魔眼の匣の殺人 [今村昌弘]
まずはAmazonさんの紹介ページから。
その日、神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と剣崎比留子を含む9人が、
人里離れた班目機関の元研究施設“魔眼の匣”を訪れた。その主であり、
予言者として恐れられている老女は、来訪者に「あと二日のうちに、この地で4人死ぬ」と告げた。
施設と外界を結ぶ唯一の橋が燃え落ちた後、予言が成就するがごとく一人が死に、
閉じ込められた葉村たちを混乱と恐怖が襲う。
さらに客の一人である女子高生も予知能力を持つと告白し――。
残り48時間、二人の予言に支配された匣のなかで、葉村と比留子は生き残って謎を解き明かせるか?!
ミステリ界を席捲した『屍人荘の殺人』シリーズ第2弾。
『屍人荘』は結構辛口で書いた気がしますが、本書は特殊状況下(予言)というものが
厳然と(一応)存在しているというミステリであるにも関わらず、本格ミステリとして
見事な出来映えで、傑作だと思います。
読者への挑戦はないものの、事実上、犯人当てミステリがしっかりと成立しているのがお見事。
なぜ時計が破壊されたのか?この1点を明らかにすることで、犯人が特定できます。
このロジックだけでも本書は読む価値があります。
また、「三つ首トンネルの呪い」というオカルト話が出てくるのですが、この仕掛け
が秀逸で、会話を誤認させる見事なトリックになっています。
なぜクローズド・サークルが殺人事件では作られるのか、というある意味本格ミステリに
ついて回る謎が、実に上手く説明されているのも上手い。
東野圭吾さんの『ある閉ざされた雪の山荘で』のクローズド・サークルの必然性を
思い出しました。
物語の核である予言ですが、一酸化炭素中毒や山崩れ、熊に襲われるなど、
人為的なものでない事が立て続けに起こることで、匣に囚われた人々がある意味狂信してしまう
状態に陥りさせるのも見事です。予言がなければ事件が起こらなかったという
本作の特殊状況下ミステリが体現されているという、本格と特殊状況下ミステリが
非常に上手く融合した作品と思います。
ところでサキミの予言ですが、これはいつ予言されたものなんでしょうかね?
「十一月最後の二日間に、真雁で男女が二人ずつ、四人死ぬ」
これは年まで決まっていたのかどうか、よくわかりません。
事前にこの予言を村人に知らせ、後で今月起こるとさらに知らせたのだろうか。
まあ普通に考えれば、年も予言していたのでしょう。
十色の予知は、なんとなく漠然とのイメージを絵で表現するというものでしたが、
サキミのそれは、一体どういう予言なのでしょうか。
比留子や葉村は、十色の予知がどういうものか知った段階ならば、
ではサキミのは?と問い詰めても良いと思いますが・・・
それと匣に居る人々は(犯人含めて)「四人死ぬ」という事に相当な信憑性を
見いだしてますが、神服の言葉では「四人死ぬ」とだけで、それ以上死なないとは限らない、
という(まあ難癖かもしれませんが)それは考えなかったのかとも少し思いました。
最後にさらに比留子は驚異の推理をサキミにぶつけるのですが、
よく長きにわたって凌いできたなあと感心してしまいました。
ところで、また「明智恭介」の名が・・・
いや返す返すも残念すぎるのですが、もしかして大ドンデン返しがあったりするのだろうか。
その日、神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と剣崎比留子を含む9人が、
人里離れた班目機関の元研究施設“魔眼の匣”を訪れた。その主であり、
予言者として恐れられている老女は、来訪者に「あと二日のうちに、この地で4人死ぬ」と告げた。
施設と外界を結ぶ唯一の橋が燃え落ちた後、予言が成就するがごとく一人が死に、
閉じ込められた葉村たちを混乱と恐怖が襲う。
さらに客の一人である女子高生も予知能力を持つと告白し――。
残り48時間、二人の予言に支配された匣のなかで、葉村と比留子は生き残って謎を解き明かせるか?!
ミステリ界を席捲した『屍人荘の殺人』シリーズ第2弾。
『屍人荘』は結構辛口で書いた気がしますが、本書は特殊状況下(予言)というものが
厳然と(一応)存在しているというミステリであるにも関わらず、本格ミステリとして
見事な出来映えで、傑作だと思います。
読者への挑戦はないものの、事実上、犯人当てミステリがしっかりと成立しているのがお見事。
なぜ時計が破壊されたのか?この1点を明らかにすることで、犯人が特定できます。
このロジックだけでも本書は読む価値があります。
また、「三つ首トンネルの呪い」というオカルト話が出てくるのですが、この仕掛け
が秀逸で、会話を誤認させる見事なトリックになっています。
なぜクローズド・サークルが殺人事件では作られるのか、というある意味本格ミステリに
ついて回る謎が、実に上手く説明されているのも上手い。
東野圭吾さんの『ある閉ざされた雪の山荘で』のクローズド・サークルの必然性を
思い出しました。
物語の核である予言ですが、一酸化炭素中毒や山崩れ、熊に襲われるなど、
人為的なものでない事が立て続けに起こることで、匣に囚われた人々がある意味狂信してしまう
状態に陥りさせるのも見事です。予言がなければ事件が起こらなかったという
本作の特殊状況下ミステリが体現されているという、本格と特殊状況下ミステリが
非常に上手く融合した作品と思います。
ところでサキミの予言ですが、これはいつ予言されたものなんでしょうかね?
「十一月最後の二日間に、真雁で男女が二人ずつ、四人死ぬ」
これは年まで決まっていたのかどうか、よくわかりません。
事前にこの予言を村人に知らせ、後で今月起こるとさらに知らせたのだろうか。
まあ普通に考えれば、年も予言していたのでしょう。
十色の予知は、なんとなく漠然とのイメージを絵で表現するというものでしたが、
サキミのそれは、一体どういう予言なのでしょうか。
比留子や葉村は、十色の予知がどういうものか知った段階ならば、
ではサキミのは?と問い詰めても良いと思いますが・・・
それと匣に居る人々は(犯人含めて)「四人死ぬ」という事に相当な信憑性を
見いだしてますが、神服の言葉では「四人死ぬ」とだけで、それ以上死なないとは限らない、
という(まあ難癖かもしれませんが)それは考えなかったのかとも少し思いました。
最後にさらに比留子は驚異の推理をサキミにぶつけるのですが、
よく長きにわたって凌いできたなあと感心してしまいました。
ところで、また「明智恭介」の名が・・・
いや返す返すも残念すぎるのですが、もしかして大ドンデン返しがあったりするのだろうか。
殺人の多い料理店 [辻真先]
まずはAmazonさんの紹介ページから。
盛岡のレストランで宮沢賢治の童話朗読会が開かれた。
取材に赴いた夕刊紙記者・可能克郎は奇妙な出来事に遭遇。
台本に賢治作品の贋物が紛れ込んでいたのだ。
参加者を震撼させた“贋作騒動”は未解決。
ところが二か月後、参加者の一人・倉村が変死する。
朗読会に出演したタレント三木七重と参加メンバーの関係に不審を覚えた克郎は調査を進めるが……。
今年の最初に『夜明け前の殺人』が同じく実業之日本社文庫から復刊されていて、
そちらは購入しなかったのですが、本書は解説にある「可能」の文字で購入しました(笑
辻作品で「可能」といえば、可能キリコ&牧薩次のポテト&スーパーシリーズでしょう。
そして可能克郎は、『仮題・中学殺人事件』で初登場した、キリコの兄。
彼が主人公の作品なんてあったのか!と購入。
解説によると、300冊近い辻作品の中でも、可能克郎は、辻御大が生み出した数多くの
名探偵と顔見知りという、まさに辻ワールドの橋渡し役のようです。
彼の足跡を追えば、辻作品の大半を網羅できるという、偉大な人物。
しかし、彼はホームズ役でもワトソン役でもないというのがまた面白いところ。
本書の中で、克郎は、自らがホームズとワトソン両役になり、事件の解決に挑むのですが・・・
良いところまではいきつつも、最後は幸運に助けられて命は助かったという始末に。
しかし彼がこのように登場する作品は数多くあるようで、解説で触れられている
作品群は、ぜひとも復刊してほしいですね。
本書は宮沢賢治尽くしです。章タイトルから、登場人物まで。
宮澤賢治についてほとんど知らない私でも、時折引用される童話など、楽しめました。
事件のトリックが、牧薩次の書いた本からというのは、中々洒落が効いてます。
さらなる辻作品の復刊が続くことを願いつつ。
盛岡のレストランで宮沢賢治の童話朗読会が開かれた。
取材に赴いた夕刊紙記者・可能克郎は奇妙な出来事に遭遇。
台本に賢治作品の贋物が紛れ込んでいたのだ。
参加者を震撼させた“贋作騒動”は未解決。
ところが二か月後、参加者の一人・倉村が変死する。
朗読会に出演したタレント三木七重と参加メンバーの関係に不審を覚えた克郎は調査を進めるが……。
今年の最初に『夜明け前の殺人』が同じく実業之日本社文庫から復刊されていて、
そちらは購入しなかったのですが、本書は解説にある「可能」の文字で購入しました(笑
辻作品で「可能」といえば、可能キリコ&牧薩次のポテト&スーパーシリーズでしょう。
そして可能克郎は、『仮題・中学殺人事件』で初登場した、キリコの兄。
彼が主人公の作品なんてあったのか!と購入。
解説によると、300冊近い辻作品の中でも、可能克郎は、辻御大が生み出した数多くの
名探偵と顔見知りという、まさに辻ワールドの橋渡し役のようです。
彼の足跡を追えば、辻作品の大半を網羅できるという、偉大な人物。
しかし、彼はホームズ役でもワトソン役でもないというのがまた面白いところ。
本書の中で、克郎は、自らがホームズとワトソン両役になり、事件の解決に挑むのですが・・・
良いところまではいきつつも、最後は幸運に助けられて命は助かったという始末に。
しかし彼がこのように登場する作品は数多くあるようで、解説で触れられている
作品群は、ぜひとも復刊してほしいですね。
本書は宮沢賢治尽くしです。章タイトルから、登場人物まで。
宮澤賢治についてほとんど知らない私でも、時折引用される童話など、楽しめました。
事件のトリックが、牧薩次の書いた本からというのは、中々洒落が効いてます。
さらなる辻作品の復刊が続くことを願いつつ。
素直な狂気 [赤川次郎]
まずはAmazonさんの紹介ページから。
「受け取っていただけますか?」
お金を返そうと「あいつ」が追いかけてくる!
最終電車が迫っている。
会社員の松山は財布をなくした青年に電車賃を手渡した。
「これはあげるんだよ」
「いえ、きっとお返ししますから」
青年は言葉通り、松山の家を訪ねて金を返そうとする。
しかし、妻の沙織は人違いだという。先々週の金曜日、N駅にいたはずはないと。
松山の完全犯罪が崩れ始める……。
(「素直な狂気」)
誰もが秘める狂気を鮮烈に描き出したミステリー。
なんか勘違いしており、長編だと思っていたら短編集でした。
元々は角川文庫で発売されていたとありますが、購入した記憶がないので、おそらく初読。
全編どれも面白いですが、表題作「素直な狂気」と「ラブレター」は構図が
やや似ていますね。しかも結末も全然違うけれども、主人公の想いはそこまで違わないの
だろうなと感じました。
ただし表題作の場合、お金を貸した鈴木なる人物は本当に存在していたのか?
(ちなみに表紙も主人公の松山と鈴木が描かれています。)
というホラーな要素も含んでいます。
もちろん借りたお金を苦労してでも返しに来るのは素晴らしいことなのですが、
彼が固執した理由があまり述べられてなく、かなり不気味です。
ラストも松山が彼の幻影を見ているように、存在そのものが?ですね。
(ただし奥さんや娘さんも会っているので、しかも刑事も。実在はしているのかなあ。)
最後の幻影的なものは、松山が生み出した自分の辛さを解消してくれた存在みたいな
ものでしょうか。
ちなみに、ホラー的要素ではなく、完全ホラーなのは「わらの男」と「皆勤賞の朝」
前者は時枝のやりたいことは一体何なのか?まるで不明。
後者はこの学校の校長も相当悪いですね。昔ながらの根性論。
母親と正人を狂わせた張本人です。
しかし、正人への同級生やその姉の仕打ちから考えると、
正人やその母親がこの6年間で何かをしてきたのだろうとは推測できますが。
(電車での行為はもしかしたら正人の母親がかつてした行為なのでは?)
「拾った悲鳴」は親子が助かる話で、主人公大活躍。ほっとします。
「インテリア」は、なんというかちょっとした喜劇を見ているようですね。
いや実にうまい。背景を描かず、この母子関係を想像させるようになっているのも。
徳間文庫さん、これからもよろしくお願いします!
![素直な狂気 (徳間文庫) [ 赤川次郎 ] 素直な狂気 (徳間文庫) [ 赤川次郎 ]](https://thumbnail.image.rakuten.co.jp/@0_mall/book/cabinet/7903/9784198947903_1_3.jpg?_ex=128x128)
「受け取っていただけますか?」
お金を返そうと「あいつ」が追いかけてくる!
最終電車が迫っている。
会社員の松山は財布をなくした青年に電車賃を手渡した。
「これはあげるんだよ」
「いえ、きっとお返ししますから」
青年は言葉通り、松山の家を訪ねて金を返そうとする。
しかし、妻の沙織は人違いだという。先々週の金曜日、N駅にいたはずはないと。
松山の完全犯罪が崩れ始める……。
(「素直な狂気」)
誰もが秘める狂気を鮮烈に描き出したミステリー。
なんか勘違いしており、長編だと思っていたら短編集でした。
元々は角川文庫で発売されていたとありますが、購入した記憶がないので、おそらく初読。
全編どれも面白いですが、表題作「素直な狂気」と「ラブレター」は構図が
やや似ていますね。しかも結末も全然違うけれども、主人公の想いはそこまで違わないの
だろうなと感じました。
ただし表題作の場合、お金を貸した鈴木なる人物は本当に存在していたのか?
(ちなみに表紙も主人公の松山と鈴木が描かれています。)
というホラーな要素も含んでいます。
もちろん借りたお金を苦労してでも返しに来るのは素晴らしいことなのですが、
彼が固執した理由があまり述べられてなく、かなり不気味です。
ラストも松山が彼の幻影を見ているように、存在そのものが?ですね。
(ただし奥さんや娘さんも会っているので、しかも刑事も。実在はしているのかなあ。)
最後の幻影的なものは、松山が生み出した自分の辛さを解消してくれた存在みたいな
ものでしょうか。
ちなみに、ホラー的要素ではなく、完全ホラーなのは「わらの男」と「皆勤賞の朝」
前者は時枝のやりたいことは一体何なのか?まるで不明。
後者はこの学校の校長も相当悪いですね。昔ながらの根性論。
母親と正人を狂わせた張本人です。
しかし、正人への同級生やその姉の仕打ちから考えると、
正人やその母親がこの6年間で何かをしてきたのだろうとは推測できますが。
(電車での行為はもしかしたら正人の母親がかつてした行為なのでは?)
「拾った悲鳴」は親子が助かる話で、主人公大活躍。ほっとします。
「インテリア」は、なんというかちょっとした喜劇を見ているようですね。
いや実にうまい。背景を描かず、この母子関係を想像させるようになっているのも。
徳間文庫さん、これからもよろしくお願いします!
![素直な狂気 (徳間文庫) [ 赤川次郎 ] 素直な狂気 (徳間文庫) [ 赤川次郎 ]](https://thumbnail.image.rakuten.co.jp/@0_mall/book/cabinet/7903/9784198947903_1_3.jpg?_ex=128x128)
- ショップ: 楽天ブックス
- 価格: 814 円
探偵は友人ではない [川澄浩平]
まずはAmazonさんの紹介ページから。
わたし、海砂真史(うみすなまふみ)の幼馴染み・鳥飼歩(とりかいあゆむ)はなぜか
中学校に通っておらず、頭は切れるが自由気儘な性格で、素直じゃない。
でも、奇妙な謎に遭遇して困ったわたしがお菓子を持って訪ねていくと、
話を聞くだけで解決してくれた。彼は変人だけど、頼りになる名探偵なのだ。
歩の元に次々と新たな謎――洋菓子店の暗号クイズや美術室での奇妙な出来事――を
持ち込む日々のなかで、ふと思う。依頼人と探偵として繋がっているわたしたちは、友人とは言えない。だけど、わたしは謎がなくても歩に会いたいし、友人以上に大切に思っているのに……。
札幌を舞台に贈る、青春ミステリ第2弾!
日常の謎&青春ミステリの第2弾。
本作では、真史と歩の仲、そして歩の友人・鹿取の妹である彩香の登場で、
青春小説にぐっと寄った印象です。
特に彩香の出した謎(「第二話 正解にはほど遠い」)は、明らかに歩への好意を、
歩にしかわからない方法で示すという、彼にとって実に実に、答えにくい難問が示されます。
タイトルの問題は、「第四話 for you」で一応の解決をみるものの、
この最終話、話の中で出された謎が1つ残ったまま終わるという、中々面白い作品になってます。
歩の行動の謎は、この話だけ探偵役となる真史が解き明かすも、
そもそも真史が歩へ相談した謎は、そのまま。ラストでわかったから教えるというセリフが
出てきますが、真実は語られず。
さらに本書では「第三話 作者不詳」も、柳先生の沖縄の謎は実は解き明かされていない。
この話、学園モノとしてよく出来ているなあと思ったのですが、柳先生自体の謎は不明のまま。
「第一話 ロール・プレイ」が個人的にはあまりわからなかったなあ。
いや、自分の理解度が足りてないのだと思いますが。
全体を通して、前作が真史とその親友達との話で、そこに歩が介在していたものが、
本作では親友達は登場するものの、真史と歩、そして新キャラ・彩香の関係
とはいえ、彩香の思う関係と真史の思う関係はまるで違うという、そこの面白さもあります。
さて第3弾は如何なる方向に向かうのか、楽しみです。
わたし、海砂真史(うみすなまふみ)の幼馴染み・鳥飼歩(とりかいあゆむ)はなぜか
中学校に通っておらず、頭は切れるが自由気儘な性格で、素直じゃない。
でも、奇妙な謎に遭遇して困ったわたしがお菓子を持って訪ねていくと、
話を聞くだけで解決してくれた。彼は変人だけど、頼りになる名探偵なのだ。
歩の元に次々と新たな謎――洋菓子店の暗号クイズや美術室での奇妙な出来事――を
持ち込む日々のなかで、ふと思う。依頼人と探偵として繋がっているわたしたちは、友人とは言えない。だけど、わたしは謎がなくても歩に会いたいし、友人以上に大切に思っているのに……。
札幌を舞台に贈る、青春ミステリ第2弾!
日常の謎&青春ミステリの第2弾。
本作では、真史と歩の仲、そして歩の友人・鹿取の妹である彩香の登場で、
青春小説にぐっと寄った印象です。
特に彩香の出した謎(「第二話 正解にはほど遠い」)は、明らかに歩への好意を、
歩にしかわからない方法で示すという、彼にとって実に実に、答えにくい難問が示されます。
タイトルの問題は、「第四話 for you」で一応の解決をみるものの、
この最終話、話の中で出された謎が1つ残ったまま終わるという、中々面白い作品になってます。
歩の行動の謎は、この話だけ探偵役となる真史が解き明かすも、
そもそも真史が歩へ相談した謎は、そのまま。ラストでわかったから教えるというセリフが
出てきますが、真実は語られず。
さらに本書では「第三話 作者不詳」も、柳先生の沖縄の謎は実は解き明かされていない。
この話、学園モノとしてよく出来ているなあと思ったのですが、柳先生自体の謎は不明のまま。
「第一話 ロール・プレイ」が個人的にはあまりわからなかったなあ。
いや、自分の理解度が足りてないのだと思いますが。
全体を通して、前作が真史とその親友達との話で、そこに歩が介在していたものが、
本作では親友達は登場するものの、真史と歩、そして新キャラ・彩香の関係
とはいえ、彩香の思う関係と真史の思う関係はまるで違うという、そこの面白さもあります。
さて第3弾は如何なる方向に向かうのか、楽しみです。
Iの悲劇 [米澤穂信]
まずはAmazonさんの紹介ページから。
Iターンプロジェクト担当公務員が直面するのは、
過疎地のリアルと、風変わりな「謎」――。
無人になって6年が過ぎた山間の集落・簑石を
再生させるプロジェクトが、市長の肝いりで始動した。
市役所の「甦り課」で移住者たちの支援を担当することになった万願寺だが、
課長の西野も新人の観山もやる気なし。
しかも、公募で集まってきた定住希望者たちは、
次々とトラブルに見舞われ、
一人また一人と簑石を去って行き……。
直木賞作家・米澤穂信がおくる極上のミステリ悲喜劇。
本書は小説であり、フィクションです。
しかし、本書のテーマとなっているIターンは現実に各自治体が
積極的に行っていることなんだろうと思います。
そして、それが上手くいっているのか、どうか。
本書で描かれる簑石と似たような状況、再び無人地になるようなところばかり
なのではないか、と想像してしまいました。
本書ラストである人物が
「集落が無人になるなら、これは夢のような出来事だよ。その地域への支出をほぼすべて
停められるんだからね。」
このセリフは、これからの日本社会を現しているのだろうと。
これからの日本は人口減社会になっていきます。
行政インフラ・生活インフラをどう維持していくのかが死活問題になります。
そして現在過疎地と行政から指定されている箇所は、次々と本作の簑石のように
無人地になっていく可能性が高いでしょう。
そのような状況になっていく時、この南はかま市と同じようにIターンをやるのか、
それとも、都市に人々を集中させるのか。
インフラ・予算をどう活かすのか、真剣に考える時期はもう来ているのではないか、と。
暗澹たる気分になりますね・・・
小説なのに、極めてリアルな現実を突きつけられている、そんな小説なのです。
それが一番出ているのが「第五章 深い沼」。
この話、事件は起こりません。
簑石の状況を市長へ報告と、簑石の除雪問題のみ。
しかし、彼とその弟との電話越しの論争は読ませますね・・・
「棄民だ」と万願寺は言います。
日本社会でそれにはならないでしょうが、これからどうなるのか・・・
そんな現代の問題とは離れて、ミステリ小説の側面を。
主人公である万願寺の詳しい報告書を読んで、西野課長が安楽椅子探偵ばりの
推理を魅せる第1話。これはそういうコンビものかとふと思いました。
万願寺は学生気分が抜けないとみる観山(後に認識を少し改めますが)は、
どこか掴めない人間だなという印象。
しかし、この二人が・・・というのが仕掛けの1つ。
ただ、ご本人たちも認めているように「白い仏」はやりすぎですねえ。
一瞬、ご本尊を移動させた事によるものかと信じそうでした。
それ以外は実に上手い(移住者の方には失礼ですが)。
上手く種を蒔いています。西野課長より観山さんの方がさりげなく実に上手い。
さすが米澤先生で、上手く仕掛けを隠しています。
しかし本書の続編は難しいだろうなあ。
ところで、『○○の悲劇』というタイトルですが、当然ながら
これはドルリー・レーン4部作『Xの悲劇』『Yの悲劇』『Zの悲劇』『レーン最後の事件』
からの本歌取りなのは言わずもがな、だと思います。
しかし、当然分からない人も居るんだろうと。
なので、この作品を手に取った方には、是非とも古典的傑作を手にとって貰いたいですね。
最近『Yの悲劇』も創元推理文庫から再び刊行されましたので。
(購入済みです)
![Iの悲劇 (文春文庫) [ 米澤 穂信 ] Iの悲劇 (文春文庫) [ 米澤 穂信 ]](https://thumbnail.image.rakuten.co.jp/@0_mall/book/cabinet/9313/9784167919313_1_6.jpg?_ex=128x128)
Iターンプロジェクト担当公務員が直面するのは、
過疎地のリアルと、風変わりな「謎」――。
無人になって6年が過ぎた山間の集落・簑石を
再生させるプロジェクトが、市長の肝いりで始動した。
市役所の「甦り課」で移住者たちの支援を担当することになった万願寺だが、
課長の西野も新人の観山もやる気なし。
しかも、公募で集まってきた定住希望者たちは、
次々とトラブルに見舞われ、
一人また一人と簑石を去って行き……。
直木賞作家・米澤穂信がおくる極上のミステリ悲喜劇。
本書は小説であり、フィクションです。
しかし、本書のテーマとなっているIターンは現実に各自治体が
積極的に行っていることなんだろうと思います。
そして、それが上手くいっているのか、どうか。
本書で描かれる簑石と似たような状況、再び無人地になるようなところばかり
なのではないか、と想像してしまいました。
本書ラストである人物が
「集落が無人になるなら、これは夢のような出来事だよ。その地域への支出をほぼすべて
停められるんだからね。」
このセリフは、これからの日本社会を現しているのだろうと。
これからの日本は人口減社会になっていきます。
行政インフラ・生活インフラをどう維持していくのかが死活問題になります。
そして現在過疎地と行政から指定されている箇所は、次々と本作の簑石のように
無人地になっていく可能性が高いでしょう。
そのような状況になっていく時、この南はかま市と同じようにIターンをやるのか、
それとも、都市に人々を集中させるのか。
インフラ・予算をどう活かすのか、真剣に考える時期はもう来ているのではないか、と。
暗澹たる気分になりますね・・・
小説なのに、極めてリアルな現実を突きつけられている、そんな小説なのです。
それが一番出ているのが「第五章 深い沼」。
この話、事件は起こりません。
簑石の状況を市長へ報告と、簑石の除雪問題のみ。
しかし、彼とその弟との電話越しの論争は読ませますね・・・
「棄民だ」と万願寺は言います。
日本社会でそれにはならないでしょうが、これからどうなるのか・・・
そんな現代の問題とは離れて、ミステリ小説の側面を。
主人公である万願寺の詳しい報告書を読んで、西野課長が安楽椅子探偵ばりの
推理を魅せる第1話。これはそういうコンビものかとふと思いました。
万願寺は学生気分が抜けないとみる観山(後に認識を少し改めますが)は、
どこか掴めない人間だなという印象。
しかし、この二人が・・・というのが仕掛けの1つ。
ただ、ご本人たちも認めているように「白い仏」はやりすぎですねえ。
一瞬、ご本尊を移動させた事によるものかと信じそうでした。
それ以外は実に上手い(移住者の方には失礼ですが)。
上手く種を蒔いています。西野課長より観山さんの方がさりげなく実に上手い。
さすが米澤先生で、上手く仕掛けを隠しています。
しかし本書の続編は難しいだろうなあ。
ところで、『○○の悲劇』というタイトルですが、当然ながら
これはドルリー・レーン4部作『Xの悲劇』『Yの悲劇』『Zの悲劇』『レーン最後の事件』
からの本歌取りなのは言わずもがな、だと思います。
しかし、当然分からない人も居るんだろうと。
なので、この作品を手に取った方には、是非とも古典的傑作を手にとって貰いたいですね。
最近『Yの悲劇』も創元推理文庫から再び刊行されましたので。
(購入済みです)
![Iの悲劇 (文春文庫) [ 米澤 穂信 ] Iの悲劇 (文春文庫) [ 米澤 穂信 ]](https://thumbnail.image.rakuten.co.jp/@0_mall/book/cabinet/9313/9784167919313_1_6.jpg?_ex=128x128)
- ショップ: 楽天ブックス
- 価格: 836 円
透明人間は密室に潜む [阿津川辰海]
まずはAmazonさんの紹介ページから。
透明人間が事件を起こしたら?
アイドルオタクが裁判員裁判に直面したら?
犯行現場の音を細かく聞いてみたら?
ミステリイベント中のクルーズ船で参加者の拉致監禁事件が起こったら?
阿津川辰海の傑作短編集がついに文庫化。
波に乗る著者が放つ高密度の本格ミステリ!読めばファン確定。驚嘆必至、必読の一冊!
「名探偵とは」という名探偵論を展開した「紅蓮館」「蒼海館」。
個人的に後者については、拙ブログでも色々批判しましたが、
本短編集は傑作です。
どの作品にも、2つの仕掛けが施されていて、
特に表題作と「盗聴された殺人」の2作品は、甲乙付けがたい、傑作だと思います。
前者は、特殊状況下における殺人という設定ですが、これが実はそこまで特殊でない、
というのが面白い。
最初に人の透明人間病について説明があり、現在それの薬や治療法が開発されている
という状況。
内藤彩子は、この透明人間病の特効薬を開発中の人物を殺しにいくという、
倒叙ミステリですね。
とにかく透明人間だからといっても、物質を持てばそれが浮いている状態になり、
何かが飛び散れば、それも浮いているように見えてしまう。
つまり、透明だからといって、殺人やら窃盗やらが簡単にできる訳がない。
本作で描かれる透明人間病は、そういうもののようです。
透明人間が密室のどこに隠れたのか??これは案外とすぐわかるのではないかと
思います。
しかし、そこからが本作の真骨頂。なぜ「彩子」が特効薬開発者の川路教授を殺害しなければ
ならなかったのか、この謎が見事です。
ところで、参考文献に引かれている「ジョジョ」は、透明の赤ちゃんですかね。
後者、「盗聴された殺人」も、特殊能力を持つ人物と探偵とのコンビが挑む事件。
異常なまでに聴力が良い山口美々香と、探偵事務所所長の大野糺が主人公。
これも特殊能力が活かされつつも、実は犯人当て小説、読者への挑戦状になっている
ところが大仕掛けであり、読み応え抜群でした。
このコンビ、『録音された誘拐』という長編に登場しているとのことで、
こちらも楽しみです。
「六人の熱狂する日本人」はオチは読めるものの、これは現実にあり得る話だなと(笑
あり得るというのは、選ばれた裁判員全員が、同じアイドルのファンであるということで、
6人で1つの事件から、これまでまるで違う真相(?)を探り出すのはまあ、ないでしょう(笑
この作品の凄いところは、アイドルオタク・ファンのそれぞれの行動が、事件の真相に
迫っていく作りになっているところ。何を聞かされているのかという判事と判事補を
尻目に、別の真相が浮かび上がってくるエキセントリックな過程は、ある意味凄い。
「第13号船室からの脱出」。これもまたオチが見えているものの、
脱出ゲームで出される謎解きについては、極めてレベルが高く、どんでん返しも
面白く読めました。
ただなんというか、メイン登場人物3人がちょっとなあという。個人的に好きになれなかった。
帯に記された○○で何位!とかは完全スルーですが、
これだけ別視点から、高度なミステリを集めた短編集は中々ないでしょう。
ぜひ一読をお勧めします。
透明人間が事件を起こしたら?
アイドルオタクが裁判員裁判に直面したら?
犯行現場の音を細かく聞いてみたら?
ミステリイベント中のクルーズ船で参加者の拉致監禁事件が起こったら?
阿津川辰海の傑作短編集がついに文庫化。
波に乗る著者が放つ高密度の本格ミステリ!読めばファン確定。驚嘆必至、必読の一冊!
「名探偵とは」という名探偵論を展開した「紅蓮館」「蒼海館」。
個人的に後者については、拙ブログでも色々批判しましたが、
本短編集は傑作です。
どの作品にも、2つの仕掛けが施されていて、
特に表題作と「盗聴された殺人」の2作品は、甲乙付けがたい、傑作だと思います。
前者は、特殊状況下における殺人という設定ですが、これが実はそこまで特殊でない、
というのが面白い。
最初に人の透明人間病について説明があり、現在それの薬や治療法が開発されている
という状況。
内藤彩子は、この透明人間病の特効薬を開発中の人物を殺しにいくという、
倒叙ミステリですね。
とにかく透明人間だからといっても、物質を持てばそれが浮いている状態になり、
何かが飛び散れば、それも浮いているように見えてしまう。
つまり、透明だからといって、殺人やら窃盗やらが簡単にできる訳がない。
本作で描かれる透明人間病は、そういうもののようです。
透明人間が密室のどこに隠れたのか??これは案外とすぐわかるのではないかと
思います。
しかし、そこからが本作の真骨頂。なぜ「彩子」が特効薬開発者の川路教授を殺害しなければ
ならなかったのか、この謎が見事です。
ところで、参考文献に引かれている「ジョジョ」は、透明の赤ちゃんですかね。
後者、「盗聴された殺人」も、特殊能力を持つ人物と探偵とのコンビが挑む事件。
異常なまでに聴力が良い山口美々香と、探偵事務所所長の大野糺が主人公。
これも特殊能力が活かされつつも、実は犯人当て小説、読者への挑戦状になっている
ところが大仕掛けであり、読み応え抜群でした。
このコンビ、『録音された誘拐』という長編に登場しているとのことで、
こちらも楽しみです。
「六人の熱狂する日本人」はオチは読めるものの、これは現実にあり得る話だなと(笑
あり得るというのは、選ばれた裁判員全員が、同じアイドルのファンであるということで、
6人で1つの事件から、これまでまるで違う真相(?)を探り出すのはまあ、ないでしょう(笑
この作品の凄いところは、アイドルオタク・ファンのそれぞれの行動が、事件の真相に
迫っていく作りになっているところ。何を聞かされているのかという判事と判事補を
尻目に、別の真相が浮かび上がってくるエキセントリックな過程は、ある意味凄い。
「第13号船室からの脱出」。これもまたオチが見えているものの、
脱出ゲームで出される謎解きについては、極めてレベルが高く、どんでん返しも
面白く読めました。
ただなんというか、メイン登場人物3人がちょっとなあという。個人的に好きになれなかった。
帯に記された○○で何位!とかは完全スルーですが、
これだけ別視点から、高度なミステリを集めた短編集は中々ないでしょう。
ぜひ一読をお勧めします。
新シャーロック・ホームズの冒険 [シャーロック・ホームズ]
まずはAmazonさんの紹介ページから。
今度はトリオで謎解き!?
知念実希人さん絶賛!
「誰もが愛した名探偵が霧のロンドンに戻ってきた!
二人の活躍を堪能できる喜びに打ち震えた」
世界中で愛されるシャーロック・ホームズシリーズに新たなパスティーシュ作品が登場!
小説家の創作ノートから本物の殺人事件が生まれ。ホームズが難事件に挑む!
初老の男が服毒による変死を遂げたと新聞で報じられた朝、三十代前半の女性が
ベイカー街221Bへホームズを訪ねてくる。彼女はアビゲイル・ムーンと名乗り、
ダミアン・コリンボーンなる男性の筆名で探偵小説を書いている。
コリンボーンといえば、相棒ワトスンの本棚にも作品が置いてあるほどの売れっ子作家だ。
依頼の内容は、「真犯人に被害者と犯行の手口を盗まれた、自分の無実を証明してほしい」。
彼女は次作に向けてストーリーの構想を練っているところだったが、
昨日ヴォクスホール公園で死んだ男は、被害者として自分が選んだ人物だった。
なぜ変死事件は起きたのか?ホームズとワトスンは調査に乗り出すが……。
新たなホームズパスティーシュが登場しました。
本シリーズ、すでに新作2作は刊行予定とのこと。これは楽しみです。
ホームズを探偵役とした作品群については、これまでも若干私見を書いてきましたが、
本作は、コナン・ドイル財団公認の『絹の家』や『芸術家の血』『眠らぬ亡霊』、
これらの作品よりも遙かにホームズ探偵譚で、本当に楽しめました。
ホームズを探偵とする以上、やはり事件も「聖典」に近い作風・筆致になるのが
妥当なのではないか、と個人的に思います。
もう古典的名作になってしまっているかもしれませんが、
ジューン トムスンの『シャーロック・ホームズの秘密ファイル』から始まるパスティーシュ
は素晴らしかったです。また新たにホームズとワトソンの冒険が読めるとは、と。
先に挙げた3作品は、事件の内容やホームズの過去に迫る手法が、私としては
それは違うのではないか、と思っています。ミステリとして優れているかどうかはともかく、
ホームズ冒険譚としては違うだろうと。
今回、この作品、何の事前情報もなく読んだのですが、見事にホームズ冒険譚だなと。
長編『ボスコム渓谷の惨劇』を彷彿とさせる後半などは見事です。
前半はホームズの捜査とワトソンの捜査(?)で読ませつつ、
ホームズ伝記作家の地位を脅かされるアビゲイル・ムーンとの対決(?)もそこかしこに。
とはいえ、後者はワトソンの杞憂でしかなく、訳者あとがきや解説で述べられているよう、
アビゲイル・ムーンの苦悩は、当時の女性の地位を考えるという意味で、興味深かったです。
ヴィクトリア朝の女性がどう生きていくのか、中々考えさせられます。
「聖典」にも優れた女性が数多く登場しますが(ヴァイオレット嬢とか)、
彼女たちが就いている職業は、確かに女性のみというものなのでしょう。
アビゲイル・ムーンはある種果敢にそこに挑戦しようとした、とも読めますが、
彼女の物語からの退場は悲しい場面でした。
事件の謎は、被害者がどう毒を飲まされたのか、そして彼の持っていたメモは何か、の2点。
とにかくホームズ探偵術で解かれていく事件の真相をただただ楽しんでほしいです。
ただ1点。このタイトルはそれ以上に訳しようがなかったのですかね。
原題は何だったか・・・
![新シャーロック・ホームズの冒険 (角川文庫) [ 駒月 雅子 ] 新シャーロック・ホームズの冒険 (角川文庫) [ 駒月 雅子 ]](https://thumbnail.image.rakuten.co.jp/@0_mall/book/cabinet/5878/9784041125878_1_2.jpg?_ex=128x128)
今度はトリオで謎解き!?
知念実希人さん絶賛!
「誰もが愛した名探偵が霧のロンドンに戻ってきた!
二人の活躍を堪能できる喜びに打ち震えた」
世界中で愛されるシャーロック・ホームズシリーズに新たなパスティーシュ作品が登場!
小説家の創作ノートから本物の殺人事件が生まれ。ホームズが難事件に挑む!
初老の男が服毒による変死を遂げたと新聞で報じられた朝、三十代前半の女性が
ベイカー街221Bへホームズを訪ねてくる。彼女はアビゲイル・ムーンと名乗り、
ダミアン・コリンボーンなる男性の筆名で探偵小説を書いている。
コリンボーンといえば、相棒ワトスンの本棚にも作品が置いてあるほどの売れっ子作家だ。
依頼の内容は、「真犯人に被害者と犯行の手口を盗まれた、自分の無実を証明してほしい」。
彼女は次作に向けてストーリーの構想を練っているところだったが、
昨日ヴォクスホール公園で死んだ男は、被害者として自分が選んだ人物だった。
なぜ変死事件は起きたのか?ホームズとワトスンは調査に乗り出すが……。
新たなホームズパスティーシュが登場しました。
本シリーズ、すでに新作2作は刊行予定とのこと。これは楽しみです。
ホームズを探偵役とした作品群については、これまでも若干私見を書いてきましたが、
本作は、コナン・ドイル財団公認の『絹の家』や『芸術家の血』『眠らぬ亡霊』、
これらの作品よりも遙かにホームズ探偵譚で、本当に楽しめました。
ホームズを探偵とする以上、やはり事件も「聖典」に近い作風・筆致になるのが
妥当なのではないか、と個人的に思います。
もう古典的名作になってしまっているかもしれませんが、
ジューン トムスンの『シャーロック・ホームズの秘密ファイル』から始まるパスティーシュ
は素晴らしかったです。また新たにホームズとワトソンの冒険が読めるとは、と。
先に挙げた3作品は、事件の内容やホームズの過去に迫る手法が、私としては
それは違うのではないか、と思っています。ミステリとして優れているかどうかはともかく、
ホームズ冒険譚としては違うだろうと。
今回、この作品、何の事前情報もなく読んだのですが、見事にホームズ冒険譚だなと。
長編『ボスコム渓谷の惨劇』を彷彿とさせる後半などは見事です。
前半はホームズの捜査とワトソンの捜査(?)で読ませつつ、
ホームズ伝記作家の地位を脅かされるアビゲイル・ムーンとの対決(?)もそこかしこに。
とはいえ、後者はワトソンの杞憂でしかなく、訳者あとがきや解説で述べられているよう、
アビゲイル・ムーンの苦悩は、当時の女性の地位を考えるという意味で、興味深かったです。
ヴィクトリア朝の女性がどう生きていくのか、中々考えさせられます。
「聖典」にも優れた女性が数多く登場しますが(ヴァイオレット嬢とか)、
彼女たちが就いている職業は、確かに女性のみというものなのでしょう。
アビゲイル・ムーンはある種果敢にそこに挑戦しようとした、とも読めますが、
彼女の物語からの退場は悲しい場面でした。
事件の謎は、被害者がどう毒を飲まされたのか、そして彼の持っていたメモは何か、の2点。
とにかくホームズ探偵術で解かれていく事件の真相をただただ楽しんでほしいです。
ただ1点。このタイトルはそれ以上に訳しようがなかったのですかね。
原題は何だったか・・・
![新シャーロック・ホームズの冒険 (角川文庫) [ 駒月 雅子 ] 新シャーロック・ホームズの冒険 (角川文庫) [ 駒月 雅子 ]](https://thumbnail.image.rakuten.co.jp/@0_mall/book/cabinet/5878/9784041125878_1_2.jpg?_ex=128x128)
新シャーロック・ホームズの冒険 (角川文庫) [ 駒月 雅子 ]
- ショップ: 楽天ブックス
- 価格: 1,188 円
深世海 Into the Depths [ゲーム]
このところ読書ではなく、コンシューマゲーム(Switch)をしていて、
積ん読本が多くなってきました・・・
ゲームを紹介するのは相当に久しぶりなのですが、
ちょうどクリアしたので、書いてみます。
この「深世界」というゲームは、元々はApple Arcadeで発売され、
その後Switchへ移植されました。
結構前に出たのですが、ようやくクリアという(汗
カプコンさんのゲームといえば、モンハンやバイオハザード、ロックマン、魔界村など錚々たる
タイトルがありますが、こうしたソフトを発売するのは個人的には意外でしたね。
物語は、氷で地表が覆い尽くされてしまった地球。
深海で生活しているたった一人の人間が主人公となります。
一番のポイントは、いわゆる体力ゲージが空気ボンベなところ。
普通に進めば空気も減るし、衝撃を受ければボンベが壊れます。
所々に空気補給ポイントはあるものの、目測を誤ればすぐゲームオーバーですね。
また着ている大気圧潜水服を強化することで、潜れる深海がどんどん深くなるのも
面白い。耐えられない状態では即危険な状態に陥ります。
ところで、このゲーム。主人公が住んでいた場所も氷に覆われてしまい、
どんどん深海へ進んで行かざるを得なくなる訳ですが、
その途中途中に、色々な遺物や遺構、図解された何かの絵図面、潜水艦に潜導・・・と
色々なものを目にします。
特に鳥居は驚いた。あれなんであんなところにあるんだろうか?
そもそも見てもよく分からないのですが、これが本ゲームの魅力でもあります。
ラストの生物(ラスボスですね)を倒すかやられるか、これでもエンディングが変わるという
のは、やったゲームで初めてかも(普通やられたらゲームオーバーですから)。
それから水の音含め、BGMもいいです。
本作、その背景や設定など、あまり深く語られていないようで、
YoutubeほかSNSで考察されている方も多いみたいです。ついつい昨日観てしまいました。
ロックマン、魔界村までの死にゲーまでいきませんが、難易度もそこそこ高く、
主人公やこの世界の背景なども妄想したり、綺麗な映像や音を聞き入ったり、
色々楽しめます。
お値段も高くないので、オススメです。
積ん読本が多くなってきました・・・
ゲームを紹介するのは相当に久しぶりなのですが、
ちょうどクリアしたので、書いてみます。
この「深世界」というゲームは、元々はApple Arcadeで発売され、
その後Switchへ移植されました。
結構前に出たのですが、ようやくクリアという(汗
カプコンさんのゲームといえば、モンハンやバイオハザード、ロックマン、魔界村など錚々たる
タイトルがありますが、こうしたソフトを発売するのは個人的には意外でしたね。
物語は、氷で地表が覆い尽くされてしまった地球。
深海で生活しているたった一人の人間が主人公となります。
一番のポイントは、いわゆる体力ゲージが空気ボンベなところ。
普通に進めば空気も減るし、衝撃を受ければボンベが壊れます。
所々に空気補給ポイントはあるものの、目測を誤ればすぐゲームオーバーですね。
また着ている大気圧潜水服を強化することで、潜れる深海がどんどん深くなるのも
面白い。耐えられない状態では即危険な状態に陥ります。
ところで、このゲーム。主人公が住んでいた場所も氷に覆われてしまい、
どんどん深海へ進んで行かざるを得なくなる訳ですが、
その途中途中に、色々な遺物や遺構、図解された何かの絵図面、潜水艦に潜導・・・と
色々なものを目にします。
特に鳥居は驚いた。あれなんであんなところにあるんだろうか?
そもそも見てもよく分からないのですが、これが本ゲームの魅力でもあります。
ラストの生物(ラスボスですね)を倒すかやられるか、これでもエンディングが変わるという
のは、やったゲームで初めてかも(普通やられたらゲームオーバーですから)。
それから水の音含め、BGMもいいです。
本作、その背景や設定など、あまり深く語られていないようで、
YoutubeほかSNSで考察されている方も多いみたいです。ついつい昨日観てしまいました。
ロックマン、魔界村までの死にゲーまでいきませんが、難易度もそこそこ高く、
主人公やこの世界の背景なども妄想したり、綺麗な映像や音を聞き入ったり、
色々楽しめます。
お値段も高くないので、オススメです。
早朝始発の殺風景 [青崎有吾]
まずはAmazonさんの紹介ページから。
青春は、気まずさでできた密室だ。今、最注目の若手ミステリー作家が贈る珠玉の短編集。
始発の電車で遭遇したのは普段あまり話さない女子。
二人は互いに早起きの理由を探り始め……(表題作)。
部活の引退日、男同士で観覧車に乗り込んだ先輩と後輩。
後輩には何か目的があるようだが(「夢の国には観覧車がない」)。
不器用な高校生たちの関係が小さな謎と会話を通じて少しずつ変わってゆく。
ワンシチュエーション(場面転換なし)&リアルタイムで進行する五つの青春密室劇。
登場人物総出演、読んでのお楽しみのエピローグ付き。
青春小説かつ「日常の謎」(ただし全てではない)を、実に上手く描いた短編集。
筆者の「館」シリーズとはまた味わいが違い、大変楽しめました。
まずこのタイトルをみて、「殺風景」が登場人物の苗字とは思わないでしょう。
意外な所に仕込んできたなあと。
オススメは難しいところですが、「メロンソーダ・ファクトリー」。
主人公の「私」こと真田と、詩子は付き合いが非常に長いにもかかわらず・・・
というのが青春小説として、頭一歩リードしました。
ノギちゃんは名探偵になれる素質充分です。
「夢の国には観覧車がない」は、次点。いやあ、これは現代だからこそ、というか、
こうした小説が平然と書かれることを望みます。
解説でも触れているとおり、「葛城」の性別をわざと伏せているのが秀逸。
伊鳥がこの計画を実行するのにかけた苦労が報われてよかった。
「三月四日、午後二時半の密室」は、同じクラスだけどほとんど接点の無い二人のお話。
一番青春小説らしいですが、隠された謎が私にもわかったので(笑)惜しい。
だけど、素晴らしい高校生活の最後ですね。
「捨て猫と兄妹喧嘩」。個人的に、猫をその場所で共同で世話するのが無しな作品。
猫好きにはちょっと受け付けなかったなあと。
「エピローグ」では各作品に登場した人たちの、その後が描かれ、
基本みんなハッピーエンドなんだけども・・・
問題というか、やはり表題作だけは実は少し異質だろうと思います。
エピローグでも、殺風景と加藤木、両方とも名前を知らないという所で終幕ですが、
この「早朝始発の殺風景」、殺風景は親友の復讐を果たし、それを加藤木が手伝って
いるんですよね(手伝っているのは「エピローグ」で描かれます)。
少し寄り道すると、加藤木がなぜ始発電車に乗っていたのかは、映像部が行おうとしている
違法行為に荷担したくないから、なんですよね。
でも「エピローグ」では、手伝っていることが明確に描かれ、まあクラスメートの事だから
なんでしょうが、そこも大きく異なってるなあと。
他の物語と違い、この話だけは殺風景と加藤木は大丈夫なのか?
という心配をしてしまう&二人はこのまま口を閉ざしたままなのか?という。
やはりこの物語は異質なんですよね。
しかし、この短編集の中から連作短編主人公となれそうなのは、殺風景と加藤木かなあ(笑)
青春は、気まずさでできた密室だ。今、最注目の若手ミステリー作家が贈る珠玉の短編集。
始発の電車で遭遇したのは普段あまり話さない女子。
二人は互いに早起きの理由を探り始め……(表題作)。
部活の引退日、男同士で観覧車に乗り込んだ先輩と後輩。
後輩には何か目的があるようだが(「夢の国には観覧車がない」)。
不器用な高校生たちの関係が小さな謎と会話を通じて少しずつ変わってゆく。
ワンシチュエーション(場面転換なし)&リアルタイムで進行する五つの青春密室劇。
登場人物総出演、読んでのお楽しみのエピローグ付き。
青春小説かつ「日常の謎」(ただし全てではない)を、実に上手く描いた短編集。
筆者の「館」シリーズとはまた味わいが違い、大変楽しめました。
まずこのタイトルをみて、「殺風景」が登場人物の苗字とは思わないでしょう。
意外な所に仕込んできたなあと。
オススメは難しいところですが、「メロンソーダ・ファクトリー」。
主人公の「私」こと真田と、詩子は付き合いが非常に長いにもかかわらず・・・
というのが青春小説として、頭一歩リードしました。
ノギちゃんは名探偵になれる素質充分です。
「夢の国には観覧車がない」は、次点。いやあ、これは現代だからこそ、というか、
こうした小説が平然と書かれることを望みます。
解説でも触れているとおり、「葛城」の性別をわざと伏せているのが秀逸。
伊鳥がこの計画を実行するのにかけた苦労が報われてよかった。
「三月四日、午後二時半の密室」は、同じクラスだけどほとんど接点の無い二人のお話。
一番青春小説らしいですが、隠された謎が私にもわかったので(笑)惜しい。
だけど、素晴らしい高校生活の最後ですね。
「捨て猫と兄妹喧嘩」。個人的に、猫をその場所で共同で世話するのが無しな作品。
猫好きにはちょっと受け付けなかったなあと。
「エピローグ」では各作品に登場した人たちの、その後が描かれ、
基本みんなハッピーエンドなんだけども・・・
問題というか、やはり表題作だけは実は少し異質だろうと思います。
エピローグでも、殺風景と加藤木、両方とも名前を知らないという所で終幕ですが、
この「早朝始発の殺風景」、殺風景は親友の復讐を果たし、それを加藤木が手伝って
いるんですよね(手伝っているのは「エピローグ」で描かれます)。
少し寄り道すると、加藤木がなぜ始発電車に乗っていたのかは、映像部が行おうとしている
違法行為に荷担したくないから、なんですよね。
でも「エピローグ」では、手伝っていることが明確に描かれ、まあクラスメートの事だから
なんでしょうが、そこも大きく異なってるなあと。
他の物語と違い、この話だけは殺風景と加藤木は大丈夫なのか?
という心配をしてしまう&二人はこのまま口を閉ざしたままなのか?という。
やはりこの物語は異質なんですよね。
しかし、この短編集の中から連作短編主人公となれそうなのは、殺風景と加藤木かなあ(笑)
偽悪病患者 [大下宇陀児]
まずはAmazonさんの紹介ページから。
日本探偵小説草創期に活躍、江戸川乱歩や甲賀三郎と並び称された巨匠・大下宇陀児。
その短篇の精髄を全二巻に集成のうえ、二ヶ月連続で刊行する。
本巻では、兄妹による往復書簡の形式で構成された表題作をはじめ、
子供の視点から家庭の悲劇を描いた佳品「毒」、ひねりの利いた骨董奇譚「金色の獏」、
幻想小説としても世評の高い逸品「魔法街」など、戦前に発表された全九篇を収める。
すでに『烙印』も予約ました(笑
初めて読む作家さん、いやいや日本の探偵小説界における巨匠に失礼ですね。
今回復刊するということで、しかも短編集(どうも自分は短編好きです。)ということで、
購入しました。
全てにおいて捻りが効いている作品ばかりで、とても楽しめました。
表題作は往復書簡形式で語られる物語ですが、「偽悪病」とはまず何なのかというところ
からスタートする人も多いのではないでしょうか。
佐治が偽悪なのか、そうではないのか、その心配をする兄と、兄の心配を受け止めつつも、
信じていない妹。果たして佐治の正体は?
書簡で繰り広げられる疑惑や推理、そして事件。
表題作と佐治という人物の掘り下げでをミスリードとし、実に上手い構成です。
この兄、苗字も名前も出てこず、(調査を友人にさせてはいるものの)安楽椅子探偵的な
面もあるなと感じました。
「毒」はとにかく子どもたちによる純粋小説。ハッピーエンドでよかった。
「金色の獏」は騙しの世界。長編にするならば、この「金色の獏」の秘密を探るところですが、
登場する老人や女性、そして古物商、彼らの背景諸々ほとんど明らかにされなくても、
見事に成り立ちます。古物商の苦労は気の毒ですが・・・
「情獄」は、犯人による手紙という体裁をとった、独白小説。
これは潤子があのタイミングで犯行を暴いたのが、なんともいえないですね。
なぜ事件の翌日に気付いたのに、これほど長い時間黙っていたのか。
彼女の心情に謎が残る一編です。
「死の倒影」、これは超意外な「証拠」から自身の犯罪が露見する名作。
本作も書簡ではないですが、犯人の手紙という体裁で、大下さんはこうした形式を
好んだのでしょうかね。
「決闘介添人」、これも意外な結末。
これも「情獄」に構図は似ているのですが、犯罪が暴かれる結末が全く違います。
「二枚のドガの絵」に近い。強烈な一撃です。
「紅座の庖厨」と「魔法街」はSF作品になりますかねえ。
前者は行われていることは、極めて残忍なんだけれども、それを微塵と感じさせない
ところがすごいな。ユーモア的に書かれているのですよね。
登場人物(少なくとも提供を受ける側)は、全くこの行為について残酷であると
思っていないところが、非常に怖いところでもありますね。
後者は、提示された不可思議な謎を、合理的に解き明かす、
というのをぜひ読んで見たかった作品。
最初の怪事件の2つには、探偵役が見事な推理を披露しますが、推理小説としてはここまで。
この先は、まさに不可思議な世界に突き進んでいきます。
「灰人」は、ルルウという犬と、若き刑事の活躍が光ります。
これもハッピーエンド(失明しているので微妙ですが)、ラストはよかった。
残り二編は評論ですが、探偵小説論争、これは一度まとめたものを読んで見たいですね。
日本探偵小説草創期に活躍、江戸川乱歩や甲賀三郎と並び称された巨匠・大下宇陀児。
その短篇の精髄を全二巻に集成のうえ、二ヶ月連続で刊行する。
本巻では、兄妹による往復書簡の形式で構成された表題作をはじめ、
子供の視点から家庭の悲劇を描いた佳品「毒」、ひねりの利いた骨董奇譚「金色の獏」、
幻想小説としても世評の高い逸品「魔法街」など、戦前に発表された全九篇を収める。
すでに『烙印』も予約ました(笑
初めて読む作家さん、いやいや日本の探偵小説界における巨匠に失礼ですね。
今回復刊するということで、しかも短編集(どうも自分は短編好きです。)ということで、
購入しました。
全てにおいて捻りが効いている作品ばかりで、とても楽しめました。
表題作は往復書簡形式で語られる物語ですが、「偽悪病」とはまず何なのかというところ
からスタートする人も多いのではないでしょうか。
佐治が偽悪なのか、そうではないのか、その心配をする兄と、兄の心配を受け止めつつも、
信じていない妹。果たして佐治の正体は?
書簡で繰り広げられる疑惑や推理、そして事件。
表題作と佐治という人物の掘り下げでをミスリードとし、実に上手い構成です。
この兄、苗字も名前も出てこず、(調査を友人にさせてはいるものの)安楽椅子探偵的な
面もあるなと感じました。
「毒」はとにかく子どもたちによる純粋小説。ハッピーエンドでよかった。
「金色の獏」は騙しの世界。長編にするならば、この「金色の獏」の秘密を探るところですが、
登場する老人や女性、そして古物商、彼らの背景諸々ほとんど明らかにされなくても、
見事に成り立ちます。古物商の苦労は気の毒ですが・・・
「情獄」は、犯人による手紙という体裁をとった、独白小説。
これは潤子があのタイミングで犯行を暴いたのが、なんともいえないですね。
なぜ事件の翌日に気付いたのに、これほど長い時間黙っていたのか。
彼女の心情に謎が残る一編です。
「死の倒影」、これは超意外な「証拠」から自身の犯罪が露見する名作。
本作も書簡ではないですが、犯人の手紙という体裁で、大下さんはこうした形式を
好んだのでしょうかね。
「決闘介添人」、これも意外な結末。
これも「情獄」に構図は似ているのですが、犯罪が暴かれる結末が全く違います。
「二枚のドガの絵」に近い。強烈な一撃です。
「紅座の庖厨」と「魔法街」はSF作品になりますかねえ。
前者は行われていることは、極めて残忍なんだけれども、それを微塵と感じさせない
ところがすごいな。ユーモア的に書かれているのですよね。
登場人物(少なくとも提供を受ける側)は、全くこの行為について残酷であると
思っていないところが、非常に怖いところでもありますね。
後者は、提示された不可思議な謎を、合理的に解き明かす、
というのをぜひ読んで見たかった作品。
最初の怪事件の2つには、探偵役が見事な推理を披露しますが、推理小説としてはここまで。
この先は、まさに不可思議な世界に突き進んでいきます。
「灰人」は、ルルウという犬と、若き刑事の活躍が光ります。
これもハッピーエンド(失明しているので微妙ですが)、ラストはよかった。
残り二編は評論ですが、探偵小説論争、これは一度まとめたものを読んで見たいですね。
猫の舌に釘をうて [都筑道夫]
まずはAmazonさんの紹介ページから。
「わたしはこの事件の犯人であり、探偵であり、そして被害者にもなりそうだ。」
一人三役という奇想天外な設定に加え、叶わない愛と明日に希望を持てない主人公の
哀切な心理を描いたセンチメンタリズムな作品。
数ある都筑作品の中でも最重要作に挙げられる傑作長篇、ついに復刊。
これは傑作です。
都筑道夫先生作品はやはり群を抜いて「退職刑事」が好きでしたが、
このような長編、いや有名長編ですが、今回なんと7回目の刊行(復刊)で
初めて手に取ることができましたが、ミステリ作家・都筑道夫ここにあり、という感じ。
まず、紹介文や帯にある「私はこの事件の犯人であり、探偵であり、被害者」というのは、
特に現代では結構よくありそうな、良い意味で売り出しように使う煽り宣伝のよう。
しかし、だいたいそれは期待外れに終わるのです。
ところが、本書はこの一人三役を見事にやってのけます。
かつて辻真先先生が「仮題・中学殺人事件」で犯人は読者という、犯人の意外性という点を
突き詰めた作品がありましたが、本書も犯人の意外性を発揮しつつ、さらに犯人が被害者で
あるという、驚きの捻りを加えています。
また、本書が手記、という体裁を取っているところもポイント。
上記のような、一人三役であること等に触れられていなければ、ミステリ好きならば、
まず手記という体裁に何らかのトリックを予想して、注意してよむでしょう(苦笑)。
ところが、初めから手記の作者が上記のような告白をしているので、叙述トリックなど
考えもせず、本人が記録に残しておく、というのをまるっきり信じて読んでました(笑
ここは実に上手い。
そして、これもですが泡坂妻夫先生が苦心して作った、本そのものへのトリック。
これは本当に泡坂先生以来、初めて見ました。手記の内容だけでなく、手記そのものに
罠を仕掛けるという。このトリックは、束見本に書かれた手記、というのが大きな大前提。
なぜそんなのに手記を書いているのかというのが良く解るトリックです。
そして、本書が『猫の舌に釘をうて』という束見本に手記を書いているというのも
面白く、唐突に登場する「読者への挑戦状」に驚きました。
むろん、これは手記者が書いたものではないのですが、手記にトリックが仕込まれている
ならば、この読者への挑戦状は、もう一人の犯人が記したミスリードなんでしょうか?
それとも実際に解けるのか?ここはわかりませんでした。
とにかく上記のように、二重三重にトリックを仕込んだ本書ですが、一方で、
法月綸太郎先生の解説も必読です。本書を読む前に読んでも良いくらいです。
というのも、解説を読んだ後では、本書の捉え方がまた違ってくるのです。
都筑道夫先生が手がけてきた翻訳作品、学生時代の淡い思い出、自身の葛藤等々・・・
『推理作家の出来るまで』や他エッセイ・評論をも踏まえて、まさに本書を読み解いた
法月解説は、本書のもう一つの傑作だと思います。
タイトルで避けている方、後悔します!
![猫の舌に釘をうて (徳間文庫) [ 都筑道夫 ] 猫の舌に釘をうて (徳間文庫) [ 都筑道夫 ]](https://thumbnail.image.rakuten.co.jp/@0_mall/book/cabinet/7187/9784198947187_1_3.jpg?_ex=128x128)
「わたしはこの事件の犯人であり、探偵であり、そして被害者にもなりそうだ。」
一人三役という奇想天外な設定に加え、叶わない愛と明日に希望を持てない主人公の
哀切な心理を描いたセンチメンタリズムな作品。
数ある都筑作品の中でも最重要作に挙げられる傑作長篇、ついに復刊。
これは傑作です。
都筑道夫先生作品はやはり群を抜いて「退職刑事」が好きでしたが、
このような長編、いや有名長編ですが、今回なんと7回目の刊行(復刊)で
初めて手に取ることができましたが、ミステリ作家・都筑道夫ここにあり、という感じ。
まず、紹介文や帯にある「私はこの事件の犯人であり、探偵であり、被害者」というのは、
特に現代では結構よくありそうな、良い意味で売り出しように使う煽り宣伝のよう。
しかし、だいたいそれは期待外れに終わるのです。
ところが、本書はこの一人三役を見事にやってのけます。
かつて辻真先先生が「仮題・中学殺人事件」で犯人は読者という、犯人の意外性という点を
突き詰めた作品がありましたが、本書も犯人の意外性を発揮しつつ、さらに犯人が被害者で
あるという、驚きの捻りを加えています。
また、本書が手記、という体裁を取っているところもポイント。
上記のような、一人三役であること等に触れられていなければ、ミステリ好きならば、
まず手記という体裁に何らかのトリックを予想して、注意してよむでしょう(苦笑)。
ところが、初めから手記の作者が上記のような告白をしているので、叙述トリックなど
考えもせず、本人が記録に残しておく、というのをまるっきり信じて読んでました(笑
ここは実に上手い。
そして、これもですが泡坂妻夫先生が苦心して作った、本そのものへのトリック。
これは本当に泡坂先生以来、初めて見ました。手記の内容だけでなく、手記そのものに
罠を仕掛けるという。このトリックは、束見本に書かれた手記、というのが大きな大前提。
なぜそんなのに手記を書いているのかというのが良く解るトリックです。
そして、本書が『猫の舌に釘をうて』という束見本に手記を書いているというのも
面白く、唐突に登場する「読者への挑戦状」に驚きました。
むろん、これは手記者が書いたものではないのですが、手記にトリックが仕込まれている
ならば、この読者への挑戦状は、もう一人の犯人が記したミスリードなんでしょうか?
それとも実際に解けるのか?ここはわかりませんでした。
とにかく上記のように、二重三重にトリックを仕込んだ本書ですが、一方で、
法月綸太郎先生の解説も必読です。本書を読む前に読んでも良いくらいです。
というのも、解説を読んだ後では、本書の捉え方がまた違ってくるのです。
都筑道夫先生が手がけてきた翻訳作品、学生時代の淡い思い出、自身の葛藤等々・・・
『推理作家の出来るまで』や他エッセイ・評論をも踏まえて、まさに本書を読み解いた
法月解説は、本書のもう一つの傑作だと思います。
タイトルで避けている方、後悔します!
![猫の舌に釘をうて (徳間文庫) [ 都筑道夫 ] 猫の舌に釘をうて (徳間文庫) [ 都筑道夫 ]](https://thumbnail.image.rakuten.co.jp/@0_mall/book/cabinet/7187/9784198947187_1_3.jpg?_ex=128x128)
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- 価格: 825 円
人間じゃない 〈完全版〉 [綾辻行人]
まずはAmazonさんの紹介ページから。
「あの家のこの部屋は……密室、だったんです」持ち主が悲惨な死を遂げ、
今では廃屋同然の別荘〈星月荘〉。訪れた四人の若者を襲った凄まじい殺人事件の真相は?
表題作「人間じゃない――B〇四号室の患者――」ほか、『人形館の殺人』の後日譚「赤いマント」、
『どんどん橋、落ちた』の番外編「洗礼」など、自作とさまざまにリンクする五編に加えて、
『7人の名探偵』の「仮題・ぬえの密室」を完全収録。
またまた久しぶりの更新です。
このところ、どうも暑さにやられているのか、読書がはかどりません・・・
ぼーっとしているなあ(苦笑)
そして、久しぶりの綾辻行人先生作品。これまでの未収録短編を1冊にまとめたもの。
それに、新本格30周年アンソロジーに書かれた「仮題・ぬえの密室」を収録した作品集。
「ぬえ」の方は、上記『7人の名探偵』で感想を書いたので、ここでは省略。
綾辻先生や新井久幸さんの解説で、大半が語られているのですが、
そこはご寛恕頂き・・・
個人的には「赤いマント」が本作愁眉。というか、綾辻行人作品でこれほど
ストレートなミステリを読んだのは、相当久しぶりに感じました。
しかも、新井さんも書かれているように、フーダニットからホワイダニットの流れが
見事なんです。いやあ、こういう純粋なミステリ短編集を綾辻作品で読みたいなあ。
「洗礼」は、なんというか、少し悲しくなる作品でもあり、綾辻さんなりの追悼作品だなあと。
「仮題・ぬえの密室」の直後に本作が配置されても良かった作品。
表題作「人間じゃない-B〇四号室の患者-」は、これはホラーと捉えるべきなんですよね。
ミステリではない、いやサイコミステリとも言えるかもしれないが。
これを論理的に解決するのは不可能なので。
とはいえ、元はコミック用に準備された話とのことなので、そちらも見てみたいなあ。
新本格は今年35周年?になるんでしょうかね。
綾辻さん、有栖川さんなど第1世代はまだまだご活躍いただきたい。
新作お待ちしております。
「あの家のこの部屋は……密室、だったんです」持ち主が悲惨な死を遂げ、
今では廃屋同然の別荘〈星月荘〉。訪れた四人の若者を襲った凄まじい殺人事件の真相は?
表題作「人間じゃない――B〇四号室の患者――」ほか、『人形館の殺人』の後日譚「赤いマント」、
『どんどん橋、落ちた』の番外編「洗礼」など、自作とさまざまにリンクする五編に加えて、
『7人の名探偵』の「仮題・ぬえの密室」を完全収録。
またまた久しぶりの更新です。
このところ、どうも暑さにやられているのか、読書がはかどりません・・・
ぼーっとしているなあ(苦笑)
そして、久しぶりの綾辻行人先生作品。これまでの未収録短編を1冊にまとめたもの。
それに、新本格30周年アンソロジーに書かれた「仮題・ぬえの密室」を収録した作品集。
「ぬえ」の方は、上記『7人の名探偵』で感想を書いたので、ここでは省略。
綾辻先生や新井久幸さんの解説で、大半が語られているのですが、
そこはご寛恕頂き・・・
個人的には「赤いマント」が本作愁眉。というか、綾辻行人作品でこれほど
ストレートなミステリを読んだのは、相当久しぶりに感じました。
しかも、新井さんも書かれているように、フーダニットからホワイダニットの流れが
見事なんです。いやあ、こういう純粋なミステリ短編集を綾辻作品で読みたいなあ。
「洗礼」は、なんというか、少し悲しくなる作品でもあり、綾辻さんなりの追悼作品だなあと。
「仮題・ぬえの密室」の直後に本作が配置されても良かった作品。
表題作「人間じゃない-B〇四号室の患者-」は、これはホラーと捉えるべきなんですよね。
ミステリではない、いやサイコミステリとも言えるかもしれないが。
これを論理的に解決するのは不可能なので。
とはいえ、元はコミック用に準備された話とのことなので、そちらも見てみたいなあ。
新本格は今年35周年?になるんでしょうかね。
綾辻さん、有栖川さんなど第1世代はまだまだご活躍いただきたい。
新作お待ちしております。
平成古書奇談 [ミステリ]
まずはAmazonさんの紹介ページから。
初書籍化となる鬼才・横田順彌による古書ミステリ。主人公の馬場浩一が
馴染みの古書店で出会う古書をきっかけに本にまつわる謎に巻き込まれる。
フリーライターをしながら作家を志す25歳の馬場浩一は、街の古書店、野沢書店に出入りしている。店主の野沢勝利と娘の玲子と懇意にしながら、趣味や仕事、執筆の資料として出会う古書を通じて
不思議な事件や謎にぶつかる。古書マニアの著者が知る業界の事情を巧みに盛り込み、
SF、ホラー、ファンタジーを横断する連作集。平成の隠れた古書ミステリが初書籍化。
日下三蔵氏による編者解説も併録。
SFと古書に人生を捧げた著書によるSF、ホラー、ファンタジー、青春を
横断する職人芸ともいうべき傑作を発掘!!!
SF界の異端児が残した古書ミステリ、初の書籍化
作家は肉体が滅んでも、作品が読まれ続ける限り、
世の中から消えることはない 編者 日下三蔵
久しぶりの更新です。そして初めての作家さんです。
解説に惹かれて購入しました。
これは面白かった。カテゴリをミステリにしてますが、解説にあるとおり、
内容的にはそれだけに留まらず!
主人公・馬場浩一、作家志望のフリーライター、野沢書店の店主・野沢勝利とその娘・玲子。
この3人がどちらかというと狂言回しになり、それぞれの古本にまつわる
奇談が語られていく物語です。
以下、ネタバレあり。
本シリーズが執筆されたのが、2000年代初頭、その頃の古本屋業界や
社会風俗も描かれており、その点も興味深く。
しかし、古本屋業界は、この頃よりさらに厳しくなってますよね。
私もむかーしは古書店を歩いたりしましたが、日本の古本屋での購入が増え、
昨今は書店にすら出向かないようになりました。
古本屋・本屋に行けば、目当てでない本にも巡り会うことができて、
楽しいんですけどね。効率重視になってしまいました。
閑話休題。
本書は最終回含め全9話構成。
「第一話 あやめ日記」から、すでにSF全開です。
ひょっとしたら、野沢玲子には腹違いの兄妹が居るかもしれない、というとんでもない
事が明らかになりそうでいて、かつ、なぜか日記が更新されていく。
後者は恐怖でした。ホラーに近いと感じました。
本来ならば、この話を広げていくため調査していくのですが、主人公たち3人は
調査せず、読了となります。
この終わり方がまた良いのですけどね。調べて果たして良い方向になるのだろうかという
野沢店主の考えもあろうとは思いますが、作風でもあるのでしょうか。
「第二話 総長の伝記」、これは唯一と言って良いくらい解決編まで執筆されてます。
いや、もっともその解決編が真実なのかどうか、それも疑わしい終わり方で締めくくられて
いるのがまた素晴らしいのですが。
「第三話 挟まれた写真」はホラーミステリでしょうか。全編含めて、
本話は一番謎だらけのお話になっています。
なぜ悪夢を見るのか、挟まれた写真は一体何なのか、写真を取りに来た老婦人は
誰なのか・・・全てが不明のまま終幕します。
「第四話 サングラスの男」、これはある意味どんでん返し作品ですね。
透視や超能力に関する古本やその歴史が語られ、そのマニア、いや研究している方から
本を売りたいとの連絡が来て・・・標題が全てを物語っていますね。
「第五話 おふくろの味」、これもホラーですが、グロさでは本書一番ですが、
同情してしまう面もあるなあ・・・
結局、神崎の恋人の母親の要求は単に別れさせるためなのか、本当に求める「おふくろの味」
があるのかわからずじまい。個人的には前者のような気がしましたが。
「第六話 老登山家の蔵書」、登山家が蔵書を整理したいと申し出たことから、
引き受けにいく野沢と(アルバイト的立場の)馬場。
ところが、その後で「妻」からの意見でいくつかの古書は売れなくなったと
申し出があり・・・その本の全て「雪女」や幻想小説だったという。
これもホラーですね。付き合いが長いのに、一度も奥さんの顔を見たことがない野沢店主。
ある意味一番的を得た推理をする娘の玲子。
真相はそのさらに先をいくものなのかもしれません。
「第七話 消えた『霧隠才蔵』」。これが一番古書店らしいミステリかと思います。
消えた古書のタイトルもまた良いじゃないですか。確かに消えそうと言う(笑
野沢店主の隠された力(?)が充分に発揮された1作。
「第八話 ふたつの不運」。落としてしまった本を、全く違う路線なのに、
玲子が拾う。そんな偶然あるのだろうか?また馬場の書いた作品が戦争賛歌と取られ
落ち込み・・・、本作は、運不運について書いた1作。一方で野沢家と馬場の親密さが
さらに増す作品でもあります。
「最終回 大逆転!!」。ここで言う大逆転とは、馬場が売れっ子作家になったとか、
そういう意味ではありません。物語が反転するというか、まあこれまでの話が
実は作中作品であり、本作を出版社に持参し、掲載が決定するということが
最後に書かれています。
これを書いたのが果たして馬場なのか。そしてこれまで書かれていた事柄は
全てフィクションなのか、脚色なのか、その辺りの謎も残して読了です。
1話が手軽に読め、それでいて面白い。よい作品でした。
初書籍化となる鬼才・横田順彌による古書ミステリ。主人公の馬場浩一が
馴染みの古書店で出会う古書をきっかけに本にまつわる謎に巻き込まれる。
フリーライターをしながら作家を志す25歳の馬場浩一は、街の古書店、野沢書店に出入りしている。店主の野沢勝利と娘の玲子と懇意にしながら、趣味や仕事、執筆の資料として出会う古書を通じて
不思議な事件や謎にぶつかる。古書マニアの著者が知る業界の事情を巧みに盛り込み、
SF、ホラー、ファンタジーを横断する連作集。平成の隠れた古書ミステリが初書籍化。
日下三蔵氏による編者解説も併録。
SFと古書に人生を捧げた著書によるSF、ホラー、ファンタジー、青春を
横断する職人芸ともいうべき傑作を発掘!!!
SF界の異端児が残した古書ミステリ、初の書籍化
作家は肉体が滅んでも、作品が読まれ続ける限り、
世の中から消えることはない 編者 日下三蔵
久しぶりの更新です。そして初めての作家さんです。
解説に惹かれて購入しました。
これは面白かった。カテゴリをミステリにしてますが、解説にあるとおり、
内容的にはそれだけに留まらず!
主人公・馬場浩一、作家志望のフリーライター、野沢書店の店主・野沢勝利とその娘・玲子。
この3人がどちらかというと狂言回しになり、それぞれの古本にまつわる
奇談が語られていく物語です。
以下、ネタバレあり。
本シリーズが執筆されたのが、2000年代初頭、その頃の古本屋業界や
社会風俗も描かれており、その点も興味深く。
しかし、古本屋業界は、この頃よりさらに厳しくなってますよね。
私もむかーしは古書店を歩いたりしましたが、日本の古本屋での購入が増え、
昨今は書店にすら出向かないようになりました。
古本屋・本屋に行けば、目当てでない本にも巡り会うことができて、
楽しいんですけどね。効率重視になってしまいました。
閑話休題。
本書は最終回含め全9話構成。
「第一話 あやめ日記」から、すでにSF全開です。
ひょっとしたら、野沢玲子には腹違いの兄妹が居るかもしれない、というとんでもない
事が明らかになりそうでいて、かつ、なぜか日記が更新されていく。
後者は恐怖でした。ホラーに近いと感じました。
本来ならば、この話を広げていくため調査していくのですが、主人公たち3人は
調査せず、読了となります。
この終わり方がまた良いのですけどね。調べて果たして良い方向になるのだろうかという
野沢店主の考えもあろうとは思いますが、作風でもあるのでしょうか。
「第二話 総長の伝記」、これは唯一と言って良いくらい解決編まで執筆されてます。
いや、もっともその解決編が真実なのかどうか、それも疑わしい終わり方で締めくくられて
いるのがまた素晴らしいのですが。
「第三話 挟まれた写真」はホラーミステリでしょうか。全編含めて、
本話は一番謎だらけのお話になっています。
なぜ悪夢を見るのか、挟まれた写真は一体何なのか、写真を取りに来た老婦人は
誰なのか・・・全てが不明のまま終幕します。
「第四話 サングラスの男」、これはある意味どんでん返し作品ですね。
透視や超能力に関する古本やその歴史が語られ、そのマニア、いや研究している方から
本を売りたいとの連絡が来て・・・標題が全てを物語っていますね。
「第五話 おふくろの味」、これもホラーですが、グロさでは本書一番ですが、
同情してしまう面もあるなあ・・・
結局、神崎の恋人の母親の要求は単に別れさせるためなのか、本当に求める「おふくろの味」
があるのかわからずじまい。個人的には前者のような気がしましたが。
「第六話 老登山家の蔵書」、登山家が蔵書を整理したいと申し出たことから、
引き受けにいく野沢と(アルバイト的立場の)馬場。
ところが、その後で「妻」からの意見でいくつかの古書は売れなくなったと
申し出があり・・・その本の全て「雪女」や幻想小説だったという。
これもホラーですね。付き合いが長いのに、一度も奥さんの顔を見たことがない野沢店主。
ある意味一番的を得た推理をする娘の玲子。
真相はそのさらに先をいくものなのかもしれません。
「第七話 消えた『霧隠才蔵』」。これが一番古書店らしいミステリかと思います。
消えた古書のタイトルもまた良いじゃないですか。確かに消えそうと言う(笑
野沢店主の隠された力(?)が充分に発揮された1作。
「第八話 ふたつの不運」。落としてしまった本を、全く違う路線なのに、
玲子が拾う。そんな偶然あるのだろうか?また馬場の書いた作品が戦争賛歌と取られ
落ち込み・・・、本作は、運不運について書いた1作。一方で野沢家と馬場の親密さが
さらに増す作品でもあります。
「最終回 大逆転!!」。ここで言う大逆転とは、馬場が売れっ子作家になったとか、
そういう意味ではありません。物語が反転するというか、まあこれまでの話が
実は作中作品であり、本作を出版社に持参し、掲載が決定するということが
最後に書かれています。
これを書いたのが果たして馬場なのか。そしてこれまで書かれていた事柄は
全てフィクションなのか、脚色なのか、その辺りの謎も残して読了です。
1話が手軽に読め、それでいて面白い。よい作品でした。
三世代探偵団 枯れた花のワルツ [赤川次郎]
まずはAmazonさんの紹介ページから。
天才画家の祖母、生活力皆無な母と暮らす女子高生の有里。祖母が壁画を手がけた病院で、
有里は大女優・沢柳布子に出会う。彼女の映画撮影に関わるうち、3人はまたもや事件に
巻き込まれ――。ユーモアミステリ第二弾。
2作同時刊行されたのに、2作目が遅くなってしまいました。
前作は有里、幸代、文乃のキャラクター確認がメインで、かつそれなりに深刻な事件も発生。
しかし、本作はもちろん殺人事件が起こり、深刻な事件も起こります。
ただ、それ以上に、有里と幸代の活躍とキャラの確立が目立った作品だなと思いました。
また有里と、そして有里自体もどういう思いなのかよくわからない村上刑事のファンクラブ
が設立されます(笑)。当の村上刑事はまるで気付いていませんが、好意を寄せてくる女性
が幾人も・・・なんてうらやましいんだ。
有里は、なんとなくその女性たちにムッとするものの、彼女にもボーイフレンドが
ついに登場します。
かつての大女優・沢柳布子が、再び主役を務める「影の円舞曲」の撮影過程で起こる
それぞれの事件。天本幸代は布子の側に付き、彼女に降りかかる災いを見事に守って
いきます。今回、絵を描いているシーンはほとんどなかった(おそらく)のですが、
最後にある人物を描いた絵が登場するので、どっかで書いてたのかなあ。
しかし、前作と同じく、画家としてではなく、彼女の鋭い洞察力は本作では
さらに磨きがかかっています。
一方、三世代探偵団と銘打っているのですが、文乃はどこか仲間ハズレ感が
本作では強かったですねえ。
ある人物(しかも妻子持ち!)に恋してしまう場面があるのですが、出番は
ある意味そこだけ。
彼女がメインを張る作品は、今後登場すると期待したいですね。
ところで本作はしっかり時系列が描かれていて、次々作は「影の演舞曲」プレミア上映が
舞台とのこと。
赤川作品で時間が過ぎていくのは、中々珍しく(杉原爽香シリーズは別)
シリーズとしてどこまで描いていくのかも気になりますね。
天才画家の祖母、生活力皆無な母と暮らす女子高生の有里。祖母が壁画を手がけた病院で、
有里は大女優・沢柳布子に出会う。彼女の映画撮影に関わるうち、3人はまたもや事件に
巻き込まれ――。ユーモアミステリ第二弾。
2作同時刊行されたのに、2作目が遅くなってしまいました。
前作は有里、幸代、文乃のキャラクター確認がメインで、かつそれなりに深刻な事件も発生。
しかし、本作はもちろん殺人事件が起こり、深刻な事件も起こります。
ただ、それ以上に、有里と幸代の活躍とキャラの確立が目立った作品だなと思いました。
また有里と、そして有里自体もどういう思いなのかよくわからない村上刑事のファンクラブ
が設立されます(笑)。当の村上刑事はまるで気付いていませんが、好意を寄せてくる女性
が幾人も・・・なんてうらやましいんだ。
有里は、なんとなくその女性たちにムッとするものの、彼女にもボーイフレンドが
ついに登場します。
かつての大女優・沢柳布子が、再び主役を務める「影の円舞曲」の撮影過程で起こる
それぞれの事件。天本幸代は布子の側に付き、彼女に降りかかる災いを見事に守って
いきます。今回、絵を描いているシーンはほとんどなかった(おそらく)のですが、
最後にある人物を描いた絵が登場するので、どっかで書いてたのかなあ。
しかし、前作と同じく、画家としてではなく、彼女の鋭い洞察力は本作では
さらに磨きがかかっています。
一方、三世代探偵団と銘打っているのですが、文乃はどこか仲間ハズレ感が
本作では強かったですねえ。
ある人物(しかも妻子持ち!)に恋してしまう場面があるのですが、出番は
ある意味そこだけ。
彼女がメインを張る作品は、今後登場すると期待したいですね。
ところで本作はしっかり時系列が描かれていて、次々作は「影の演舞曲」プレミア上映が
舞台とのこと。
赤川作品で時間が過ぎていくのは、中々珍しく(杉原爽香シリーズは別)
シリーズとしてどこまで描いていくのかも気になりますね。
ドアを開けたら [大崎梢]
まずはAmazonさんの紹介ページから。
マンションで発見した独居老人の死の謎に
中年男と高校生のコンビが挑む、心温まるミステリー。
鶴川佑作は動揺を隠せなかった。引っ越しの準備をする佑作がマンションの同じ階に暮らす串本を訪ねると、彼はこと切れていたのだ。来客対応中だったらしい。老齢ながら彼は友人だった。通報もせず逃げ出す佑作。だが、その様子を高校生の佐々木紘人に撮影され、部屋に戻れと脅迫される。翌朝、動画の消去を条件に佑作は紘人と再訪するが――今度は遺体が消えていた!
鶴川さんと佐々木くんの出会い方はなんとも不穏ですし、さらに死体が消える、
さらには怪しげな宗教団体まで登場、そして串本の隠された本性まで明らかに?!
この二人の間、打ち解けてからの関係は何とも表現しがたいのですが、
二人で謎を解いていきつつ、二人それぞれの生き方までが変化していきます。
一方、最初から終盤までは上記書いたさらに深い謎にいくかと思いきや・・・
謎そのものと、串本さんの悲しい過去はあるのですが、
串本さんが果たせなかった事を、鶴川&佐々木コンビが見事に引き継いで、
ラストも素晴らしい終わり方です。
このラストまでの道程こそ、本書タイトルの示したかったものなのでしょう。
コロナ禍だからこそ、こうしたミステリーで心を和ませたいものです。
![ドアを開けたら (祥伝社文庫) [ 大崎梢 ] ドアを開けたら (祥伝社文庫) [ 大崎梢 ]](https://thumbnail.image.rakuten.co.jp/@0_mall/book/cabinet/8007/9784396348007_1_4.jpg?_ex=128x128)
マンションで発見した独居老人の死の謎に
中年男と高校生のコンビが挑む、心温まるミステリー。
鶴川佑作は動揺を隠せなかった。引っ越しの準備をする佑作がマンションの同じ階に暮らす串本を訪ねると、彼はこと切れていたのだ。来客対応中だったらしい。老齢ながら彼は友人だった。通報もせず逃げ出す佑作。だが、その様子を高校生の佐々木紘人に撮影され、部屋に戻れと脅迫される。翌朝、動画の消去を条件に佑作は紘人と再訪するが――今度は遺体が消えていた!
鶴川さんと佐々木くんの出会い方はなんとも不穏ですし、さらに死体が消える、
さらには怪しげな宗教団体まで登場、そして串本の隠された本性まで明らかに?!
この二人の間、打ち解けてからの関係は何とも表現しがたいのですが、
二人で謎を解いていきつつ、二人それぞれの生き方までが変化していきます。
一方、最初から終盤までは上記書いたさらに深い謎にいくかと思いきや・・・
謎そのものと、串本さんの悲しい過去はあるのですが、
串本さんが果たせなかった事を、鶴川&佐々木コンビが見事に引き継いで、
ラストも素晴らしい終わり方です。
このラストまでの道程こそ、本書タイトルの示したかったものなのでしょう。
コロナ禍だからこそ、こうしたミステリーで心を和ませたいものです。
![ドアを開けたら (祥伝社文庫) [ 大崎梢 ] ドアを開けたら (祥伝社文庫) [ 大崎梢 ]](https://thumbnail.image.rakuten.co.jp/@0_mall/book/cabinet/8007/9784396348007_1_4.jpg?_ex=128x128)
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- 価格: 836 円
アロワナを愛した容疑者 警視庁いきもの係 [大倉崇裕]
まずはAmazonさんの紹介ページから。
有力政治家の三男が殺害された。現場で飼われていたアロワナは、
十年前にシンガポールの実業家のもとから盗まれた個体だと判明。
窓際警部補・須藤友三、生き物オタクの巡査・薄圭子のコンビは、
密輸ブローカーに焦点を絞り調査を開始する。タカやランが関わる事件も同時収録。
痛快アニマル・ミステリー!
本作はこれまでのいきもの係とは少し趣向が異なり、
今のところの文庫唯一の長編『蜂に惹かれた容疑者』に登場した、
新興宗教団体『ギヤマンの鐘』といきもの係との壮絶なる戦いが繰り広げられます。
しかも、それだけに留まらず、これまたこれまでにない趣向、
つまり「タカを愛した容疑者」では、なんと薄巡査が容疑者扱いに!
さらに初めて植物が登場する「ランを愛した容疑者」。いきもの係は、
正式には<動植物管理係>、そう、植物の世話もするのです!
いくつかの変化球を織り交ぜつつ、さらには大倉先生の別シリーズから、
福家警部補まで登場するという、豪華な内容になっています。
最初の「タカを愛した容疑者」。久しぶりに読んだからなのか、薄巡査の
とめどないボケについて行けませんでした(苦笑)。
それくらいわかるだろ!と怒髪天になりそうでした。
しかし、本作の中でこの作品は、いわば「顔のない死体」という、ミステリのある種の作法を
実に上手く使っているところが秀逸。所収作の中では、個人的にはミステリとしての
完成度は一番高いと思います。
表題作は、薄巡査がスーパー警察官であるということが明らかになるという(笑
福家警部補も以前のブログで書きましたが、スーパーウーマン化していくようで、
どうもそこまでしなくてもなあというのが、私の中にはあります。
ところで、解説でも書かれていますが、表題作の続編的位置づけになる作品は、
福家警部補シリーズで描かれているとのこと。いやこれを読むのは相当先になりそうだ。
しかも、「ギヤマンの鐘」は<問題物件>シリーズにも登場するということで、
いやいやこれまた困ったなと。読むシリーズが増えてしまう・・・
有力政治家の三男が殺害された。現場で飼われていたアロワナは、
十年前にシンガポールの実業家のもとから盗まれた個体だと判明。
窓際警部補・須藤友三、生き物オタクの巡査・薄圭子のコンビは、
密輸ブローカーに焦点を絞り調査を開始する。タカやランが関わる事件も同時収録。
痛快アニマル・ミステリー!
本作はこれまでのいきもの係とは少し趣向が異なり、
今のところの文庫唯一の長編『蜂に惹かれた容疑者』に登場した、
新興宗教団体『ギヤマンの鐘』といきもの係との壮絶なる戦いが繰り広げられます。
しかも、それだけに留まらず、これまたこれまでにない趣向、
つまり「タカを愛した容疑者」では、なんと薄巡査が容疑者扱いに!
さらに初めて植物が登場する「ランを愛した容疑者」。いきもの係は、
正式には<動植物管理係>、そう、植物の世話もするのです!
いくつかの変化球を織り交ぜつつ、さらには大倉先生の別シリーズから、
福家警部補まで登場するという、豪華な内容になっています。
最初の「タカを愛した容疑者」。久しぶりに読んだからなのか、薄巡査の
とめどないボケについて行けませんでした(苦笑)。
それくらいわかるだろ!と怒髪天になりそうでした。
しかし、本作の中でこの作品は、いわば「顔のない死体」という、ミステリのある種の作法を
実に上手く使っているところが秀逸。所収作の中では、個人的にはミステリとしての
完成度は一番高いと思います。
表題作は、薄巡査がスーパー警察官であるということが明らかになるという(笑
福家警部補も以前のブログで書きましたが、スーパーウーマン化していくようで、
どうもそこまでしなくてもなあというのが、私の中にはあります。
ところで、解説でも書かれていますが、表題作の続編的位置づけになる作品は、
福家警部補シリーズで描かれているとのこと。いやこれを読むのは相当先になりそうだ。
しかも、「ギヤマンの鐘」は<問題物件>シリーズにも登場するということで、
いやいやこれまた困ったなと。読むシリーズが増えてしまう・・・
花嫁は三度ベルを鳴らす [赤川次郎]
まずはAmazonさんの紹介ページから。
実業家の片瀬は、妻の靖代とその妹の早紀と東欧を旅していた。
途中、靖代が体調を崩して亡くなってしまう。
異国だったが仕方なく現地に埋葬するが、
そこには、棺の中から鳴らせるように墓標の十字架にベルを取り付ける奇妙な風習があった。
鳴るはずのないベルが鳴り響くとき女子大生・亜由美は事件に巻き込まれていく!
人気シリーズ第33弾。
赤川次郎先生作品が続きました。
花嫁シリーズも長い!33作目とは。
現在は35作目(『花嫁、街道を行く』)まで刊行されています。
通常と変わらず、本書にも2作が収録。
表題作は後回しにして、まずは「花嫁は滝にのぼる」から。
近年の赤川作品だなあというのが感想。
大きな権力に立ち向かっていく、それを亜由美とドン・ファンらが助けるという。
それと本作での花嫁は誰なのかなあと。
宇佐見しのぶ?これは騙しのためだから、実際はせずで、やはり高野良子ですかね。
さて表題作ですが、久しぶりに谷川准教授が登場します。
本作、かなり楽しめます。
亜由美一行はいきなりルーマニアへ行きますし、母である清美も大活躍します。
黒幕自体はすぐわかるのですが、亜由美たちをルーマニアまで行かせた人物は
一体誰なのか?谷川というのが仄めかされ、さらに諸岡早紀のことを
「ずっと前から好きだった」という衝撃の証言まで・・・
いやいや亜由美にとっては、重大なる謎が残りましたね。
これ、次作以降で描かれるのでしょうか?気になります。
それにしても、赤川先生作品は、ページをめくる手を止めさせないなあ。
ちなみに、多くの赤川作品を読んできましたが、実は双葉文庫刊行作品には
手を出していないのです(笑
あれも多いんですよねえ。あれに手を出すと、相当数読むものが増えてくる。
さてどうしたものか。
実業家の片瀬は、妻の靖代とその妹の早紀と東欧を旅していた。
途中、靖代が体調を崩して亡くなってしまう。
異国だったが仕方なく現地に埋葬するが、
そこには、棺の中から鳴らせるように墓標の十字架にベルを取り付ける奇妙な風習があった。
鳴るはずのないベルが鳴り響くとき女子大生・亜由美は事件に巻き込まれていく!
人気シリーズ第33弾。
赤川次郎先生作品が続きました。
花嫁シリーズも長い!33作目とは。
現在は35作目(『花嫁、街道を行く』)まで刊行されています。
通常と変わらず、本書にも2作が収録。
表題作は後回しにして、まずは「花嫁は滝にのぼる」から。
近年の赤川作品だなあというのが感想。
大きな権力に立ち向かっていく、それを亜由美とドン・ファンらが助けるという。
それと本作での花嫁は誰なのかなあと。
宇佐見しのぶ?これは騙しのためだから、実際はせずで、やはり高野良子ですかね。
さて表題作ですが、久しぶりに谷川准教授が登場します。
本作、かなり楽しめます。
亜由美一行はいきなりルーマニアへ行きますし、母である清美も大活躍します。
黒幕自体はすぐわかるのですが、亜由美たちをルーマニアまで行かせた人物は
一体誰なのか?谷川というのが仄めかされ、さらに諸岡早紀のことを
「ずっと前から好きだった」という衝撃の証言まで・・・
いやいや亜由美にとっては、重大なる謎が残りましたね。
これ、次作以降で描かれるのでしょうか?気になります。
それにしても、赤川先生作品は、ページをめくる手を止めさせないなあ。
ちなみに、多くの赤川作品を読んできましたが、実は双葉文庫刊行作品には
手を出していないのです(笑
あれも多いんですよねえ。あれに手を出すと、相当数読むものが増えてくる。
さてどうしたものか。
渡辺宙明先生、ありがとうございました [アニメ]
先ほど、作曲家の渡辺宙明先生の訃報を知りました。
私にとっては、なんといっても宇宙刑事シリーズ。
「チェイス!ギャバン」のあの素晴らしい入りは忘れられません。
ゲームで「スーパーロボット大戦」をプレイし始め、
大半の曲が先生作曲ということを知り、驚きました。
「マジンカイザー」は今でもあのオリジナル版が一番だと思っています。
アニメ・特撮界において、偉大なる金字塔を打ち立てた、
いやそんな表現では済まない、本当に素晴らしい音楽を我々に届けてくださいました。
ご冥福をお祈りします。



私にとっては、なんといっても宇宙刑事シリーズ。
「チェイス!ギャバン」のあの素晴らしい入りは忘れられません。
ゲームで「スーパーロボット大戦」をプレイし始め、
大半の曲が先生作曲ということを知り、驚きました。
「マジンカイザー」は今でもあのオリジナル版が一番だと思っています。
アニメ・特撮界において、偉大なる金字塔を打ち立てた、
いやそんな表現では済まない、本当に素晴らしい音楽を我々に届けてくださいました。
ご冥福をお祈りします。

宇宙刑事シリーズ ソングコレクション~FOR NEXT GENERATION~
- アーティスト: V.A.
- 出版社/メーカー: 日本コロムビア
- 発売日: 2014/10/22
- メディア: CD

渡辺宙明コレクション CHUMEI RARE TREASURES 1957-2015
- アーティスト: 渡辺宙明
- 出版社/メーカー: SOUNDTRACK PUB
- 発売日: 2015/12/25
- メディア: CD

スーパー戦隊+宇宙刑事 渡辺宙明 ベスト ミュージックファイル
- アーティスト: 渡辺宙明
- 出版社/メーカー: 日本コロムビア
- 発売日: 2012/02/22
- メディア: CD
名探偵はひとりぼっち [赤川次郎]
まずはAmazonさんの紹介ページから。
「彼女が不治の病であと半年の命なんだ」。高校一年の酒井健一が見栄を張ってついた噓は、
クラスメイトから同情され、ついにはカンパ金まで渡されることに。
架空の彼女と待ち合わせた上野駅へ向かった健一だが、そこに、いるはずもない恋人が現れた!?
さらに健一をコインロッカーへ促した彼女は「逃げようなんて思わないで」と拳銃を突き付けてきた!
同い年コンビが事件に挑む青春ミステリ。
こんな中短編集があったとはなあ。知りませんでした・・・
元々は角川文庫からだったみたいなので、あの青表紙の時に出てたのだろうか。
表題作は、なんというか嘘から出た実に近い話なのですが、主人公の酒井健一が
あまりに面白すぎる。途中出てくるヤクザの白井も中々良いキャラしていて、いいですね。
偽札をめぐる抗争に巻き込まれた健一。しかし倉原みどりという拳銃をぶっ放す同級生とも
知り合い、さらに殴り込みにまで連れていかれる始末という、まさに踏んだり蹴ったり
なのですが、みどりが可愛いからなのか、彼の正義感、いや名探偵としての気概でもあるのか、
自ら進んで危険な道に入ります。
赤川作品だと、この場合の主人公は女性で、それに倉原みどり、というのが
想像できますが、男性は珍しいですね。
最後はものすごくあっさり終わるのですが、ちょっと健一にとっては切なすぎるかなあと。
表題作が実は名探偵と入っているのにはかなり違和感がありました。
内容がヤクザの抗争ですからね。謎を解く、とかそういう話でもないし、
そもそも酒井健一はそこまで頭が良いとは思えない(笑)
一方で、短編である「学生時代」の和也は、名探偵なんですよねえ。
この話、トリックというか、仕組みは良く出来ていて、教員による覗きという、
今現在も問題になっている、教員の性犯罪を取り上げていて、決して古いと思えないです。
ラスト、タイトルと上手くリンクさせるのですが、こちらもあっさりした終わり方です。
和也と勇樹、ほとんどプライベートも高校すら書かれないのですが、この2人で
シリーズ化しても良かったのではないか。
「ぼくと私とあなたと君と」。こちらも高校生が主人公ですが、殺人事件が起こります。
これもあっさりです。女装がよくばれなかったなあという感想(笑)
「彼女が不治の病であと半年の命なんだ」。高校一年の酒井健一が見栄を張ってついた噓は、
クラスメイトから同情され、ついにはカンパ金まで渡されることに。
架空の彼女と待ち合わせた上野駅へ向かった健一だが、そこに、いるはずもない恋人が現れた!?
さらに健一をコインロッカーへ促した彼女は「逃げようなんて思わないで」と拳銃を突き付けてきた!
同い年コンビが事件に挑む青春ミステリ。
こんな中短編集があったとはなあ。知りませんでした・・・
元々は角川文庫からだったみたいなので、あの青表紙の時に出てたのだろうか。
表題作は、なんというか嘘から出た実に近い話なのですが、主人公の酒井健一が
あまりに面白すぎる。途中出てくるヤクザの白井も中々良いキャラしていて、いいですね。
偽札をめぐる抗争に巻き込まれた健一。しかし倉原みどりという拳銃をぶっ放す同級生とも
知り合い、さらに殴り込みにまで連れていかれる始末という、まさに踏んだり蹴ったり
なのですが、みどりが可愛いからなのか、彼の正義感、いや名探偵としての気概でもあるのか、
自ら進んで危険な道に入ります。
赤川作品だと、この場合の主人公は女性で、それに倉原みどり、というのが
想像できますが、男性は珍しいですね。
最後はものすごくあっさり終わるのですが、ちょっと健一にとっては切なすぎるかなあと。
表題作が実は名探偵と入っているのにはかなり違和感がありました。
内容がヤクザの抗争ですからね。謎を解く、とかそういう話でもないし、
そもそも酒井健一はそこまで頭が良いとは思えない(笑)
一方で、短編である「学生時代」の和也は、名探偵なんですよねえ。
この話、トリックというか、仕組みは良く出来ていて、教員による覗きという、
今現在も問題になっている、教員の性犯罪を取り上げていて、決して古いと思えないです。
ラスト、タイトルと上手くリンクさせるのですが、こちらもあっさりした終わり方です。
和也と勇樹、ほとんどプライベートも高校すら書かれないのですが、この2人で
シリーズ化しても良かったのではないか。
「ぼくと私とあなたと君と」。こちらも高校生が主人公ですが、殺人事件が起こります。
これもあっさりです。女装がよくばれなかったなあという感想(笑)
僕らの課外授業 [赤川次郎]
まずはAmazonさんの紹介ページから。
中学3年生といえば、何にでも興味があり、何でもやりたいし、
早く大人にもなりたい本当に難しい年頃だ。大和田倫子はその問題の中学3年生。
厳格な家庭に育った彼女は、両親への反発から、酒に溺れ、男に夢中になり、
あげくのはてオートバイで自殺した。だが一ヶ月後、東京駅に彼女の幽霊が……。
自称“世が世ならお姫様”の容子と女性にはめっぽう甘い友也の中3コンビが、
醜い大人達の悪事に挑戦状をたたきつけた!! ユーモア・ミステリーの傑作。
他にオリジナル3作品収録。
Amazonさんには徳間文庫版がないので、角川文庫版の解説となります。
私自身は、角川文庫版を遙か昔に購入し、一度読んでいるのですが、
徳間文庫で復刊したので、改めて購入しました。
表題作は、やはり今読んでもかなりおもしろい。ジュブナイル小説として
青い鳥文庫あたりから刊行しても良いくらいです。
死んだはずの人間、東京駅の謎。殺人事件・・・とにかくワクワクドキドキ感満載です。
大友克洋先生の『SOS東京大探検隊』も思い出します。
あちらは確か丸の内駅でしたが、まあほぼ近距離ですね。
「何でも屋は大忙し」と「夢の行列」は、悲しい結末です。
特に前者は主人公(勢)が愉快な仲間達的なところがあるので、余計に
この結末は悲しいものがあります。
後者は最後に若い2人の新たな恋?が始まりそうで、まだ救いがありますが。
「ラブ・バード・ウォッチング」は鳥を見るつもりが、ついつい他人の家をみて
しまったことから始まる物語。こういうのは男性が女性の部屋という設定かと
思いきや、そこは赤川先生。逆パターンです。
最近更新が滞りがちですが、またぼちぼちあげていこうと思います。
![僕らの課外授業 (徳間文庫) [ 赤川次郎 ] 僕らの課外授業 (徳間文庫) [ 赤川次郎 ]](https://thumbnail.image.rakuten.co.jp/@0_mall/book/cabinet/6371/9784198946371.jpg?_ex=128x128)
中学3年生といえば、何にでも興味があり、何でもやりたいし、
早く大人にもなりたい本当に難しい年頃だ。大和田倫子はその問題の中学3年生。
厳格な家庭に育った彼女は、両親への反発から、酒に溺れ、男に夢中になり、
あげくのはてオートバイで自殺した。だが一ヶ月後、東京駅に彼女の幽霊が……。
自称“世が世ならお姫様”の容子と女性にはめっぽう甘い友也の中3コンビが、
醜い大人達の悪事に挑戦状をたたきつけた!! ユーモア・ミステリーの傑作。
他にオリジナル3作品収録。
Amazonさんには徳間文庫版がないので、角川文庫版の解説となります。
私自身は、角川文庫版を遙か昔に購入し、一度読んでいるのですが、
徳間文庫で復刊したので、改めて購入しました。
表題作は、やはり今読んでもかなりおもしろい。ジュブナイル小説として
青い鳥文庫あたりから刊行しても良いくらいです。
死んだはずの人間、東京駅の謎。殺人事件・・・とにかくワクワクドキドキ感満載です。
大友克洋先生の『SOS東京大探検隊』も思い出します。
あちらは確か丸の内駅でしたが、まあほぼ近距離ですね。
「何でも屋は大忙し」と「夢の行列」は、悲しい結末です。
特に前者は主人公(勢)が愉快な仲間達的なところがあるので、余計に
この結末は悲しいものがあります。
後者は最後に若い2人の新たな恋?が始まりそうで、まだ救いがありますが。
「ラブ・バード・ウォッチング」は鳥を見るつもりが、ついつい他人の家をみて
しまったことから始まる物語。こういうのは男性が女性の部屋という設定かと
思いきや、そこは赤川先生。逆パターンです。
最近更新が滞りがちですが、またぼちぼちあげていこうと思います。
![僕らの課外授業 (徳間文庫) [ 赤川次郎 ] 僕らの課外授業 (徳間文庫) [ 赤川次郎 ]](https://thumbnail.image.rakuten.co.jp/@0_mall/book/cabinet/6371/9784198946371.jpg?_ex=128x128)
- ショップ: 楽天ブックス
- 価格: 704 円
殺人鬼がもう一人 [若竹七海]
まずはAmazonさんの紹介ページから。
都心まで一時間半の寂れたベッドタウン・辛夷ヶ丘。二十年ほど前に連続殺人事件があったきりの
のどかな町だが、二週間前の放火殺人以来、不穏な気配が。そんななか、町いちばんの
名家の当主・箕作ハツエがひったくりにあった。辛夷ヶ丘警察署生活安全課の砂井三琴は
相棒と共に捜査に向かうが……。悪人ばかりの町を舞台にした毒気たっぷりの連作ミステリー!
逆コージーミステリー。日本での本家本元・若竹七海先生による作品です。
6作品の連作短編集となります。以下、ややネタバレ。
この辛夷ヶ丘署には、何らかの問題がある警察官が、いわば配流されてくる流刑地
のような所みたいですが、少なくとも、ほぼ主人公を務める砂井三琴と相棒である
田中盛は、刑事としては極めて優秀です。
「ゴブリンシャークの目」では、この二人が、真相を看破します。
この1話、表題作である「殺人鬼がもう一人」と極めて密接な関係にあるのですが、
一体、どちらの人物が「もう一人」なんでしょうか?
「丘の上の死神」は、所収昨の中で一番きな臭いというか、壮絶なる権力争いが描かれます。
市長選と殺人事件と、そこにそれぞれの陣営につく警察という、阿鼻叫喚。
単なる嫌味と無能でしかなかった五十嵐係長と荒川課長の暴走が凄まじすぎます。
三琴と遊里子の化かし合い的な「取引」は、中々読ませます。
双方の思惑というか利害が一致しているので、すんなりと決まりますが。
「黒い袖」は解説でも書かれているように、ワンクッション的な物語なんでしょう。
真相よりも、主人公を務める原竹緒の正体を実に上手く隠していて、お見事です。
まあ、真相を解く鍵でもあるのですが、
「きれいごとじゃない」。本書所収作では、一番やるせない、救いのない結末ですね。
主人公を務めるのは、向原理穂、<向原清掃サービス>の専務で、
強盗計画があることを警察から知らされ、砂井三琴巡査長が清掃員に化けて
各家を見回っている、というのが前提。
実は<向原清掃サービス>にもちょっとした隠された秘密(というか犯罪ですが)が
あり、それを三琴に見抜かれているようで、反省したり。
一方で、三琴が悪事を働くのではないか、と理穂が疑ったりと、とにかく本筋だけでなく、
相変わらず様々な出来事が降りかかります。
そこに来て、最後の一撃があまりに強烈なので、まるで救いがない。
本筋や他諸々の事案が上手く丸く収まったのに、最後にこれが来るとは予想外。
「葬儀の裏で」は、オリエント急行殺人事件のような話ですね。
壮大なるネタバレです。
ただし、そこには辛夷ヶ丘の土地にまつわるある話なども加わるので、
あくまで辛夷ヶ丘を舞台とした事件というのは、変わりがありません。
最終話「殺人鬼がもう一人」。三琴の壮絶なる戦いと裏取引が垣間見える作品ですが(苦笑)、
ローズマリーこと、蒲原マリの苦労は壮絶なものです。弟の誠治の治療費のために、
危ない橋を渡る仕事をやらねばならず、そして彼女自身もある疾患を抱えているようで・・・
ここに来て、作品紹介の20年前の連続殺人事件が急遽メインに登場し、
<ハッピーデー・キラー>の正体が明かされるのですが、
ラストで、蒲原マリと砂井三琴、彼女たちの会話で物語は終了しますが、
これどういう解釈するのがよいのか、非常に悩みました。
三琴はマリを利用しようとして、わざとこんな会話をしているのか、
いまいち意図が掴めず。20年前から続く連続殺人事件は、果たして真の解決をみたのかは
語られません。
続編とかありそうですが、というかぜひ続編を。
都心まで一時間半の寂れたベッドタウン・辛夷ヶ丘。二十年ほど前に連続殺人事件があったきりの
のどかな町だが、二週間前の放火殺人以来、不穏な気配が。そんななか、町いちばんの
名家の当主・箕作ハツエがひったくりにあった。辛夷ヶ丘警察署生活安全課の砂井三琴は
相棒と共に捜査に向かうが……。悪人ばかりの町を舞台にした毒気たっぷりの連作ミステリー!
逆コージーミステリー。日本での本家本元・若竹七海先生による作品です。
6作品の連作短編集となります。以下、ややネタバレ。
この辛夷ヶ丘署には、何らかの問題がある警察官が、いわば配流されてくる流刑地
のような所みたいですが、少なくとも、ほぼ主人公を務める砂井三琴と相棒である
田中盛は、刑事としては極めて優秀です。
「ゴブリンシャークの目」では、この二人が、真相を看破します。
この1話、表題作である「殺人鬼がもう一人」と極めて密接な関係にあるのですが、
一体、どちらの人物が「もう一人」なんでしょうか?
「丘の上の死神」は、所収昨の中で一番きな臭いというか、壮絶なる権力争いが描かれます。
市長選と殺人事件と、そこにそれぞれの陣営につく警察という、阿鼻叫喚。
単なる嫌味と無能でしかなかった五十嵐係長と荒川課長の暴走が凄まじすぎます。
三琴と遊里子の化かし合い的な「取引」は、中々読ませます。
双方の思惑というか利害が一致しているので、すんなりと決まりますが。
「黒い袖」は解説でも書かれているように、ワンクッション的な物語なんでしょう。
真相よりも、主人公を務める原竹緒の正体を実に上手く隠していて、お見事です。
まあ、真相を解く鍵でもあるのですが、
「きれいごとじゃない」。本書所収作では、一番やるせない、救いのない結末ですね。
主人公を務めるのは、向原理穂、<向原清掃サービス>の専務で、
強盗計画があることを警察から知らされ、砂井三琴巡査長が清掃員に化けて
各家を見回っている、というのが前提。
実は<向原清掃サービス>にもちょっとした隠された秘密(というか犯罪ですが)が
あり、それを三琴に見抜かれているようで、反省したり。
一方で、三琴が悪事を働くのではないか、と理穂が疑ったりと、とにかく本筋だけでなく、
相変わらず様々な出来事が降りかかります。
そこに来て、最後の一撃があまりに強烈なので、まるで救いがない。
本筋や他諸々の事案が上手く丸く収まったのに、最後にこれが来るとは予想外。
「葬儀の裏で」は、オリエント急行殺人事件のような話ですね。
壮大なるネタバレです。
ただし、そこには辛夷ヶ丘の土地にまつわるある話なども加わるので、
あくまで辛夷ヶ丘を舞台とした事件というのは、変わりがありません。
最終話「殺人鬼がもう一人」。三琴の壮絶なる戦いと裏取引が垣間見える作品ですが(苦笑)、
ローズマリーこと、蒲原マリの苦労は壮絶なものです。弟の誠治の治療費のために、
危ない橋を渡る仕事をやらねばならず、そして彼女自身もある疾患を抱えているようで・・・
ここに来て、作品紹介の20年前の連続殺人事件が急遽メインに登場し、
<ハッピーデー・キラー>の正体が明かされるのですが、
ラストで、蒲原マリと砂井三琴、彼女たちの会話で物語は終了しますが、
これどういう解釈するのがよいのか、非常に悩みました。
三琴はマリを利用しようとして、わざとこんな会話をしているのか、
いまいち意図が掴めず。20年前から続く連続殺人事件は、果たして真の解決をみたのかは
語られません。
続編とかありそうですが、というかぜひ続編を。
フェティッシュ [西澤保彦]
まずはAmazonさんの紹介ページから。
触れられると仮死状態に陥るという特異体質をもつ美少年・クルミ。
葬儀巡りをする老人、潔癖症の看護師、息子を亡くした母親etc.
さまざまな事情を抱えた者たちがクルミに魅了され、
その体に触れた結果、無残な姿で死に果ててしまう。
連続殺人犯の正体と目的は……? 妖しくも美しいサスペンス・ミステリー。
以下、ネタバレあり。
コスミック文庫、初めて買いました。
西澤先生の作品が結構出ていて、どういう繋がりからなのか、とかどうでも
いいことが気になりました。
本書、説明文ではサスペンス・ミステリーとなってますが、
そもそもミステリなのだろうか。
西澤保彦節は全開なのは間違いありません。それは保証します(笑
とにかく登場する人物たちが個性的というか、いや性癖は人それぞれなので
そこは致し方ないと思いますが、変わりすぎな人もいて、志自岐幸夫は完全に
クルミの登場で崩壊します。
事件を追う刑事である長嶺尚樹にも、ある性癖があります。
しかし、彼は事件の核心に迫り、犯人に制裁を加えた唯一の人物でもあります。
だた、クルミに真実を伝えることが出来なかったのが、心残りだろうなあ。
犯人の目的は、クルミの妄想を既成事実化して、やってる、という理解不能すぎる
理由で、大量殺人を繰り返します。
いや、これももしかしたら本書で語られる性癖の1つとして書かれているのかもしれません。
被害者たちの中で印象的なのは、やはり<聖餐>を割り当てられた澤村智津香でしょう。
彼女の人生が語れるとともに(これが相当に凄惨すぎます)、彼女の最期が
かなり衝撃でしたね。
しかし救われない物語ですね。クルミはもちろんですが、登場人物たちも。
ただ澤村や他に殺された人たちは、果たしてどうだったのか。自ら救われたと
感じていた人も居たかもしれません。
クルミにとっては絶望的な日々が続くのかもしれませんが、真実を知らせる人物が
登場してほしいなあ。
触れられると仮死状態に陥るという特異体質をもつ美少年・クルミ。
葬儀巡りをする老人、潔癖症の看護師、息子を亡くした母親etc.
さまざまな事情を抱えた者たちがクルミに魅了され、
その体に触れた結果、無残な姿で死に果ててしまう。
連続殺人犯の正体と目的は……? 妖しくも美しいサスペンス・ミステリー。
以下、ネタバレあり。
コスミック文庫、初めて買いました。
西澤先生の作品が結構出ていて、どういう繋がりからなのか、とかどうでも
いいことが気になりました。
本書、説明文ではサスペンス・ミステリーとなってますが、
そもそもミステリなのだろうか。
西澤保彦節は全開なのは間違いありません。それは保証します(笑
とにかく登場する人物たちが個性的というか、いや性癖は人それぞれなので
そこは致し方ないと思いますが、変わりすぎな人もいて、志自岐幸夫は完全に
クルミの登場で崩壊します。
事件を追う刑事である長嶺尚樹にも、ある性癖があります。
しかし、彼は事件の核心に迫り、犯人に制裁を加えた唯一の人物でもあります。
だた、クルミに真実を伝えることが出来なかったのが、心残りだろうなあ。
犯人の目的は、クルミの妄想を既成事実化して、やってる、という理解不能すぎる
理由で、大量殺人を繰り返します。
いや、これももしかしたら本書で語られる性癖の1つとして書かれているのかもしれません。
被害者たちの中で印象的なのは、やはり<聖餐>を割り当てられた澤村智津香でしょう。
彼女の人生が語れるとともに(これが相当に凄惨すぎます)、彼女の最期が
かなり衝撃でしたね。
しかし救われない物語ですね。クルミはもちろんですが、登場人物たちも。
ただ澤村や他に殺された人たちは、果たしてどうだったのか。自ら救われたと
感じていた人も居たかもしれません。
クルミにとっては絶望的な日々が続くのかもしれませんが、真実を知らせる人物が
登場してほしいなあ。
少年検閲官 [北山猛邦]
まずはAmazonさんの紹介ページから。
旅を続ける英国人少年クリスは、小さな町で家々の扉や壁に赤い十字架のような印
が残されている不可解な事件に遭遇する。奇怪な首なし屍体の目撃情報も飛び交う中、
クリスはミステリを検閲するために育てられた少年エノに出会うが…。
書物が駆逐される世界の中で繰り広げられる、少年たちの探偵物語。
本格ミステリの未来を担う気鋭の著者の野心作、「少年検閲官」連作第一の事件。
『オルゴーリェンヌ』が文庫化されたので、シリーズを読み始めようと
購入した1冊。
あくまで私個人のこれまでの嗜好として、メルヘンというか、特殊世界というか、
異世界というか、そうした場所を舞台としたミステリは避けていました。
北山先生の作品は『『アリス・ミラー城』殺人事件』が初で、
その後引きこもり探偵シリーズを読み始め、『猫柳十一玄』を読み・・・と
きたところで、以前書いた講談社文庫の2冊や、本シリーズなどは
意図的に避けていた、という感じです。
が、ここにきて色々と幅を広げるという意味でトライしているという。
本作は、書物がない、禁止されている世界、焚書が当たり前、
人類には政府の大本営発表的なラジオから発信される情報しかないという、
ディストピア的な世界で、描かれる殺人事件を、検閲官が解き明かすというストーリーです。
なので、本書を読んでいく際には、事件の謎だけでなく、この世界観、世界の種々の
謎(まあ設定でしょうか)も合わせて考えていく、知っていく必要があるので、
中々読み応えがありました。
犯人の動機は極めてこの世界の中においては極めて単純ですが、
それを実行すると、これほどまでに残酷になるのか、というのが最初の感想。
物語の中では平然と語られていますが、想像を絶しますね。
それを平然と聞いていられる関係者も凄かったな。
この辺りが、この世界に住む人々の特殊性なのかもしれません。
ミステリそのものは、かなり練り込まれていて、
最初で描かれた小屋が消えるトリックや、少女が「復活」する話。
そして事件の中心的トリックたる湖での犯人消失。また、家に赤い印を付ける意味。
これらの謎が見事に論理的に解き明かされていくのは流石の一言。
また、この世界観から、犯人が探偵と呼称され、事件を解決するのが検閲官というのも
面白いですね。クリスが物語中で苦しむのも理解できる。
しかし、なぜこの街の人々は、この犯人を「探偵」と名付けたのか?
その辺りはよく分かりませんでした。
また、「ガジェット」という、本作世界観では欠かせなそうなシロモノが
出てくるのですが、いまいち重要性がわからなかったなあ。
「首切り」のガジェットというのがあって、それを持っていた、だから
犯人は首切りを行っていた?訳ではないですよね。
(私の読み込みがまるで足りてないのかもしれません、すいません。)
物語全体としては、ミステリとしては非常に面白いものの、
作者が創ったこの世界観をそれに充分に活かせているかはかなり疑問。
焚書や書物のない世界、もミステリだけない訳ではなく、他の本もないですしね。
それと、探偵は謎を解く存在なのだ、というクリスの思いも、本世界観だけでは
中々説明しにくい。実際に書物を知っている人たちも大勢まだいるようですし。
とはいいつつ、次もそのうち読み始めよう。
![少年検閲官 (創元推理文庫) [ 北山猛邦 ] 少年検閲官 (創元推理文庫) [ 北山猛邦 ]](https://thumbnail.image.rakuten.co.jp/@0_mall/book/cabinet/9141/9784488419141.jpg?_ex=128x128)
旅を続ける英国人少年クリスは、小さな町で家々の扉や壁に赤い十字架のような印
が残されている不可解な事件に遭遇する。奇怪な首なし屍体の目撃情報も飛び交う中、
クリスはミステリを検閲するために育てられた少年エノに出会うが…。
書物が駆逐される世界の中で繰り広げられる、少年たちの探偵物語。
本格ミステリの未来を担う気鋭の著者の野心作、「少年検閲官」連作第一の事件。
『オルゴーリェンヌ』が文庫化されたので、シリーズを読み始めようと
購入した1冊。
あくまで私個人のこれまでの嗜好として、メルヘンというか、特殊世界というか、
異世界というか、そうした場所を舞台としたミステリは避けていました。
北山先生の作品は『『アリス・ミラー城』殺人事件』が初で、
その後引きこもり探偵シリーズを読み始め、『猫柳十一玄』を読み・・・と
きたところで、以前書いた講談社文庫の2冊や、本シリーズなどは
意図的に避けていた、という感じです。
が、ここにきて色々と幅を広げるという意味でトライしているという。
本作は、書物がない、禁止されている世界、焚書が当たり前、
人類には政府の大本営発表的なラジオから発信される情報しかないという、
ディストピア的な世界で、描かれる殺人事件を、検閲官が解き明かすというストーリーです。
なので、本書を読んでいく際には、事件の謎だけでなく、この世界観、世界の種々の
謎(まあ設定でしょうか)も合わせて考えていく、知っていく必要があるので、
中々読み応えがありました。
犯人の動機は極めてこの世界の中においては極めて単純ですが、
それを実行すると、これほどまでに残酷になるのか、というのが最初の感想。
物語の中では平然と語られていますが、想像を絶しますね。
それを平然と聞いていられる関係者も凄かったな。
この辺りが、この世界に住む人々の特殊性なのかもしれません。
ミステリそのものは、かなり練り込まれていて、
最初で描かれた小屋が消えるトリックや、少女が「復活」する話。
そして事件の中心的トリックたる湖での犯人消失。また、家に赤い印を付ける意味。
これらの謎が見事に論理的に解き明かされていくのは流石の一言。
また、この世界観から、犯人が探偵と呼称され、事件を解決するのが検閲官というのも
面白いですね。クリスが物語中で苦しむのも理解できる。
しかし、なぜこの街の人々は、この犯人を「探偵」と名付けたのか?
その辺りはよく分かりませんでした。
また、「ガジェット」という、本作世界観では欠かせなそうなシロモノが
出てくるのですが、いまいち重要性がわからなかったなあ。
「首切り」のガジェットというのがあって、それを持っていた、だから
犯人は首切りを行っていた?訳ではないですよね。
(私の読み込みがまるで足りてないのかもしれません、すいません。)
物語全体としては、ミステリとしては非常に面白いものの、
作者が創ったこの世界観をそれに充分に活かせているかはかなり疑問。
焚書や書物のない世界、もミステリだけない訳ではなく、他の本もないですしね。
それと、探偵は謎を解く存在なのだ、というクリスの思いも、本世界観だけでは
中々説明しにくい。実際に書物を知っている人たちも大勢まだいるようですし。
とはいいつつ、次もそのうち読み始めよう。
![少年検閲官 (創元推理文庫) [ 北山猛邦 ] 少年検閲官 (創元推理文庫) [ 北山猛邦 ]](https://thumbnail.image.rakuten.co.jp/@0_mall/book/cabinet/9141/9784488419141.jpg?_ex=128x128)
- ショップ: 楽天ブックス
- 価格: 858 円
御手洗潔のメロディ [島田荘司]
まずはAmazonさんの紹介ページから。
何度も壊されるレストランの便器と、高名な声楽家が捜し求める美女。
無関係としか思えない2つの出来事の間に御手洗潔が存在する時、見えない線が光り始める。
御手洗の奇人ぶり天才ぶりが際だつ「IgE」のほか、大学時代の危険な事件「ボストン幽霊絵画事件」
など、名探偵の過去と現在をつなぐ4つの傑作短編を収録。
短編集第3弾。
前作、前々作とはかなり趣向が変わっています。
どちらかというと、『御手洗潔と進々堂珈琲』シリーズにやや近い短編集でしょうか。
「ボストン幽霊絵画事件」は、今までの奇人・変人ぶりから、天才への道程を
描く先駆け的なものでしょうか。だからといって事件の謎は非常におもしろい。
とはいえ、やはり「IgE」は群を抜いています。奇人・変人ぶりは健在で、
まるで繋がりの見えない2つの事件、これを見事に看破する御手洗の大活躍が
素晴らしい。そして、このタイトルの付け方がまた秀逸です。
ノンミステリ2編が含まれますが、この「IgE」を目当てに購入しても、
まったく損はありません。
作品、普通に読んでもまず解けません(笑)いや、普通じゃなくても解けないか。
便器が何度も壊される、などという謎から、壮大な大事件への繋ぎは
素晴らしいの一言に尽きます。
御手洗短編集、「挨拶」から「メロディ」まで今もまだ文庫で新品を購入
することができるというのは本当に有り難い。
他の長編作品もお願いできませんかねえ、講談社様。
何度も壊されるレストランの便器と、高名な声楽家が捜し求める美女。
無関係としか思えない2つの出来事の間に御手洗潔が存在する時、見えない線が光り始める。
御手洗の奇人ぶり天才ぶりが際だつ「IgE」のほか、大学時代の危険な事件「ボストン幽霊絵画事件」
など、名探偵の過去と現在をつなぐ4つの傑作短編を収録。
短編集第3弾。
前作、前々作とはかなり趣向が変わっています。
どちらかというと、『御手洗潔と進々堂珈琲』シリーズにやや近い短編集でしょうか。
「ボストン幽霊絵画事件」は、今までの奇人・変人ぶりから、天才への道程を
描く先駆け的なものでしょうか。だからといって事件の謎は非常におもしろい。
とはいえ、やはり「IgE」は群を抜いています。奇人・変人ぶりは健在で、
まるで繋がりの見えない2つの事件、これを見事に看破する御手洗の大活躍が
素晴らしい。そして、このタイトルの付け方がまた秀逸です。
ノンミステリ2編が含まれますが、この「IgE」を目当てに購入しても、
まったく損はありません。
作品、普通に読んでもまず解けません(笑)いや、普通じゃなくても解けないか。
便器が何度も壊される、などという謎から、壮大な大事件への繋ぎは
素晴らしいの一言に尽きます。
御手洗短編集、「挨拶」から「メロディ」まで今もまだ文庫で新品を購入
することができるというのは本当に有り難い。
他の長編作品もお願いできませんかねえ、講談社様。
午後の脅迫者 新装版 [西村京太郎]
まずはAmazonさんの紹介ページから。
警察官が手を染めた犯罪のからくりは、想定外の結末にいたる。私立探偵が夢みた成功報酬の三千万円は、いったい誰の手にわたるのか? 妻は会社を経営する夫の素行調査を探偵社に依頼した。夫は探偵にしっぽをつかまれるが、逆に妻に「男」を作ってくれれば三千万円を出すという。成功直前のある夜、探偵の眼の前でフラッシュが光って……。トリックの妙を示した秀作ぞろいの作品集。
数多くの著作を遺された西村京太郎先生。
私もこのブログでいくつか紹介させていただきましたが、まだまだ傑作・秀作は
埋もれているようです。
先生の作品は長編が多いので、短編集というのは中々珍しいのではないでしょうか。
所収作愁眉は「職業婦人」。これはダントツに面白い。
むろん、これが書かれた時代と、時代背景。そもそもこのタイトルからしてもう?の方
も多いと思いますが、今のこの時代にこれを読むと、またまるで違う味わいも出てきますね。
一方、動機、ハウダニットを追及したミステリとしても、一級品ではないかと思います。
「二一・〇〇に殺せ」は、このタイトルが秀逸。本編で出てきますが、なぜ午後9時では
なく、このように表現したのか。そこから推理を組み立てる展開が面白いです。
「美談崩れ」は特ダネを追う、ある地方記者の物語。
どういう結末に落ち着くのか、高木が到達したある結論は、読者からすると、
おおよそ予想がつくものなのですが、そこで終わらないところが本作の狙いでしょうか。
「柴田巡査の奇妙なアルバイト」は現代社会で実際に行われていそうな、
ドキュメンタリーかと思う話です。
ラストの切れ味はは本書所収作で一番かと。
西村作品はトラベルミステリーだけにあらず。
皆さんもぜひ色々手にとってもらいたいです。
警察官が手を染めた犯罪のからくりは、想定外の結末にいたる。私立探偵が夢みた成功報酬の三千万円は、いったい誰の手にわたるのか? 妻は会社を経営する夫の素行調査を探偵社に依頼した。夫は探偵にしっぽをつかまれるが、逆に妻に「男」を作ってくれれば三千万円を出すという。成功直前のある夜、探偵の眼の前でフラッシュが光って……。トリックの妙を示した秀作ぞろいの作品集。
数多くの著作を遺された西村京太郎先生。
私もこのブログでいくつか紹介させていただきましたが、まだまだ傑作・秀作は
埋もれているようです。
先生の作品は長編が多いので、短編集というのは中々珍しいのではないでしょうか。
所収作愁眉は「職業婦人」。これはダントツに面白い。
むろん、これが書かれた時代と、時代背景。そもそもこのタイトルからしてもう?の方
も多いと思いますが、今のこの時代にこれを読むと、またまるで違う味わいも出てきますね。
一方、動機、ハウダニットを追及したミステリとしても、一級品ではないかと思います。
「二一・〇〇に殺せ」は、このタイトルが秀逸。本編で出てきますが、なぜ午後9時では
なく、このように表現したのか。そこから推理を組み立てる展開が面白いです。
「美談崩れ」は特ダネを追う、ある地方記者の物語。
どういう結末に落ち着くのか、高木が到達したある結論は、読者からすると、
おおよそ予想がつくものなのですが、そこで終わらないところが本作の狙いでしょうか。
「柴田巡査の奇妙なアルバイト」は現代社会で実際に行われていそうな、
ドキュメンタリーかと思う話です。
ラストの切れ味はは本書所収作で一番かと。
西村作品はトラベルミステリーだけにあらず。
皆さんもぜひ色々手にとってもらいたいです。
記憶の中の誘拐 赤い博物館 [大山誠一郎]
まずはAmazonさんの紹介ページから。
緋色冴子シリーズ第二弾。文庫オリジナルで登場!
赤い博物館こと犯罪資料館に勤める緋色冴子が、過去の事件の遺留品や資料を元に、
未解決事件に挑むシリーズ第二弾。
本書第一弾のブログ記事は2018年。ということは4年ぶりの新作ということです。
以下、ネタバレあり。
第一弾はコチラ
前作は安楽椅子探偵でもありましたが、本作ではすべて緋色警視が資料館から
外出するというのが特徴です。
「夕暮れの屋上で」。「先輩、もうすぐお別れですね。」という言葉の意味を
どう捉えるのか。本作はこの1点が極めて秀逸です。
卒業式間近という時期、「先輩」「お別れ」という言葉。
こうした状況と言葉から、ある種の必然ともいえる思い込みを見事に覆した作品です。
「連火」。犯人はなぜ放火するのか。放火された家の共通点とはなにか?
これが本作最大の謎です。
この真相は、いわゆる隠れ事故物件、というより事故土地でしょうか。
そんなオカルト的な話にありそうですが、本作で上手いのは、
「またあの人に会えなかった」という犯人と思われる人物が残した言葉の意味でしょう。
これも前作と似ていて、「あの人」とは誰なのか、というのが、
緋色の、完璧にまでに論理づけられた絞り込みにより、判明するところがお見事。
「死を十で割る」。犯人はなぜ被害者をバラバラにしたのか。そこにある必然性、
しかも、どうバラバラにしたのか、つまり単なるバラバラ殺人ではなく、
どこをどのようにバラバラに切断したのか、から推理を組み立てていくという傑作です。
犯人自体はなんとなく(むろん緋色の論理立てた推理から導くのではなく)予想できる
のですが、上記のバラバラから、死後硬直の時間、72時間から96時間以内に被害者が
死んだことを知らしめたい人物、特殊な姿勢が犯人と結びついている、この3点から
犯人を指摘します。
特に、2番目の条件が実に慧眼で、思わず唸ってしまいました。
個人的には本作愁眉。
「孤独な容疑者」。本作は、緋色の推理はともかく、果たして犯人がここまで
上手く逃げおおせられるか、というのがやや疑問でしたね。
「記憶の中の誘拐」。最後に緋色がいう、2003年に時効が成立しているというところ。
殺人罪ですが、時効が撤廃されているが、時効なのかと、どうでもいいところが
気になりました(笑)
wikiによると、「「人を死亡させた罪であって(法定刑の最高が)死刑に当たる罪」
については公訴時効が廃止」とあるので、それに該当しない、という事なんでしょうか。
全編にわたっていえることですが、緋色の推理は火村英生の詰め将棋の如き推理を
彷彿とさせますね。決して突拍子もない所からの出発点ではない。1つ1つの論理を
綿密に組み立てていき、彼彼女しか犯人たり得ない、と結論づける。
とはいえ、彼女がずっと資料館に留まっている謎は未だ解明されず。
次作に期待です。
緋色冴子シリーズ第二弾。文庫オリジナルで登場!
赤い博物館こと犯罪資料館に勤める緋色冴子が、過去の事件の遺留品や資料を元に、
未解決事件に挑むシリーズ第二弾。
本書第一弾のブログ記事は2018年。ということは4年ぶりの新作ということです。
以下、ネタバレあり。
第一弾はコチラ
前作は安楽椅子探偵でもありましたが、本作ではすべて緋色警視が資料館から
外出するというのが特徴です。
「夕暮れの屋上で」。「先輩、もうすぐお別れですね。」という言葉の意味を
どう捉えるのか。本作はこの1点が極めて秀逸です。
卒業式間近という時期、「先輩」「お別れ」という言葉。
こうした状況と言葉から、ある種の必然ともいえる思い込みを見事に覆した作品です。
「連火」。犯人はなぜ放火するのか。放火された家の共通点とはなにか?
これが本作最大の謎です。
この真相は、いわゆる隠れ事故物件、というより事故土地でしょうか。
そんなオカルト的な話にありそうですが、本作で上手いのは、
「またあの人に会えなかった」という犯人と思われる人物が残した言葉の意味でしょう。
これも前作と似ていて、「あの人」とは誰なのか、というのが、
緋色の、完璧にまでに論理づけられた絞り込みにより、判明するところがお見事。
「死を十で割る」。犯人はなぜ被害者をバラバラにしたのか。そこにある必然性、
しかも、どうバラバラにしたのか、つまり単なるバラバラ殺人ではなく、
どこをどのようにバラバラに切断したのか、から推理を組み立てていくという傑作です。
犯人自体はなんとなく(むろん緋色の論理立てた推理から導くのではなく)予想できる
のですが、上記のバラバラから、死後硬直の時間、72時間から96時間以内に被害者が
死んだことを知らしめたい人物、特殊な姿勢が犯人と結びついている、この3点から
犯人を指摘します。
特に、2番目の条件が実に慧眼で、思わず唸ってしまいました。
個人的には本作愁眉。
「孤独な容疑者」。本作は、緋色の推理はともかく、果たして犯人がここまで
上手く逃げおおせられるか、というのがやや疑問でしたね。
「記憶の中の誘拐」。最後に緋色がいう、2003年に時効が成立しているというところ。
殺人罪ですが、時効が撤廃されているが、時効なのかと、どうでもいいところが
気になりました(笑)
wikiによると、「「人を死亡させた罪であって(法定刑の最高が)死刑に当たる罪」
については公訴時効が廃止」とあるので、それに該当しない、という事なんでしょうか。
全編にわたっていえることですが、緋色の推理は火村英生の詰め将棋の如き推理を
彷彿とさせますね。決して突拍子もない所からの出発点ではない。1つ1つの論理を
綿密に組み立てていき、彼彼女しか犯人たり得ない、と結論づける。
とはいえ、彼女がずっと資料館に留まっている謎は未だ解明されず。
次作に期待です。
予言の島 [澤村伊智]
まずはAmazonさんの紹介ページから。
初読はミステリ、二度目はホラー。この島の謎に、あなたもきっと囚われる。
瀬戸内海の霧久井島は、かつて一世を風靡した霊能者・宇津木幽子が最後の予言を残した場所。
二十年後《霊魂六つが冥府へ堕つる》という――。
天宮淳は、幼馴染たちと興味本位で島を訪れるが、旅館は「ヒキタの怨霊が下りてくる」
という意味不明な理由でキャンセルされていた。
そして翌朝、滞在客の一人が遺体で見つかる。しかしこれは、悲劇の序章に過ぎなかった……。
すべての謎が解けた時、あなたは必ず絶叫する。
再読率100%の傑作ホラーミステリ!
久しぶりの更新です。少し止まってました。
以下、ネタバレあり。
色々なところで見かけたり、なぜかオススメに出てきたりしたので、購入しました。
全く関係ありませんが、かつて角川文庫で発売されていた赤川次郎『長い夜』が
その後ホラー文庫で発売されたなあと。いや、角川ホラー文庫はあまり読んだことが
ないので、相当久しぶり、というか、下手すると初読かもしれませんね。
閉ざされた島と、有名な霊能者による予言、怪しい島民たち・・・
ホラーというより、ミステリ要素を十二分に兼ね備えてます。
メイントリックは、叙述トリックで、これが実にうまく使われています。
語り手の三人称、一人称の使い分けもかなり上手い。
しかし、ヒントも上手く散りばめているという、これはもうミステリ小説でしょう。
ただこのトリックは、そこまで隠せるか?と単純に思いました。
何も知らない島で出遭った人々が、なぜ指摘しない?(笑)
それを言ったらアンフェアかもしれませんね。しかしホラー文庫に入った理由は、
おそらくサイコホラーという意味なのだろうと、個人的には理解しました。
それよりもこの島の真実というか、隠してきた事の方が、なるほどと思いました。
島民全員で騙してきて、デメリットよりメリットが大きいと判断している訳です。
これはこれで中々恐怖です。
しかし、現実でもこれはあり得ることだろうなあ。
ちなみに澤村さん繋がりで、コミック版の『ぼぎわんが、来る』も読了後に
購入してしまいました。こっちは全く「ぼぎわん」が理解できませんでした。
初読はミステリ、二度目はホラー。この島の謎に、あなたもきっと囚われる。
瀬戸内海の霧久井島は、かつて一世を風靡した霊能者・宇津木幽子が最後の予言を残した場所。
二十年後《霊魂六つが冥府へ堕つる》という――。
天宮淳は、幼馴染たちと興味本位で島を訪れるが、旅館は「ヒキタの怨霊が下りてくる」
という意味不明な理由でキャンセルされていた。
そして翌朝、滞在客の一人が遺体で見つかる。しかしこれは、悲劇の序章に過ぎなかった……。
すべての謎が解けた時、あなたは必ず絶叫する。
再読率100%の傑作ホラーミステリ!
久しぶりの更新です。少し止まってました。
以下、ネタバレあり。
色々なところで見かけたり、なぜかオススメに出てきたりしたので、購入しました。
全く関係ありませんが、かつて角川文庫で発売されていた赤川次郎『長い夜』が
その後ホラー文庫で発売されたなあと。いや、角川ホラー文庫はあまり読んだことが
ないので、相当久しぶり、というか、下手すると初読かもしれませんね。
閉ざされた島と、有名な霊能者による予言、怪しい島民たち・・・
ホラーというより、ミステリ要素を十二分に兼ね備えてます。
メイントリックは、叙述トリックで、これが実にうまく使われています。
語り手の三人称、一人称の使い分けもかなり上手い。
しかし、ヒントも上手く散りばめているという、これはもうミステリ小説でしょう。
ただこのトリックは、そこまで隠せるか?と単純に思いました。
何も知らない島で出遭った人々が、なぜ指摘しない?(笑)
それを言ったらアンフェアかもしれませんね。しかしホラー文庫に入った理由は、
おそらくサイコホラーという意味なのだろうと、個人的には理解しました。
それよりもこの島の真実というか、隠してきた事の方が、なるほどと思いました。
島民全員で騙してきて、デメリットよりメリットが大きいと判断している訳です。
これはこれで中々恐怖です。
しかし、現実でもこれはあり得ることだろうなあ。
ちなみに澤村さん繋がりで、コミック版の『ぼぎわんが、来る』も読了後に
購入してしまいました。こっちは全く「ぼぎわん」が理解できませんでした。
交差点に眠る [赤川次郎]
まずはAmazonさんの紹介ページから。
「娘に渡して」と、偶然出会った女から写真を託された梓悠季。
だがヤクザの殺し合いで、その女は悠季の目の前で射殺された。
命拾いした悠季は十三年後、人気ファッションデザイナーになった。が、
またしてもショーの前夜、射殺現場に遭遇してしまう。
二つの事件に見え隠れするヤクザの正体、
そして渡された写真の意味とは?
正義感の強い悠季は真実を暴くため事件の真相を探る!
相変わらず、タイトルが上手い。物理的な「交差点」と、出会いと別れがある
という意味の「交差点」という。途中で解説が少し出てきます。
ヤクザの抗争がメインのお話で、赤川作品常連の強いヒロインが活躍しますが、
ちょっと意外な犯人でしたね。ややビックリ。
悠季が過去に体験した、ヤクザの殺し合いとその前の追われる男女の性交が、
彼女の運命を大きく変えたのは事実で、彼女がそれを本当に心の糧のような
ものにしているのなだと、読んでいる中で思いました。
そしてヒロインが強いだけでなく、その母も強かった(笑
どちらかが抜けているか、天然かというパターンが多いのですが、
命が狙われる恐れがある!→世界一周旅行に行こう、という思考が素晴らしい。
最後に明かされますが、母親からのメールで、事件が解けたようなものですし。
それにしてもジェットコースター的展開なのは、いつものことかもしれませんが、
流石の一言。
ヒロインに良い彼氏(候補)が現れなかったなあ、悠季も残念でしょうね(笑
![交差点に眠る (徳間文庫) [ 赤川次郎 ] 交差点に眠る (徳間文庫) [ 赤川次郎 ]](https://thumbnail.image.rakuten.co.jp/@0_mall/book/cabinet/7057/9784198947057_1_4.jpg?_ex=128x128)
「娘に渡して」と、偶然出会った女から写真を託された梓悠季。
だがヤクザの殺し合いで、その女は悠季の目の前で射殺された。
命拾いした悠季は十三年後、人気ファッションデザイナーになった。が、
またしてもショーの前夜、射殺現場に遭遇してしまう。
二つの事件に見え隠れするヤクザの正体、
そして渡された写真の意味とは?
正義感の強い悠季は真実を暴くため事件の真相を探る!
相変わらず、タイトルが上手い。物理的な「交差点」と、出会いと別れがある
という意味の「交差点」という。途中で解説が少し出てきます。
ヤクザの抗争がメインのお話で、赤川作品常連の強いヒロインが活躍しますが、
ちょっと意外な犯人でしたね。ややビックリ。
悠季が過去に体験した、ヤクザの殺し合いとその前の追われる男女の性交が、
彼女の運命を大きく変えたのは事実で、彼女がそれを本当に心の糧のような
ものにしているのなだと、読んでいる中で思いました。
そしてヒロインが強いだけでなく、その母も強かった(笑
どちらかが抜けているか、天然かというパターンが多いのですが、
命が狙われる恐れがある!→世界一周旅行に行こう、という思考が素晴らしい。
最後に明かされますが、母親からのメールで、事件が解けたようなものですし。
それにしてもジェットコースター的展開なのは、いつものことかもしれませんが、
流石の一言。
ヒロインに良い彼氏(候補)が現れなかったなあ、悠季も残念でしょうね(笑
![交差点に眠る (徳間文庫) [ 赤川次郎 ] 交差点に眠る (徳間文庫) [ 赤川次郎 ]](https://thumbnail.image.rakuten.co.jp/@0_mall/book/cabinet/7057/9784198947057_1_4.jpg?_ex=128x128)
- ショップ: 楽天ブックス
- 価格: 836 円
論理仕掛けの奇談-有栖川有栖解説集 [有栖川有栖]
まずはAmazonさんの紹介ページから。
一生に一度は読みたいミステリがここに。ファン必携のミステリ・ガイド!
クリスティー、クイーンなど、海外の古典的名作から、松本清張、綾辻行人、皆川博子、
今村昌弘など日本のミステリまで……。新しい才能への目配りを常に忘れない、
本格ミステリのプロフェッショナルが愛をこめて執筆した、国内外の名作に寄せた解説集!
優れたミステリ・ブックガイドとしても最適の1冊。単行本刊行後に新たに執筆した解説3本と、
杉江松恋との読書対談も加えた文庫増補版。
このタイトルは、泡坂妻夫『毒薬の輪舞』に付けられたタイトルです。
泡坂先生は「探偵小説とは探偵小説の技法を使って作られている小説」であり、
「その技法というのは、読者に奇談を納得させるための一つの技術である」と書いており、
有栖川先生は、「ここでいう探偵小説とは本格ミステリのこと」で、と追記した上で、
本格ミステリとは<論理仕掛けの奇談>なのだ、と。
有栖川先生は、辞書にない怪しげな日本語と言いますが、これほど的確な言葉は
ないでしょう。
『死者の輪舞』と同じ探偵役にもかかわらず、これほどまるで違う作品を編み出し、
かつ、この『毒薬の輪舞』の、見事なまでの伏線の張り方、手がかりの残し方、
それが泡坂作品群では佳作であると評されている、ある意味贅沢ですよね。
本書タイトルにこれをもってきたのは、有栖川先生にとって思い入れが相当強かった
のでしょうかね。
しかし和製クイーンである有栖川有栖を思うと、やはりエラリー・クイーン&バーナビー・ロス
の2作は外せませんね。
『Xの悲劇』と『ローマ帽子の謎』の解説は流石、同書は「これぞ不朽の名作」と冠されています。
個人的に、読みたいと思ったのは吉村達也先生の『[会社を休みましょう]殺人事件』。
同書のです・ます調に合わせて、解説も同じになっているのですが、
これが書かれた時代背景も合わせ、復刊した時代背景も合わせ、気になりましたねえ。
紹介されている作品はジャンル含め多種多様。解説を読んで、実際にその本を
読むというのも、本選びとして良いのでは。
一生に一度は読みたいミステリがここに。ファン必携のミステリ・ガイド!
クリスティー、クイーンなど、海外の古典的名作から、松本清張、綾辻行人、皆川博子、
今村昌弘など日本のミステリまで……。新しい才能への目配りを常に忘れない、
本格ミステリのプロフェッショナルが愛をこめて執筆した、国内外の名作に寄せた解説集!
優れたミステリ・ブックガイドとしても最適の1冊。単行本刊行後に新たに執筆した解説3本と、
杉江松恋との読書対談も加えた文庫増補版。
このタイトルは、泡坂妻夫『毒薬の輪舞』に付けられたタイトルです。
泡坂先生は「探偵小説とは探偵小説の技法を使って作られている小説」であり、
「その技法というのは、読者に奇談を納得させるための一つの技術である」と書いており、
有栖川先生は、「ここでいう探偵小説とは本格ミステリのこと」で、と追記した上で、
本格ミステリとは<論理仕掛けの奇談>なのだ、と。
有栖川先生は、辞書にない怪しげな日本語と言いますが、これほど的確な言葉は
ないでしょう。
『死者の輪舞』と同じ探偵役にもかかわらず、これほどまるで違う作品を編み出し、
かつ、この『毒薬の輪舞』の、見事なまでの伏線の張り方、手がかりの残し方、
それが泡坂作品群では佳作であると評されている、ある意味贅沢ですよね。
本書タイトルにこれをもってきたのは、有栖川先生にとって思い入れが相当強かった
のでしょうかね。
しかし和製クイーンである有栖川有栖を思うと、やはりエラリー・クイーン&バーナビー・ロス
の2作は外せませんね。
『Xの悲劇』と『ローマ帽子の謎』の解説は流石、同書は「これぞ不朽の名作」と冠されています。
個人的に、読みたいと思ったのは吉村達也先生の『[会社を休みましょう]殺人事件』。
同書のです・ます調に合わせて、解説も同じになっているのですが、
これが書かれた時代背景も合わせ、復刊した時代背景も合わせ、気になりましたねえ。
紹介されている作品はジャンル含め多種多様。解説を読んで、実際にその本を
読むというのも、本選びとして良いのでは。
アルファベット荘事件 [北山猛邦]
まずはAmazonさんの紹介ページから。
巨大なアルファベットのオブジェが散在する屋敷『アルファベット荘』。
岩手県の美術商が所有するその屋敷には、オブジェの他に『創生の箱』と呼ばれる
関わったものは死に至るという箱もあった。雪が舞う12月のある日、
そこで開かれるパーティに10人の個性的な面々が集う。
しかし主催者は現れず、不穏な空気が漂う中、
夜が明けると『創生の箱』に詰められた死体が現れて――。
売れない役者、変人にして小劇団の看板女優、そして何も持たない探偵が、
奇妙な屋敷の幻想的な事件を解き明かす!
当代きってのトリックメーカー・北山猛邦の、長らく入手困難だった初期長編が待望の復刊!
以下、ややネタバレ。
元々デビューが「城」シリーズであった北山先生。
大きな意味で「館」シリーズに連なる作品群ですが、本書はそれに見事に合致する
作品という印象を受けました。
東京創元社さんの復刊は流石です。
『創生の箱』のトリックはさておき(笑)、巨大なアルファベットのオブジェが何らかの
トリックに用いられているのは誰しも読んでいて、気付くはずです。
物理トリックとして、箱に死体を運ぶことが出来たのは誰か?=犯人である、という推理は
非常に鋭く見事。
ただ、箱そのものがどういう物なのか、これも絵入りで説明してほしかったなあ。
あとアルファベットの上を移動する、というのが結構事前にしていたとしても、
犯人としては、ヒヤヒヤだったろうなと。
さて、本作は本書のみでシリーズ化もしていないのですが、
それゆえに、より謎が深まる点も多いなと想いました。
単なる謎解き役=探偵役としての機能しか果たさない、と「あとがき」で北山先生も
言われている「ディ」。だからこそこの通称なのですが、
彼の記憶がなぜ無いのかとか、シリーズ化して掘り下げて欲しかったなあ。
プロローグで語られる少女と少年の話。登場人物でこの二人は誰なのか?というのも
楽しみの1つなのですが、
最後に、成長した少女が「不可能犯罪を必要としている人がいるの」という言葉は、
明らかに「ディ」との何らかの繋がりを示唆するものなので、余計に気になりました。
オーパーツ専門の探偵・春井もなかなかの曲者で、再登場してもらいたい。
というか、このオーパーツを鍵として、このシリーズ化をぜひ!
巨大なアルファベットのオブジェが散在する屋敷『アルファベット荘』。
岩手県の美術商が所有するその屋敷には、オブジェの他に『創生の箱』と呼ばれる
関わったものは死に至るという箱もあった。雪が舞う12月のある日、
そこで開かれるパーティに10人の個性的な面々が集う。
しかし主催者は現れず、不穏な空気が漂う中、
夜が明けると『創生の箱』に詰められた死体が現れて――。
売れない役者、変人にして小劇団の看板女優、そして何も持たない探偵が、
奇妙な屋敷の幻想的な事件を解き明かす!
当代きってのトリックメーカー・北山猛邦の、長らく入手困難だった初期長編が待望の復刊!
以下、ややネタバレ。
元々デビューが「城」シリーズであった北山先生。
大きな意味で「館」シリーズに連なる作品群ですが、本書はそれに見事に合致する
作品という印象を受けました。
東京創元社さんの復刊は流石です。
『創生の箱』のトリックはさておき(笑)、巨大なアルファベットのオブジェが何らかの
トリックに用いられているのは誰しも読んでいて、気付くはずです。
物理トリックとして、箱に死体を運ぶことが出来たのは誰か?=犯人である、という推理は
非常に鋭く見事。
ただ、箱そのものがどういう物なのか、これも絵入りで説明してほしかったなあ。
あとアルファベットの上を移動する、というのが結構事前にしていたとしても、
犯人としては、ヒヤヒヤだったろうなと。
さて、本作は本書のみでシリーズ化もしていないのですが、
それゆえに、より謎が深まる点も多いなと想いました。
単なる謎解き役=探偵役としての機能しか果たさない、と「あとがき」で北山先生も
言われている「ディ」。だからこそこの通称なのですが、
彼の記憶がなぜ無いのかとか、シリーズ化して掘り下げて欲しかったなあ。
プロローグで語られる少女と少年の話。登場人物でこの二人は誰なのか?というのも
楽しみの1つなのですが、
最後に、成長した少女が「不可能犯罪を必要としている人がいるの」という言葉は、
明らかに「ディ」との何らかの繋がりを示唆するものなので、余計に気になりました。
オーパーツ専門の探偵・春井もなかなかの曲者で、再登場してもらいたい。
というか、このオーパーツを鍵として、このシリーズ化をぜひ!