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ぼくの「このミス」2023 [ミステリ]

本年最後はこの記事で。
意外と、というか毎年12月に怒涛の更新を見せるのは、
この記事を書くためかもしれません(笑

『六人の嘘つきな大学生』
とにかく素晴らしい構成でした。
彼らの「嘘」とは何か。フーダニット、ホワイダニットも入れつつ、
見事にタイトルから二重に読者を騙した傑作。

六人の嘘つきな大学生 (角川文庫)

六人の嘘つきな大学生 (角川文庫)

  • 作者: 浅倉 秋成
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2023/06/13
  • メディア: Kindle版







『死の湖畔 Murder by The Lake 三部作#2 告発(accusation) 
                  十和田湖・夏の日の悲劇』
十和田湖での転落事故という1つの構図を、
最後に逆転させる素晴らしい傑作。
中町信先生の作品は創元推理文庫、そして徳間文庫などで
手に取ることができるのでぜひ。







『Y駅発深夜バス』
名短編ここにあり。「猫矢来」は論理のアクロバットの傑作でしょう。

Y駅発深夜バス (創元推理文庫)

Y駅発深夜バス (創元推理文庫)

  • 作者: 青木 知己
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/05/19
  • メディア: 文庫






『Yの悲劇』『ママは何でも知っている』
もはや古典的名著ですが、初読というのが恥ずかしいです。
決して今読んでも色あせない、それぞれが今のミステリの先駆的作品であり、
本格、新本格、ミステリを愛する方へはぜひ読んでほしい作品。

Yの悲劇【新訳版】 (創元推理文庫 Mク 1-2)

Yの悲劇【新訳版】 (創元推理文庫 Mク 1-2)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2022/08/19
  • メディア: 文庫






ママは何でも知っている (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ママは何でも知っている (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2015/06/15
  • メディア: Kindle版






来年もよいミステリに出会えることを祈念しつつ。
来年もよろしくお願いします。

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影踏亭の怪談 [大島清昭]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

四つの怪異が解かれるとき、あなたは見てはならないものを目にする

第17回ミステリーズ!新人賞受賞作ほか全四編
怪談×ミステリの最前線

僕の姉は怪談作家だ。本名にちなんだ呻木叫子というふざけた筆名で、
専攻していた民俗学でのフィールドワークの経験を生かした
ルポルタージュ形式の作品を発表している。ある日姉の自宅を訪ねた僕は、
密室の中で両瞼を己の髪で縫い合わされて昏睡する姉を発見する。
この常識を超えた怪事件は、彼女が取材中だった旅館〈影踏亭〉に
出没する霊と関連しているのか? 姉を救う手掛かりを求めて
宿へ調査に出向くことにした僕は、宿泊当夜に密室で起きた
殺人事件の容疑者となってしまい……
第17回ミステリーズ!新人賞受賞作ほか、全4編を収録。

以下、ネタバレあり。






これは傑作短編集です。ミステリ好きの方はぜひ読んで欲しい。
私見ですが、
本書収録全ての短編は(広義・狭義含めた)密室という、極めて精緻な作りです。
確かに怪奇的現象、怪談は登場します。
しかし、その怪奇的現象をいかに事件解決に合理的に考えるか、
ある意味、どう「論理仕掛けの奇談」につなげるか、これが非常に上手い。
(「朧トンネルの怪談」などは好例でしょう。)

「ドロドロ坂の怪談」は、本筋の殺人事件は、「犬神家の一族」で登場する、
「無作為の作為」が実に上手く効いています。
本作は直球の密室が登場しますが、そもそもこの状況下ではどう考えても、
鍵を閉められるのは・・・となるのですが、この「無作為の作為」により、
事件が大混乱をするんですね。

一方で、中で語れる怪奇現象は、最後かなり深いところまで行ってしまい、未解決。
ここもまた恐ろしくてねえ・・・

一方、「影踏亭の怪談」は大半が怪奇小説です。ほとんど何も怪奇的な現象について
語られません。その意味では全く闇の中です。
本作が面白いのは、最初の探偵役である呻木の弟が、いきなり殺害され、
探偵役がバトンタッチされ、姉である叫子が弟の事件を、見事に論理的に
解決するパターン。まさか語り手がいきなり死亡は中々無いですからね。

本作では、叫子のまぶたが縫い付けられていた理由も、最後にしっかり説明
されていますが(むろん、ある意味怪奇的な説明ですが)、
それ以外の「影踏亭の怪談」の謎は、不明のまま。
「こうべ」が「頭」であることを叫子が指摘したのみ。

しかし、この最初の短編こそが、連作短編の始まりで、最後の叫子の悲劇にも
繋がるのは、実に練りに練った構成だなと。

とにもかくにも、次作『赤虫村の怪談』も早く文庫化を!


影踏亭の怪談 (創元推理文庫)

影踏亭の怪談 (創元推理文庫)

  • 作者: 大島 清昭
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/06/19
  • メディア: Kindle版






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孔雀屋敷 [海外ミステリ]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

エラリー・クイーンや江戸川乱歩が認めた傑作など、
巨匠の逸品6編を収める必読の短編集!
全収録作品新訳・初訳

一夜のうちに発生した三人の変死事件。不可解な事態の真相が鮮やかに明かされる「三人の死体」。
奇妙な味わいが忘れがたい「鉄のパイナップル」。
不思議な能力を持つ孤独な教師の体験を描く表題作。
そして〈クイーンの定員〉に選ばれた幻の「フライング・スコッツマン号での冒険」など、
『赤毛のレドメイン家』で名高い巨匠の傑作六編を収める、いずれも初訳・新訳の短編集! 
解説=戸川安宣

タイトルに惹かれて購入しました。

表題作は、主人公であるジェーンの奇妙な能力から、
かつてデヴォンに存在していた「孔雀屋敷」で起きた、奇妙な事件が
フラッシュバックするところから始まります。
色々な噂が流れつつも、ジェーンの見た光景こそが真実なのか。
グッドイナフ将軍との問答で物語は進みますが・・・

これは最後の予期せぬ形で真相が明らかになるのが見事で、
読者は、ジェーンの見た光景の青年=将軍であると、薄々は感づいているものの、
それがジェーンの前に明らかになる事実がお見事。

「鉄のパイナップル」。これは奇妙すぎる作品ですね。
あることに固執してしまうジョン・ノイ。それが極限まで行ってしまったことにより、
あろうことか、窃盗と殺人まで犯してしまうという。
ところが、この被害者がある事件の逃亡者であることが判明するというオチ。
今ならば、何らかの病名や障害の名称が付くのかなと、今日的な考えをしてしまいましたが、
一方で、鉄のパイナップルとはどういう飾りなのかなあ・・・

「ステパン・トロフィミッチ」は消えた凶器の先駆的作品でもあるのではないでしょうか。
彼の生涯は非常に過酷ですが、そこへ上手くミステリを混ぜているのが秀逸です。

「三人の死体」は、いやあ、デュヴィーンの推理が余りにも素晴らしいですねえ。
ヘンリーの気持ちは、分からないでもないところが、このミステリの肝でもあると
思いました。
横溝正史先生の『本陣殺人事件』に少し通じるものがありますね。
かつて『世界推理短編傑作集 3』に収録され(そのときは三死人)、
拙ブログでも取り上げていますが、そのときはハウダニットに焦点を当てたと
評していますね・・。昔過ぎて覚えてない。

海外の古典的傑作は、東京創元社様と早川書房様、そして国書刊行会様などが
復刊してくれてますが、やはり文庫が読みやすい。


孔雀屋敷: フィルポッツ傑作短編集 (創元推理文庫)

孔雀屋敷: フィルポッツ傑作短編集 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/11/30
  • メディア: 文庫






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本格ミステリ・エターナル300 [ミステリ]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

本格ミステリの2010年代は、どんな時代だったのか――
2011~2021年の各年を代表する傑作300タイトルのレビューとともに振り返り、
充実のコラム・解説で10年を総覧するガイドブックが登場!
本格ミステリを「読みたい人」「書きたい人」「語りたい人」すべてのファンに贈る、必携の一冊。

クリスマス・イヴにはだいたいクリスマスに関するミステリやら何やらを
紹介するのですが、弾切れです(苦笑
先週調べられなかったのですよね・・・

というわけで、『本格ミステリ・クロニクル』『本格ミステリ・ディケイド』に続く、
2010年代の本格ミステリを振り返る『本格ミステリ・エターナル』をご紹介。

通覧するとわかるのですが、この時代、一気に様変わりします。
新たな新進気鋭の作家さんの登場もさることながら、
ラノベからの本格ミステリ、特殊設定ミステリの大々的な登場という、
大きな波があったのが、この年代です。

今では特殊設定あるいは特殊状況ミステリは珍しくありませんが、
これをSF等ではなく、本格の俎上で描くというのは、やはり衝撃的だったと思います。
その代表格が『屍人荘の殺人』ではないでしょうか。

一方で、皆川博子御大、辻真先御大というレジェンドが各ミステリランキングで
トップを取るなど、レジェンドからベテラン勢もまだまだ負けていません。

個人的には、紹介されているミステリで、未だに文庫化されていないものも
多く、より多くの人に膾炙するには、(営業面で厳しいのは重々承知の上ですが)
文庫化を各出版社さんには試みて欲しいですね。
(その1つが、電子書籍化であるのは言うまでもありませんが)

ところでこの『エターナル』は原書房さん刊行でないのは、
何か理由があるのかなあと。

いずれにせよ、2020年代、さらにはその次も、本シリーズが刊行されることを
祈念したいですね。


本格ミステリ・エターナル300

本格ミステリ・エターナル300

  • 出版社/メーカー: 行舟文化
  • 発売日: 2023/12/02
  • メディア: 単行本






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2024本格ミステリ・ベスト10 [ミステリ]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

映像、コミック、ゲームから演劇、評論まで本格まみれの一年を総覧!
気鋭からベテランまで話題作揃いのランキングをはじめ、
新作『鵼の碑』が話題の京極夏彦、予測不能の俊英・方丈貴恵の2大インタビュー、
特集は「暗号ミステリの愉しみ」。今年も情報満載でお届けします!

『このミス』とともに年末の楽しみのもう一つ。
こちらにも京極夏彦先生のインタビューがあって、すこし笑いました。
妖怪の話とか、次作とか、いやあ、楽しみ&期待が高まりますね。

『本格ミステリ』の方は、映像作品やラノベ、それから装丁と、企画が多彩なので、
良いですよね。一番私が見てるのは「復刊ミステリ2023」。
ここは、おお!こんなものが知らなかったという発見があり、また良いのですよねえ。

方丈貴恵さんのインタビュー。『孤島の来訪者』注文したので楽しみです。
今回は暗号特集があるのですが、やはり『黄金虫』と『踊る人形』から始まる、
ミステリの中で大きなトリックの一つですね。
しかし奥が深いなあ、とこの特集を読んで思いました。
やはり『猿丸幻視行』は読むべきだなと。

今年もあとわずかですが、積ん読もどんどん読みます!


2024本格ミステリ・ベスト10

2024本格ミステリ・ベスト10

  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 2023/12/07
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)






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このミステリーがすごい! 2024年版 [ミステリ]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

35年の信頼と実績を誇る、新作ミステリーランキングブックです。
巻頭では『名探偵コナン』30周年を記念し、
青山剛昌×東野圭吾の超巨大対談が実現!
17,000字に及ぶ、ミステリー界のトップランナー2人の邂逅をお楽しみください。

更に、デビュー30周年を記念し、京極夏彦単独インタビューも掲載。
最新作『鵼の碑』のお話もたっぷりうかがいました。

そのほかQuizKnock河村拓哉×『君のクイズ』作者・小川哲特別対談などで、
2023年のミステリーヒット作に迫ります。

各業界人も注目する2023年の国内&海外のミステリー小説ランキング・ベスト20、
超人気作家による自身の新刊情報&特別エッセイなど、例年の人気コンテンツも充実の一冊です。

ついに今年もこの季節。
今年の表紙は30周年記念の『名探偵コナン』が登場。
『このミス』では再登場ではないでしょうか。

おそらく読者の中には、自分が生きているうちに終わるのか・・・という
思いを持っている方も多いのでは(笑

ランキングは若手が多い!いや素晴らしいですね。
全体をみれば、ベテラン勢も入っており、ミステリ界の盛り上がりを感じます。

個人的には阿津川辰海先生と斜線堂由紀先生の『名探偵コナン』ベストエピソードが
面白かったです。
物理の北山ならば、「霧天狗殺人事件」は描けるという阿津川先生の言に笑いました。

思想信条上、ランキングはと言いつつ、おそらく収録されたのはインタビューの半分くらい
ではと思わせる、京極夏彦先生へのデビュー30周年記念インタビューは必読です。


今年中に、積ん読になっているミステリをどれだけ読めるかなあ。


このミステリーがすごい! 2024年版

このミステリーがすごい! 2024年版

  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2023/12/05
  • メディア: Kindle版






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仮面幻双曲 [大山誠一郎]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

この町の誰が”顔を変えた殺人者”なのか?

時は、戦後間もない昭和22年。
東京で亡き父の事務所を継いだ私立探偵の川宮兄妹は、
依頼を受けて滋賀県の双竜町に赴く。

依頼主は、地元随一の製糸会社を営む占部家の先代社長夫人。
専務の武彦が双子の兄である現社長の文彦に恨みを抱き、殺害を目論んでいるのだという。
武彦は女子工員の小夜子に恋をしていたが、
彼女は町中に中傷の手紙がばらまかれたことを苦に自殺。
兄の仕業だと思い込んだ武彦は姿をくらまし、整形手術を受けて顔を変え、
別人になりすまして双竜町に戻っている。

「なぜ顔を変えたかわかるか? お前の近くにいる」

川宮兄妹の使命は、武彦を探し出し、文彦の命を守ること。
しかし、琵琶湖のほとりに建つ巨大な洋館に招かれ、寝ずの番にあたった矢先、
文彦は惨殺されてしまう――

果たして誰が”武彦”なのか。

本格ミステリの名手による傑作が、待望の文庫化!

しばらく間隔が空いてしまいました。
やっと読めました!
阿津川辰海先生の解説や旧版(改稿前版)も読んで比較して欲しいとありますが、
旧版が全然手に入らない作品なんですよね。
それだけに私にとっては幻の作品で、復刊(改稿版)が読めて、本当によかった。

いわゆる「ノックスの十戒」の、双子が登場する作品ですが、
本作は当然、最初にそれを堂々と明らかにすることで、ノックスの十戒をきちんと踏まえ、
それでいて、西村京太郎御大の『殺しの双曲線』と双璧をなす作品といって過言では
ありません。

双子である、整形して顔を変える、これらの事実は早々に明らかにされるのです。
ところが、本作最大のトリックはこの最初に明かされる事実の中に潜ませているという
のが、本作最大の愁眉であり、面白さ。
戦後すぐという時代だからこそのトリックともいえるかもしれません。

探偵役である川宮兄妹。シリーズ化してほしいです。


仮面幻双曲 (小学館文庫 お 43-1)

仮面幻双曲 (小学館文庫 お 43-1)

  • 作者: 大山 誠一郎
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2023/06/06
  • メディア: 文庫






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