しています。
「都忘れの理由」、これが本作では愁眉。めちゃくちゃ面白いです。
本当に謎だけど、その謎は本当に単純。これは登場人物の個性に拠るところも大きい。

「かもしれない」、これも良いです。現在進行形でなく、過去をふと思い出して、
自分の考えを再考していく過程というか、「回想の殺人」、別に殺人は起きてないけども、
なんか、こういう過去から現在に繋がる話は、変化球的な「日常の謎」という印象です。

「灰色のエルミー」と「山分けの夜」はサスペンスと殺人あり。
この2作、前者は主人公お見事な作品で、後者はやや謎を残しつつ了。

久しぶりに、成風堂書店シリーズも読みたいですね。


もしかして ひょっとして (光文社文庫)

もしかして ひょっとして (光文社文庫)

  • 作者: 大崎 梢
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2023/09/13
  • メディア: Kindle版






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汚れた手をそこで拭かない [芦沢央]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

もうやめて……ミステリはここまで進化した!

第164回直木賞候補作。

ひたひたと忍び寄る恐怖。
ぬるりと変容する日常。

話題沸騰の「最恐」ミステリ、待望の文庫化。

閉鎖空間に監禁された
デスゲームの参加者のような切迫感。──彩瀬まる

平穏に夏休みを終えたい小学校教諭、元不倫相手を見返したい料理研究家……。
きっかけはほんの些細な秘密だった。

保身や油断、猜疑心や傲慢。
内部から毒に蝕まれ、
気がつけば取返しのつかない場所に立ち尽くしている自分に気づく。

凶器のように研ぎ澄まされた“取扱い注意”の傑作短編集。

芦沢央先生は、短編の名手だなと改めて感じました。
「ただ、運が悪かっただけ」は、過去のある事件に悩む夫と、
余命宣告を受けた妻の話。
最後に、「運が悪かっただけ」というのが、かつての事件と今の妻の状態に
合致して、ラスト、恐らくは・・・というところで了。
最後まで書かないところが素晴らしい。

「埋め合わせ」、最近ニュースでもよく見かける、学校でのプールの排水や給水を
めぐる話。弁償を当該学校の校長や教員が分担して・・・というのをよく報道してますね。
個人的には、悪意でないのなら、そこまでなのかなあと思いますが・・・
本作もそのまさに誤って排水してしまったという事案。
いや、このラストは全く読めませんでした。同僚の五木田先生が、どういう役回りなのか、
脅迫者?と感じてしまうのが、大方の見方でしょうが、こういう終わり方はあまりに見事。
予想外過ぎました。

「忘却」、高齢者のアパートで、エアコンを付けずに亡くなる。これもまた
最近増えた社会問題の1つ。本作はこれに80代という、後期高齢者で記憶力も
弱ってきている妻と暮らす夫の苦悩を描いた(かのようにみえる)作品。
これもまた超予想外の所で物語が終幕する作品でした。
必死に電気代督促状の件を思い出させまいとする夫の努力が書かれながら、
最後の最後で、全く違う事実を登場させるという。

正直、「埋め合わせ」と「忘却」の2作は、本作愁眉、選べませんでした。

「お蔵入り」、ある映画を撮る無名監督。しかし主演俳優に薬物使用の疑いが・・・
これもかなり捻りが効いている作品で、やはり嘘を付くのは止めるというのが、
逆に自分たちの首を絞めるという、とんでもない皮肉になっています。

「ミモザ」、料理ブログが話題になり、書籍まで出すことになる売れっ子料理研究家。
そこのサイン会にかつてアルバイトしていた出版社の社員、いや元恋人が現れ・・・
本作、何とも表現が難しい。
突如現れた元恋人(というよりも自分が愛人)よりも、最後の夫の台詞、
「何考えててもいいけど、ちゃんとしてよ」の方が恐ろしく感じました。

やはり芦沢短編は素晴らしい。何度も読み返したくなりますね。
ところで「イヤミス」と表現されているのですが、「イヤミス」なのかなあ。
まあ、「イヤミス」の定義もよく分からないのですけどね(笑


汚れた手をそこで拭かない (文春文庫)

汚れた手をそこで拭かない (文春文庫)

  • 作者: 芦沢 央
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2023/11/08
  • メディア: Kindle版






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新シャーロック・ホームズの冒険 顔のない男たち [シャーロック・ホームズ]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

名コンビが、映画誕生期に起きた怪事件を追う!

ホームズとワトスンが下宿しているベイカー街221Bへ
白髪頭に長く白い顎ひげの依頼人が訪ねてくる。
彼の名はエドワード・マイブリッジ。かつて走る馬の連続写真で時の人となったが、
現在はアメリカから帰国して
細々と講演活動を続けている。何者かに脅迫されていて、講演中、
大きなスクリーンに映写した自身の顔に
不吉な傷がつけられていたり、街路で馬車に轢かれそうになったりした。
犯人の動きを探っていた矢先、不可解な焼死体が見つかったことから、
事件は思わぬ展開を見せ……

ティム・メジャーによる、ホームズパスティーシュ第2弾。
本作は『漱石と倫敦ミイラ』など、実在の人物とホームズ&ワトソンの冒険譚。
エドワード・マイブリッジは実在の写真家、のようです。

連続写真や映画史などに詳しい人が読むと、本作はさらに楽しめるのだろうと
思います。
ホームズ冒険譚としてみると、ワトソンがやたらと僻んでいるなあと言う印象。
ホームズはそんなに秘密主義だったかなあ?
謎解きの場面では、ワトソンに推理を促す行動も見られたりして、
ワトソンの僻みは収まってたようですが・・・

本作ではいわゆる「顔の無い死体」が登場します。これは副題からもなんとなく
想像が付くと思いますが、もう1つ、この副題には意味があります。
人の顔というのは意識して見ていないと、中々覚えていないということ。
そこを上手くミステリに落とし込んでます。

さて、パスティーシュとしての出来はともかく、やはりホームズ冒険譚は短編
が良いなあと改めて思いました(笑)
ここ最近のパスティーシュはほぼ長編が多い印象(もちろん個人的な、です)で、
短編は中々アイデアを活かすのが難しいとかあるんですかねえ。


新シャーロック・ホームズの冒険 顔のない男たち (角川文庫)

新シャーロック・ホームズの冒険 顔のない男たち (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2023/06/13
  • メディア: 文庫






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折鶴 [泡坂妻夫]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

ミステリ作家、紋章上絵師、奇術師。
この一冊で著者の三つの顔がすべて楽しめる――末國善己(解説より)
4つの衝撃の結末を描く、ミステリの技巧を凝らした
第16回泉鏡花文学賞受賞作
生誕90年記念出版第2弾

新内節を語れる友禅差しの模様師・脇田は、旅先で三味線弾きの芸妓・彩子と出会う。
脇田は彼女に惹かれるが、彩子と、酒と女で身を持ちくずした彼女の師匠の名新内語りが、
以前ある殺人事件に巻き込まれたことを知る、「忍火山恋唄」。
縫箔の職人・田毎は、自分の名前を騙る人物が温泉宿に宿泊し、
デパートの館内放送で呼び出されるという奇妙な出来事に見舞われていた。
そんな折、パーティで元恋人の鶴子と再会するが。
ふたりの再会が悲劇に繋がる「折鶴」など全4編。
職人の世界を背景に、流麗な筆致で描く恋愛小説と、
巧みな構成が光る本格ミステリを融合した名短編集。第16回泉鏡花文学賞受賞作。

またまた久しぶりの更新となりました。

『泡坂妻夫引退公演』で初めて読んだ、「紋章上絵師」シリーズの系譜、というか
大元的な作品を読んだ気がします。
いわゆる、ステレオタイプ的になりますが、江戸・東京の職人たちを扱っていて、
まず最初読んだだけでは、専門用語が理解できないのですが(苦笑)、
それも大量販売や機械製作の煽りを受けて・・・というのは共通しています。

最初に登場する「忍火山恋唄」は、三味線による唄いを取り上げていて、
これもまたテーマとしては極めて渋い。
ただこれを上手く掘り起こしつつ、最初に主人公が聞いた「幽霊話」を
見事にミステリに仕立てていく技巧はさすが。
しかし、本編はこれに留まらないのです。
上記で書いた、いわば時代の変化と関係させているのか、主人公の推理に
対して、全く違う真実を提示する。
最後の主人公と彩子の会話は何とも言えないものがあります。
事件の謎と今の境遇のようなものを重ね合わせた感。
解説の末國さんは「新内の名人が活躍できなくなる時代の変化が、そのまま素人探偵の
活躍を許さない散文的な状況と重ねられており」と評してますが、言い得て妙でしょう。

表題作「折鶴」も、時代の変遷を描いた名作。そこに自分の名前を騙る人物が
そこかしこに登場するというミステリを加えた作品。
「少し前までは、腕に職を付ける・・・それが見事にひっくり返った」と
主人公が思う場面がありますが、まさにその通り。
本編は悲しい終わり方をするのですが、それ異常に、染め物とか着物とかに関係する
業界の、工業化の煽りの話が身につまされました。

亜愛一郎や奇術とは違った側面の泡坂妻夫作品。ぜひご一読を。



折鶴 (創元推理文庫)

折鶴 (創元推理文庫)

  • 作者: 泡坂 妻夫
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/05/11
  • メディア: 文庫






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夢魔の牢獄 [西澤保彦]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

男は22年前の友人たちに憑依する。迷宮入り殺人事件の真相を追って。

タイムリープ・ミステリの金字塔『七回死んだ男』を凌ぐ衝撃!
作家生活25周年を飾る長編ミステリ!!

教師の田附悠成は、過去へ遡って友人たちに憑依するという特異能力を持つ。
だが誰に憑くかは選べない。確実なのは、恩師の義理の息子が
殺された22年前に戻ってしまうことだけ。
身をもって体験する友人たちや被害者の不可解な行動、そして隠された女の死。
迷宮入り殺人事件の“あの日”を繰り返す田附が辿り着いた驚愕の真相とは?


本年もよろしくお願いします。
更新が少し止まっていました。

新年第1弾は、新本格をご紹介。もう西澤節全開の作品です。
相変わらず登場人物の名前も読みにくい(笑)
しかも、この事件、主人公の到達した解決まで、数十年経過しているという、
極めて長い時間かかっているのも特徴かもしれません。

夢の中で時を遡ることができる、田附悠成。
しかも、他人の中に憑依するという妙な特技を持っています。

決して希望した人物に憑依できるわけでも、
希望した時間軸に行くことができるわけでもない中、
悠成は、バラバラのパーツを実に上手く構成し、ある結論に到達するのはお見事。

しかし、結局彼には、過去の自分の恩師や同級生の関係も、
恩師の義理の息子を殺害した犯人の謎も、完全にわからないだけでなく、
実に後味の、しかも引き続き自らは過去の人物に憑依する、最悪の
まさに「牢獄」に閉じ込められることになるのですが・・・

悠成にとっては最悪の結末かもしれませんが、
事件や人間関係という、複雑に絡み合う物語は本当に素晴らしいと思います。
これが解決していく過程含めて、流石西澤先生。


夢魔の牢獄 (講談社文庫)

夢魔の牢獄 (講談社文庫)

  • 作者: 西澤 保彦
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2023/04/14
  • メディア: 文庫






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ぼくの「このミス」2023 [ミステリ]

本年最後はこの記事で。
意外と、というか毎年12月に怒涛の更新を見せるのは、
この記事を書くためかもしれません(笑

『六人の嘘つきな大学生』
とにかく素晴らしい構成でした。
彼らの「嘘」とは何か。フーダニット、ホワイダニットも入れつつ、
見事にタイトルから二重に読者を騙した傑作。

六人の嘘つきな大学生 (角川文庫)

六人の嘘つきな大学生 (角川文庫)

  • 作者: 浅倉 秋成
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2023/06/13
  • メディア: Kindle版







『死の湖畔 Murder by The Lake 三部作#2 告発(accusation) 
                  十和田湖・夏の日の悲劇』
十和田湖での転落事故という1つの構図を、
最後に逆転させる素晴らしい傑作。
中町信先生の作品は創元推理文庫、そして徳間文庫などで
手に取ることができるのでぜひ。







『Y駅発深夜バス』
名短編ここにあり。「猫矢来」は論理のアクロバットの傑作でしょう。

Y駅発深夜バス (創元推理文庫)

Y駅発深夜バス (創元推理文庫)

  • 作者: 青木 知己
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/05/19
  • メディア: 文庫






『Yの悲劇』『ママは何でも知っている』
もはや古典的名著ですが、初読というのが恥ずかしいです。
決して今読んでも色あせない、それぞれが今のミステリの先駆的作品であり、
本格、新本格、ミステリを愛する方へはぜひ読んでほしい作品。

Yの悲劇【新訳版】 (創元推理文庫 Mク 1-2)

Yの悲劇【新訳版】 (創元推理文庫 Mク 1-2)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2022/08/19
  • メディア: 文庫






ママは何でも知っている (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ママは何でも知っている (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2015/06/15
  • メディア: Kindle版






来年もよいミステリに出会えることを祈念しつつ。
来年もよろしくお願いします。

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影踏亭の怪談 [大島清昭]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

四つの怪異が解かれるとき、あなたは見てはならないものを目にする

第17回ミステリーズ!新人賞受賞作ほか全四編
怪談×ミステリの最前線

僕の姉は怪談作家だ。本名にちなんだ呻木叫子というふざけた筆名で、
専攻していた民俗学でのフィールドワークの経験を生かした
ルポルタージュ形式の作品を発表している。ある日姉の自宅を訪ねた僕は、
密室の中で両瞼を己の髪で縫い合わされて昏睡する姉を発見する。
この常識を超えた怪事件は、彼女が取材中だった旅館〈影踏亭〉に
出没する霊と関連しているのか? 姉を救う手掛かりを求めて
宿へ調査に出向くことにした僕は、宿泊当夜に密室で起きた
殺人事件の容疑者となってしまい……
第17回ミステリーズ!新人賞受賞作ほか、全4編を収録。

以下、ネタバレあり。






これは傑作短編集です。ミステリ好きの方はぜひ読んで欲しい。
私見ですが、
本書収録全ての短編は(広義・狭義含めた)密室という、極めて精緻な作りです。
確かに怪奇的現象、怪談は登場します。
しかし、その怪奇的現象をいかに事件解決に合理的に考えるか、
ある意味、どう「論理仕掛けの奇談」につなげるか、これが非常に上手い。
(「朧トンネルの怪談」などは好例でしょう。)

「ドロドロ坂の怪談」は、本筋の殺人事件は、「犬神家の一族」で登場する、
「無作為の作為」が実に上手く効いています。
本作は直球の密室が登場しますが、そもそもこの状況下ではどう考えても、
鍵を閉められるのは・・・となるのですが、この「無作為の作為」により、
事件が大混乱をするんですね。

一方で、中で語れる怪奇現象は、最後かなり深いところまで行ってしまい、未解決。
ここもまた恐ろしくてねえ・・・

一方、「影踏亭の怪談」は大半が怪奇小説です。ほとんど何も怪奇的な現象について
語られません。その意味では全く闇の中です。
本作が面白いのは、最初の探偵役である呻木の弟が、いきなり殺害され、
探偵役がバトンタッチされ、姉である叫子が弟の事件を、見事に論理的に
解決するパターン。まさか語り手がいきなり死亡は中々無いですからね。

本作では、叫子のまぶたが縫い付けられていた理由も、最後にしっかり説明
されていますが(むろん、ある意味怪奇的な説明ですが)、
それ以外の「影踏亭の怪談」の謎は、不明のまま。
「こうべ」が「頭」であることを叫子が指摘したのみ。

しかし、この最初の短編こそが、連作短編の始まりで、最後の叫子の悲劇にも
繋がるのは、実に練りに練った構成だなと。

とにもかくにも、次作『赤虫村の怪談』も早く文庫化を!


影踏亭の怪談 (創元推理文庫)

影踏亭の怪談 (創元推理文庫)

  • 作者: 大島 清昭
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/06/19
  • メディア: Kindle版






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孔雀屋敷 [海外ミステリ]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

エラリー・クイーンや江戸川乱歩が認めた傑作など、
巨匠の逸品6編を収める必読の短編集!
全収録作品新訳・初訳

一夜のうちに発生した三人の変死事件。不可解な事態の真相が鮮やかに明かされる「三人の死体」。
奇妙な味わいが忘れがたい「鉄のパイナップル」。
不思議な能力を持つ孤独な教師の体験を描く表題作。
そして〈クイーンの定員〉に選ばれた幻の「フライング・スコッツマン号での冒険」など、
『赤毛のレドメイン家』で名高い巨匠の傑作六編を収める、いずれも初訳・新訳の短編集! 
解説=戸川安宣

タイトルに惹かれて購入しました。

表題作は、主人公であるジェーンの奇妙な能力から、
かつてデヴォンに存在していた「孔雀屋敷」で起きた、奇妙な事件が
フラッシュバックするところから始まります。
色々な噂が流れつつも、ジェーンの見た光景こそが真実なのか。
グッドイナフ将軍との問答で物語は進みますが・・・

これは最後の予期せぬ形で真相が明らかになるのが見事で、
読者は、ジェーンの見た光景の青年=将軍であると、薄々は感づいているものの、
それがジェーンの前に明らかになる事実がお見事。

「鉄のパイナップル」。これは奇妙すぎる作品ですね。
あることに固執してしまうジョン・ノイ。それが極限まで行ってしまったことにより、
あろうことか、窃盗と殺人まで犯してしまうという。
ところが、この被害者がある事件の逃亡者であることが判明するというオチ。
今ならば、何らかの病名や障害の名称が付くのかなと、今日的な考えをしてしまいましたが、
一方で、鉄のパイナップルとはどういう飾りなのかなあ・・・

「ステパン・トロフィミッチ」は消えた凶器の先駆的作品でもあるのではないでしょうか。
彼の生涯は非常に過酷ですが、そこへ上手くミステリを混ぜているのが秀逸です。

「三人の死体」は、いやあ、デュヴィーンの推理が余りにも素晴らしいですねえ。
ヘンリーの気持ちは、分からないでもないところが、このミステリの肝でもあると
思いました。
横溝正史先生の『本陣殺人事件』に少し通じるものがありますね。
かつて『世界推理短編傑作集 3』に収録され(そのときは三死人)、
拙ブログでも取り上げていますが、そのときはハウダニットに焦点を当てたと
評していますね・・。昔過ぎて覚えてない。

海外の古典的傑作は、東京創元社様と早川書房様、そして国書刊行会様などが
復刊してくれてますが、やはり文庫が読みやすい。


孔雀屋敷: フィルポッツ傑作短編集 (創元推理文庫)

孔雀屋敷: フィルポッツ傑作短編集 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/11/30
  • メディア: 文庫






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本格ミステリ・エターナル300 [ミステリ]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

本格ミステリの2010年代は、どんな時代だったのか――
2011~2021年の各年を代表する傑作300タイトルのレビューとともに振り返り、
充実のコラム・解説で10年を総覧するガイドブックが登場!
本格ミステリを「読みたい人」「書きたい人」「語りたい人」すべてのファンに贈る、必携の一冊。

クリスマス・イヴにはだいたいクリスマスに関するミステリやら何やらを
紹介するのですが、弾切れです(苦笑
先週調べられなかったのですよね・・・

というわけで、『本格ミステリ・クロニクル』『本格ミステリ・ディケイド』に続く、
2010年代の本格ミステリを振り返る『本格ミステリ・エターナル』をご紹介。

通覧するとわかるのですが、この時代、一気に様変わりします。
新たな新進気鋭の作家さんの登場もさることながら、
ラノベからの本格ミステリ、特殊設定ミステリの大々的な登場という、
大きな波があったのが、この年代です。

今では特殊設定あるいは特殊状況ミステリは珍しくありませんが、
これをSF等ではなく、本格の俎上で描くというのは、やはり衝撃的だったと思います。
その代表格が『屍人荘の殺人』ではないでしょうか。

一方で、皆川博子御大、辻真先御大というレジェンドが各ミステリランキングで
トップを取るなど、レジェンドからベテラン勢もまだまだ負けていません。

個人的には、紹介されているミステリで、未だに文庫化されていないものも
多く、より多くの人に膾炙するには、(営業面で厳しいのは重々承知の上ですが)
文庫化を各出版社さんには試みて欲しいですね。
(その1つが、電子書籍化であるのは言うまでもありませんが)

ところでこの『エターナル』は原書房さん刊行でないのは、
何か理由があるのかなあと。

いずれにせよ、2020年代、さらにはその次も、本シリーズが刊行されることを
祈念したいですね。


本格ミステリ・エターナル300

本格ミステリ・エターナル300

  • 出版社/メーカー: 行舟文化
  • 発売日: 2023/12/02
  • メディア: 単行本






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2024本格ミステリ・ベスト10 [ミステリ]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

映像、コミック、ゲームから演劇、評論まで本格まみれの一年を総覧!
気鋭からベテランまで話題作揃いのランキングをはじめ、
新作『鵼の碑』が話題の京極夏彦、予測不能の俊英・方丈貴恵の2大インタビュー、
特集は「暗号ミステリの愉しみ」。今年も情報満載でお届けします!

『このミス』とともに年末の楽しみのもう一つ。
こちらにも京極夏彦先生のインタビューがあって、すこし笑いました。
妖怪の話とか、次作とか、いやあ、楽しみ&期待が高まりますね。

『本格ミステリ』の方は、映像作品やラノベ、それから装丁と、企画が多彩なので、
良いですよね。一番私が見てるのは「復刊ミステリ2023」。
ここは、おお!こんなものが知らなかったという発見があり、また良いのですよねえ。

方丈貴恵さんのインタビュー。『孤島の来訪者』注文したので楽しみです。
今回は暗号特集があるのですが、やはり『黄金虫』と『踊る人形』から始まる、
ミステリの中で大きなトリックの一つですね。
しかし奥が深いなあ、とこの特集を読んで思いました。
やはり『猿丸幻視行』は読むべきだなと。

今年もあとわずかですが、積ん読もどんどん読みます!


2024本格ミステリ・ベスト10

2024本格ミステリ・ベスト10

  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 2023/12/07
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)






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このミステリーがすごい! 2024年版 [ミステリ]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

35年の信頼と実績を誇る、新作ミステリーランキングブックです。
巻頭では『名探偵コナン』30周年を記念し、
青山剛昌×東野圭吾の超巨大対談が実現!
17,000字に及ぶ、ミステリー界のトップランナー2人の邂逅をお楽しみください。

更に、デビュー30周年を記念し、京極夏彦単独インタビューも掲載。
最新作『鵼の碑』のお話もたっぷりうかがいました。

そのほかQuizKnock河村拓哉×『君のクイズ』作者・小川哲特別対談などで、
2023年のミステリーヒット作に迫ります。

各業界人も注目する2023年の国内&海外のミステリー小説ランキング・ベスト20、
超人気作家による自身の新刊情報&特別エッセイなど、例年の人気コンテンツも充実の一冊です。

ついに今年もこの季節。
今年の表紙は30周年記念の『名探偵コナン』が登場。
『このミス』では再登場ではないでしょうか。

おそらく読者の中には、自分が生きているうちに終わるのか・・・という
思いを持っている方も多いのでは(笑

ランキングは若手が多い!いや素晴らしいですね。
全体をみれば、ベテラン勢も入っており、ミステリ界の盛り上がりを感じます。

個人的には阿津川辰海先生と斜線堂由紀先生の『名探偵コナン』ベストエピソードが
面白かったです。
物理の北山ならば、「霧天狗殺人事件」は描けるという阿津川先生の言に笑いました。

思想信条上、ランキングはと言いつつ、おそらく収録されたのはインタビューの半分くらい
ではと思わせる、京極夏彦先生へのデビュー30周年記念インタビューは必読です。


今年中に、積ん読になっているミステリをどれだけ読めるかなあ。


このミステリーがすごい! 2024年版

このミステリーがすごい! 2024年版

  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2023/12/05
  • メディア: Kindle版






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仮面幻双曲 [大山誠一郎]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

この町の誰が”顔を変えた殺人者”なのか?

時は、戦後間もない昭和22年。
東京で亡き父の事務所を継いだ私立探偵の川宮兄妹は、
依頼を受けて滋賀県の双竜町に赴く。

依頼主は、地元随一の製糸会社を営む占部家の先代社長夫人。
専務の武彦が双子の兄である現社長の文彦に恨みを抱き、殺害を目論んでいるのだという。
武彦は女子工員の小夜子に恋をしていたが、
彼女は町中に中傷の手紙がばらまかれたことを苦に自殺。
兄の仕業だと思い込んだ武彦は姿をくらまし、整形手術を受けて顔を変え、
別人になりすまして双竜町に戻っている。

「なぜ顔を変えたかわかるか? お前の近くにいる」

川宮兄妹の使命は、武彦を探し出し、文彦の命を守ること。
しかし、琵琶湖のほとりに建つ巨大な洋館に招かれ、寝ずの番にあたった矢先、
文彦は惨殺されてしまう――

果たして誰が”武彦”なのか。

本格ミステリの名手による傑作が、待望の文庫化!

しばらく間隔が空いてしまいました。
やっと読めました!
阿津川辰海先生の解説や旧版(改稿前版)も読んで比較して欲しいとありますが、
旧版が全然手に入らない作品なんですよね。
それだけに私にとっては幻の作品で、復刊(改稿版)が読めて、本当によかった。

いわゆる「ノックスの十戒」の、双子が登場する作品ですが、
本作は当然、最初にそれを堂々と明らかにすることで、ノックスの十戒をきちんと踏まえ、
それでいて、西村京太郎御大の『殺しの双曲線』と双璧をなす作品といって過言では
ありません。

双子である、整形して顔を変える、これらの事実は早々に明らかにされるのです。
ところが、本作最大のトリックはこの最初に明かされる事実の中に潜ませているという
のが、本作最大の愁眉であり、面白さ。
戦後すぐという時代だからこそのトリックともいえるかもしれません。

探偵役である川宮兄妹。シリーズ化してほしいです。


仮面幻双曲 (小学館文庫 お 43-1)

仮面幻双曲 (小学館文庫 お 43-1)

  • 作者: 大山 誠一郎
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2023/06/06
  • メディア: 文庫






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村でいちばんの首吊りの木 [辻真先]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

母から息子への痛切な願い。手紙に秘められた真相は!?

手首を切断された女の死体を名古屋の下宿に残して長男が失踪。
事件の第一発見者は、奥飛騨の寒村から長男を訪ねてきた母親だった。
息子の無実を訴える母と、大学受験を控えた次男との間で交わされる手紙が、
やがて驚愕の真実を浮き彫りに……。
著者ベスト級の呼び声高い表題作ほか、
騙りの技巧を凝らした中編三本を収録。極上の本格ミステリ集!
初文庫化を記念して、ミステリ作家・阿津川辰海氏とのロング対談を特別収録!


初文庫化ということで、かなり楽しみにしてました。
というのも辻御大の作品は、特定の作品は結構復刊するのですが、
どうもそれ以外のが見過ごされているんですよね。
実業之日本社さんでは、『夜明け前の殺人』の文芸ミステリ三部作も
出ているので、本当に有り難い。

東京創元社さんでも、初期の傑作であるポテト&スーパーの初期3部作が
また復刊されましたが、その後のシリーズも出して欲しいんですよね。
前の復刊でも3部作買いましたが、また買いました(笑

表題作は、ある意味この表題作が思いっきりミスリードなのが面白い。
本当に最後くらいにしか、この木は出てこないんですよね。

本作は手紙という形で物語が進みますが、確かに、この手紙に嘘が無いのが秀逸。
死体から手首が切られていた理由、飲み込まれていた鍵は何か。
不可思議な謎が一気に収束に向かう、最後の手紙はお見事です。

「島でいちばんの鳴き砂の浜」は、人間ではない、植物や動物が、辻御大の手を借りて
物語を進めていくのが一番面白いです。全編ではないにせよ、こういうミステリは
初めて体験したかもしれません。
それでいて、彼彼女(という表現が妥当か微妙ですが)たちは、真相は語りません。

「あとがき」が3つあるのと、辻先生は御年91歳!すごい!
阿津川辰海先生との対談も必読です。
阿津川さんも話されてますが、手に入らない作品が多いのですよ。
実業之日本社さん、どうかよろしく!


村でいちばんの首吊りの木 (実業之日本社文庫)

村でいちばんの首吊りの木 (実業之日本社文庫)

  • 作者: 辻 真先
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2023/08/04
  • メディア: 文庫






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眠りを殺した少女 [赤川次郎]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

昼近くに目が覚めた高校三年生の小西智子は、
ぐっすり眠ってしまったことが自分でも信じられなかった。
もしかして昨夜のことは夢だったのか。
膝を見下ろすと、そこにはあの人から逃げようとしてできたあざ。
恐ろしくなって何もかも忘れてしまおうとした智子に、
大学から帰ってきた姉の聡子が泣きながら言った。

「片倉先生……死んじゃった!」

誰にも言えない秘密が智子を追い詰める――。

赤川作品は、タイトルが上手いというか、謎すぎるものとか、秀逸なものとか、
たくさんあるよなあと思います。
『おやすみ、テディ・ベア』では、タイトルからは想像付かない物語が語られ、
初期の超傑作『マリオネットの罠』、個人的超大好きな『魔女たちのたそがれ』
『過去から来た女』『殺人を呼んだ本』『晴れ、ときどき殺人』・・・
と挙げればきりがないのでこの辺で。

本書は1995年に角川文庫から刊行された作品。
今から(文庫刊行でも)28年前なので、赤川先生は48歳。乗りに乗ってる頃でしょうか。

少し前に紹介した『黒鍵は恋してる』とは、登場人物の年齢はそこまで
変わらないですが、全く真逆の物語。

特に驚いたのが、ラストシーン。
小西智子が選んだ道より、このラストの告白が衝撃でした。
事件は極めて単純なのに、その事件を発端に、波紋のように広がっていく事態も
実にうまく書かれています。
最後まで飽きさせない、良作です。


眠りを殺した少女 (徳間文庫)

眠りを殺した少女 (徳間文庫)

  • 作者: 赤川次郎
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2023/09/08
  • メディア: 文庫






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君に読ませたいミステリがあるんだ [東川篤哉]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

キュートな文芸部長がたくらむ“大仕掛け”を見破れますか?
ユーモアミステリの超快作!

ベストセラー『放課後はミステリーとともに』の鯉ケ窪学園に新ヒロイン登場! 
4月、新入生の僕は「第二文芸部」の部室に迷いこんでしまう。
部長で学園一の美少女(自称)の水崎アンナは、自作のミステリを強引に僕に読ませるのだが――
テンポの良い展開、冴え渡るユーモア、そして想像を超える大トリックに
一気読み必至の傑作ユーモアミステリ!

鯉ケ窪学園シリーズ最新作。
水先案内人のもじりである、水崎アンナなる<第二文芸部>部長が登場し、
「僕」に自分の書いたミステリを読ませるという、作中作の作品です。

鯉ヶ窪も長いですよね。
久しぶりすぎて、今までどんな探偵役が登場したのか、思わず確認しました(笑

大仕掛けとか、最後の大トリックとか、色々と帯文や推薦文でありますが、
それらは抜きで、このユーモア・ミステリを楽しむだけで充分だと思います。

「僕」が各事件で常に動機にこだわっていたのが、一番印象に残りました。
まあそりゃそうだという(苦笑

それにしても、他のキャラクターたちは、もう卒業しているのかなあ。


君に読ませたいミステリがあるんだ (実業之日本社文庫)

君に読ませたいミステリがあるんだ (実業之日本社文庫)

  • 作者: 東川 篤哉
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2023/08/04
  • メディア: 文庫






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オルゴーリェンヌ [北山猛邦]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

書物が駆逐される世界。旅を続ける英国人少年・クリスは、
検閲官に追われるユユと名乗る少女と出会う。彼女と共に追い詰められたクリスの前に、
彼を救うべく少年検閲官・エノが現れる。三人は、少女が追われる原因である宝石の形をした
『ミステリ』の結晶『小道具(ガジェット)』をいち早く回収すべく、
オルゴール職人たちが住む海墟の洋館に向かったが……。
そこで三人を待ち受けていたのは、職人たちを襲う連続不可能殺人だった! 
先に到着していたもう一人の少年検閲官・カルテの支配下に置かれた場所で、
三人は犯人を突き止めるべく、トリックの解明に挑む。著者渾身の力作!


少年検閲官シリーズ第2弾。
前作よりさらにボリュームが増し、2人目の少年検閲官も登場します。


以下、ネタバレ。



物理の北山の異名を取る作者の全力作品でした。
中でもヤガミ殺しは圧巻。
横倒しのビルで、いかに殺されたのか。
単にうえから落ちたのではなく、この世界における「書物」を
上手く使った見事なトリックです。

シグレ殺しは雪の密室。
カルテの、そもそも密室ではないという推理も中々面白いのですが、
エノの、オルゴールが燃えているところにおびき寄せる、というのは、
やはりこの世界の「ガジェット」を巧妙に使った罠で、お見事。

とここまで記載すると、要するに本書は「多重解決」ものなんですが、
もう1つ、私が連想したのは泡坂妻夫先生の『乱れからくり』。
誰が犯人なのか、というのと、本書の<クローズド・サークル>を
一気にぶち破る大仕掛けが最後にあるのです。

真犯人は生きているので、その意味では『乱れからくり』は当てはまらない
かもしれませんが、実際のところ、真犯人の仕掛けはすでに終わっているので、
実質はほぼ同じではないかと思います。

ところで、本書は単なる多重解決ではなく、本書世界観での多重解決なので、
カルテの推理がイコール真相、つまり解決と、本世界ではなるわけで、
真の解決を知るのは、クリスとエノの二人という状態。
エノはこの事実をどう考えるのか、
クリスはこの真実を物語にするのか、
いずれにせよ、次作が非常に気になります。


オルゴーリェンヌ 〈少年検閲官〉シリーズ (創元推理文庫)

オルゴーリェンヌ 〈少年検閲官〉シリーズ (創元推理文庫)

  • 作者: 北山 猛邦
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2022/04/28
  • メディア: Kindle版






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蝉かえる [櫻田智也]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

全国各地を旅する昆虫好きの心優しい青年・魞沢泉(えりさわせん。)。
彼が解く事件の真相は、いつだって人間の悲しみや愛おしさを秘めていた──。
16年前、災害ボランティアの青年が目撃したのは、行方不明の少女の幽霊だったのか? 
エリ沢が意外な真相を語る表題作など5編を収録。注目の若手実力派が贈る、
第74回日本推理作家協会賞と第21回本格ミステリ大賞を受賞した、連作ミステリ第2弾。
著者あとがき(単行本版、文庫版)=櫻田智也/解説=法月綸太郎


そのとぼけた風貌と行動、そして各編ともに「何が起こっているのか」ホワットダニットを
ホワイダニットを追求し、泡坂妻夫御大を彷彿とさせる作品集。

本作では、魞沢泉の過去に迫る、いってみれば、本格ミステリにまとわりつく
「人間が描けていない」という命題に挑んだ作品でもあります。

表題作「蝉かえる」は、かつて震災のボランティア活動をした場所で、
ある謎を抱えた糸瓜が、魞沢と鶴宮と出会う物語。
この一編は、謎の真実を知っている人物が、いかにその謎をストレートに伝えず、
かつそれでもわかってもらえるようにするには、どうすればいいかを、
短い時間の中で、考え抜いた作品。
魞沢は流石の推理をみせますが、主役はあくまで糸瓜と鶴宮。
そして、震災ボランティアや復興というものの、ある種のつらさも感じ取れる作品。

「コマチグモ」はかなり衝撃的な作品でした。
とにかく、何が起こっているのか?まるでわからないのと、
魞沢がほとんど推理をしない(それでも刑事へのヒントにはなってますが)のも。

「彼方の甲虫」は、なんというか、悲しすぎる物語ですね。
魞沢の推理が外れてほしいと思う反面、彼が死ななければならなかったのかという。
この話は、「サブサハラの蠅」で少しその後が語られます。

「ホタル計画」。本書の中で、最も魞沢という人物を描いた作品。
「コマチグモ」と悩みましたが、個人的には本作愁眉。
オダマンナ斎藤と再び出会う一編は描かれるのか、
そしてその時こそ、繭玉カイ子の「居場所」が明らかになることを願います。

「サブサハラの蠅」は、犯罪を未然に防ぐという、少し変化球的作品。
相手が魞沢にとって、ほぼ唯一の友人というのもポイントでしょう。
「ぼくのために生きてはくれませんか:という魞沢の言葉がよい。

第3弾では、はたしてどんな出来事が魞沢を待つのか、
あるいは、亜愛一郎シリーズ同様、3部作となるのか。


蝉かえる サーチライトと誘蛾灯 (創元推理文庫)

蝉かえる サーチライトと誘蛾灯 (創元推理文庫)

  • 作者: 櫻田 智也
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/02/13
  • メディア: Kindle版






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六人の嘘つきな大学生 [朝倉秋成]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

成長著しいIT企業「スピラリンクス」が初めて行う新卒採用。
最終選考に残った六人の就活生に与えられた課題は、一カ月後までにチームを作り上げ、
ディスカッションをするというものだった。全員で内定を得るため、
波多野祥吾は五人の学生と交流を深めていくが、本番直前に課題の変更が通達される。
それは、「六人の中から一人の内定者を決める」こと。仲間だったはずの六人は、
ひとつの席を奪い合うライバルになった。内定を賭けた議論が進む中、六通の封筒が発見される。
個人名が書かれた封筒を空けると「●●は人殺し」だという告発文が入っていた。
彼ら六人の嘘と罪とは。そして「犯人」の目的とは――。

怒濤の伏線回収に驚嘆の声続出! 青春ミステリの傑作が、ついに文庫化!



少しネタバレ。



これは傑作です。
ミステリの定番である「フーダニット」、本作では誰が会議室に封筒を持ち込んだのか?
この謎が最初にあります。

次に「ホワイダニット」、「スピラリンクス」の最終選考に残った学生たちの
最後のディスカッションに挑む前まで描かれる中、時折「幕間」のように入る、
関係者へのインタビュー(聞き取り)。
これがこの「ホワイダニット」に繋がります。
犯人はなぜ、封筒を持ち込んだのか?

主人公は波多野祥吾から、嶌依織にバトンタッチされ、
小説内の「And then-それから」で、依織が真犯人を追うことに。

ところが、真犯人が明らかになってからも、物語は続きます。
それは、嶌自身への告発された「封筒」の中身は何だったのかを
嶌自身が確かめるために。

そして、もう1つが本書の愁眉なのですが、この「嘘つきな大学生」という
タイトルが、大きな仕掛けになっているんですね。

「就職試験」とインタビューで明らかにされた、4人の人柄。
「And then-それから」でさらに深掘りされた、いや波多野祥吾が深掘りした4人の人柄。
ここに大きな乖離が生じているのです。
これが非常に上手い。
「嘘つき」と、自らが嘘をついていた訳では無く、前半の地の文と後半の地の文を
合わせて浮かび上がる、彼彼女たちの人柄が、実に巧妙に描かれるんですよね。

そして嶌自身の抱えている謎とハンデも。
さすがに嶌視点なので、この謎はわかりませんでしたが、
これが明確になった時に、上記の人柄が上手く浮かび上がる構造になっていて、
いや、すごい構成ですね。

そして波多野祥吾自身の人柄も当然描かれました。
ほぼ完全に良い人的な描かれ方、見方をされてきた彼にも、その表裏があるというのを
ある種最後に書いたんだなと。
それは他の4人とそこまで違いはないんだというのを書きたかったのでは無いかなと。

トリックというか、封筒の謎について。
普通に考えると、封筒を置くことで、自分が内定を勝ち取りたいがために
行ったと、誰もが考えるはずです。
しかし、本書のこの封筒は、実はそれが目的ではないというのが巧妙なところ。
そのため、犯人を絞るのが極めて難しいのです。

単行本が出て、『このミス』等で見たときから読みたかった作品で、
しかも内容的にも余りに見事な作品で、幸せなひとときでした。



六人の嘘つきな大学生 (角川文庫)

六人の嘘つきな大学生 (角川文庫)

  • 作者: 浅倉 秋成
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2023/06/13
  • メディア: Kindle版






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黒鍵は恋してる [赤川次郎]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

天才ピアノ少女〈黒鍵〉との出会いが事件の始まりだった!

夏休み最後の日の夜。高校一年生の米田あかねは、ベランダで上の階から聞こえてくる
ピアノの音に耳を傾けていた。その音が止まったとき、ふと目を向かいのマンションに向けると
窓に怪しいシルエットが。女性に誰かが飛びかかったのだ! 
翌朝、上の階に住んでいる天才ピアノ少女、〈黒鍵〉こと根津真音から
殺人事件が起きたと聞かされる。その日からあかねは命を狙われることに!?


赤川ミステリの王道作品といって良いでしょう。
ただし、主人公のあかねは「黒鍵」ではなく、根津真音が「黒鍵」であるのが少し違うかも。

ミステリの骨格も王道。怪しい組織のトップも登場。
でもなんというか、近年の作品と異なり、ジェットコースターのように作品が流れていき、
大団円とまではいかずとも、幸せな結末をそれなりに迎えるんですよね。

たぶん一番吹っ飛んでるのは、あかねの母親。
塚川亜由美の母親のような発言をしますが、前者は完全に天然であることが凄い。

ホテルの<密室>トリックは中々ですが、いや、聞き込みを続ければわかったのではと
思う事もあり(苦笑)

怪しいトップの風巻が、真音のピアノの大ファンになるところなんか、
赤川先生でなければ、描けないでしょう。
最後会場に団扇までをもって部下を引き連れてくるなんて、総会屋とよく
間違えられなかったな(笑)

「黒鍵」に振り回されつつも、あかねの見事な推理。良い読書時間でした。


黒鍵は恋してる (徳間文庫)

黒鍵は恋してる (徳間文庫)

  • 作者: 赤川次郎
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2023/06/09
  • メディア: 文庫






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ママは何でも知っている [海外ミステリ]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

毎週金曜の夜、刑事のデイビッドは妻を連れ、ブロンクスの実家へママを訪れる。
ディナーの席でいつもママが聞きたがるのは捜査中の殺人事件の話。
ママは"簡単な質問"をいくつかするだけで、何週間も警察を悩ませている事件を
いともたやすく解決してしまう。用いるのは世間一般の常識、人間心理を見抜く目、
豊富な人生経験のみ。安楽椅子探偵ものの最高峰と称される〈ブロンクスのママ〉シリーズ、
傑作短篇8篇を収録。


楽天かAmazonであなたへのオススメで突然出てきたので、思わず購入しました。
藤原宰太郎さんの『世界の名探偵50人』でしか知らなかったんですよね(苦笑)
個人的には「安楽椅子探偵」の代表ともいえる探偵と思ってます。

日本の「安楽椅子探偵」の代表・「退職刑事」は、やはりこのママシリーズを
参考にしているんだろうなあ。
ただ、本作は妻のシャーリーとママとの嫌味の応酬合戦がものすごく面白いです(笑
これは必読だと思います。
それと、ママの親戚の多いこと。それも問題がある人ばかり!!

一見、ママの親戚のよく分からない話で、「それが事件と何の関係が?」と
デイビットの発言させ、実は事件の真相に辿り着くための道程であるという、
お約束かつ王道を歩みつつ、どの事件も唸らせるものばかりで、
素晴らしい短編集でした。

続編もぜひ購入したいと思います。




ママは何でも知っている (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ママは何でも知っている (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2015/06/15
  • メディア: Kindle版






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月下美人を待つ庭で-猫丸先輩の妄言 [倉知淳]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

先輩がいると、この世は不可思議で、たまらなく面白い。

巧みな話術のうちに意外な結論に辿り着く
謎解きの醍醐味あふれる五編を収録

名探偵・猫丸先輩の、気ままなる生活と推理。

電光看板の底に貼り付けられた不規則なアルファベットの文字列、
亡き母が残した庭にかわるがわる訪れる悪気なさそうな侵入者たち――
風変わりな名前の“先輩”は日頃ふらふらしては、愉快なことには猫のごとき目聡さで首をつっこむ。
そして、どうにも理屈の通らない謎も、彼の饒舌にかかれば、
ああだこうだと話すうちにあっという間に解き明かされていくから不思議だ。
さて、名探偵・猫丸先輩の推理は如何に。


猫丸先輩が還ってきた!
「推測」「空論」ときて、ついに「妄言」となってしまいました(笑
しかし、それでも猫丸先輩のおしゃべりは止まらない。

後輩の八木沢も登場し、相変わらずやり込められるのは、シリーズ当初からのお約束。

「ねこちゃんパズル」はこれぞ猫丸シリーズを彷彿とさせる一編。
それが最初に配してあるのは流石の一言。
本作の中で、猫丸は大きく2つの推理を披露しますが、その2つ、果たして
どちらが正しく、どちらが間違っているのか。
いや、そもそもいずれも違うかもしれない。
『五十円玉二十枚の謎』の時から、実はそこまで進歩していないのが猫丸先輩でしょうね。
この話、どうとでも取れるというのが実に上手く、それこそが猫丸シリーズの神髄なのでしょう。

「恐怖の一枚」は、場所が心霊雑誌系のアルバイトだからか、
猫丸が怖がらせるために、恐るべき推理をわざと組み立てたと、相当穿った見方を(笑
とはいえ、本作では表題作につぐ2位の秀作かと。
一見平凡な写真から、物語を一気に恐怖に包んでいく過程は流石の一言。

「ついているきみへ」。犬を一時的に攫った理由は見事の一言。言われてみれば・・・です。
この猫丸は、以前のシリーズにもある、キューピッド役をしようとしているのかも。

「海の勇者」。
この話の猫丸の推理は、全て嘘なのですが、この嘘、確かに何のために付いたのか。
バイトリーダーたる尚洋にお灸を据えるためだったのか?
それとも、大雨の中、身動きがさほど取れないので、暇つぶしなのか。
謎すぎる行動も、猫丸先輩の魅力です。

表題作「月下美人を待つ庭で」
綺麗なタイトルです。そんな庭に突如侵入者が次々現れるという奇怪な出来事に、
猫丸が理路整然とした推理を突きつける。本作愁眉。
相変わらず突拍子もない事例を持ち出すのですが(ここでは鳥居)、
それが上手い例えなので、唸るしかない。

猫丸シリーズは、短編が続いてますが、シリーズ唯一の長編『過ぎゆく風はみどり色』
だけなので、そろそろ長編が読みたいですね。
この長編、珍しく猫丸先輩がシリアスになるのですよ。
とはいえ、長短編問わず、これからもシリーズが続くことを祈念します。


月下美人を待つ庭で:猫丸先輩の妄言 (創元推理文庫)

月下美人を待つ庭で:猫丸先輩の妄言 (創元推理文庫)

  • 作者: 倉知 淳
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/03/20
  • メディア: 文庫






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死の湖畔 Murder by The Lake 三部作#2 告発(accusation) 十和田湖・夏の日の悲劇 [中町信]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

死を見つめる〝赤い麦わら帽子の女〟は誰か?
この真相は、誰にも読めない!

読みすぎ注意:中町信はあなたの安眠を奪います

死を見つめる〝赤い麦わら帽子の女〟は誰か?
この真相は、誰にも読めない!
真夏の十和田湖で起きたボートの横転事故を皮切りに、次々に連続する死のドミノ倒し。
背景に深く関わる疑惑の四人の人妻たちも、飛行機墜落事故で記憶喪失の生存者一名を残し
三名が死亡。
偶然の連鎖か?それとも連続殺人か?事件の真相を記す死者からの告発の手紙が、
遺された夫たちを疑心暗鬼の闇に突き落とす。
叙述ミステリの魔術師が放つ究極の騙し絵パズル。

鹿角圀唯が主人公かつ刑事ということで、捜査と自分の妻の死の真相を探ります。
それにしても、1作目の「追憶」(田沢湖)とは違う、別の捻りが効いています。
さすが中町信先生。

容疑者がそんなに居ないにも拘わらず、十和田湖で起きたボート転落事故という1つの
事件が、妻の死に繋がっているというその筋は最後の最後まで変わりません。
しかし、この事件の「構図」とも言うのが、最後の最後に大きく変わるところが
めちゃくちゃ素晴らしかった。
序盤から、そこかしこに実はそれらしきヒントを散りばめつつ、
あくまで事件の発端は「十和田湖の転落事故」という、読者への思い込み(ミスリード)
も実に良く出来てます。

三部作、最後も楽しみにしています。








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