SSブログ

Iの悲劇 [米澤穂信]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

Iターンプロジェクト担当公務員が直面するのは、
過疎地のリアルと、風変わりな「謎」――。

無人になって6年が過ぎた山間の集落・簑石を
再生させるプロジェクトが、市長の肝いりで始動した。

市役所の「甦り課」で移住者たちの支援を担当することになった万願寺だが、
課長の西野も新人の観山もやる気なし。

しかも、公募で集まってきた定住希望者たちは、
次々とトラブルに見舞われ、
一人また一人と簑石を去って行き……。

直木賞作家・米澤穂信がおくる極上のミステリ悲喜劇。




本書は小説であり、フィクションです。
しかし、本書のテーマとなっているIターンは現実に各自治体が
積極的に行っていることなんだろうと思います。
そして、それが上手くいっているのか、どうか。
本書で描かれる簑石と似たような状況、再び無人地になるようなところばかり
なのではないか、と想像してしまいました。

本書ラストである人物が
「集落が無人になるなら、これは夢のような出来事だよ。その地域への支出をほぼすべて
 停められるんだからね。」
このセリフは、これからの日本社会を現しているのだろうと。

これからの日本は人口減社会になっていきます。
行政インフラ・生活インフラをどう維持していくのかが死活問題になります。
そして現在過疎地と行政から指定されている箇所は、次々と本作の簑石のように
無人地になっていく可能性が高いでしょう。

そのような状況になっていく時、この南はかま市と同じようにIターンをやるのか、
それとも、都市に人々を集中させるのか。
インフラ・予算をどう活かすのか、真剣に考える時期はもう来ているのではないか、と。
暗澹たる気分になりますね・・・
小説なのに、極めてリアルな現実を突きつけられている、そんな小説なのです。
それが一番出ているのが「第五章 深い沼」。
この話、事件は起こりません。
簑石の状況を市長へ報告と、簑石の除雪問題のみ。
しかし、彼とその弟との電話越しの論争は読ませますね・・・

「棄民だ」と万願寺は言います。
日本社会でそれにはならないでしょうが、これからどうなるのか・・・


そんな現代の問題とは離れて、ミステリ小説の側面を。
主人公である万願寺の詳しい報告書を読んで、西野課長が安楽椅子探偵ばりの
推理を魅せる第1話。これはそういうコンビものかとふと思いました。

万願寺は学生気分が抜けないとみる観山(後に認識を少し改めますが)は、
どこか掴めない人間だなという印象。

しかし、この二人が・・・というのが仕掛けの1つ。
ただ、ご本人たちも認めているように「白い仏」はやりすぎですねえ。
一瞬、ご本尊を移動させた事によるものかと信じそうでした。

それ以外は実に上手い(移住者の方には失礼ですが)。
上手く種を蒔いています。西野課長より観山さんの方がさりげなく実に上手い。
さすが米澤先生で、上手く仕掛けを隠しています。

しかし本書の続編は難しいだろうなあ。


ところで、『○○の悲劇』というタイトルですが、当然ながら
これはドルリー・レーン4部作『Xの悲劇』『Yの悲劇』『Zの悲劇』『レーン最後の事件』
からの本歌取りなのは言わずもがな、だと思います。
しかし、当然分からない人も居るんだろうと。
なので、この作品を手に取った方には、是非とも古典的傑作を手にとって貰いたいですね。
最近『Yの悲劇』も創元推理文庫から再び刊行されましたので。
(購入済みです)



Iの悲劇 (文春文庫)

Iの悲劇 (文春文庫)

  • 作者: 米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2022/09/01
  • メディア: Kindle版







nice!(6)  コメント(6) 

nice! 6

コメント 6

コースケ

xml_xslさま、nice!ありがとうございます!
by コースケ (2022-10-29 17:22) 

コースケ

鉄腕原子様、nice!ありがとうございます!
by コースケ (2022-10-29 17:22) 

コースケ

@ミック様さま、nice!ありがとうございます!
by コースケ (2022-10-29 17:22) 

コースケ

サイトー様、nice!ありがとうございますm(_ _)m
by コースケ (2022-10-29 17:23) 

コースケ

31様、nice!ありがとうございますm(_ _)m
by コースケ (2022-11-05 15:30) 

コースケ

らしゅえいむ様、nice!ありがとうございますm(_ _)m
by コースケ (2022-11-05 15:31) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。