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汚れた手をそこで拭かない [芦沢央]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

もうやめて……ミステリはここまで進化した!

第164回直木賞候補作。

ひたひたと忍び寄る恐怖。
ぬるりと変容する日常。

話題沸騰の「最恐」ミステリ、待望の文庫化。

閉鎖空間に監禁された
デスゲームの参加者のような切迫感。──彩瀬まる

平穏に夏休みを終えたい小学校教諭、元不倫相手を見返したい料理研究家……。
きっかけはほんの些細な秘密だった。

保身や油断、猜疑心や傲慢。
内部から毒に蝕まれ、
気がつけば取返しのつかない場所に立ち尽くしている自分に気づく。

凶器のように研ぎ澄まされた“取扱い注意”の傑作短編集。

芦沢央先生は、短編の名手だなと改めて感じました。
「ただ、運が悪かっただけ」は、過去のある事件に悩む夫と、
余命宣告を受けた妻の話。
最後に、「運が悪かっただけ」というのが、かつての事件と今の妻の状態に
合致して、ラスト、恐らくは・・・というところで了。
最後まで書かないところが素晴らしい。

「埋め合わせ」、最近ニュースでもよく見かける、学校でのプールの排水や給水を
めぐる話。弁償を当該学校の校長や教員が分担して・・・というのをよく報道してますね。
個人的には、悪意でないのなら、そこまでなのかなあと思いますが・・・
本作もそのまさに誤って排水してしまったという事案。
いや、このラストは全く読めませんでした。同僚の五木田先生が、どういう役回りなのか、
脅迫者?と感じてしまうのが、大方の見方でしょうが、こういう終わり方はあまりに見事。
予想外過ぎました。

「忘却」、高齢者のアパートで、エアコンを付けずに亡くなる。これもまた
最近増えた社会問題の1つ。本作はこれに80代という、後期高齢者で記憶力も
弱ってきている妻と暮らす夫の苦悩を描いた(かのようにみえる)作品。
これもまた超予想外の所で物語が終幕する作品でした。
必死に電気代督促状の件を思い出させまいとする夫の努力が書かれながら、
最後の最後で、全く違う事実を登場させるという。

正直、「埋め合わせ」と「忘却」の2作は、本作愁眉、選べませんでした。

「お蔵入り」、ある映画を撮る無名監督。しかし主演俳優に薬物使用の疑いが・・・
これもかなり捻りが効いている作品で、やはり嘘を付くのは止めるというのが、
逆に自分たちの首を絞めるという、とんでもない皮肉になっています。

「ミモザ」、料理ブログが話題になり、書籍まで出すことになる売れっ子料理研究家。
そこのサイン会にかつてアルバイトしていた出版社の社員、いや元恋人が現れ・・・
本作、何とも表現が難しい。
突如現れた元恋人(というよりも自分が愛人)よりも、最後の夫の台詞、
「何考えててもいいけど、ちゃんとしてよ」の方が恐ろしく感じました。

やはり芦沢短編は素晴らしい。何度も読み返したくなりますね。
ところで「イヤミス」と表現されているのですが、「イヤミス」なのかなあ。
まあ、「イヤミス」の定義もよく分からないのですけどね(笑


汚れた手をそこで拭かない (文春文庫)

汚れた手をそこで拭かない (文春文庫)

  • 作者: 芦沢 央
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2023/11/08
  • メディア: Kindle版






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火のないところに煙は [芦沢央]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

「神楽坂を舞台に怪談を書きませんか」突然の依頼に、作家の〈私〉は驚愕する。
忘れたいと封印し続けていた痛ましい喪失は、まさにその土地で起こったのだ。
私は迷いながらも、真実を知るために過去の体験を執筆するが……。謎と恐怖が絡み合い、
驚愕の結末を更新しながら、直視できない真相へと疾走する。読み終えたとき、
怪異はもはや、他人事ではない――。

以下、ややネタバレ。

全6話からなる構成で、連作短編集になっています。
ストーリーテラーは、作者の分身<私>こと、芦沢央。
探偵役を務めるのは、オカルトライターの榊桔平。

怪奇現象や怪異に、合理的な説明を求めるというのは、実のところ難しい。
本書は、そんな怪異の超自然現象あるいは説明できない事象については、
そのまま謎とし、それ以外の部分に、榊を通して、合理的な解決を加えています。

この解釈というか、怪異に至る過程やそれらの謎解きがかなり面白い。
見事なミステリ小説になっています。

一方で、連作短編の核にした、ある事象・人物につついては、最後の本書解説まで読んでも
判然とせず(ここは当然そうなのですが)、榊自身もそれに陥るというのは若干不満かなあと。

あれだけ警告を芦沢に発していて、かつかなり慎重な性格にみえる榊が、
嵌められてしまうというのが、少し納得いきませんでしたね。

あと、これはまさに最初に書いた無いものねだりになるのですが、
この出来事、特に最後に榊が失踪してしまったことにより、触れてはいけないものが
残る、というエンドなのでしょうが、それへの合理的説明・解決がなされないので、
読者としては、解ってはいるものの、消化不良感になるのは否めないのでは。

怪異がそもそも合理的説明が出来る事象ではないため、本書に仕組んだこの大きな謎も、
合理的説明は難しいのかもしれません。
しかし、あえてこの謎をミステリに落とし込めば良かったのではないかと思いました。

とはいえ、怪異とミステリを上手く融合させている各話は非常に面白く、
夏のこの暑い時期、オススメです。




火のないところに煙は(新潮文庫)

火のないところに煙は(新潮文庫)

  • 作者: 芦沢央
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2021/06/24
  • メディア: Kindle版







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許されようとは思いません [芦沢央]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

「これでおまえも一人前だな」入社三年目の夏、常に最下位だった営業成績を大きく上げた修哉。
上司にも褒められ、誇らしい気持ちに。だが売上伝票を見返して全身が強張る。
本来の注文の11倍もの誤受注をしていた―。躍進中の子役とその祖母、
凄惨な運命を作品に刻む画家、姉の逮捕に混乱する主婦、祖母の納骨のため寒村を訪れた青年。
人の心に潜む闇を巧緻なミステリーに昇華させた5編。

またまた久しぶりの更新です。このところ堕落した日々で、精進しなければなりません。
以下、ややネタバレ。




芦沢さんの著書は『今だけのあの子』以来2冊目。
どの物語もラストの一捻りが実にうまく、傑作短編集です。

「目撃者はいなかった」は誤発注をごまかすため、修哉が取った行動は
成功したかに見えたのですが、交通事故の目撃者となってしまい・・・
死亡した運転手の妻が修哉に対して取った行動が、
夫と同じ目二合わせることという、これ以上ない報復。
言えば自分のミスが明らかに、言わなければ放火犯に・・・どちらを選んでも
彼にとっては地獄です。
明らかになっていく

「姉のように」は、本書所収作では一番のどんでん返し作品ではないでしょうか。
最初に虐待による事件記事を載せ、最後にまた別の事件記事を載せているのですが、
物語は、実にうまくこの点がミスリードされています。
もう少し深読みすると、自分の子どもが犯罪者の姪、になってしまうこと、
さらに彼女は姉へ育児の相談などをしていたこと、この2つも
彼女が事件を犯してしまった理由にもなっているのかとも。

「絵の中の男」はある画家の一生を語る物語。
彼女が描いた絵に隠された秘密が明かされていきます。
本作のみ一人称で語られている異色作ですが、
絵が描かれていく過程、あまりに強烈でした。

表題作は最後の最後に少し救いのある物語になっています。
個人的には主人公の恋人による名推理?が印象に残りました。



許されようとは思いません (新潮文庫)

許されようとは思いません (新潮文庫)

  • 作者: 芦沢 央
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/05/29
  • メディア: 文庫



許されようとは思いません

許されようとは思いません

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2016/06/22
  • メディア: Kindle版



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今だけのあの子 [芦沢央]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

新婦とは一番の親友だと思っていたのに。大学の同じグループの女子で、
どうして私だけ結婚式に招かれないの……(「届かない招待状」)。
環境が変わると友人関係も変化する。「あの子は私の友達?」
心の裡にふと芽生えた嫉妬や違和感が積み重なり、友情は不信感へと変わった。
「女の友情」に潜む秘密が明かされたとき、驚くべき真相と人間の素顔が浮かぶ、
傑作ミステリ短篇集全五篇。

初めての作家さん、再び。
初めて率が今年は高そうです。

オススメは「帰らない理由」と「答えない子ども」
前者は探偵役が最後の最後で物語を反転させる役割まで担う
離れ業の作品。
探偵役である須山が、最後に見せる感情が、彼の将来を心配してしまいますが、
この彼の将来は次作「答えない子ども」で明かされます。

本作収録の各短編はどこかで物語が繋がっており、
それを探すのも楽しみの1つ。
特に、上記挙げた2作品が連続なのも上手いと思いました。
探偵役である須山が、立派な大人になっていることが素晴らしい。

内容紹介ではイヤミス感のある本書ですが、
それを最後で反転させる構成も見事。
ぜひみなさまご一読を。


今だけのあの子 (創元推理文庫)

今だけのあの子 (創元推理文庫)

  • 作者: 芦沢 央
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/04/12
  • メディア: 文庫



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