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貴族探偵対女探偵 [麻耶雄嵩]

Amazonさんの紹介ページから。

新米探偵・愛香は、親友の別荘で発生した殺人事件の現場で「貴族探偵」と遭遇。
地道に捜査をする愛香などどこ吹く風で、
貴族探偵は執事やメイドら使用人たちに推理を披露させる。
愛香は探偵としての誇りをかけて、全てにおいて型破りの貴族探偵に果敢に挑む!
事件を解決できるのは、果たしてどちらか。精緻なトリックとどんでん返しに満ちた
5編を収録したディテクティブ・ミステリの傑作。

前作『貴族探偵』は推理をしない「探偵」かつ貴族という
ぶっ飛んだ設定で驚かされました。
一方、前作所収昨「こうもり」は1つのトリックを最大限にまで高めたミステリの傑作。

では本作は?どうも貴族探偵にライバル?が登場したようです。
名は高徳愛香、ある有名な探偵の弟子で、師匠死去後、一人で
探偵業を営む新人探偵。
彼女の行く所、貴族探偵あり。

「白きを見れば」
親友の平野紗知に「たまには骨休めを」と言われ、
別荘「ガスコン荘」に招かれた愛香。しかしそこで殺人が・・・

「色に出でにけり」
以前師匠の助手だった頃に出会った事件の関係者である玉村依子から
依頼を受け、事件現場へ向かう愛香。しかしそこには貴族探偵が・・・

本作は連作短編集という体裁を取っています。
最大の特徴は貴族探偵の使用人と愛香の「推理合戦」でしょう。
つまりは「多重解決」。
1つの事件に対して、2つの推理。
いずれかは間違っているorいずれも正しい。
読む側はさほど深く考えなくても、書く側はこれは実に難しいでしょう(苦笑)


以下ネタバレあり。


上記2編は「アリバイ崩し」がメイン。
「白き~」は降雪の時間、コートのボタン、シャッター、これらから
愛香は推理を組み立てますが・・・
「シャッターに残った痕」の愛香の推理はかなり強引で、
読んでいて?と思いましたが、
一方貴族探偵の執事の「傘」というのも、実はそこまで説得力はないのでは?
傘なら手に持たなくてもなんとかなりますよね。
しかしまあ、全否定するのもかなり難しいかな。

本作はこの犯行計画を作ったのが、
被害者自身であるという所が秀逸。
それにより、事件自体の見方ががらっと変わります。
殺害した犯人は誰か?だけを推理していては、誤った推理になる
可能性もあるという、良いお手本。

「色に~」は、絞殺と自殺でタオルの色がなぜ違うのかが、最大の謎解き。
料理人の推理は実に説得的です。
しかし本作の最大愁眉は動機でしょう。
なぜ手帳が盗まれたのか。ここに最大の仕掛けがあります。
ああ、依子の最後の告白も楽しいです(笑

「むべ山風を」
とある大学の内部データ盗難事件を解決した愛香。
その後、「光るキノコ」を栽培中の韮山瞳准教授の部屋を訪れると、
そこには貴族探偵が!そして院生が殺害され・・・

現場に残されていた紅茶を飲んだ跡と、カップの色から
推理を組み立てていく愛香。
しかし、本人も即認めているように完全にケアレスミス。
珍しく貴族探偵の言うことがまともでした(笑

本作は、現場の工作をしたのは誰なのかという点
に力点が置かれている作品ともいえます。
その意味では、「白きを見れば」と共通する点あり。
「光るキノコ」はあまり関係無かったのだろうか。

書き下ろし「なほあまりある」
貴族探偵が、自らの使用人たちを呼べない場所で
殺人事件が起こった場合、果たしてどうするのか?

本作はこれまでの愛香と貴族探偵の物語の総決算的作品。
つまり、これまでのミスを愛香がうまく活かし、また貴族探偵の
性格も忘れてしまっていれば、事件は解決できなかったでしょう。

花瓶のバラと部屋の入れ替えは秀逸。
最初の疑問は貴族探偵が愛香を雇ったという、つまり
自分の使用人的な立場で使ったわけですね。

しかし、これは貴族探偵にしては
大きな博打に出ている感は否めません。
これまで愛香はことごとく推理を失敗してきたのに、
なぜ彼女で大丈夫だと確信したのか。

もしかしたら、これまでの事件で、彼女が成長していることを
見抜いたのか?まあここはわかりませんね(苦笑

さて本作でもやはりありました。「こうもり」にあたる作品が。
「弊もとりあえず」
願い事を叶えてくれる「いづな様」に会うためとある旅館を訪れる
愛香と紗知。そこにはまた貴族探偵が・・・
別館で起きた殺人事件。愛香の推理は妥当なように思えましたが・・・

これも二度読みましたが、むちゃくちゃ難しい(苦笑
つまり、最初に挨拶した際に女性だった赤川和美が、
被害者では男性になっているんですよね。地の文にそう書かれている訳です。

そして、愛香の推理で「あなたが田名部さんを殺したんですね」という
セリフが出てきます。ここはセリフです。
つまり、地の文のとセリフでは愛香の認識が全く違う、
という事は、地の文は読者だけがわかる情報で、
愛香らの認識はセリフの方、という事でしょう。

読者をひっかける叙述トリックは最近よく見かけますが、
この「弊もとりあえず」は解決に至る全ての情報を明らかに
しているとみせかけて、その実、小説内の人物たちにトリックを
仕掛けているため、読者もそれに引っかかってしまう、とでもいいましょうか(苦笑
私見でいえば、究極の叙述トリック。

いわゆる「どんでん返し」が流行りの昨今のミステリ界(あくまで私見ですが)
ただ、どうも最後だけ、そこだけ強調してくる作品や
帯のあおりに興ざめしていたんですよね・・・
しかし、この「弊もとりあえず」は、
最初から情報を正確に示しているにも関わらず、
これだけの驚きを与えてくれるとは。見事です。

しかし、続編は出るのかなあ・・・
なんか出し尽くした感はあります。

大家博子さんの解説も必読。
ワトソン役と百人一首の考察は素晴らしいの一言。



貴族探偵対女探偵 (集英社文庫)

貴族探偵対女探偵 (集英社文庫)

  • 作者: 麻耶 雄嵩
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2016/09/16
  • メディア: 文庫



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  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2013/10/30
  • メディア: Kindle版



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コースケ

31さま、nice!ありがとうございます!
by コースケ (2016-10-16 21:58) 

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