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鬼畜の家 [深木章子]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

我が家の鬼畜は、母でした―保険金目当てで次々と家族に手をかけた母親。巧妙な殺人計画、
殺人教唆、資産収奪…唯一生き残った末娘の口から、信じがたい「鬼畜の家」の実態が明らかにされる。人間の恐るべき欲望、驚愕の真相!第3回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞、
衝撃のデビュー作。

以下、ややネタバレ。





このところ深木さんのご著書を読むことが増えたので、
デビュー作から購入してみました。

本書は、元警察勤めの探偵が、北川家の生き残りの娘からの依頼により、
北川家関係者からの証言を集めていく、という構成。
生き残りの娘との会話以外では、探偵(榊原)は登場せず、
関係者の証言のみで大半が構成されているという、中々珍しい小説です。

というか、この構成そのものが大きなトリックでもあるんですよね。
個人的にこのトリックが最も秀逸。木の葉は森に隠せ、まさにこの言の通り。

タイトルの意味するもの、物語の最初と最後で大きく異なるのが印象的。
母親の郁江の最初の境遇などはひどいなあと思いますが、
その後の彼女の行動はまさに非道。
妹の養子縁組先の事件が一番衝撃を受けたなあ・・・

亜矢名と由紀名の、あのトリック。実際に上手くいくのかどうか、
そこがちょっと気になりました。

このタイトルで購入を躊躇っている方もおられるかもしれませんが、
ミステリ好きなら、ぜひ購入をお勧めします。


鬼畜の家 榊原シリーズ (講談社文庫)

鬼畜の家 榊原シリーズ (講談社文庫)

  • 作者: 深木章子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/05/09
  • メディア: Kindle版



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収穫祭 [西澤保彦]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

1982年夏。嵐で橋が流れ孤立した首尾木村で大量殺人が発生。
被害者十四名のうち十一人が喉を鎌で掻き切られていた。
生き残りはブキ、カンチ、マユちゃんの中学生三人と教諭一人。
多くの謎を残しつつも警察は犯行後に逃走し事故死した外国人を犯人と断定。
九年後、ある記者が事件を再取材するや、またも猟奇殺人が起こる。凶器は、鎌だった。

事件後、村や母の記憶を失ったブキは、東京の大学院を中退して帰郷し高校で英語を教えていた。
そこで起こった同僚の殺害。凶器は鎌。同一犯による連続殺人の再開か、模倣犯か?
母のポルノ写真から、ブキが記憶を取り戻し欲望を暴走させた時、
カンチ、マユちゃんと運命が再び交錯、事件から二十五年後、全貌を現す!殺人絵巻の暗黒の果て―



以下、ややネタバレ。
上下巻分冊でもものすごいボリュームの長編です。全5部構成。
とにかく唐突に始まる大量の猟奇殺人の第一部。豪雨で橋が崩れ落ち、逃げ場を失う
3人の中学生、伊吹省路、小久保繭子、空知貫太。
犯人は誰なのかを恐怖の中突き止めようとする中、
伊吹の想像上の欲望(性的欲望)が生々しく描かれるのが特徴。
伊吹がみせた繭子への性的暴行未遂に、繭子がなんら反応を示さなかったのが、
本作の真実を垣間見せた一場面なのかもしれません。

第二部は繭子の章。事件から9年を経て、第一部で犯人とされていたマイケル・ウッドワーズ
の父親が、息子が本当に犯人だったのかの再調査が始まります。
最初に接触があったのが繭子。
ただこの第二部。繭子自身は第二部最初から事件の記憶欠落と改変に陥っており、
徐々に本当の記憶を取り戻していくというストーリーになっています。

繭子の特殊な性癖が明らかになるところが事件解決の鍵でもあるのですが、
結末があまりにも突飛すぎるので、唖然としました。なんだこのラストは・・・
一体次にどう繋がるのか想像つかない終わり方です。
一方、第一部にも登場した彼彼女らの中学校の教師であった川嶋浩一郎が
真犯人として浮上しますが、彼自身は最期まで否定。
伊吹への性的暴行や、繭子への未遂含め、彼は相当悪なんですが、では犯人は?

実は犯人はもうこの段階で消去法的にわかるようですが、私にはさっぱりでした(汗)
で、第二部はあまりに唖然とするラストでもあり、第四部での事件にも繋がっていくのです。

第三部は、伊吹省路が主人公。伊吹もやはり記憶の欠落と改変に陥ってますが、
母親の従兄弟が彼の前に現れたことにより、彼の時間も再び動き出します。
再び起こる鎌による放火連続殺人。模倣犯なのか、それとも首尾木村での犯人の仕業なのか?
このあたりの謎も加わり、さらに伊吹は自分の知らなかった母親と祖母の顔を知ることに。

繭子もそうなのですが、伊吹も元々少し特殊な性癖をもっていたのでしょう。
そうした場面も度々描かれます。しかし、彼の推理は実に見事で、当時母と祖母が何を
していたのか、さらには模倣犯の正体も突き止め、二人で繭子へのメッセージを
ネットへ書くところで第三部完。
というか、ここまでわかっていて、どうして真犯人の狙いにまで行き着かなかったかは甚だ疑問
なのですが、それは省路の、彼女のへの募る想いが眼を曇らせてしまったのかもしれません。

第四部は、真犯人による、本当に殺したい人を殺す話。
この部は壮絶です。自分の子であるとか、そんなものはお構いなし。
第二部で覚醒(真の目的を思い出した)彼女が、真の標的を殺すのですが、
それまでの準備があまりにも周到というか、ここまで時間をかけるのかという凄さ。

第五部は、表題作の意味の回収と、彼女がこんな事件を起こしてしまった動機を
垣間見ることができる部。
正直、このタイトル回収はともかくとして、動機の部分というか、
村の嫌な部分がもう少し見えても良かったのではと思います。

それと、最期は三人が再び出会う、が良かったかなあと。それがバッドエンドであろうとも。


収穫祭〈上〉 (幻冬舎文庫)

収穫祭〈上〉 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 西澤 保彦
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2010/10/08
  • メディア: 文庫



収穫祭〈下〉 (幻冬舎文庫)

収穫祭〈下〉 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 西澤 保彦
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2010/10/08
  • メディア: 文庫



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福家警部補の追及 [大倉崇裕]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

善良な”犯人たちの完全犯罪に隠された綻びを、福家警部補はひとり具に拾いあげながら
真相を手繰り寄せていく――。未踏峰への夢を息子に託す初老の登山家・狩義之は、
後援の中止を提言してきた不動産会社の相談役を撲殺、
登り慣れた山で偽装工作を図る(「未完の頂上」)。
動物をこよなく愛するペットショップ経営者・佐々千尋は、
悪徳ブリーダーとして名を馳せる血の繋がらない弟が許せず、
遂には殺害を決意する(「幸福の代償」)。――
ふたりの犯人を追い詰める、福家警部補の決めの一手は。
「刑事コロンボ」の系譜に連なる倒叙形式の本格ミステリ、シリーズ初の中編2編からなる第4集。

以下、ややネタバレ。






シリーズ初となる中編集ですが、倒叙ミステリは、犯人をいかに追い詰めていくのかを、
丁寧に丁寧に、それでいて、読者へは少し隠すという中々難しい叙述を求められるのです。

かつて刑事コロンボのノベルズ版(二見書房刊)が、ほぼ全て長編で刊行されていたように、
本来は長編向きのスタイルなのかもしれません。

本書に収められtた2編は、いずれも犯人側としては、他に取りようがないため
殺人を犯しますが、犯人の思惑は関係なく、福家の捜査は常に不変。

「未完の頂上」は、犯人を追い詰めるのに、犯人に最も親しい、そして守りたい人物を
攻めるという、今までのシリーズとは少し違う方式です。
むろん、福家は犯人の自白を見据えてでしょうが、仮に犯人を追い詰めるとしたら、
他に方法はなかったかなあ・・・と少し考えてしまいました(笑
基本は理詰めで来ているので、福家にしては珍しく情で最後は来たなと言う。

ところで本作では、福家が山登り・ボルタリングでも異常な凄さを発揮したり、
彼女のとの会話や、彼女の何気ない一言で、接した人物たちに良い変化が訪れる
場面が描かれます。
ここは賛否両論あると思いますが、福家を完璧な探偵にしつつある感もあって、
もっと抜けている感を出してもらっても良いのでは、と思いました。

その点、「幸福の代償」では犬が苦手という得手不得手が描かれているのが好印象。
本作は「犬が鳴かなかった」という一点から、一気に事件を再構成していくのが見事。
動物が登場ということで、あの須藤警部補が再び登場!薄巡査は研修だそうです。
薄巡査と福家のコラボはいつ読むことができのか、楽しみで仕方ない(笑
ラストの犯人の追い詰め方も、私はこちらの方が断然好きですね。

読んでいる時間は実に至福でした。続編も楽しみにしています。


福家警部補の追及 福家警部補シリーズ (創元推理文庫)

福家警部補の追及 福家警部補シリーズ (創元推理文庫)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/05/20
  • メディア: Kindle版



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花嫁をガードせよ! [赤川次郎]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

女性警察官の西脇仁美は、命を狙われていた政治家の蔵本をかばい撃たれてしまう。
その現場に偶然通りがかった女子大生の塚川亜由美と愛犬ドン・ファンによって
一命をとりとめるが重傷を負ってしまい、それが原因で婚約破棄になりそう。
命がけで捕まえた犯人だが、取り調べ中に自殺をしてしまい―。
大人気シリーズ第31弾!(「花嫁は日曜日に走る」を併録)

花嫁シリーズもついに31作目とは。
赤川先生のシリーズはどれも息が長いですね。
ただ、個人的に「九号棟の仲間たち」や「1億円もらったら」など、
もう終了してしまったシリーズの方に好きなものがあったりするんですよね(苦笑
「1億円」は現代社会では、どういう描かれ方をするのか読んで見たいところです。

本作では珍しく亜由美の恋人である谷川准教授が登場。とはいっても冒頭だけなんですが。
表題作は政治への風刺。蔵本のような政治家が、今の日本にどのくらいいるでしょうか?
黒幕が具体的に描かれていないのと、ラストはこれからだ!的な感じで終わっているのが、
赤川先生らしい。今の日本は本作をハッピーエンドで描けないともしかしたら
感じているのかもしれません。

「花嫁は日曜日を走る」はオリンピックへの痛烈批判。
花嫁は主人公ではなく、途中から出てくる神西みどり、になるんでしょうか?
それにしても教員である松永の動機がすごい。
昨今の教員の不祥事ニュースから考えると、このくらいの教員はもしかしたらわんさか
居るのかもしれません。むろん真面目でまともな方々が大半でしょうが。
この場合ドン・ファンは吠えただけなので、特に罪には問われないんでしょう(笑

しかし、そろそろ原点回帰的なミステリ色の濃い花嫁シリーズも読みたいですね。
「紙細工の花嫁」、「迷子の花嫁」なんかも良かったです。
あと、表紙絵は前の方が良いです!


花嫁をガードせよ! (実業之日本社文庫)

花嫁をガードせよ! (実業之日本社文庫)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2020/06/05
  • メディア: 文庫



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迷子の眠り姫 [赤川次郎]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

体育祭に備えてクラス対抗リレーの練習に出かけた昼下がり、誰かに川に突き落とされ、
「あの世」に行きかけた高校一年生の笹倉里加。病院で目を覚ますとなぜか
不思議な力がそなわっていた!自分の背中を押した犯人の正体、家族や友達に迫る危機に、
不思議な力が味方する!?異色の青春ミステリー長篇。

少しの間でも「あの世」を見てしまったことで、何か不思議な力を
手に入れた、主人公の笹倉里加。
その能力とは、遠くにいる友人やその周囲の行動・会話を聞く事ができる場所に
居たりする、なんとなく幽体離脱に近い感じもありますね。
しかし、彼女を救ってくれた祖母から、能力のことを話さないよう言われていて、
彼女自身は、気になった、感じたという表現でぼやかしています。

彼女の周囲で(自分の家庭を含め)起こる様々な問題は、彼女が力を
手に入れる前から起きていたものでした。
その問題を力で知ることができることで、彼女なりにそれらをうまく解決に
導いていく、というのが大まかな流れです。
しかし、彼女の性格から考えると、おそらくそんな能力が無くても、
自分他人関係無く、問題を精一杯解決していこうとするでしょう。

この物語の核心は、彼女の能力にある訳ではありません。
話が進むにつれて、彼女と徹の関係、また親友との関係に変化が生じてくるのですが、
このあたりが赤川さんが描きたかったとこなのだろうと、勝手に思いました(笑)。

「私、特別な力をもってるなんてうぬぼれてたけど、親友の気持ちもわからなかった」と
いう台詞は、「恋心」という物語後半の核の中、彼女自身が言うことで
非常に深いものがあります。

家族が崩壊しようとしたり、麻薬の密売にかかわったり、赤川作品の主人公(女子高生)
たちは、本当に理不尽な境遇ですが、その中で強さや弱さも垣間見えているところが、
なんとなく読者の共感を得るのかもしれません。



迷子の眠り姫-新装版 (中公文庫)

迷子の眠り姫-新装版 (中公文庫)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2020/03/19
  • メディア: 文庫



迷子の眠り姫 (C★NOVELS)

迷子の眠り姫 (C★NOVELS)

  • 作者: 赤川次郎
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2012/12/19
  • メディア: Kindle版



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改訂完全版 毒を売る女 [島田荘司]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

娘は名門幼稚園に入り、家も手に入れた。医者である夫の仕事も順調で、
全てがうまくいっているはずだった。あの女があんな告白をするまでは―。
人間が持つ根源的な狂気を描いた圧巻の表題作をはじめ、
御手洗潔シリーズの傑作「糸ノコとジクザグ」からショートショートまで、
著者の様々な魅力が凝縮した大充実の傑作短篇集!


以下、ややネタバレ。


表題作は、大道寺靖子の行動が若干支離滅裂。
いや、パニックになっているのはわかるんですが、ひたすら手作り料理を
持ってくるより、状況を理解して、早く伝えればいいのになあ、と。
それにしても、梅毒ってのはこんなに恐ろしい病なんですね。
今は薬で良くなると思っていましたが、いや現代は治るんですかね?

オススメは「渇いた都市」。最初の場面は最後に繋がるのですが、
偶然てのは恐ろしいのと、完全犯罪というのはやはり難しいという。
田中昴作というか、遊んでない男性が女性に嵌まってしまうのは、良くあるんだろうな・・・
しかし、どうでもいい見栄を張るのはよくわかりませんね。

「バイクの舞姫」は、結局妹の存在も幻だったということなんでしょうか??
あくまで美術館へ彼を導くためだけの存在だったのか。ちょっと謎が残る結末でした。

「糸ノコとジグザグ」は、あの御手洗潔が名前は出ませんが登場します。
あんなトリッキーな人は、彼しかいないでしょう。
演説先生として紹介されていますが、肝心の事件解決の際は、
眠かったので、結論だけ述べたという(笑

「土の殺意」には、御大の双璧をなす吉敷竹史が登場。
これは今でもあり得る話で、固定資産を保有している方々は、
どう節税していくか、本当に悩むところですね。

御大には、短編集をそろそろ刊行してほしいですね。
御手洗潔のダンス、メロディ、挨拶、追憶と刊行されていますが、
ぜひ最新作は御手洗潔の短編集をお願いします。


改訂完全版 毒を売る女 (河出文庫)

改訂完全版 毒を売る女 (河出文庫)

  • 作者: 荘司, 島田
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2020/06/26
  • メディア: 文庫



毒を売る女 (光文社文庫)

毒を売る女 (光文社文庫)

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2017/02/24
  • メディア: Kindle版



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あなたは誰? [海外ミステリ]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

「ウィロウ・スプリングには行くな」匿名の電話の警告を無視して、
フリーダは婚約者の実家へ向かったが、到着早々、何者かが彼女の部屋を荒らす事件が起きる。
不穏な空気の中、隣人の上院議員邸で開かれたパーティーでついに殺人事件が…。
検事局顧問の精神科医ウィリング博士は、一連の事件にはポルターガイストの行動の
特徴が見られると指摘する。本格ミステリの巨匠マクロイの初期傑作。

またちょっと間隔が空いてしまいました。
以下、ややネタバレ。






原題は「どちらさまですか?」という、電話を受けた際に言う言葉だそうです。
この原題・邦題が表す意味こそ、本作で描かれる事件の核心を見事に突いているのですが、
それは、この核心が明らかにされない限り、まずわかりません。

そして、異常なまでに容疑者が少ないのも、マクロイの特徴です。
フレイはなぜ脅迫されているのか?なぜウィンチェスターが殺害されたのか?
マキシム・ルボルなる、謎の人物の正体は?
ウィンチェスターが狡猾な恐喝犯であることが明らかになっても、事件の全体像は
まるで見えません。まさに霧の中。

しかし、本事件に隠された、上記の核心をウィリング博士が指摘することで、
漠然とではありますが、その核心(「副人格」)が何らかの動機を持っているんだろう、
という所まではわかりますが、ところが私にはその先はとても行き着かず。

容疑者の描かれ方もこれまた上手くて、それぞれが自分らしく生きているかといえば、
そうではない。どこかやりたくはないけれども、やっているという、意志に反した
行動を取る者や、自分の感情を抑えつけている者等々・・・
核心をウィリング博士が明らかにすると、誰もがもしかしたら自分ではないか?
と疑い出すのです(第十章 誰も眠れない)。

副人格、つまり多重人格が本書のテーマなのですが、それを本格ミステリに
用いるというのは、謎解きをメインとする小説ではアンフェアではないのか?
という意見もあるのではないかと思います。
ところが、本書はこの多重人格を扱いつつも、事件の真相そのものは
大どんでん返しといっても過言ではありません。
フレイが受けた脅迫、ウィンチェスターの殺害、これらが一気に反転し、
物語は終幕を迎えます。
かなり悲しい結末なのですが、一つだけ、アーチ-とエリスが幸せになるのが
救いでしょうか。
この反転も見事ですが、犯人の決め手となるある事実をウィリング博士が
看破するのですが、これが秀逸。それだけでも傑作といっていいでしょう。

ところで、アーチ-とウィリング博士は親しく、そして敬語も特に使わず
会話をしているのですが、同じくらいの年齢なんでしょうかね。
今までウィリング博士シリーズを読んできましたが、
「新弁護士ペリーメイスン」のレイモンド・バーを勝手に投影していました(苦笑)。
まだ初期の作品なので、結構若い頃なのかなあ。


あなたは誰? (ちくま文庫)

あなたは誰? (ちくま文庫)

  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2015/09/09
  • メディア: 文庫



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夜会 [赤川次郎]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

川で溺れている男の子を助けた水泳世界大会金メダリストの沢井聡子。
そのお礼にと少年の母親に招かれ贅沢な夏休みをすごしていた。姉に早く戻るよう言われるが、
数日後に迫る男の子の誕生会までは居ることに。一方、友人の焼身自殺の真相を追う
高校生の佐山清美はあるパーティに参加することになった。
それは聡子が助けた少年の誕生会だった。二人が目撃した「夜会」の真実とは?

このところYoutubeサーフィンしていて、本をあまり読んでません(笑
本書も結構前に読了したもの。

以下、ややネタバレ。




この「夜会」、昔読んだ記憶があります。
特にクライマックスはよく覚えていて、さて何で読んだのだろう?と。
Amazonで調べると、本書は徳間書店からしか刊行されていないようで、
おそらくトクマノベルズを購入したんだと思います。
当時は文庫でなく、新書版も積極的に購入していたのです(笑)。

再読になるのですが、本書は内容(結末)的にはホラーに分類されるのだと思います。
ただ、それ以上に、突然有名人(主人公の沢井聡子は当時全然注目もされておらず、
無名だったのにもかかわらず、金メダルを取る快挙を成し遂げています。)に
なった主人公やその周辺に訪れた大きな変化が主題なんでしょう。
最後に、亡くなった間宮しのぶ(の幽霊?)から、「人生のピークは、一つだけじゃありませんよ」
と諭されたこともあり、考えを改めることができました。
しかし、唐突に変わってしまった環境で、自分や周囲も突然変わってしまうことへ
簡単に対応できる人はいないでしょう。沢井家は結果的には悪い方へ変わってしまったのです。

また奇妙な植物が敵(?黒幕)として登場するのは、次の文からその理由がわかります。
252頁「柳田も父も「聡子」から養分を吸い上げて生きてきたようなものだ-人の心の中にも、
あの植物は根を張っているのかもしれない。」
本当はあんな奇妙な生物は居らず、人間が生み出した欲の塊みたいなものだったのかも
しれないという、ちょっと突拍子もない考えまで浮かんでしまいました。
しかし赤川さんは上手いですねえ。ホラー小説なんだけども、人間社会とうまく関連づける
というか、人ごとではないんだよ、というのを描くのが実にうまい。流石です。


最後に気になった点。姉の初子は元に戻ったんでしょうか?
明らかに倉田のせいであちら側に行ってしまった描写があったんですが・・・
彼らが消滅したことで、その効果も消えたのでしょうね。



夜会 <新装版> (徳間文庫)

夜会 <新装版> (徳間文庫)

  • 作者: 赤川次郎
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2020/05/12
  • メディア: 文庫



夜会 (徳間文庫)

夜会 (徳間文庫)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2020/06/21
  • メディア: 文庫



夜会 (トクマ・ノベルズ)

夜会 (トクマ・ノベルズ)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2020/06/21
  • メディア: 新書



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消人屋敷の殺人 [深木章子]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

明治初頭、日影一族の棟梁の隠居所だった武家屋敷が官憲に包囲されたが、一族は忽然と姿を消した。
奇怪な伝承に彩られ、断崖絶壁の岬の突端に建つこの館を人は「消人屋敷」と呼ぶ。
ここに隠遁する覆面作家を訪ねた女性編集者が失踪、三ヵ月後、謎の招待状で五人の関係者が集まった。嵐で巨大な密室となり、また不可解な人間消失が起こる。
読者を挑発する本格ミステリ長篇、驚愕の結末!

ちょっと日にちが空いてしまいました。
『猫には推理がよく似合う』以来の、深木章子先生の作品です。
タイトルに惹かれて購入。
以下、ややネタバレあり。



屋敷の名称にまつわる日影一族の伝説は、そんなに大した話ではなく(失礼!)
まあ、そうだよね、という位でしょう。
それよりも、もう一つの「消人」の意味の方が面白いですね。
単に当主がサディストだったのか、それとも空を目指したのか・・・
新城の推理が正しければ、後者になりますが、果たして?

肝心の屋敷で起こった殺人事件ですが、ここは叙述トリックで、
うまく騙しをいれてます。
しかし、最後に新城誠が、新城篤史と幸田淳也のある関係を真っ向から否定した場面が
あるのですが、そうすると、暗闇の屋敷の一間で、
二人で過ごした場面がどうもしっくりこないんですよね・・・
これも結局謎のまま。ただし、誠の否定は篤史が消人屋敷に住む前の篤史、の認識なので、
彼らの生活がどうであったかは、実は物語に描かれた場面から想像するしかないのですが。

これを読んで、講談社文庫の深木章子先生の作品も購入してみました。


消人屋敷の殺人 (新潮文庫 み 64-1)

消人屋敷の殺人 (新潮文庫 み 64-1)

  • 作者: 深木 章子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/04/25
  • メディア: 文庫



消人屋敷の殺人

消人屋敷の殺人

  • 作者: 章子, 深木
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/10/20
  • メディア: 単行本



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サーチライトと誘蛾灯 [櫻田智也]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

虫オタクのとぼけた青年・魞沢泉(えりさわせん。)。
昆虫目当てに各地に現れる飄々とした彼はなぜか、
昆虫だけでなく不可思議な事件に遭遇してしまう。
奇妙な来訪者があった夜の公園で起きた変死事件や、
〈ナナフシ〉というバーの常連客を襲った悲劇の謎を、
ブラウン神父や亜愛一郎に続く、
令和の“とぼけた切れ者"名探偵が鮮やかに解き明かす。
第10回ミステリーズ!新人賞受賞作を含む連作集。


以下、ややネタバレ。


この作品集はすごい。傑作です。久しぶりに早く続編がものすごく
読みたくなりました。
泡坂妻夫御大の作風・衣鉢をここまで見事に継ぐことができる作家さんが
居るとは思えませんでした。泡坂ファンとしては素晴らしいの一言に尽きます。

あとがきでご本人は電車の中で泡坂先生に偶然お会いしたエピソードが語れていて、
それがまたよいのです。
そして解説でも泡坂作品への事は触れられていますが、米澤穂信先生の「初めて読んだ」
という感想は、御大の衣鉢を継ぐことができる方など、これまで居なかったことを
示しています。

探偵役を(図らずも)務める魞沢泉と、各物語に登場するキャラクターとの会話は、
まさに亜愛一郎が繰り出す、筆者の言う「とぼけたセリフの応酬」!
表題作の、最初の吉森との会話など、一体なにを言っているのかと思う始末でした(笑

しかし、これらの会話や、魞沢の行動そのものが、突拍子に見えて、
各物語で起こる事件の真相を見抜いていく行為そのものなのです。
もっとも、突拍子もない行動だけの場合もありますが・・・

出てくる言葉も、亜作品に近い。「ホバリング・バタフライ」で登場する
アマクナイ岳、アマクナイ倶楽部というとぼけた名称など、その最たる一例でしょう。

本書の中でも群を抜いているのは、第71回日本推理作家協会賞候補作となった
「火事と標本」でしょう。
兼城譲吉の旅館に泊まっていた奇妙な客人、火事現場で偶然落ち合ったため、
冷えた体を温めるため、銚子をやろうといったのに、拍子木と聞き間違える抜けた客。
火事と、その奇妙な客が興味を示した標本から、兼城は標本をくれたある人物と、
それにまつわる事件の話をするのですが・・・

この話、奇妙な客(最後まで名前は出てきませんが、魞沢ですね)の推理は、驚愕です。
放火しての心中事件であるということに違いはないものの、真の動機は違うのだという
魞沢の推理、そこで明かされるのは、昆虫標本を惹起させるもので、見事な推理で
ある一方、悲しさと恐ろしさも兼ね備えています。
この物語が傑作なのは、この先。二ツ森祐也の行動から、兼城は、祐也が自身の残酷さから
絶望したという解釈は、決して間違ってはいないのでしょう。
それはなぜ写真を残したのかを含めて、です。

最終話の「アドベントの繭」も、犯人を突然指名する魞沢の推理は、
見事としか言いようがありません。
ただこの事件はあまりに悲しすぎる。そして魞沢のとぼけた一面と全く違う一面が
垣間見え、他の物語とは一線を画してる印象を受けました。

読むのが楽しみな作家さんが増えるというのは、有り難いことです。
問題は本の置き場がどんどん無くなるくらいですが(苦笑


サーチライトと誘蛾灯 (創元推理文庫)

サーチライトと誘蛾灯 (創元推理文庫)

  • 作者: 櫻田 智也
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/04/20
  • メディア: Kindle版



サーチライトと誘蛾灯 (ミステリ・フロンティア)

サーチライトと誘蛾灯 (ミステリ・フロンティア)

  • 作者: 櫻田 智也
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/11/13
  • メディア: 単行本



サーチライトと誘蛾灯 ミステリーズ!新人賞受賞作

サーチライトと誘蛾灯 ミステリーズ!新人賞受賞作

  • 作者: 櫻田 智也
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2013/10/11
  • メディア: Kindle版



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異邦の騎士 改訂完全版  [島田荘司]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

失われた過去の記憶が浮かびあがり男は戦慄する。
自分は本当に愛する妻子を殺したのか。
やっと手にした幸せな生活にしのび寄る新たな魔の手。
名探偵御手洗潔の最初の事件を描いた傑作ミステリ『異邦の騎士』に
著者が精魂こめて全面加筆修整した改訂完全版。
幾多の歳月を越え、いま異邦の扉が再び開かれる。

以下、ややネタバレ。





『ネジ式ザゼツキー』でも記憶喪失の人物が物語の鍵を握っていました。
そして、その頃の御手洗潔は、脳科学の研究者として
スウェーデンにて教鞭をとっていました。
偶然なのか、必然なのかは別として、御手洗潔シリーズ真の第1作で、
記憶喪失の人物が主人公であり、彼の記憶を解きほぐしていくのが
御手洗潔であるというのは、感慨深いものがあります。

主人公は偶然出逢った石川良子を彼女のヒモから助けることで、
彼女の引っ越しを手伝い、そして一目惚れし、彼女との共同生活が始まります。
良子から「石川敬介」と名前をもらい、近くの工場で働くことに。

自分が天秤座であることになぜか確信した敬介は、
「御手洗潔占星学教室」の門を叩くと、そこには・・・
「名前など記号ですよ!」などと突然ハイテンションで喋る男が。
異常に不味いコーヒーを出す。その男・御手洗潔こそ彼の記憶を呼び覚ましてくれる人物の1人だったのです。

この出会いは「敬介」にとって強烈な印象を残していて、読者にも強烈な印象を
与えてます。まさに正真正銘、これが御手洗だと私は思いました(笑

「敬介」は良子とともに御手洗の元を訪れますが、良子は『便所ソウジ』という
御手洗のあだ名話に爆笑しつつも、彼の元を訪れることを暗に拒否しています。
すでに良子には、彼が真実を解き明かす人物であることがひょっとしたら
なんとなくわかっていたのでしょうか。

「敬介」は免許証から自分の本名が「益子秀司」であることを御手洗に伝え、
自分の記憶喪失についての相談も持ちかけます。
御手洗は君は再生障害だと言い、長々と説明しますが、ここにも彼が後に
脳科学研究者となる片鱗を魅せてくれます。
そしてこの場面には、後に御手洗の推理の重要なピースにもなる
ある男も登場します。

自分が誰なのか知るために、免許証へ記された「西尾久」へ向かい、
アパートの住人からさらに情報を得る秀司。
そして、墨田区の一軒家へ赴き、自分には「千賀子」と「菜々」という妻子が居たことを知るのです。
文庫版223頁からの、「千賀子と秀司の日記」の内容は壮絶でした。
読んでいてもあまりの極悪非道ぶりに読むのも辛かったですが、
この手記により、秀司は井原へ復讐を誓い、いざナイフで刺そうとしたところに、なんと良子が現れ、彼女を刺してしますのです・・・

この後、御手洗が登場し、怒濤の展開が続きます。
「いい質問だよ益子君、狂人の夢想では、あそこで君を待てない。これこそ推理というものだよ」
「僕はいつも思うんだ。クイズは、作るより解く方が何倍もやさしいんだ。(中略)古今東西、巧妙な犯罪や事件に真の芸術家がいるとすれば、それはホームズやポアロなんてやからじゃなく、その犯罪を計画し、実行した勇気ある犯人たちだよ。」
これは御手洗の言葉ですが、読んでいて好きなんですよねえ。
推理というものを自身でしつつも、解くよりも考えた人間を褒める。
そしてこの事件でも、天才はただ1人、そう真犯人の名前を彼は挙げるのです。

この御手洗の(時間は空きますが)推理の過程で、「敬介」は様々な感情を御手洗にみせます。
そして、最後に彼の本名が明らかになるときは、本当に衝撃です。
本書を読んだ後、「占星術殺人事件」や「斜め屋敷の犯罪」を読むと、
本書の「敬介」と、その後の彼は同一人物なのか。
本書最後には彼自身がこの事件を振り返る場面がありますが、
御手洗をドン・キホーテと称し、最後に鉄の馬に乗り、颯爽と夜の荒川土手に現れ、とも表していて、彼にとって、御手洗が「異邦の騎士」であるかのような描写です。
しかし、石川良子にとっては、「敬介」こそが「異邦の騎士」だったのです。

ところでこの事件の計画は、最初から綿密に練られていた訳ではなく、
彼の実際の住所と秀司の住所が近似していたという偶然と、彼の鏡を見ることができないという恐怖症の2つから、真犯人が急遽計画したもので、これはまさに天才的な仕掛です。
しかし、記憶が呼び覚まされる可能性もあった訳で、非常に危ない橋を渡っていたともいえます。
ところが、危ない橋というのは真犯人たちの計画が挫折するだけで、最後に犯人が語ったように、
自分自身に火の粉がふりかかることはないという、絶対的に安全な場所を
確保していたというのも、この仕掛けの見事な点でしょう。

ものすごく気になったのは、改訂版前の『異邦の騎士』です。
これはぜひ読んで見たい。
御手洗の天才的な推理や閃きは、『占星術』や『斜め屋敷』と比較すれば、
劣るかもしれません。
しかし、本書は推理小説と恋愛小説の両面を兼ね備え、現在の御手洗シリーズへの繋がりが非常に垣間見え、何より、ホームズ役&ワトソン役の最初の出会い(ネタバレですね)でもある本作は、御手洗ファンのみならず、今更ながらミステリファンにもぜひ読んでほしい一冊。



異邦の騎士 改訂完全版

異邦の騎士 改訂完全版

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1998/03/13
  • メディア: 文庫



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素敵な日本人 [東野圭吾]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

一人娘の結婚を案じる父に、娘は雛人形を指差して大丈夫という。
そこには亡き妻の秘密が……。(「今夜は一人で雛祭り」) 独身女性のエリーが
疑似子育て体験用赤ちゃんロボットを借りたところ……。(「レンタルベビー」)
世にも珍しい青色の猫。多くの人間が繁殖を目論むが……。(「サファイアの奇跡」)
日本人に馴染み深い四季折々の行事を題材にした4編と、異色のミステリ5編を収録!

以下、ややネタバレあり。








東野圭吾さんの作品は『恋のゴンドラ』以来なので、久しぶりといえば久しぶりなのですが、
ここ数年はノンシリーズ長編が多かった印象もあり(そちらはほとんど未読)、
短編集しかなんとなく購入しなくなったような感じになってますね。
もっともガリレオシリーズは継続して読んでいるので、こちらは楽しみなのですが。

「レンタルベビー」は、現在の世の中にも取り組んでいい政策だと思います。
虐待のニュースが日々変わらず流れる中、こんなことができればそうした悲しい
ニュースも減るのかなあと。
しかし、本作は最後であっと驚かせる手法で、もしかしたら遠くない未来に、
平均寿命が100歳以上ということもあるのかも(笑
そんなに生きたくないような気もしますが。

ミステリ色が強いのは「十年目のバレンタインデー」
津田知理子の、犯人の追い詰め方が素晴らしい。男性なら引っかかります。
彼女の執念の捜査が実った結果です。

そしてもう一編が「壊れた時計」。
計画殺人でも、完全犯罪でもないですが、人間とっさの時は思考が中々上手くいかないもの。
時計の時刻があまりにも偶然だったのが、犯人にとって最悪の偶然でした。
しかし、この犯人、いくら唐突であっとしても、顔を見られるような行為を平然と
するのが抜けすぎてますね。

「クリスマスミステリ」は逆完全犯罪とでもいうのでしょうか。
黒須が本当の事を話せば殺人未遂、そのまま黙秘すれば殺人罪。
どちらにせよ、役者生命は絶たれるし、彼はどちらを選択したのか・・・

「サファイアの奇跡」と「水晶の数珠」はほっこりする物語。
前者は未玖とイナリの再会が良いですねえ。

時折こうした短編集、ぜひお願いします。
いや、まずは「○○小説」の続編を!



素敵な日本人 (光文社文庫)

素敵な日本人 (光文社文庫)

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2020/04/14
  • メディア: 文庫



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大癋見警部の事件簿リターンズ 大癋見 vs 芸術探偵 [深水黎一郎]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

「警視庁最悪の警部」が帰ってきた!本格ミステリーの“お約束"をことごとく
踏み荒らしてきた大癋見警部の、今度の獲物は芸術の世界──名画、名筆、名曲をめぐる事件に、
今度はあの「芸術探偵」も参戦。難事件をさらに難解にする混沌の世界に、
もはや読者も悶絶!?ミステリーへの強すぎる愛と、芸術への深すぎる造詣が
生み出す笑撃の作品に瞠目せよ!

ちょっと更新に間が空いてしまいました。
ステイホームも中々疲れますね。

さて、本書は先輩格(?)である大貫警部を超えたとの呼び声も高い(笑)
大癋見警部シリーズ第2弾。
本書では、元々レギュラーキャラクターとして登場していた本家本元の
芸術探偵・神泉寺瞬一郎もなんと登場。逆輸入でしょうか?

私の好きな大貫警部の系統ですが、その傍若無人ぶりは初期の大貫を惹起させますねえ。
井上・向井直子という抑え役がいるシリーズと比較すると、
こちらは、海埜警部補がその役を一応担っているものの、
館林刑事や日野鑑識課長など、他のメンバーも個性的揃い。
万渡目刑事・・・論点整理には役立ちます!(笑

個人的に愁眉は「大癋見警部殺害未遂事件」
誰の持ち物かはわからないものの、「大癋見警部はコロス」というメモ書きが。
これに激怒した警部は殺人予備罪で捜査を始めるという、さすがに自分が殺されると
なると、捜査にも力が入りますw
この話、ものすごく短編で、その真実も芸術探偵が登場している事が考慮されてますが、
犯人(?)の館林が堂々としたもので、逆に笑います。

それからある意味社会風刺にも読める「指名手配は交ぜ書きで」。
常用外漢字を使用している様々な用語、それを漢字で記さず、「平仮名」で記すのが
交ぜ書き、です。
警部の物知らずさが発揮される事件なのですが、さすがは強運の持ち主。
見事に取り調べで犯人の名前を的中させ、所轄の刑事諸氏を驚かせます。
しかし、警部をもしかしたら馬鹿にできないのでは・・・と思ってしまう自分もいて、
その意味で、この話は社会風刺でもあるような気がしますねえ。

肝心の芸術探偵には一切触れてないのですが(苦笑)
「ピーターブリューゲル」の事件は相当混乱しますw
芸術探偵・神泉寺もまあ名探偵なのかもしれませんが、変人型なのか、
芸術となるとそちらに行ってしまうようで、警部との会話でさらに混乱。
事件自体はかなりおもしろいので、こちらもオススメです。

個人的な想いとして。
大貫警部にも多くの部下が登場し、こうした物語がまた登場すると良いなあと。


大べし見警部の事件簿 リターンズ 大べし見VS.芸術探偵 (光文社文庫 ふ 26-2)

大べし見警部の事件簿 リターンズ 大べし見VS.芸術探偵 (光文社文庫 ふ 26-2)

  • 作者: 深水 黎一郎
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2020/04/14
  • メディア: 文庫



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ネジ式ザゼツキー [島田荘司]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

記憶に障害を持つ男エゴン・マッカートが書いた物語。そこには、蜜柑の樹の上の国、
ネジ式の関節を持つ妖精、人工筋肉で羽ばたく飛行機などが描かれていた。
御手洗潔がそのファンタジーを読んだ時、エゴンの過去と物語に隠された
驚愕の真実が浮かびあがる!圧倒的スケールと複合的な謎の傑作長編ミステリー。

GW中はたくさん本を読もうかと思い、そういえば御手洗潔シリーズで
長編ものはあまり読んでいないなと思い、購入したうちの1冊です。

本書はすでに御手洗が横浜を離れ、スウェーデンのウプサラ大学で教鞭を取りつつ、
脳科学の研究を行っています。
そこへ現れたのが、エゴン・マーカットという記憶に障害を持った人物。
彼の失われた記憶を物語るのは、彼が書いた小説『タンジール蜜柑共和国への帰還』のみ。

御手洗がこのファンタジー小説の記述から、その中の事項と、現実の事実とを
次々と結びつけていくところは流石です。
物語後半の「フランコ・セラノ、ネジ事件」では、担当したラモス刑事との対話から、
この事件の真相に迫っていくのですが、なぜ遺体にネジが組み込まれていたのか?という、
異常な事実を、これまた論理付けて解いていく過程は鮮やか。

この事件の真相を明らかにし、さらに真犯人をも突き止め、エゴン・マーカットが
何者なのかまでを一気に解いていく御手洗の推理は素晴らしいの一言です。

昔からそうなのですが、シャーロック・ホームズ譚のように、人智では説明できないかの
ような不可思議な謎や出来事を、いかに論理的に解きほぐしていくか、
そんな話が大好きなんですよね。
横浜時代のトリッキーな御手洗は全く見られないところが残念ですが、
読み応え十分でした。
そして、本作と対となるといってもよい『異邦の騎士』も近日アップ予定です。


ネジ式ザゼツキー (講談社文庫)

ネジ式ザゼツキー (講談社文庫)

  • 作者: 島田荘司
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/10/31
  • メディア: Kindle版



ネジ式ザゼツキー (講談社文庫)

ネジ式ザゼツキー (講談社文庫)

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2006/10/14
  • メディア: 文庫



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クララ殺し [小林泰三]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

ここ最近、奇妙な生き物やアリスという少女が暮らす不思議の国の夢ばかり見ている
大学院生の井森建は、ある晩、いつもとは違って、緑豊かな山の中でクララと名乗る
車椅子の美少女と出会う夢を見る。翌朝、大学に向かった井森は、校門の前で、
同じ姿の少女くららに呼び止められる。彼女は何者かから命を脅かされていると訴え、
井森に助力を求めた。『アリス殺し』まさかの続編登場。

以下、ややネタバレ。



前作でワトソン役であった井森建が再び登場し、またしてもワトソン役を務める(笑)第2弾。
前作の「不思議の国」から、いつの間にか別の世界、「ホフマン宇宙」へと流れ着きます。

まず前作より遥かに読みやすくなりました(笑
というのも、ホフマン宇宙には比較的常識を持ち合わせた人々が多く、
不思議の国の住人たちの、あのなんとも言えない会話はないからです。
(あるのは蜥蜴のビルのみ・笑)

今作は前作で登場したアーヴァタールが実に上手く物語のトリックに用いられています。
地球とホフマン宇宙、両方に存在しているドロッセルマイアーとクララ(くらら)。
前作を読んでいるだけに、見事に騙されます。
実際のところ、この二人だけでは無いのです。
ホフマン宇宙での殺人は、さらに複雑怪奇な「入れ替え」が行われていて、
もうカオス状態。

前作では凄惨な目にあわされたビル(井森)ですが、今作でもそれは変わらず。
ところが、これが何度も何度も同じ所で井森が殺されるので、ビルを馬鹿にできないだろう!
と思ってしまうくらい、マヌケです。
ホフマン宇宙での探偵役であるマドモワゼル・ド・スキュデリ。
彼女は極めて優秀で、ビルを通じてアーヴァタールの井森へ依頼を出したり、
最後はホフマン宇宙の全員を集めて名推理を披露します。

さて、それでは彼女の地球でのアーヴァタールは誰なのか?
そして地球でドロッセルマイアー教授の手伝いをしている新藤礼都のアーヴァタールは?

この上記二名はなんと小林作品ではすでに登場済みという(スターシステム?)
(私は不覚にも気付きませんでした(汗)。解説を読んであっ!と)

井森が蜥蜴のビルである以上、不思議の国やホフマン宇宙では名推理は中々難しいでしょう。
しかし、次(次々作?)こそ、地球で名推理を見せて欲しいという期待を込めて、
『ドロシィ殺し』の文庫化を待ちたいと思います。



クララ殺し (創元推理文庫)

クララ殺し (創元推理文庫)

  • 作者: 小林 泰三
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/02/28
  • メディア: 文庫



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奇術探偵曾我佳城全集 下 [泡坂妻夫]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

美貌の奇術師にして名探偵・曾我佳城が解決する事件の数々。花火大会の夜の射殺事件で容疑者の
鉄壁のアリバイを崩していく「花火と銃声」。雪に囲まれた温泉宿で起きた、
“足跡のない殺人”の謎を解く「ミダス王の奇跡」。佳城の夢を形にした奇術博物館で悲劇が起こる、
最終話「魔術城落成」など11編を収録。奇術師の顔を持った著者だからこそ描けた、
傑作シリーズをご覧あれ。

以下、ややネタバレ。




上巻から時間が空いてしまいましたが、下巻も粒ぞろいです。
平然とした文章が逆に恐怖でもあり、ホワイダニットの快作でもある「ジグザグ」
事件そのものは凄惨なのですが、ラストに救いがありました。

タイトルからはおぞましさを感じる「だるまさんがころした」も、
ラストで見事な解決を魅せる話。
何のためにこんな怪文書が出回るのか?

説明では足跡の無い殺人を解く、としかありませんが、この曾我佳城全集で
キーポイントとなるのが「ミダス王の奇跡」です。
この作品、見事な叙述トリックです。しかも登場人物がさらっと間違えることで
実にうまくそのトリックが隠されています。
これが最終話の伏線となるというのだから、実に見事です。

「真珠夫人」はどこか亜愛一郎を思わせる作品に私は感じました。
希有なアクシデントで失った真珠をなぜかたくなに受け取らなかったのか。
その謎が、なんとなくそう思わせました。

最終話「魔術城落成」は佳城のラストとしては非常に悲しい物語なのですが、
これまでの作品にちりばめた伏線を全て回収し、こういうラストしかなかった、
そう思わせる作品でもあります。



奇術探偵 曾我佳城全集 下 (創元推理文庫)

奇術探偵 曾我佳城全集 下 (創元推理文庫)

  • 作者: 泡坂 妻夫
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/01/22
  • メディア: 文庫



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魔王城殺人事件 [歌野晶午]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

星野台小5年1組の佐藤翔太たちは、探偵クラブ「51分署捜査1課」を結成する。
二学期最初の活動は、町はずれに建つ洋館“デオドロス城”のガサ入れ。
潜入直後、突然ゾンビ女(?)が現れ、庭の小屋の中で消失する。後日、再潜入した翔太らは、
今度は小屋の中で死体を発見する。本格ミステリの楽しさ満載の一冊。

「かつて子どもだったあなたと少年少女のための――」と銘打たれて
刊行された、講談社ミステリーランドの一冊。
なんだ子ども向けかと侮っていたこともあったような(汗)甘くみてはいけません。
あの『神様ゲーム』や『カーの復讐』、そして『ほうかご探偵隊』etc・・・
十分に大人も楽しめます。

そもそも、自分たちが子どもの頃に読んでいた、ざっくりいうと「ミステリ」という分野
の本も、結構面白かったのが多かった気がしますね。

本書も51分署捜査1課といった名称や、本書で用いられている要のトリックなど
楽しませる要素はたくさんありました。それなりに満足したのですが・・・

どうも作者が歌野晶午さんということで、深読みしすぎたかなあという(苦笑
たとえば登場人物たちの名前、ローマ字表記、ニックネーム、カタカナ表記など、
これはもしかしたら何かあるのでは?と勝手に思ってしまいました。

期待値を勝手に上げすぎてしまいましたが、純粋に楽しめるミステリです。



魔王城殺人事件 (講談社文庫)

魔王城殺人事件 (講談社文庫)

  • 作者: 歌野 晶午
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/03/13
  • メディア: 文庫



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マンション殺人 [西村京太郎]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

西洋の城をイメージした都心の高級マンション。モデルルーム見学に訪れた客の一人が、
浴室で何者かに撲殺された。三日後、郊外にある団地の浴室で、またも撲殺死体が発見される!
類似した殺人の手口。そして二人の被害者が持っていた同じ偽造名刺。
深まる謎に刑事たちが戸惑う中、さらなる殺人事件が続発する。不動産業界の闇を映す、
長編社会派ミステリー。

西村御大初期の社会派ミステリ。
品川署の田島刑事と、北多摩署の園田刑事、この二人の刑事の地道で、執念ともいえる
捜査の過程、そして犯人を突き止めるまでの、二人の刑事の捜査が丁寧に描かれます。

それにしても、最初のモデルルームで殺人というのは、かなり挑戦的な殺人です。
一緒にモデルルームを見学に行った人物の中に、犯人がいると考えるのは必然でしょう。
犯人にとっては、「マンション」という場所で殺人を犯すことに拘った動機があり、
それが、本書を社会派と言わしめる理由でもあります。

とにかく被害者と容疑者の繋がりを洗おうとする田島刑事のしつこさは本当にすごい。
現実に自分がやられたら堪りませんが(笑

ところで、、、品川駅前の高層マンションで、価格がなんと1500万から2000万という
最初の場面で驚きます。当時は安かったんだなあ・・・(笑)むろん当時の金銭価値も
違うので、一概に比較は当然できませんが。
高層マンション(タワーマンション)を求めるのは今も昔も変わらず、ですね。



マンション殺人 (光文社文庫)

マンション殺人 (光文社文庫)

  • 作者: 西村 京太郎
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2017/05/26
  • メディア: Kindle版



マンション殺人

マンション殺人

  • 作者: 西村京太郎
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2016/12/16
  • メディア: Kindle版



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奇術探偵曾我佳城全集 上 [泡坂妻夫]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

若くして引退した、美貌の奇術師・曾我佳城。普段は物静かな彼女は、
不可思議な事件に遭遇した途端、奇術の種明かしをするかのごとく、鮮やかに謎を解く名探偵となる。
殺人事件の被害者が死の間際、天井にトランプを貼りつけた理由を解き明かす「天井のとらんぷ」。
本物の銃を使用する奇術中、弾丸が掏り替えられた事件の謎を追う「消える銃弾」など、
珠玉の11編を収録する。

講談社文庫から刊行されていた『曾我佳城全集』を底本にしつつ、
発表順に再編集したのが創元推理文庫版となります。
以下、ややネタバレ。





これまで数多くの作品で泡坂ワールドを堪能してきましたが、
奇術師である御大の真骨頂ともいうべき作品が本作なのかもしれません。

最初の「天井のトランプ」から、その魅力は存分に発揮されます。
レギュラーキャラクターとなる竹梨警部も登場。
カードマジックという、奇術の基本から入るのも良いですね。

次作「シンブルの味」は奇術大会を見る団体が突然登場し、
あれ佳城は・・・?と思いきや、「大岡佳子(おおおかよしこ)」がなんと曾我佳城!
考えてもみれば、すでに彼女は引退しているわけで、本名を名乗っているという
のは不思議でもなんでもないのです。しかし、私はこの名前の問題こそが、下巻に続く
壮大なトリックの足がかりでもあるのです。これが実にうまい。

戯曲風の文体で描かれる「白いハンカチーフ」も印象的。
テレビの生放送内での事件解決で、最後も番組終了で締めくくるという、
テレビやマスコミの風刺ともいえるラスト見物。

もう一人のレギュラーキャラクター、いや佳城の弟子となる串目匡一が初登場する
「消える銃弾」、銃弾のトリックも見事なのですが、もの悲しい結末なんですよね。

「シンブルの味」に通じるものもある「石になった人形」。
昔の見世物小屋的なことを想像したりもしましたが、ここでは佳城のこれまでとは
違った一面を竹梨警部が発見してしまう所が一番の衝撃でしょうか。

ラスト「剣の舞」はこれまたもの悲しい物語。
「わたしには悲劇でした」と平然と話す佳城が印象的です。

佳城と串目匡一の魔術城への道程は下巻へと続きます。


奇術探偵 曾我佳城全集 上 (創元推理文庫)

奇術探偵 曾我佳城全集 上 (創元推理文庫)

  • 作者: 泡坂 妻夫
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/01/22
  • メディア: 文庫



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壁の花のバラード [赤川次郎]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

伊原有利はNデパートに勤めている、二十六歳。
容姿は人並みだが彼氏なし。素敵な出逢いを求めて出席するパーティーでは
いつも壁の花。そんな有利の平凡な人生が一変した。いつものように出席したパーティーで、
ハンサムな青年実業家・沢本徹夫にダンスを申し込まれたのだ。夢心地の有利。
だがなんと、彼は幽霊だった!
驚く有利に沢本は、自分を殺した犯人を捜してほしいと頼む。
彼を殺した犯人は誰!?

以下、ややネタバレ。




赤川作品には平然と幽霊は登場します(笑
最近復刊された『幽霊はテニスがお好き』、『三毛猫ホームズの騒霊騒動』
『怪談人恋坂』etc・・・
しかし、出てくる幽霊は結構明るいタイプも多く、本作品のようにどこかとぼけた
感じの幽霊もチラホラ。

主人公は伊原有利、デパートに勤める人並みのOL。
しかし、婚活パーティーで沢本徹夫という幽霊に出会ったことから人生が一変します。

本書は、沢本を殺したのは誰なのか?を突き止めるのが目的ですが、
その裏には、沢本との出会いで、有利の人生そのものが変わっていく物語でもあるのです。

彼女のかつてのクラスメートである山形とその部下の黒岩が良い味出してますねえ。
有利のことを想い続けていた山形の、食事へ有利を誘うシーンが全然ロマンチックな場面
で描かれないところもまた面白い。

それにしても、真犯人はわかったのにまだ成仏できない沢本と有利は
この先どうなってしまうのか?(笑


壁の花のバラード 〈新装版〉 (徳間文庫)

壁の花のバラード 〈新装版〉 (徳間文庫)

  • 作者: 赤川次郎
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2020/03/06
  • メディア: 文庫



壁の花のバラード (徳間文庫)

壁の花のバラード (徳間文庫)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2020/04/12
  • メディア: 文庫



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儚い羊たちの祝宴 [米澤穂信]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

夢想家のお嬢様たちが集う読書サークル「バベルの会」。夏合宿の二日前、
会員の丹山吹子の屋敷で惨劇が起こる。翌年も翌々年も同日に吹子の近親者が殺害され、
四年目にはさらに凄惨な事件が。優雅な「バベルの会」をめぐる邪悪な五つの事件。
甘美なまでの語り口が、ともすれば暗い微笑を誘い、最後に明かされる残酷なまでの真実が、
脳髄を冷たく痺れさせる。米澤流暗黒ミステリの真骨頂。

かなり前にでた(ある意味)連作短編集ですが、
そういえば未読だったので、購入してみました。

さてややネタバレしつつ感想を。




「最後の一撃」「どんでん返し」とは本書のためにある用語なのかもしれません。
「バベルの会」は確かに各短編に登場するのですが、実は意外と繋がりは弱い。
1つずつの物語で、「バベルの会」についてそれほど深く言及されているものはないものの、
最終話「儚い羊たちの祝宴」への繋がりはしっかり担保されているところはさすが。

「身内に不幸がありまして」は、まず動機を突き止めることは不可能でしょう。
そしてこれほど短編の内容を示した表題作もないのでは。

「北の館の罪人」は同じ境遇下にあるかのような2人の物語と思いきや・・・
しかもその目論見をも見抜いていた六綱早太郎のある仕掛けが見事です。

「山荘秘聞」、この作品は屋島守子にはやや同情してしまう点もありますね。
もっとも資産家がどういう思考なのかなど、知る由もありませんが・・・
ところで、ベッド数などからある推理を導いた歌川ゆき子は見事の一言。
変わったお肉、が上手いミスリードなのですが、さらに後に出てきた“煉瓦のような塊”
とは何だったのか・・・異様な恐ろしさは続きます。

「玉野五十鈴の誉れ」は、本当に「最後の一撃」をラストに持ってくるために
構成されたかのような物語。残酷さでは群を抜いています。
しかし、小栗純香の命が助かったのはよかった。

最終話「儚い羊たちの祝宴」、「実際家」である大寺鞠絵による、「バベルの会」の
消滅を描いた話。しかし、最後に再び羊たちが集まりそうな場面が描かれる所で終幕。

どの話も、「バベルの会」は出てくるものの、その会をメインとした話は実は無いんですよね。
そして、ここで描かれた人々は、最後の<アミルスタン羊>の難は逃れたのでしょうか?






儚い羊たちの祝宴 (新潮文庫)

儚い羊たちの祝宴 (新潮文庫)

  • 作者: 米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2011/06/26
  • メディア: 文庫



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訃報・志村けんさん [テレビ]

自分が物心ついた時に、初めて触れたお笑いが
「加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ」でした。
だいじょうぶだぁ教とあのタイコ、今でも覚えています。
スイカマンやネコヘビなど、当時の私にとっては怖い探偵物語もありましたが、
練りに練ったコント、今でも十分笑わせてくれました。

そして火曜ワイドスペシャルで月1で放送されていた「ドリフ大爆笑」
志村さん初の冠番組「志村けんのだいじょうぶだぁ」
ウンジャラゲを一緒にTV前で踊った人はたくさんいたでしょう。

「8時だョ!全員集合」がDVD化したとき、本当にうれしかった。
生放送での屋体崩しの大がかりコントから、
「ドリフ大爆笑」での、収録でしかできない、ブラックユーモア溢れるコント。
好きなコントを挙げればキリがありません。

ドリフ5人のコントも、カトケンの黄金コンビのコントも、だいじょうぶだぁファミリーの
コントも、そして今も続くバカ殿やメンバーを変えてのだいじょうぶだぁ、
オチは分かっていても、笑えるコントを作れる人はもういない。

今年は映画の主役に朝ドラ出演と、日本の喜劇王が喜劇俳優としての一面を存分に
魅せてくれる、そして新たな志村さんを観ることできる年でもあったのに、
本当にショックで、ただただ残念で、言葉になりません。

慎んでご冥福をお祈りいたします。


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7番街の殺人 [赤川次郎]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

駆け出しの舞台役者・三枝彩乃は公演の稽古に励む毎日だったが、ある晩、母が急病で倒れてしまう。
手術は成功したものの、今度は父が不倫相手と出奔。入院費と生活費を稼ぐべく女優・中原真知子の
付人として働き始めた彩乃は連続ドラマの撮影に同行する。
予定のロケ地が工事で使えず、新たに撮影場所に決まったのは、
21年前に祖母が殺害された団地だった―。一気読み必至の青春ミステリー!

本当に一気読みしてしまいました。
今の赤川作品は、シリーズものより、ノンシリーズものの方が面白いですね。

本作は、主人公の綾乃の祖母が殺害されている所から始まります。
そして、綾乃の母・佑香がまだ若く、しかも綾乃の父との出会いから。

物語は一気に進み、綾乃が女優として芝居に打ち込みつつ、
母の病により、痴話喧嘩のもつれに巻き込まれ、女優の付き人になったり、
同棲している只野との関係など、自分自身の人生がめまぐるしく変わっていく様が
まさに、ジェットコースターのように描かれていきます。

そんな彼女はふとしたことから祖母が殺害された事件を
その事件を捜査していた刑事から聞かされます。
そこからが再び物語が二転三転。

ラスト、浅野から「あの事件が眠りからさめたせいで、君がとんでもない目にあった」
という台詞に、綾乃は「いいえ、はっきりして良かったんです」と答えます。
そう、綾乃が中原真知子の付き人にならなければ、実はこの事件の解決はなかったのです。
犯人にとっては因果応報なのです。

そして、「生きるって、余計なことが積み重なってできてるんですよね」という
綾乃の台詞は赤川作品の主人公らしさでもあり、まさにユーモア・ミステリと呼ばれる
作品群を象徴する言葉だと思いました。

文庫で422頁。中々の厚さですが、そんな厚さを感じさせない展開、謎、
そして張られた伏線・・・
今、非常に大変な時期でご自宅にいる方も多いかと思いますが、
良質なミステリを楽しんでみるのも良いかもしれません。


7番街の殺人 (新潮文庫 あ 13-46)

7番街の殺人 (新潮文庫 あ 13-46)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/01/29
  • メディア: 文庫



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濱地健三郎の霊なる事件簿 [有栖川有栖]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

探偵・濱地健三郎には鋭い推理力だけでなく、幽霊を視る能力がある。彼の事務所には、
奇妙な現象に悩む依頼人のみならず、警視庁捜査一課の刑事も秘かに足を運ぶほどだ。
ホラー作家のもとを夜ごと訪れる幽霊の目的とは?殺人事件の被疑者が同時刻に
複数の場所にいたのは、トリックか生霊か?生者の嘘を見破り、死者の声なき声に耳を傾ける
心霊探偵が、驚くべき謎を解き明かす。ミステリと怪異の融合が絶妙な、新シリーズ!

有栖川有栖先生には、
臨床犯罪学者であり、犯罪をフィールドワークとする火村英生。
英都大学推理小説研究会(EMC)の部長であり、4回も留年を繰り返す江神二郎。
南北に分断され、探偵行為が禁止された日本で、母の消息を追いつつ、事件を解明する空閑純。

この3人がシリーズ探偵を務めてきましたが、ここに4人目の探偵が登場しました。
それが心霊探偵を自称する濱地健三郎です。

あとがきで詳しく書かれているのですが、
事件の依頼人が階段を上って探偵の事務所へやってくる、ベーカー街221Bへ。
シャーロック・ホームズは依頼人が来るのを窓から眺めている・・・
そんな、まさに探偵たる探偵が本作の濱地健三郎。

ところが彼が扱うのは本格ミステリの対極にある怪奇・心霊など超常現象にまつわる事件。
(この点は詳しくは解説で書かれてます。)
しかも、警視庁捜査一課の刑事までも相談に訪れるという、これまた名探偵らしさも持ちます。
実に有栖川先生らしい感じもあります。

上記に書いたように、怪奇・心霊など超常現象を扱うとはいえ、
結構本格テイストも入ってます。
第1話「見知らぬ女」は、夫に憑いている女性の調査を頼む妻の話ですが、
このラストは第1話でこれとは驚きました。

本書の中で最も恐ろしいのは最終話「不安な寄り道」
この話はまさに怪奇。廃寺で起こっていたのは一体何であったのか。
濱地が以前に受けた依頼にも俄然興味がわきました。

積み重なった衝突やギスギス感から、このような行為に及んだと思うのですが、
さらにそこを深く知りたくなった「霧氷館の亡霊」
昂太くんには実際には視えていたのか、それとも「彼女」の配慮で、
誰かわからないようしていたのか、その辺りも気になりました。
この事件解決はかなり痛快で、最後に昂輔がランプスタンドを贈ったのは
本当の真相を濱地は彼にだけ話したからなのでしょうか?

心霊としてもミステリとしても一捻りが見事に効いている「分身とアリバイ」
そんな小説じゃあるまいし、というトリックを用いているのですが(笑
このトリックを非常にうまく活かした作品です。

いやどの作品もおもしろい。心霊的なら「寄り道」が愁眉。
ミステリとしては「分身とアリバイ」が愁眉かなあ。

すでに第2作目も発売されるということで、こちらも楽しみです。
有栖川先生、ソラシリーズもお願いします!


濱地健三郎の霊なる事件簿 (角川文庫)

濱地健三郎の霊なる事件簿 (角川文庫)

  • 作者: 有栖川 有栖
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/02/21
  • メディア: 文庫



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聯愁殺 [西澤保彦]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

大晦日の夜。連続無差別殺人事件の唯一の生存者、梢絵を囲んで推理集団“恋謎会”の面々が集まった。
四年前、彼女はなぜ襲われたのか。犯人は今どこにいるのか。ミステリ作家や元刑事などのメンバーが、さまざまな推理を繰り広げるが…。ロジックの名手がつきつける衝撃の本格ミステリ、初の文庫化。

以下、ややネタバレ。



多重解決ものの様相を裏表紙解説文などでは感じられ、特に本書では、
推理集団「恋謎会」の存在が特筆される存在でしょう。

ところが、、、です。
確かに本書の大半はこの「恋謎会」のメンバーの推理が占めているのですが、
彼彼女らの推理が微妙なラインをいくんですよねえ、これが。
それは良い意味でも悪い意味でも微妙なんです(笑
被害者の繋がりなど絶妙なヒント(というか調査)を報告する人とかも居て、
なるほどと思わせつつも、実際の事件の解決には至らず。

本書はいわゆる「どんでん返し」の作品なのでしょうが、
確かにこのラストはさすが西澤保彦先生と思わせるものがあります。
しかし、上記「恋謎会」とこのラストを結びつけるのがちょっと弱すぎるのではないかと
感じました。最後に推理を披露する人物は、確かに「恋謎会」でのディスカッションを
聞いて、真相に到達するのですが、もっと繋がりを持たせてほしかったなあと。

ラストは新たなミッシングリンクに基づき殺人を行っていく犯人の決意が語られる
のですが、ここは動機というホワイダニットを考える上でとても興味深かったですね。


聯愁殺 (中公文庫)

聯愁殺 (中公文庫)

  • 作者: 西澤 保彦
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2010/09/22
  • メディア: 文庫



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黒面の狐 [三津田信三]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

敗戦に志を折られた物理波矢多は、九州で炭坑夫となる道を選ぶ。
意気投合して共に働く美青年・合里光範もまた、朝鮮人の友を過酷な労働に従事させた過去に
罪悪感を負っていた。親交を深める二人だが、相次ぐ変死体と“黒い狐面の女”の出現で
炭鉱は恐怖に覆われる。ホラーミステリーの名手、新シリーズ開幕!

三津田さんの著作も久しぶりです。
刀城言耶シリーズを読んでいないのですが、新シリーズもので、他ブログ様で紹介
されていた本書を購入して早速読んでみました。

本格(+民俗学的側面)かと思いきや、本書は社会派ミステリといって
差し支えないでしょう。
かつて日本の産業の中心であった炭鉱が舞台の本書は、戦前・戦後の炭鉱の有り様や、
そしてそこで働く労働力の確保、そこにある戦前の日本軍の関与など、
様々な面を垣間見ることができます。

主人公の物理波矢多がまたどこかつかみ所がないというか、中々面白い人物に
描かれていて、飄々としている面、復員直後だからなのか、人生を諦めている感も
あり、かなり好感が持てます。

ミステリとしては、いわゆる「顔のない死体」が炭鉱から発見されますが、
このトリックのさらに裏をかいた仕掛けがお見事。
この仕掛けは、本書が戦後の混乱期を示す一場面となっている点でもあります。


一点だけ、これは民俗学というか都市伝説的なものだから仕方ないのかもしれませんが、
黒い狐面をかぶった女性の存在が、気になりました。
そんな話が伝わっている、といえばそれまでなのですが、
この話にもできれば何らかの解釈が欲しかったところです。


すでに次回作は発売されているようなので、ぜひ早く文庫化を!


黒面の狐 (文春文庫)

黒面の狐 (文春文庫)

  • 作者: 信三, 三津田
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2019/03/08
  • メディア: 文庫



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静かなる良人 [赤川次郎]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

浮気をして家へ帰ると、夫は血まみれで倒れており、一言「ゆきこ」と言い残して息絶えた。
冷たい世間の眼と間抜けな刑事の尾行のなか、後ろめたさから自ら犯人捜しにのりだした
妻の千草であったが、犯人捜し過程で、「いい人」だけど退屈で面白みのない人間、
と思い込んでいた夫の意外な一面を知る……。千草は果たして夫を殺害した犯人を
捜し出すことができるのか?夫婦の絆を描いたユーモア・ミステリの傑作。

普通は物語の最中に殺人が起こり、それを解いていくのが、大半のミステリかと思います。
しかし、本書は妻が浮気をして帰ると、真面目な夫が殺害されていて、
しかも最後に遺した言葉が女性の名を想起させる「ゆきこ」。
そして次々と舞い込む、夫の知らない一面・・・

千草は夫を殺した犯人を突き止めるというより、自分が全く知らなかった夫の
顔を探すために、(世間からどう思われようと)積極的に行動していきます。
それがさらなる事件も引き起こす引き金にもなるのですが、
夫が亡くなった後に、自分にはもったいない夫で、これ以上の男はいないと豪語する千草
の台詞は、ある意味とても皮肉が効いています。
落合刑事がまたいい脇役で、最後に千草を口説くのがまたおもしろい。

赤川作品はまだまだ未読本がたくさん。これからも読んでいきます。


静かなる良人-新装版 (中公文庫)

静かなる良人-新装版 (中公文庫)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2019/12/19
  • メディア: 文庫



静かなる良人 (角川文庫)

静かなる良人 (角川文庫)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2012/10/16
  • メディア: Kindle版



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仮装の時代 富士山麓殺人事件 [西村京太郎]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

この世には勝者と敗者しかいない。あらゆる策を弄して自分は勝者になる
―幼時に両親を失いアルバイト生活を送る早川吾郎は、新聞・テレビ界を牛耳る
“マスコミの帝王”五味大造を叩き潰すことを決意する。手始めに五味の愛娘・奈美子に近付き、
背後にうごめく疑惑を探ることに。手を変え品を変えて五味を罠にかける早川、
反撃に転じる五味。手に汗握る死闘の行方は!謎とサスペンス満載の傑作長篇!初期代表作!

本作はどういう作品になるのか、とても難しい作品です。
ググると、ピカレスク・ロマン(悪漢小説)と書かれています。

とにかく主人公の早川吾郎の野心がすごい。娘である奈美子への近づき方だけでなく、
五味大造に直接ケンカを売る場面なども中々大胆です。
しかし、五味も言うとおり、単なる負け犬の遠吠え的な面は自他ともに認識しており、
五味の弱みをどうにか掴もうとするところが、本書の分岐点でもあります。
正義感溢れる貴生知勝とのコンビが、驚愕のラストをもたらすことになるのですが、
果たしてこれは早川の望んだことだったのでしょうか?

一方で、早川・美奈子・江崎の三角関係も描かれていて、これがまた1つの物語に
なっています。特に、野心一筋の早川なのに、彼に微妙な揺れをもたらす恋や愛という
感情があるところが、早川という人物に少し人間味を感じます。

しかし、美奈子からの手紙で究極の選択をした早川が選んだ道が、
結果的には上記の驚愕のラストを迎えることになるのは、ある意味必然だったのでしょう。

西村御大の初期作品群は本当におもしろいものばかりです。
本書は全くしりませんでしたが、徳間文庫さんの復刊は本当に有り難い。
これからもどうぞ名作の復刊をお願いします。



仮装の時代 富士山麓殺人事件 (徳間文庫)

仮装の時代 富士山麓殺人事件 (徳間文庫)

  • 作者: 西村京太郎
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2019/12/06
  • メディア: 文庫



仮装の時代 (光文社文庫)

仮装の時代 (光文社文庫)

  • 作者: 西村 京太郎
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2020/02/16
  • メディア: 文庫



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探偵さえいなければ [東川篤哉]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

さまざまな着ぐるみが集う烏賊川市のビッグイベント「ゆるキャラコンテスト」。
その準備中に、一人の出場者が胸を刺されて死んでいるのが発見された!
事件解決のリミットはコンテスト開始までの一時間。
探偵の鵜飼は真相解明に乗り出すが―。(「ゆるキャラはなぜ殺される」)
おなじみ烏賊川市の面々がゆるーく活躍する、大人気ユーモアミステリー傑作集!

久しぶりの烏賊川市シリーズです。待ってました!
鵜飼杜夫に戸村流平、鵜飼事務所の入るビルのオーナ-・二宮朱美の3名が謎を解く、
というよりも巻き起こる、でしょうか(笑

本書は短編集ですが、それぞれにしっかりと見せ場があります。
「倉持和哉の二つのアリバイ」では、泥酔状態にありながらも、驚異の記憶力を魅せる鵜飼。
「とある密室のはじまりとおわり」で、相変わらず酷い目に遭う戸村流平。
「被害者によく似た男」では砂川警部が、一応面目躍如の活躍を(笑
いや、実際砂川警部と志木刑事、この短編集では中々の活躍を見せてるんですよね。

さて、そんなユーモア溢れる短編集ですが、少し自分勝手な深読みを
してみると、
「博士とロボットの不在証明」、これでは朱美さんが見事に大活躍なのですが、
博士とロボット(ロボ太)のおかしいやりとりだけでなく、
最後のシーン、ロボ太がステレオタイプのようなロボットになって終幕というのは、
皮肉が効いています。ロボ太は人間のようにずる賢く、自分の立場が悪くなって
こうした態度を取ったと見えるわけですが、科学が発達し、AI○○なんてのも
登場した現在、人間の言う事を真に受けて聞くロボットが居なくなり、
自分に都合の良い行動を取るロボットが登場してもおかしくありません。

そして「ゆるキャラはなぜ殺される」という、高木彬光「人形はなぜ殺される」
の本歌取りの作品では、ゆるキャラという、殺人を犯しそうも、何か事件が起こりそうも
ない現場で、事件(殺人事件)が発生し、ゆるキャラ(の格好をした人物たち)が
鵜飼&朱美と問答をしつつも、鵜飼が事件を解決する、という流れなのですが・・・
ラスト、鵜飼の推理が誤りで、真犯人が逃亡する場面が描かれるのは、
ゆるキャラという外見に騙された鵜飼ら「探偵」がしてやられた場面でもあります。
解説にあるように、確かに本編は「探偵さえいなければ」捕まっていた、という
他短編とは異色の作品となっています。

やはり烏賊川市シリーズは東川先生の看板作品ですね。
これからもずっと続いてほしい。


探偵さえいなければ (光文社文庫)

探偵さえいなければ (光文社文庫)

  • 作者: 篤哉, 東川
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2020/01/08
  • メディア: 文庫



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無垢と罪 [岸田るり子]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

小学校の同窓会で、二十四年ぶりに初恋の女性と再会した。しかし、その翌日、彼女は
既に死んでいたことを知る。同窓会の日、語り合った女性は、いったい誰なのか?(「愛と死」)
転校生を目で追ってしまうのは、彼が落とした手紙を拾い、その衝撃的な内容を
読んでしまったことからだった(「謎の転校生」)。幼き日の想いや、
ちょっとしたすれ違いが、月日を経て、意外な展開へ繋がる連作集。

これは稀に見る快作の連作短編集。
過去と現在を行き来しつつ、1つのある未解決事件の真相が明かされていくというストーリーで、
物語にどんどん惹き込まれていきました。

そして、その1つの未解決事件に関係した人々の、過去、そして現在を映し出す話にも
なっていて、これもまたとても興味を惹くのです。

「愛と死」では、久しぶりに同窓会に出た西川哲哉が、目的の女性・杉田佐織と
出逢い、そして後悔する物語かと思いきや、実は彼女はすでに亡くなっていた。
彼女の名を騙っていたのは誰なのか、そしてその目的は?

「謎の転校生」。真田清と名乗るその転校生の落とし物。手紙に書かれていた宛先は
杉村雄一という名前だった。彼は何者なのか?荻田孝子は彼の謎を解き明かそうとするが・・・
実はこの話、最終話まで読むとわかるのですが、本書のキーとなる話です。
出てくる人物たち全てが。

そして物語の核心となる未解決事件が登場する「罪と罰」。ここから本書が怒濤の展開を見せます。
次作「潜入捜査」では、「謎の転校生」の真田清視点での物語。

そしてエアクッションのように挟まれた「幽霊のいる部屋」
第1話「愛と死」で結末が描かれた杉田佐織の、西川哲哉との邂逅を描く物語。
そして本当に悲しい結末を迎えます。
しかし、未解決事件で殺された平中ゆみ江の「思い」がここで判明することに。

最終話「償い」で、再び第1話と同じ時間軸に。
孝子、百合美、雄一、里香と関係者が揃う中、百合美から聞かされた幽霊の話を
偶然出会った雄一・聖子夫妻に話したことで、真犯人が浮かび上がります。

短編好きな方にはぜひご一読をオススメします。

解説にある「青い絹の人形」も読んでみたくなりました。






無垢と罪 〈新装版〉 (徳間文庫)

無垢と罪 〈新装版〉 (徳間文庫)

  • 作者: 岸田るり子
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2020/01/11
  • メディア: 文庫



無垢と罪 (徳間文庫)

無垢と罪 (徳間文庫)

  • 作者: 岸田るり子
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2013/06/07
  • メディア: 文庫



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