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異邦の騎士 改訂完全版  [島田荘司]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

失われた過去の記憶が浮かびあがり男は戦慄する。
自分は本当に愛する妻子を殺したのか。
やっと手にした幸せな生活にしのび寄る新たな魔の手。
名探偵御手洗潔の最初の事件を描いた傑作ミステリ『異邦の騎士』に
著者が精魂こめて全面加筆修整した改訂完全版。
幾多の歳月を越え、いま異邦の扉が再び開かれる。

以下、ややネタバレ。





『ネジ式ザゼツキー』でも記憶喪失の人物が物語の鍵を握っていました。
そして、その頃の御手洗潔は、脳科学の研究者として
スウェーデンにて教鞭をとっていました。
偶然なのか、必然なのかは別として、御手洗潔シリーズ真の第1作で、
記憶喪失の人物が主人公であり、彼の記憶を解きほぐしていくのが
御手洗潔であるというのは、感慨深いものがあります。

主人公は偶然出逢った石川良子を彼女のヒモから助けることで、
彼女の引っ越しを手伝い、そして一目惚れし、彼女との共同生活が始まります。
良子から「石川敬介」と名前をもらい、近くの工場で働くことに。

自分が天秤座であることになぜか確信した敬介は、
「御手洗潔占星学教室」の門を叩くと、そこには・・・
「名前など記号ですよ!」などと突然ハイテンションで喋る男が。
異常に不味いコーヒーを出す。その男・御手洗潔こそ彼の記憶を呼び覚ましてくれる人物の1人だったのです。

この出会いは「敬介」にとって強烈な印象を残していて、読者にも強烈な印象を
与えてます。まさに正真正銘、これが御手洗だと私は思いました(笑

「敬介」は良子とともに御手洗の元を訪れますが、良子は『便所ソウジ』という
御手洗のあだ名話に爆笑しつつも、彼の元を訪れることを暗に拒否しています。
すでに良子には、彼が真実を解き明かす人物であることがひょっとしたら
なんとなくわかっていたのでしょうか。

「敬介」は免許証から自分の本名が「益子秀司」であることを御手洗に伝え、
自分の記憶喪失についての相談も持ちかけます。
御手洗は君は再生障害だと言い、長々と説明しますが、ここにも彼が後に
脳科学研究者となる片鱗を魅せてくれます。
そしてこの場面には、後に御手洗の推理の重要なピースにもなる
ある男も登場します。

自分が誰なのか知るために、免許証へ記された「西尾久」へ向かい、
アパートの住人からさらに情報を得る秀司。
そして、墨田区の一軒家へ赴き、自分には「千賀子」と「菜々」という妻子が居たことを知るのです。
文庫版223頁からの、「千賀子と秀司の日記」の内容は壮絶でした。
読んでいてもあまりの極悪非道ぶりに読むのも辛かったですが、
この手記により、秀司は井原へ復讐を誓い、いざナイフで刺そうとしたところに、なんと良子が現れ、彼女を刺してしますのです・・・

この後、御手洗が登場し、怒濤の展開が続きます。
「いい質問だよ益子君、狂人の夢想では、あそこで君を待てない。これこそ推理というものだよ」
「僕はいつも思うんだ。クイズは、作るより解く方が何倍もやさしいんだ。(中略)古今東西、巧妙な犯罪や事件に真の芸術家がいるとすれば、それはホームズやポアロなんてやからじゃなく、その犯罪を計画し、実行した勇気ある犯人たちだよ。」
これは御手洗の言葉ですが、読んでいて好きなんですよねえ。
推理というものを自身でしつつも、解くよりも考えた人間を褒める。
そしてこの事件でも、天才はただ1人、そう真犯人の名前を彼は挙げるのです。

この御手洗の(時間は空きますが)推理の過程で、「敬介」は様々な感情を御手洗にみせます。
そして、最後に彼の本名が明らかになるときは、本当に衝撃です。
本書を読んだ後、「占星術殺人事件」や「斜め屋敷の犯罪」を読むと、
本書の「敬介」と、その後の彼は同一人物なのか。
本書最後には彼自身がこの事件を振り返る場面がありますが、
御手洗をドン・キホーテと称し、最後に鉄の馬に乗り、颯爽と夜の荒川土手に現れ、とも表していて、彼にとって、御手洗が「異邦の騎士」であるかのような描写です。
しかし、石川良子にとっては、「敬介」こそが「異邦の騎士」だったのです。

ところでこの事件の計画は、最初から綿密に練られていた訳ではなく、
彼の実際の住所と秀司の住所が近似していたという偶然と、彼の鏡を見ることができないという恐怖症の2つから、真犯人が急遽計画したもので、これはまさに天才的な仕掛です。
しかし、記憶が呼び覚まされる可能性もあった訳で、非常に危ない橋を渡っていたともいえます。
ところが、危ない橋というのは真犯人たちの計画が挫折するだけで、最後に犯人が語ったように、
自分自身に火の粉がふりかかることはないという、絶対的に安全な場所を
確保していたというのも、この仕掛けの見事な点でしょう。

ものすごく気になったのは、改訂版前の『異邦の騎士』です。
これはぜひ読んで見たい。
御手洗の天才的な推理や閃きは、『占星術』や『斜め屋敷』と比較すれば、
劣るかもしれません。
しかし、本書は推理小説と恋愛小説の両面を兼ね備え、現在の御手洗シリーズへの繋がりが非常に垣間見え、何より、ホームズ役&ワトソン役の最初の出会い(ネタバレですね)でもある本作は、御手洗ファンのみならず、今更ながらミステリファンにもぜひ読んでほしい一冊。



異邦の騎士 改訂完全版

異邦の騎士 改訂完全版

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1998/03/13
  • メディア: 文庫



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コメント 6

31

コースケさん
「異邦の騎士」の感想ありがとうございます!
この本、単行本でも、文庫本でも読んでいるのですが(あまりに好きだったので持ち運びしやすいように文庫本でも購入)、ひょっとしたら改訂前のものしか読んでいないかも、という気がしてきました。
改訂完全版、読まなきゃ、です。

by 31 (2020-05-29 03:46) 

コースケ

ストックン様、nice!ありがとうございます!
by コースケ (2020-05-31 20:54) 

コースケ

31様、nice!&コメントありがとうございます。
御大の解説を読むと、この完全改訂版は相当手を
入れたみたいですね。
こんなのを読ませるのは申し訳ないと。
内容というより、文章表現とかを改訂しているんでしょうか
ねえ。
ちなみに次は『眩暈』を読む予定です!
by コースケ (2020-05-31 20:56) 

コースケ

鉄腕原子さま、nice!ありがとうございますm(_ _)m
by コースケ (2020-05-31 20:56) 

コースケ

@ミックさま、nice!ありがとうございます!
by コースケ (2020-05-31 20:56) 

コースケ

サイトー様、nice!ありがとうございます!
by コースケ (2020-05-31 20:57) 

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