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うらんぼんの夜 [川瀬七緖]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

片田舎での暮らしをきらう高校生の奈緒は、東京から越してきた亜矢子と親しくなる。
しかし、それを境に村の空気は一変し、亜矢子の口数も少なくなってしまう。
疑念を抱く奈緒は、密かに彼女の自宅に忍び込もうとするが……。解説・西上心太。


川瀬先生の作品は『女學生奇譚』以来ですね。
こちらも同じノンシリーズ。

本作では、田舎の弊害、旧村の因習とか、そういうモノが描かれますが・・・


村に祀られている地蔵の謎は、やや消化不良かなあと。
ちょっと真相が唐突すぎるし、それまで経緯があまり語られていないので、
やや難しい印象。

この村の地蔵と村の因習、都会から来たよそ者という2つが、上手く組み合わされば
中々面白かったのだと思いますが、いかんせん、都会から来たよそ者が
引っ越してすぐに地蔵に願掛けするという行為をしているので、
余計に話が見えにくくなっている。

よそ者(亜矢子)がこの村の因習を知っていたとは到底思えないので、おそらく偶然なのですが、
彼女たちの引っ越しの目的を達するには極めてちょうど良かったわけで、
その意味で、よそ者と内部落の人が実は協力しているという事実を、
最後まで奈緒は気付かなかった。
ここはかなり面白く読めましたが、亜矢子たちは実は村の因習を知っていた(調べてきた)
のだろうという予測は容易にたつでしょう。
(特に亜矢子の兄と姉が調べている。)

内部落の人も東京へ調べに出ているというのも中々面白く、極めて閉鎖的に描かれている、
いわばステレオタイプ的な田舎なのに、実は相当な調査をしているという、面白い矛盾だなと
思いました。
その割に、奈緒の両親とか、いくらなんでも価値観が古すぎだし、どうなってるんだろうと
いうのもまた矛盾ですかね。



うらんぼんの夜 (朝日文庫)

うらんぼんの夜 (朝日文庫)

  • 作者: 川瀬 七緒
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2023/12/07
  • メディア: Kindle版






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網走発遥かなり 完全改訂版 [島田荘司]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

東京郊外の高級住宅が並ぶ丘の上を毎日観察する老人の狙いは何か?
また都心のデパートや地下街に出没するピエロの正体は?
そして江戸川乱歩の古い写真を持つ老女の素顔とは?
現代の東京に表出した奇妙な出来事はやがて四十年前の雪の北海道で
起きた惨事の謎解きに結集する。
著者が周到に企みをほどこした驚異の野心作を改訂完全版として新装復刊、
著者による巻末解説も収録。

2024年春公開予定映画『乱歩の幻影』を収録。
江戸川乱歩の知られざる秘密に迫る「乱歩の幻影」。
島田荘司のリアルな体験から発想された名作がついに映像化!
出演 結城モエ 高橋克典 山口大地 嘉島陸 小貫莉奈 高橋努 加藤雅也(友情出演) 常盤貴子
原作・脚本・音楽 島田荘司
監督・プロデュース 秋山純


島田御大に、こんな傑作があるとは知りませんでした。
連作短編集、あるいは壮大な長編。
1組の「夫婦」が全編においてキーワードになりますが、
最初の「丘の上」は当時のバブル崩壊後という世相を色濃く反映させつつ、
奇妙な行動を取る隣家の老人と、丘の下に住む住民の葛藤と邂逅を描く作品。

ここから果たしてどう連作短編となるのか、まるで想像がつきませんでした。
「化石の街」は、東京の中心に眠る「宝探し」が核となる物語。
やはり奇妙なピエロが登場しますが、最後には主人公がピエロになるというのは
実に皮肉が効いている。
そして、老紳士が登場。主人公の名前は里美。

圧巻は「乱歩の幻影」。島田先生の「完全改訂版に寄せて」に拠ると、
ほとんどノンフィクションとのこと。
主人公の里美へ老婆が「あんたには崩せないよ、壁」という言葉の
なんとおどろおどろしい、恐ろしいことか。
その場面を想像するだけでゾクゾクします。
(種を明かせばなんてことはないのですが、ここはものすごく印象に残りました。)

そして里美(島田先生)がいかに乱歩に惹かれていたのかも、実によくわかる一編。
いや、島田先生だけでなく、「少年探偵団」による明智小五郎、江戸川乱歩は
当時の少年少女の関心を一心に集めていたのでしょう。

過日、別冊太陽で『横溝正史』が発売されたのですが、その1年前に
『江戸川乱歩』が発売しているのです。
これ、2冊続けて読むのがお勧めです。

閑話休題。
最終話が表題作ですが、「完全改訂版に寄せて」によると、本編が一番最初に
書かれた作品とのこと!
初めから連作短編を意識していたわけではないのです。
そして本編は御手洗潔シリーズを彷彿とさせる、実に奇妙な密室・消失事件。
犯人が予想しえなかった事態が、より事件を複雑化しているところも面白い。

1組の「夫婦」の足跡と、(読者にとっては)そこに乱歩の幻影を見つつ、
物語は幕を閉じます。

御手洗潔シリーズを思い起こす「丘の上」の老人や「化石の街」のピエロや老紳士の
奇妙な行動。本格ミステリの「網走発遥かなり」、ノンフィクションかつ江戸川乱歩
の幻影を追う表題作。
いずれをとっても傑作です。


網走発遙かなり 改訂完全版 (講談社文庫)

網走発遙かなり 改訂完全版 (講談社文庫)

  • 作者: 島田荘司
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2024/01/16
  • メディア: Kindle版






江戸川乱歩: 日本探偵小説の父 (305;305) (別冊太陽)

江戸川乱歩: 日本探偵小説の父 (305;305) (別冊太陽)

  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2023/02/27
  • メディア: ムック



探偵小説の鬼 横溝正史: 謎の骨格にロマンの衣を着せて (313;313) (別冊太陽)

探偵小説の鬼 横溝正史: 謎の骨格にロマンの衣を着せて (313;313) (別冊太陽)

  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2024/03/13
  • メディア: ムック









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あと十五秒で死ぬ [榊林銘]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

撃たれて死ぬまでの十五秒間で、
私は必ず犯人を告発してみせる。

〈十五秒後に死ぬ〉という奇抜な状況設定で起きる
四つの事件。この真相をあなたは見破れるか?

第12回ミステリーズ!新人賞佳作を収録、衝撃のデビュー作品集!

死神から与えられた余命十五秒をどう使えば、「私」は自分を撃った犯人を告発し、
かつ反撃できるのか? 被害者と犯人の一風変わった攻防を描く、
第12回ミステリーズ!新人賞佳作「十五秒」など四編を収録。
〈十五秒後に死ぬ〉というトリッキーな状況設定で起きる四つの事件の真相を、
あなたは見破れるか? 単行本刊行後に反響を呼んだ、第12回ミステリーズ!
新人賞佳作収録のデビュー作品集、待望の文庫化!

タイトルに一番合致する「15秒」が第1作に配されていて、
これはまさに、あと自分に遺された時間は15秒のみ。
それが過ぎれば死んでしまう。その15秒で自分を殺した犯人を他者に伝える手段はあるか?!
案内人として黒マントの猫が登場しますが、ちょっとした狂言回しやコメディリリーフな
感じがありますね。まあ死神なんですけどね。
本作は、どことなくジョジョの奇妙な冒険第3部、DIOの丈太郎の対決を読んでいるような
印象も受けました(笑)まさに時を止める、そして動かすという動作を繰り返しつつ、
主人公がいかに最大限思考を巡らせるか、与えられた15秒でヤツを叩くのみだ!という(笑

で、私は所収作全てがこの15秒に関わるというのを最後まで読んで、ようやく気付きました。
いや、これは凄い。
特に最終話の「首が取れても死なない僕らの首無殺人事件」は特殊設定ミステリでありながら、
見事な本格ミステリで、本作愁眉です。
首脱という珍しい体質?を持つ者たちが住む島で起こる殺人事件。
しかも、本作は「首の無い死体」というミステリのお約束に対して、現代ミステリ的な回答
の1つを示したといっても過言ではないと思います。

高校生同士の他愛ない会話、身体能力がどうとか云々が、実は重大な伏線であること、
最後の両角巡査の鬼気迫る首脱による胴体交換。しかもここには本人曰く「鬼の末裔」、
とにかく謎解き含めて、15秒間のみ首脱できるという能力だけに限らず、
非常にレベルの高い本格ミステリだと思いました。




あと十五秒で死ぬ (創元推理文庫)

あと十五秒で死ぬ (創元推理文庫)

  • 作者: 榊林 銘
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/08/31
  • メディア: Kindle版






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龍神池の小さな死体 [梶龍雄]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

「お前の弟は殺されたのだよ」
死期迫る母の告白を受け、疎開先で亡くなった弟の死の真相を追い大学教授・仲城智一は
千葉の寒村・山蔵を訪ねる。
村一番の旧家妙見家の裏、弟の亡くなった龍神池に赤い槍で突かれた惨殺体が浮かぶ。
龍神の呪いか?座敷牢に封じられた狂人の霊の仕業か?
 怒涛の伏線回収に酔い痴れる伝説のパーフェクトミステリ降臨。
〈トクマの特選!〉
イラスト やまがみ彩

梶龍雄 驚愕ミステリ大発掘コレクションの第1弾。

戦前、疎開先で事故で死んだと聞かされていた弟は殺されていた。
母親から死ぬ前の告白を受けて、智一は弟の足跡を辿るが・・・

本作は傑作です。主人公の弟捜しと、研究成果との見事な絡みもさることながら、
全編に伏線が張り巡らされ、それが一気に回収されていく、まさに本格ミステリ。

特に素晴らしいのは、吉爺殺害の誤認トリック。さり気ない描写なのですが、
ここは本当に上手い。

ラスト、というか終幕については確かに賛否両論ありそうですが、
これは梶作品を研究されている方の意見とかもお伺いしたいところですね。


梶龍雄 驚愕ミステリ大発掘コレクション1 龍神池の小さな死体 (徳間文庫 トクマの特選!)

梶龍雄 驚愕ミステリ大発掘コレクション1 龍神池の小さな死体 (徳間文庫 トクマの特選!)

  • 作者: 梶龍雄
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2022/04/13
  • メディア: Kindle版






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多重迷宮の殺人 [長沢樹]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

聖域を穢す者は、必ず殺される。
首都圏を震撼させる連続切り裂き魔事件!
地下施設に閉じ込められた9人。
絶対絶命の状況下で、連続殺人が始まった――

首都圏で発生した、地下建築での連続切り裂き魔事件。犯人も被害者の共通点も不明のまま、
捜査は難航していた。そんな最中、探偵・七ツ森とその助手・風野は、
地下探索サークルを主催する大学生・藤間とともに政治家が遺した別荘を訪れる。
その近辺の地下シェルターを調査中に壁が崩壊、一行は内部に閉じ込められてしまった。
さらに地下でも連続殺人が起き……大学生たちは犯人の手を逃れ、閉鎖空間から脱出できるのか。(『武蔵野アンダーワールド・セブン 多重迷宮』改題・改稿版)


初めて読むと思いきや、『消失グラデーション』の作家さんとは。

ところで、解説にもあるとおり元々の作品とは改題・改稿しているというもので、
東京創元社のページを見ると、登場人物や物語も結構異なっているようですね。

地下遺構という舞台設定は非常に魅力的だと思います。
普通はそこに閉じ込められたらパニックになりそうですが、登場人物たちの
経験からか、パニックは起こらず。

さて、少し先に進んでしまったのですが、本書は最初何か続編なのかと思うような、
いわばかなり色々な設定があるんですよね。
これが中々・・・理解するのが難しいというよりも、読んでいると気恥ずかしくなる(苦笑)
名探偵の登場や助手とか。神子都の過去とか、捜査コンサルタントという職業、
時代設定が1970年代~80年代で、学生運動が大きく影響していて、
地下に潜った彼彼女たちを執拗に探す公安部と刑事部の対立等々・・・
とにかく設定も多すぎる。

地下遺構での殺人事件は、なぜ閉じ込められた状態で行うのか?という動機も、
さらにどうおこなったのかという方法も、かなり物語にのめり込む面白さなのですが、
ラストがかなり消化不足なのと、様々設定したものがほとんど活かせていないのが残念ですね。

様々な地下遺構をめぐる、という感じのシリーズ化も目指せそうなのだけどなあ。
(ラストでそれはもう無いことはわかるのですが)


多重迷宮の殺人 (創元推理文庫)

多重迷宮の殺人 (創元推理文庫)

  • 作者: 長沢 樹
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/10/31
  • メディア: Kindle版






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