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六人の嘘つきな大学生 [朝倉秋成]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

成長著しいIT企業「スピラリンクス」が初めて行う新卒採用。
最終選考に残った六人の就活生に与えられた課題は、一カ月後までにチームを作り上げ、
ディスカッションをするというものだった。全員で内定を得るため、
波多野祥吾は五人の学生と交流を深めていくが、本番直前に課題の変更が通達される。
それは、「六人の中から一人の内定者を決める」こと。仲間だったはずの六人は、
ひとつの席を奪い合うライバルになった。内定を賭けた議論が進む中、六通の封筒が発見される。
個人名が書かれた封筒を空けると「●●は人殺し」だという告発文が入っていた。
彼ら六人の嘘と罪とは。そして「犯人」の目的とは――。

怒濤の伏線回収に驚嘆の声続出! 青春ミステリの傑作が、ついに文庫化!



少しネタバレ。



これは傑作です。
ミステリの定番である「フーダニット」、本作では誰が会議室に封筒を持ち込んだのか?
この謎が最初にあります。

次に「ホワイダニット」、「スピラリンクス」の最終選考に残った学生たちの
最後のディスカッションに挑む前まで描かれる中、時折「幕間」のように入る、
関係者へのインタビュー(聞き取り)。
これがこの「ホワイダニット」に繋がります。
犯人はなぜ、封筒を持ち込んだのか?

主人公は波多野祥吾から、嶌依織にバトンタッチされ、
小説内の「And then-それから」で、依織が真犯人を追うことに。

ところが、真犯人が明らかになってからも、物語は続きます。
それは、嶌自身への告発された「封筒」の中身は何だったのかを
嶌自身が確かめるために。

そして、もう1つが本書の愁眉なのですが、この「嘘つきな大学生」という
タイトルが、大きな仕掛けになっているんですね。

「就職試験」とインタビューで明らかにされた、4人の人柄。
「And then-それから」でさらに深掘りされた、いや波多野祥吾が深掘りした4人の人柄。
ここに大きな乖離が生じているのです。
これが非常に上手い。
「嘘つき」と、自らが嘘をついていた訳では無く、前半の地の文と後半の地の文を
合わせて浮かび上がる、彼彼女たちの人柄が、実に巧妙に描かれるんですよね。

そして嶌自身の抱えている謎とハンデも。
さすがに嶌視点なので、この謎はわかりませんでしたが、
これが明確になった時に、上記の人柄が上手く浮かび上がる構造になっていて、
いや、すごい構成ですね。

そして波多野祥吾自身の人柄も当然描かれました。
ほぼ完全に良い人的な描かれ方、見方をされてきた彼にも、その表裏があるというのを
ある種最後に書いたんだなと。
それは他の4人とそこまで違いはないんだというのを書きたかったのでは無いかなと。

トリックというか、封筒の謎について。
普通に考えると、封筒を置くことで、自分が内定を勝ち取りたいがために
行ったと、誰もが考えるはずです。
しかし、本書のこの封筒は、実はそれが目的ではないというのが巧妙なところ。
そのため、犯人を絞るのが極めて難しいのです。

単行本が出て、『このミス』等で見たときから読みたかった作品で、
しかも内容的にも余りに見事な作品で、幸せなひとときでした。



六人の嘘つきな大学生 (角川文庫)

六人の嘘つきな大学生 (角川文庫)

  • 作者: 浅倉 秋成
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2023/06/13
  • メディア: Kindle版






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