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味なしクッキー [岸田るり子]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

「あなたの秘密を知っています」と、パリの自宅に押しかけてきた女。
別れを決意して、彼のために「最後の晩餐」の支度をする女。
高校時代に自殺した友人の夢を見た女。友人は夢の中で「殺された」と言った。
それが気になり、真相を知ろうとする女。
不倫相手にクッキーを焼く女。
ロングセラーの『天使の眠り』や『Fの悲劇』
『白椿ななぜ散った』などで人気の著者が描く、“わるい女たち"。
「パリの壁」「決して忘れられない夜」「愚かな決断」「父親はだれ?」
「生命の電話」「味なしクッキー」の六作を収録した短篇集を初文庫化!




解説の大矢博子さんではないですが、「やっと文庫としてこの短編集をお届けできる」。
これに尽きます。文庫化まで10年、長い!
それだけこの短編集、読んで損はありません。

まず最初の「パリの壁」からすごい。
なぜ女性はある男性をパリまで追ってきたのか。
最初は名前しかわからない、そして一気に明らかになっていく物語の核心。

「決して忘れられない夜」は、閲読注意ですね。
なんとなく想像できるのですが、したくない結末と、主人公が恐ろしい。

倒叙ミステリである「愚かな決断」。これはある意味小説だからこそ
完璧なミスリードと言えるかもしれません。
それと、田中弘一は完全犯罪を目指そうとしていたのに、電話に出るという、
余りにお粗末すぎる犯人ですね。
騙しの仕掛けは見事ですが、犯人がマヌケ過ぎる。

「父親はだれ?」が本作白眉かと。過去に自殺した同級生が突如目の前に現れる。
そして彼女は妊娠していた。また、主人公自身も新たな命を授かっていて・・・

過去の自殺した事件を解き明かそうとする七菜代。元担任であった夫が父親なのか?
疑心暗鬼に駆られながらも、当時のクラスメート達と再会していき・・・
最後の結末は圧巻。そして彼女のマウスの実験もこれがまた、なんというか、
いやー上手いですね。

表題作「味なしクッキー」は、若年性認知症を患う妻・雪江と夫の物語。
夫の視点と妻の視点で描かれる物語は、認知症という病を考えさせられつつも、
なぜ夫が妻を殺害したのかが語られていく過程、さらには妻の最後の告白の「仕掛け」が
見事な作品。

人間心理を嫌というほど、そして突き詰めていけないところを突いて作品集ですね。
だが、面白い。




味なしクッキー (徳間文庫)

味なしクッキー (徳間文庫)

  • 作者: 岸田るり子
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2021/12/08
  • メディア: 文庫







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無垢と罪 [岸田るり子]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

小学校の同窓会で、二十四年ぶりに初恋の女性と再会した。しかし、その翌日、彼女は
既に死んでいたことを知る。同窓会の日、語り合った女性は、いったい誰なのか?(「愛と死」)
転校生を目で追ってしまうのは、彼が落とした手紙を拾い、その衝撃的な内容を
読んでしまったことからだった(「謎の転校生」)。幼き日の想いや、
ちょっとしたすれ違いが、月日を経て、意外な展開へ繋がる連作集。

これは稀に見る快作の連作短編集。
過去と現在を行き来しつつ、1つのある未解決事件の真相が明かされていくというストーリーで、
物語にどんどん惹き込まれていきました。

そして、その1つの未解決事件に関係した人々の、過去、そして現在を映し出す話にも
なっていて、これもまたとても興味を惹くのです。

「愛と死」では、久しぶりに同窓会に出た西川哲哉が、目的の女性・杉田佐織と
出逢い、そして後悔する物語かと思いきや、実は彼女はすでに亡くなっていた。
彼女の名を騙っていたのは誰なのか、そしてその目的は?

「謎の転校生」。真田清と名乗るその転校生の落とし物。手紙に書かれていた宛先は
杉村雄一という名前だった。彼は何者なのか?荻田孝子は彼の謎を解き明かそうとするが・・・
実はこの話、最終話まで読むとわかるのですが、本書のキーとなる話です。
出てくる人物たち全てが。

そして物語の核心となる未解決事件が登場する「罪と罰」。ここから本書が怒濤の展開を見せます。
次作「潜入捜査」では、「謎の転校生」の真田清視点での物語。

そしてエアクッションのように挟まれた「幽霊のいる部屋」
第1話「愛と死」で結末が描かれた杉田佐織の、西川哲哉との邂逅を描く物語。
そして本当に悲しい結末を迎えます。
しかし、未解決事件で殺された平中ゆみ江の「思い」がここで判明することに。

最終話「償い」で、再び第1話と同じ時間軸に。
孝子、百合美、雄一、里香と関係者が揃う中、百合美から聞かされた幽霊の話を
偶然出会った雄一・聖子夫妻に話したことで、真犯人が浮かび上がります。

短編好きな方にはぜひご一読をオススメします。

解説にある「青い絹の人形」も読んでみたくなりました。






無垢と罪 〈新装版〉 (徳間文庫)

無垢と罪 〈新装版〉 (徳間文庫)

  • 作者: 岸田るり子
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2020/01/11
  • メディア: 文庫



無垢と罪 (徳間文庫)

無垢と罪 (徳間文庫)

  • 作者: 岸田るり子
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2013/06/07
  • メディア: 文庫



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出口のない部屋 [岸田るり子]

四の五の言わず(笑)まずはAmazonさんの紹介ページから。

赤いドアの小さな部屋に誘われるように入り込んだ3人の男女。
自信あふれる免疫学専門の大学講師・夏木祐子、善良そうな開業医の妻・船出鏡子、
そして若く傲慢な売れっ子作家・佐島響。見ず知らずの彼らは、
なぜ一緒にこの部屋に閉じ込められたのか?
それぞれが語りだした身の上話にちりばめられた謎。
そして全ての物語が終わったとき浮かび上がる驚くべき真実―。

ややネタバレあり。




作中作という形式を取っています。
主人公は上記にあるように三人の男女。
この三人の語る話が実におもしろい。
事実を述べているようで、実のところ微妙な嘘が交じっています。
そして、この三人が語る話には、ある共通人物が実は登場しています。

作品としては前作「密室の鎮魂歌」にやや通じるところがあるなあと
個人的には感じましたが、どうでしょう。





出口のない部屋 (角川文庫)

出口のない部屋 (角川文庫)

  • 作者: 岸田 るり子
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/04/25
  • メディア: 文庫



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密室の鎮魂歌 [岸田るり子]

最近読みたいと思う本が文庫化されているんで、このところミステリの記事が豊富です。
しかしその文庫もそろそろ尽きてしまうので、またつまらない日々を送ることになりそうです。

本作は第14回鮎川哲也賞受賞作品。
タイトルにもあるようにまさに「密室」が次々と登場します。
しかし物語の核は密室ではなく、登場人物たちそれぞれの内面を描いた所にある気がしました。
主人公若泉麻美は探偵の役割を果たすわけではなく、あくまで物語を語る一人。
そして彼女自身も多くの葛藤や悩みを抱えつつ、本事件へ関心を募らせ調査をしていくことになります。

読んでいて思ったのはプロットが見事です。
登場人物が少ないし、誰が何を隠しているのか?これがこの事件を解く鍵となるわけです。
明らかになった真相はとても深い。
個人的には最も不幸だったのは主人公自身だったような気がしました。


密室の鎮魂歌(レクイエム)

密室の鎮魂歌(レクイエム)

  • 作者: 岸田 るり子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2004/10/22
  • メディア: 単行本



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