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女が死んでいる [貫井徳郎]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

二日酔いで目覚めた朝、寝室の床に見覚えのない女の死体があった。玄関には鍵がかかっている。
まさか、俺が!?手帳に書かれた住所と名前を頼りに、
女の正体と犯人の手掛かりを探すが―。(「女が死んでいる」)
恋人に振られた日、声をかけられた男と愛人契約を結んだ麻紗美。偽名で接する彼の正体を暴いたが、
逆に「義理の息子に殺される」と相談され―。(「憎悪」)
表題作他7篇を収録した、どんでん返しの鮮やかな短篇集。

技巧を尽くした珠玉の短編集と言っていいでしょう。
表題作はタイムリミットサスペンス。と思いながらも、主人公にその焦りがないのがすごい(笑
最後に女の意外な正体や、手帳に遺された手がかりの謎全てが明らかになりますが、
藤村の改心が少しは物語、いや死んでいた女の救いになったでしょうか。
しかし、このタイトルはすごい。そのままと言えばそのままですが、先を読みたくなる作品です。

「二重露出」はなんというか、犯人は殺人を犯してはいるものの、気の毒な作品。
しかしこの犯人「たち」、事前に相談しなかったのか?という所が少し疑問でした。

一方で、公園に住みついたホームレスの区別がほとんど付かないというのは
社会的な存在が無いかのような印象で、社会風刺のような印象を受けました。

「病んだ水」は手紙という形式をとった物語。
誘拐事件を仕組んだ人物の当たりはすぐつきますが、この作品、クリスティの超有名作品への
オマージュかと思いました。

「母性という名の狂気」は複数の視点から描かれる物語。そしてその視点にこそ、
ある大きなトリックが仕掛けられていたのです。収録作中、個人的には白眉。

ラストの「レッツゴー」はこれまでとは全く異なる作風の作品です。
そして、本作をラストに持ってきたのは、描かれるのが日常の謎に近く&ハッピーエンド
の物語だからでしょう。
もっとも鈴木家はかなり緩ーい感じもしますが(苦笑

解説によると、まだまだ多くの短編作品があるようで、
筆者のお考えもわかりますが、ぜひ一冊にまとめてほしい。
私としては貫井先生には短編集第3弾の吉祥院慶彦シリーズの第2弾をお待ちしております!


女が死んでいる (角川文庫)

女が死んでいる (角川文庫)

  • 作者: 貫井 徳郎
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/08/24
  • メディア: 文庫



女が死んでいる (角川文庫)

女が死んでいる (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
  • 発売日: 2018/08/24
  • メディア: Kindle版



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教会堂の殺人 ~Game Theory~ [周木律]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

訪れた者を次々と死に誘う狂気の館、教会堂。
失踪した部下を追い、警察庁キャリアの司は館に足を踏み入れる。
そこで待ち受けていたのは、水死・焼死・窒息死などを引き起こす数多の死の罠!
司の足跡をたどり、妹の百合子もまた館に向かう。
死のゲームと、天才数学者が求める極限の問いに、唯一解はあるのか!?


以下、ややネタバレあり。



前作「伽藍堂」でシリーズとして大きな転換点を迎えた<堂>シリーズ。
本作でもその点では見事にやってくれました。
そして、百合子の出生がついに明らかになります。

さらに宮司司やこれまでの事件関係者にまでその累が及ぶことに。
筆者のあとがきはこのあたりの苦悩でしょうか?

今回も数式が盛りだくさんのなのですが、ゲーム理論が全面に登場するなど、
文系の自分でも館のトリックはなんとか理解できました。
おそらく一番恐ろしい「囚人のジレンマ」でしょう。

それにしても教会堂に突然関孝和の名前が登場したのが驚きました。
ついに江戸時代まで遡ったか、と。関の遺した算額、何が記されていたのでしょうか。

ところで<堂>シリーズはあと2作で完結するのですが、
(来月に「鏡面堂の殺人}が書き下ろし刊行)
度々名前が登場する「藤天皇」こと「藤衛」や「The Book」など数々の謎を
残したまま。
司を失った百合子ははたしてどうなるのか。
鏡面堂の殺人も楽しみです。


教会堂の殺人 ~Game Theory~ (講談社文庫)

教会堂の殺人 ~Game Theory~ (講談社文庫)

  • 作者: 周木 律
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/09/14
  • メディア: 文庫



教会堂の殺人 ~Game Theory~ (講談社文庫)

教会堂の殺人 ~Game Theory~ (講談社文庫)

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/09/14
  • メディア: Kindle版



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図書館の殺人 [青崎有吾]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

九月の朝、風ヶ丘図書館の開架エリアで死体が発見された。被害者は常連利用者の男子大学生。
閉館中の館内に忍び込み、山田風太郎の『人間臨終図巻』で何者かに撲殺されたらしい。
現場にはなんと、二つの奇妙なダイイングメッセージが残されていた! 
警察に呼び出された裏染天馬は独自の捜査を進め、一冊の本と一人の少女の存在に辿り着く。
一方、風ヶ丘高校では期末テストにまつわる騒動が勃発。袴田柚乃たちは事件とテストの二つに
振り回されることになり……。
ロジカルな推理と、巧みなプロットで読者を魅了する〈裏染天馬シリーズ〉第4弾。

青崎さんの<館>シリーズ第4弾。
ダイイングメッセージなど意味がないと断言する天馬。
その言葉の裏には、相変わらず極めて合理的かつ精緻な推理が構築されており、
かつ、犯人である条件を一つずつ、まさに理詰めで構築していく様はお見事。
犯人は今までのシリーズの中でもかなり意外な感じでした。

ただし、天馬の推理は相変わらずですが、今回いきなり警察は天馬を招集したのは
情けない。いやもう物語の都合上なのかもしれませんけど。

柚乃との「仲」も別に双方ともに何も思っていない(?)ので、どうにかなるわけでも
ないのでしょうけど、微妙な感じがもどかしい気もします。
また柚乃が天馬の過去に迫っていきますが、この話はそこまで掘り下げる必要が
あるのだろうかと思います。まだ高校生だしなあ・・・
偏屈な探偵、というのを創り上げた時点で、中々本格+青春ミステリとはいかないものの、
重心を過去よりも柚乃との関係に置いてほしいと思うのは私だけでしょうか。

次の<館>はどこになるのでしょうか?
そろそろ閉ざされた館や孤島の館が登場するのを少し期待しています。


図書館の殺人 (創元推理文庫)

図書館の殺人 (創元推理文庫)

  • 作者: 青崎 有吾
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/09/12
  • メディア: 文庫



図書館の殺人

図書館の殺人

  • 作者: 青崎 有吾
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/01/29
  • メディア: 単行本



図書館の殺人 裏染シリーズ (創元推理文庫)

図書館の殺人 裏染シリーズ (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/09/14
  • メディア: Kindle版



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本日は悲劇なり [赤川次郎]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

早朝の教室で女子高生が原因不明の自殺をした。レポーターとして事件の取材をしていた白木は、
少女の死を喜ぶ級友や嘘の発表をする学校に興味を抱き、自殺の原因を探り始める。
調査を進めるうちに、何者かの妨害を受けながらも、少女の遺書を教師が隠したという噂を知る。
真相究明のため遺書を探し出そうとする白木だったが…。少女の自殺の裏に隠された真相とは。
驚愕の結末の表題作他1編収録。

表題作はマスコミの各報道への極めて皮肉のこもった作品。
スクープを見つけるために手段を選ばない白木の行動は自業自得でしょうが、
女子高生の「遺書」をどうすべきだったかは、今なら学校の対応が問われる気もします。

「1/2の我が家」は社宅の妻が自治会長に、会社の夫が課長に、それぞれの生活に
転機が訪れた所から始まる物語。
表題作より最後は救われる話ですが、このラストが赤川先生らしい。



本日は悲劇なり (角川文庫)

本日は悲劇なり (角川文庫)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/09/22
  • メディア: 文庫



本日は悲劇なり (角川文庫)

本日は悲劇なり (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
  • 発売日: 2018/09/22
  • メディア: Kindle版



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世界推理短編傑作集 1 [海外ミステリ]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

欧米では、世界の短編推理小説の傑作集を編纂する試みが、しばしば行われている。
本書はそれらの傑作集の中から、編者の愛読する珠玉の名作を厳選して全五巻に収録し、
併せて19世紀否ばから1950年代に至るまでの短編推理小説の歴史的展望を読者に提供する。
本巻には推理小説の祖といわれるポオから、ドイルを経て20世紀初頭のフットレルまでを収め、
最初期の半世紀を俯瞰する。

そもそも旧版を未読(絶版?)というミステリ好きなのに申し訳ありません。
新版では誰もが知るポオの「盗まれた手紙」とドイルの「赤毛組合」が新たに収録されています。
新潮文庫などでポオの作品は復刊していますし、ドイルはどの出版社でも読めますが、
確かに解説の「画竜点睛を欠く」というのは一理ある。
ミステリをあまり読んだことのない人が本書を手に取るとはあまり思えませんが、
そういう人たちにはこの2作品は良いかもしれません。

江戸川乱歩は奇妙な味に重きを置く作品として「赤毛組合」を挙げていますが、
(謎の構成に重きを置くには「唇のねじれた男」)
まさに正鵠を得るとやはり感じます。このトリック(というか設定でしょうか)は
実に見事だし、読者を物語に一気に惹き込みます。

収録作では、隅の老人が活躍する「ダブリン事件」、<思考機械>の異名を持つ
ヴァン・ドゥーゼン教授の本格密室推理「十三独房の問題」
キャサリン・グレーンの「医師とその妻と時計」が印象に残りました。

隅の老人は恥ずかしながら初読ですが、ずいぶん饒舌だなあという第一印象(笑
ある会話から犯人を導き出すのですが、言われてみれば!と感心しました。
しかし、老人は裁判を傍聴に行っているんですよね。
これは安楽椅子探偵になるのかとちょっと思いました。

「十三独房の問題」はあまりにも見事すぎる作品。
完全密室を思考機械のドゥーゼン教授がいかに脱出するのか。読み応え充分です。

「医師とその妻と時計」はハウダニットの先駆的作品ではないでしょうか。
盲目の医師、そしてその妻の感情が非常に繊細かつ詳細に描かれており、
登場人物は少ないながらも、物語に惹き込まれました。

第2巻もそろそろ読み始めます。



世界推理短編傑作集1【新版】 (創元推理文庫)

世界推理短編傑作集1【新版】 (創元推理文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/07/12
  • メディア: 文庫



世界短編傑作集 1 (創元推理文庫 100-1)

世界短編傑作集 1 (創元推理文庫 100-1)

  • 作者: ウイルキー・コリンズ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1960/07/24
  • メディア: 文庫



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