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網走発遥かなり 完全改訂版 [島田荘司]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

東京郊外の高級住宅が並ぶ丘の上を毎日観察する老人の狙いは何か?
また都心のデパートや地下街に出没するピエロの正体は?
そして江戸川乱歩の古い写真を持つ老女の素顔とは?
現代の東京に表出した奇妙な出来事はやがて四十年前の雪の北海道で
起きた惨事の謎解きに結集する。
著者が周到に企みをほどこした驚異の野心作を改訂完全版として新装復刊、
著者による巻末解説も収録。

2024年春公開予定映画『乱歩の幻影』を収録。
江戸川乱歩の知られざる秘密に迫る「乱歩の幻影」。
島田荘司のリアルな体験から発想された名作がついに映像化!
出演 結城モエ 高橋克典 山口大地 嘉島陸 小貫莉奈 高橋努 加藤雅也(友情出演) 常盤貴子
原作・脚本・音楽 島田荘司
監督・プロデュース 秋山純


島田御大に、こんな傑作があるとは知りませんでした。
連作短編集、あるいは壮大な長編。
1組の「夫婦」が全編においてキーワードになりますが、
最初の「丘の上」は当時のバブル崩壊後という世相を色濃く反映させつつ、
奇妙な行動を取る隣家の老人と、丘の下に住む住民の葛藤と邂逅を描く作品。

ここから果たしてどう連作短編となるのか、まるで想像がつきませんでした。
「化石の街」は、東京の中心に眠る「宝探し」が核となる物語。
やはり奇妙なピエロが登場しますが、最後には主人公がピエロになるというのは
実に皮肉が効いている。
そして、老紳士が登場。主人公の名前は里美。

圧巻は「乱歩の幻影」。島田先生の「完全改訂版に寄せて」に拠ると、
ほとんどノンフィクションとのこと。
主人公の里美へ老婆が「あんたには崩せないよ、壁」という言葉の
なんとおどろおどろしい、恐ろしいことか。
その場面を想像するだけでゾクゾクします。
(種を明かせばなんてことはないのですが、ここはものすごく印象に残りました。)

そして里美(島田先生)がいかに乱歩に惹かれていたのかも、実によくわかる一編。
いや、島田先生だけでなく、「少年探偵団」による明智小五郎、江戸川乱歩は
当時の少年少女の関心を一心に集めていたのでしょう。

過日、別冊太陽で『横溝正史』が発売されたのですが、その1年前に
『江戸川乱歩』が発売しているのです。
これ、2冊続けて読むのがお勧めです。

閑話休題。
最終話が表題作ですが、「完全改訂版に寄せて」によると、本編が一番最初に
書かれた作品とのこと!
初めから連作短編を意識していたわけではないのです。
そして本編は御手洗潔シリーズを彷彿とさせる、実に奇妙な密室・消失事件。
犯人が予想しえなかった事態が、より事件を複雑化しているところも面白い。

1組の「夫婦」の足跡と、(読者にとっては)そこに乱歩の幻影を見つつ、
物語は幕を閉じます。

御手洗潔シリーズを思い起こす「丘の上」の老人や「化石の街」のピエロや老紳士の
奇妙な行動。本格ミステリの「網走発遥かなり」、ノンフィクションかつ江戸川乱歩
の幻影を追う表題作。
いずれをとっても傑作です。


網走発遙かなり 改訂完全版 (講談社文庫)

網走発遙かなり 改訂完全版 (講談社文庫)

  • 作者: 島田荘司
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2024/01/16
  • メディア: Kindle版






江戸川乱歩: 日本探偵小説の父 (305;305) (別冊太陽)

江戸川乱歩: 日本探偵小説の父 (305;305) (別冊太陽)

  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2023/02/27
  • メディア: ムック



探偵小説の鬼 横溝正史: 謎の骨格にロマンの衣を着せて (313;313) (別冊太陽)

探偵小説の鬼 横溝正史: 謎の骨格にロマンの衣を着せて (313;313) (別冊太陽)

  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2024/03/13
  • メディア: ムック









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