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仮面幻双曲 [大山誠一郎]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

この町の誰が”顔を変えた殺人者”なのか?

時は、戦後間もない昭和22年。
東京で亡き父の事務所を継いだ私立探偵の川宮兄妹は、
依頼を受けて滋賀県の双竜町に赴く。

依頼主は、地元随一の製糸会社を営む占部家の先代社長夫人。
専務の武彦が双子の兄である現社長の文彦に恨みを抱き、殺害を目論んでいるのだという。
武彦は女子工員の小夜子に恋をしていたが、
彼女は町中に中傷の手紙がばらまかれたことを苦に自殺。
兄の仕業だと思い込んだ武彦は姿をくらまし、整形手術を受けて顔を変え、
別人になりすまして双竜町に戻っている。

「なぜ顔を変えたかわかるか? お前の近くにいる」

川宮兄妹の使命は、武彦を探し出し、文彦の命を守ること。
しかし、琵琶湖のほとりに建つ巨大な洋館に招かれ、寝ずの番にあたった矢先、
文彦は惨殺されてしまう――

果たして誰が”武彦”なのか。

本格ミステリの名手による傑作が、待望の文庫化!

しばらく間隔が空いてしまいました。
やっと読めました!
阿津川辰海先生の解説や旧版(改稿前版)も読んで比較して欲しいとありますが、
旧版が全然手に入らない作品なんですよね。
それだけに私にとっては幻の作品で、復刊(改稿版)が読めて、本当によかった。

いわゆる「ノックスの十戒」の、双子が登場する作品ですが、
本作は当然、最初にそれを堂々と明らかにすることで、ノックスの十戒をきちんと踏まえ、
それでいて、西村京太郎御大の『殺しの双曲線』と双璧をなす作品といって過言では
ありません。

双子である、整形して顔を変える、これらの事実は早々に明らかにされるのです。
ところが、本作最大のトリックはこの最初に明かされる事実の中に潜ませているという
のが、本作最大の愁眉であり、面白さ。
戦後すぐという時代だからこそのトリックともいえるかもしれません。

探偵役である川宮兄妹。シリーズ化してほしいです。


仮面幻双曲 (小学館文庫 お 43-1)

仮面幻双曲 (小学館文庫 お 43-1)

  • 作者: 大山 誠一郎
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2023/06/06
  • メディア: 文庫






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記憶の中の誘拐 赤い博物館 [大山誠一郎]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

緋色冴子シリーズ第二弾。文庫オリジナルで登場!
赤い博物館こと犯罪資料館に勤める緋色冴子が、過去の事件の遺留品や資料を元に、
未解決事件に挑むシリーズ第二弾。

本書第一弾のブログ記事は2018年。ということは4年ぶりの新作ということです。
以下、ネタバレあり。
第一弾はコチラ





前作は安楽椅子探偵でもありましたが、本作ではすべて緋色警視が資料館から
外出するというのが特徴です。

「夕暮れの屋上で」。「先輩、もうすぐお別れですね。」という言葉の意味を
どう捉えるのか。本作はこの1点が極めて秀逸です。
卒業式間近という時期、「先輩」「お別れ」という言葉。
こうした状況と言葉から、ある種の必然ともいえる思い込みを見事に覆した作品です。

「連火」。犯人はなぜ放火するのか。放火された家の共通点とはなにか?
これが本作最大の謎です。
この真相は、いわゆる隠れ事故物件、というより事故土地でしょうか。
そんなオカルト的な話にありそうですが、本作で上手いのは、
「またあの人に会えなかった」という犯人と思われる人物が残した言葉の意味でしょう。
これも前作と似ていて、「あの人」とは誰なのか、というのが、
緋色の、完璧にまでに論理づけられた絞り込みにより、判明するところがお見事。

「死を十で割る」。犯人はなぜ被害者をバラバラにしたのか。そこにある必然性、
しかも、どうバラバラにしたのか、つまり単なるバラバラ殺人ではなく、
どこをどのようにバラバラに切断したのか、から推理を組み立てていくという傑作です。

犯人自体はなんとなく(むろん緋色の論理立てた推理から導くのではなく)予想できる
のですが、上記のバラバラから、死後硬直の時間、72時間から96時間以内に被害者が
死んだことを知らしめたい人物、特殊な姿勢が犯人と結びついている、この3点から
犯人を指摘します。
特に、2番目の条件が実に慧眼で、思わず唸ってしまいました。
個人的には本作愁眉。

「孤独な容疑者」。本作は、緋色の推理はともかく、果たして犯人がここまで
上手く逃げおおせられるか、というのがやや疑問でしたね。

「記憶の中の誘拐」。最後に緋色がいう、2003年に時効が成立しているというところ。
殺人罪ですが、時効が撤廃されているが、時効なのかと、どうでもいいところが
気になりました(笑)
wikiによると、「「人を死亡させた罪であって(法定刑の最高が)死刑に当たる罪」
については公訴時効が廃止」とあるので、それに該当しない、という事なんでしょうか。

全編にわたっていえることですが、緋色の推理は火村英生の詰め将棋の如き推理を
彷彿とさせますね。決して突拍子もない所からの出発点ではない。1つ1つの論理を
綿密に組み立てていき、彼彼女しか犯人たり得ない、と結論づける。

とはいえ、彼女がずっと資料館に留まっている謎は未だ解明されず。
次作に期待です。


赤い博物館 (文春文庫)

赤い博物館 (文春文庫)

  • 作者: 誠一郎, 大山
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2018/09/04
  • メディア: 文庫



記憶の中の誘拐 赤い博物館 (文春文庫)

記憶の中の誘拐 赤い博物館 (文春文庫)

  • 作者: 大山 誠一郎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2022/01/04
  • メディア: Kindle版










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アリバイ崩し承ります [大山誠一郎]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

美谷時計店には「時計修理承ります」とともに「アリバイ崩し承ります」という貼り紙がある。
難事件に頭を悩ませる新米刑事はアリバイ崩しを依頼する。ストーカーと化した元夫のアリバイ、
郵便ポストに投函された拳銃のアリバイ…7つの事件や謎を、店主の美谷時乃は解決できるのか!?「2019本格ミステリ・ベスト10」第1位の人気作、待望の文庫化!


本書は、典型的な安楽椅子探偵、アームチェア・ディテクティブになります。
本書を読んでいて真っ先に思い浮かんだのは、阿刀田高さんの『Aサイズ殺人事件』
あれも、主人公の刑事が、とある寺の和尚に碁の相手をするとともに、謎解きの
相談もするというストーリーとなっています。

ただ、『Aサイズ』と違うのは、本書がとことんアリバイに拘った短編集になっていること。
それは表題からも当然明らかなのですが、アリバイ崩しだけでなく、アリバイ探しも
行うところが面白い。
単なるアリバイ探しでなく、それはつまり真犯人を見つけることも意味している訳です。

個人的には「ストーカーのアリバイ」と「凶器のアリバイ」が秀逸。


アリバイ崩し(探し)という極めてシンプルな点のみに集約している本書は、
時乃の「時を戻すことができました」という台詞前に、ほぼ全ての情報が出揃っていて、
その情報をいかに組み立てるのか、この一点のみです。
しかし、これが実に(まさに時計のように)精巧に、かつ緻密に物語が創られていて、
まさに<謎解き小説>の醍醐味を味わえる短編集になっています。

ところで、本書では主人公の名前すら明らかでなく、また美谷時計店にはいつもお客が
いません。筆者の『密室蒐集家』ではありませんが、本当にこの時計店は
存在しているのだろうか?とふと思ってしまいました。

都筑道夫先生の『退職刑事』のようにぜひシリーズ化、そしてあわよくば「拳銃と毒薬」
のような異色作品が出てきてくれたら!と期待せずにいられません。


アリバイ崩し承ります (実業之日本社文庫)

アリバイ崩し承ります (実業之日本社文庫)

  • 作者: 大山誠一郎
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2019/11/25
  • メディア: 文庫



アリバイ崩し承ります (実業之日本社文庫)

アリバイ崩し承ります (実業之日本社文庫)

  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2019/11/21
  • メディア: Kindle版



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赤い博物館 [大山誠一郎]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

警視庁付属犯罪資料館、通称「赤い博物館」の館長・緋色冴子はコミュニケーション能力は皆無だが、
ずば抜けた推理力を持つ美女。そんな冴子の手足となって捜査を行うのは、部下の寺田聡。
過去の事件の遺留品や資料を元に、難事件に挑む二人が立ち向かった先は―。
予測不能なトリック駆使、著者渾身の最高傑作!

「密室蒐集家」に続く文春文庫の大山誠一郎さん第2弾。
ドラマ化していたようですが、観た記憶がない・・・
以下、ややネタバレ。




本作の中には2つの系統作品が入っています。
緋色冴子が単なる推理だけでなく、現実にも事件を解決するパターン。
「パンの身代金」や「「死が共犯者を別つまで」「死に至る問い」の3編がそれに該当。

一方、あくまで緋色の推理に留まり、真相がどうなのかは読者へ任せるパターン。
「復讐日記」「炎」がこれに該当。

前者では「死が共犯者を別つまで」がオススメ。
これは予想以上に予想外の流れでした。しかも見事に真犯人を挙げているところも良い。
ただし、入れ替わりやなりすましがここまで上手くいくかどうか、ちょっと難しい気も。

後者はいずれもオススメなのですが、
「日記」が必ずしも本当の事を記載していない事や、高見が守ろうとしたのは誰なのか、
という点から「復讐日記」。
「炎」は幸せな家族を襲った悲劇の裏に、実はその幸せは創られたものだったのではないかという
どこかホラー要素も含んでいて、個人的には好きな作品。
しかし、緋色の推理から考えるに、果たして妊娠をそこまでごまかすことが出来るのかどうか。
この辺りはちょっと弱い気もします。

ところで緋色冴子がキャリアなのに異動せず、8年間も閑職にいるのか。
兵藤首席監察官と同期で、事件を捜査してくれと非公式なお願いに来たり・・・
「密室蒐集家」は主人公が完全に時空を超えた存在であるから良いのですが、
本作は、次作以降でその辺りの背景まで描いてくれるとうれしいですね。



赤い博物館 (文春文庫)

赤い博物館 (文春文庫)

  • 作者: 大山 誠一郎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2018/09/04
  • メディア: 文庫



赤い博物館 (文春文庫)

赤い博物館 (文春文庫)

  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2018/09/04
  • メディア: Kindle版



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密室蒐集家 [大山誠一郎]

第13回本格ミステリ大賞受賞作品。
原書房・ミステリーリーグからの出版でしたが、
文庫は文春文庫から。

解説の千街晶之さんが、オールタイム・ベスト選出があれば、
本作をまず挙げたいと書かれていますが、
千街さんがそこまで言うのもすごい。

全5編からなる短編集で、その事件は1937年から2001年までと幅広いのですが、
この各話の時代設定にももちろん意味があります。
どの時代に起きた事件にも、
必ず「同じ」風体の「密室蒐集家」が登場します。

この時系列に焦点を当てた面からオススメを考えると、「柳の園」と「理由ありの密室」2編。
前者の主人公・鮎田千鶴が再び登場し、蒐集家との邂逅がとても印象的です。
すでに「柳の園」事件から50年ほど経過しているのに、蒐集家の風貌は全く変わらず、
そして、彼は彼女のことも、その事件も記憶している。
千鶴にとって、これほど嬉しいことはなかったでしょう。

「理由ありの~」では密室の謎そのものではなく、なぜ密室が作られたのか?という謎に
まで彼が登場するという、作品群の中では変化球的な作品で、
それもおもしろい。
彼は言います。「密室に関する謎がある限り、私は現れます。」と。
つまり、本作はどのようにこの密室が作られたのか、を解くのではなく、
なぜ作ったのかを解き、そして本当の本事件のキーワードは
ダイイングメッセージにあるのです。

そして本作の各事件の特徴は、蒐集家による犯人当てです。
これが唐突で、かつ登場人物がこれだけ少ない中で、良くこれほど
意表を突く犯人は素晴らしい。

「少年と少女の密室」は、密室のトリックではなく、ある種のミスリードと
意外すぎる犯人の組み合わせの2点で、個人的には本作愁眉ですね。

本書のようなミステリを読めて、実に良かった。





密室蒐集家 (文春文庫)

密室蒐集家 (文春文庫)

  • 作者: 大山 誠一郎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/11/10
  • メディア: 文庫



密室蒐集家 (ミステリー・リーグ)

密室蒐集家 (ミステリー・リーグ)

  • 作者: 大山 誠一郎
  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 2012/10
  • メディア: 単行本



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アルファベット・パズラーズ [大山誠一郎]

「密室蒐集家」で第13回本格ミステリ大賞を受賞した
大山誠一郎さんの初短編集。
まずはAmazonさんの解説ページから。

警視庁捜査一課刑事の後藤慎司、翻訳家の奈良井明世、精神科医の竹野理絵は、
彼らが住むマンションのオーナー峰原卓の部屋に集まり推理合戦に興じる。
指紋照合システムに守られた部屋で発見された死体、
クルーズ船の殺人現場に残された奇妙なダイイング・メッセージ、
三転四転する悪魔的な誘拐爆殺事件
名探偵の推理と意外な真相を鮮やかに描く、本格推理界の俊英第一の著書。

オーナーである峰原卓を探偵役とし、
捜査一課刑事である後藤が持ち込む難事件を
鮮やかに解き明かすという形式になっています。
ただ、奈良井や竹野の推理も良いところを突いていて、
峰原以外の3人も十分に探偵役の素質あり。
その点が実は最後の「Yの誘拐」に繋がる伏線でもあるわけです。

3編の中では「Fの告発」を推します。
3人しか犯人たり得ないのに、3人とも違う、
その謎を解く鍵は密室を作り出している「Fシステム」にあり。
話を聞いただけで、真相を看破した峰原は見事としか言いようがありません。

さて本書は4編収録されていますが、
最後の「Yの誘拐」だけは他3編とは別モノです。
実際に4人が実地調査に赴き、2つの推理を導き出します。
第一部 成瀬正雄の手記、第二部 再調査、
エピローグという構成となっており、
エピローグでは今までとは違う趣向が加えられています。

「Yの誘拐」は結局は未解決であり、どの推理が正しかったのか、
実のところわかりません。

普通に感想を述べると、手記を読んだ4人が気付いたおかしな点は
本来警察も当然気付いてしかるべきなのに、
京都府警はいくらなんでもマヌケすぎるという(笑
実際後藤が所属する第九係班長の大槻警部ならば、
看破していたでしょう。

推理としては峰原が辿り着いた推理が合理的なものではないか
と思うのですが、「Yが偽者」という発言がどうもわかりません。
それはエピローグでの推理でもそうで、う~ん・・・
とまあ僕が納得していないだけですが(苦笑

それとエピローグの推理はすこし唐突感が否めません。
前3編でそのあたりの伏線を散りばめておいた方が、
ぐっと「あっ!」と驚かせる推理になっただろうなと思います。

「密室蒐集家」の文庫化が楽しみです。


アルファベット・パズラーズ (創元推理文庫)

アルファベット・パズラーズ (創元推理文庫)

  • 作者: 大山 誠一郎
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2013/06/28
  • メディア: 文庫



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