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アリバイ崩し承ります [大山誠一郎]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

美谷時計店には「時計修理承ります」とともに「アリバイ崩し承ります」という貼り紙がある。
難事件に頭を悩ませる新米刑事はアリバイ崩しを依頼する。ストーカーと化した元夫のアリバイ、
郵便ポストに投函された拳銃のアリバイ…7つの事件や謎を、店主の美谷時乃は解決できるのか!?「2019本格ミステリ・ベスト10」第1位の人気作、待望の文庫化!


本書は、典型的な安楽椅子探偵、アームチェア・ディテクティブになります。
本書を読んでいて真っ先に思い浮かんだのは、阿刀田高さんの『Aサイズ殺人事件』
あれも、主人公の刑事が、とある寺の和尚に碁の相手をするとともに、謎解きの
相談もするというストーリーとなっています。

ただ、『Aサイズ』と違うのは、本書がとことんアリバイに拘った短編集になっていること。
それは表題からも当然明らかなのですが、アリバイ崩しだけでなく、アリバイ探しも
行うところが面白い。
単なるアリバイ探しでなく、それはつまり真犯人を見つけることも意味している訳です。

個人的には「ストーカーのアリバイ」と「凶器のアリバイ」が秀逸。


アリバイ崩し(探し)という極めてシンプルな点のみに集約している本書は、
時乃の「時を戻すことができました」という台詞前に、ほぼ全ての情報が出揃っていて、
その情報をいかに組み立てるのか、この一点のみです。
しかし、これが実に(まさに時計のように)精巧に、かつ緻密に物語が創られていて、
まさに<謎解き小説>の醍醐味を味わえる短編集になっています。

ところで、本書では主人公の名前すら明らかでなく、また美谷時計店にはいつもお客が
いません。筆者の『密室蒐集家』ではありませんが、本当にこの時計店は
存在しているのだろうか?とふと思ってしまいました。

都筑道夫先生の『退職刑事』のようにぜひシリーズ化、そしてあわよくば「拳銃と毒薬」
のような異色作品が出てきてくれたら!と期待せずにいられません。


アリバイ崩し承ります (実業之日本社文庫)

アリバイ崩し承ります (実業之日本社文庫)

  • 作者: 大山誠一郎
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2019/11/25
  • メディア: 文庫



アリバイ崩し承ります (実業之日本社文庫)

アリバイ崩し承ります (実業之日本社文庫)

  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2019/11/21
  • メディア: Kindle版



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文豪たちの怪しい宴 [鯨統一郎]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

討論会の帰り、初めて立ち寄ったバー“スリーバレー”で、私は夏目漱石の『こころ』に
関する女性バーテンダーの疑問点に答える羽目に。文学部教授である私が、
まさかこんな場所で講義することになるとは。しかも、途中からやってきた宮田という男が、
あろうことか『こころ』を百合小説と断言したことで、議論は白熱し…。
文学談義四編で贈る、文庫創刊60周年記念書き下ろし。




宮田六郎&早乙女静香、そしてスリーバレーのシリーズは
ひとまず『崇徳院を追いかけて』で完結(充電?)のようで、
本作は、宮田&スリーバレーは続投しつつ、扱う内容が、歴史ではなく、
文学作品となっています。
さらに歴史マニアのバーテンダー・松永に代わり、文学作品に造詣が深いミサキが
ピンチヒッター的な役割で登場しています。


扱う作品は超有名どころを集めた印象ですね。
夏目漱石の『こころ』、太宰治『走れメロス』、宮澤賢治『銀河鉄道の夜』。

しかし、ラストだけは超有名作家ですが、ミステリを意識したのか
芥川龍之介『地獄変・偸盗』所収の『藪の中』になっています。


歴史上の謎と言われているものも、ずっとはっきりわからないものもあれば、
近年の研究が進展したことなどから、新事実が判明したり、解釈が変わっていたり。
教科書を見比べてみると、結構わかったりするのではないでしょうか。
(もちろん、依然として不明なものも多々ありますが)


文学作品はどうなのでしょうか。確かに作家研究、作品研究は多数あります。
しかし、やや乱暴に言ってしまえば、その文章が何を意図して書かれたか?
という問いは、中高生のテスト、あるいは昨日・今日と行われているセンター試験で
出題されたりしてますが、
本当のところは、書いた作者にしかわからないよなあと思ったり。


その意味で研究として、あるいは本書でいえばミステリとして扱うのは
宮田の1つの解釈として、充分にあり得るものだと思うのですが、
それを確かめる術が完全に無いのが、またもどかしいなあと。

それと、本書はやはり該当文学作品をしっかり読んでいないと、楽しみは半減しますね。
歴史は結構有名な説や、テレビや各メディアでも取り上げられますが、
文学作品は中々そうもいかないので、その点、前のシリーズの方が取っつきやすかったかなと。

ところで、宮田と静香は結婚したりしたんでしょうか?




文豪たちの怪しい宴 (創元推理文庫)

文豪たちの怪しい宴 (創元推理文庫)

  • 作者: 鯨 統一郎
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2019/12/11
  • メディア: 文庫



文豪たちの怪しい宴 〈邪馬台国はどこですか?〉シリーズ (創元推理文庫)

文豪たちの怪しい宴 〈邪馬台国はどこですか?〉シリーズ (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2019/12/13
  • メディア: Kindle版



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桃ノ木坂互助会 [川瀬七緖]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

厄介事を起こすのは、いつだってよそ者だ。七十歳の光太郎は憤慨していた。
われわれが町を守らなくては――。そこで互助会の仲間たちと手を組み、
トラブルを起こす危険人物を町から追い出し始める。その手段はなんと嫌がらせ!? 
老人だからこそできる奇想天外な作戦はなかなか好調に思えたが……。
大家と揉めていた男を次なるターゲットに決めたことから、事態は思わぬ方向へと動き始める。

老人たちの暴走とも受け取られかねない、この桃ノ木坂互助会の活動。

害を及ぼす「よそ者」を、様々な嫌がらせで追い出しにかかる、熊谷光太郎と互助会。
そしてDV加害者を依頼で苦しめる鈴木沙月とその姉優月。

この両者が巡り会うのは、桃ノ木にDV加害者が居ることから、始まります。

本書で描かれるのは、自分たちの住む町を良くしたいと考える、その町に
長く住む住人たち。
しかし、それは一歩間違えれば、現実社会でもある、村八分、もっと小さなことで言えば
町内会、しきたり、伝統、そんな言葉で縛られた誤った倫理観へも繋がりかねません。

沙月たちとの対立の際、互助会はその活動を大きく踏み外そうとする行動を見せます。
主人公の光太郎らはこれを危惧するものの、考えや行動を押し留まらせるには
至らず、結果的に、沙月らをDV加害者・武藤から救ったことで、
一連の事件は丸く治めることになりました。

最後に沙月が推理する、桃ノ木坂互助会のある人物の病気については、
一連の事件での、(本人は意図していないとしても)「黒幕」が誰であったかを
わからせる話でもあり、実は互助会、古くからの地域住民が、地域の事件・事故を
引き起こしていたという、極めて強烈な皮肉で幕を下ろします。
これから光太郎らはどうこの互助会の中で、どう振る舞っていくのか、
ラストは決して大団円でなく、不安をひきずる終わり方になっています。

自分たちにとって正しい、正義であると信じていても、
いつからかそれが、相手、あるいは社会にとって悪であることに変化することも
あるわけで、本書はそうした側面も持っていると感じました。


桃ノ木坂互助会 (徳間文庫)

桃ノ木坂互助会 (徳間文庫)

  • 作者: 川瀬 七緒
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2016/01/07
  • メディア: 文庫



桃ノ木坂互助会 (徳間文庫)

桃ノ木坂互助会 (徳間文庫)

  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2016/01/08
  • メディア: Kindle版



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死体は眠らない [赤川次郎]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

妻を殺したらどんな気分だろう?三十代半ばで四つの会社の社長である
池沢瞳は大仕事をやってのけた。ついに妻の美奈子を殺したのだ。
やたら威張っていた妻を。さて、死体をどうするか?と、思案していたところへ妻の友だちは来るわ、
秘書で愛人の祐子が現れるわ、脱走した凶悪犯に侵入されるわ、
次々と訪問者が!妻を誘拐されたことにした瞳だったが―。嘘が嘘を呼び大混乱!

2020年もどうぞよろしくお願いします。

さて、本年一作目は、正真正銘年明けに初めて読んだミステリです。
赤川次郎作品ということで、新年からユーモア・ミステリで楽しもうという。

ところが、本作はユーモア・ミステリではありませんでした。
ユーモア・サスペンス、というジャンルがあるかわかりませんが、
登場人物全てに、常識人が居ないという、カオス状態。

特に警察がすごい。終盤に出てくる上田刑事が唯一まともな感じです。
誘拐事件なのに、自分たちの飯の心配しかしない刑事たち。
とにかく食に対する執着心がすごすぎます。

添田刑事も鋭いところを見せたのでもしかしたらと思ったのですが・・・彼も酷すぎる。
社長秘書の早川祐子に恋をし始める池山刑事。彼は殺されてしまいますから、
気の毒ではあるんですが・・・

主人公の池沢瞳も、早川祐子が偽名であると告白しているのに、なんだか平然と
しているし、好きだ好きだを連発し、殺人事件が多発しているのに、ラブシーンを
演じ続けているという。
被書の吉野と早川祐子の最期もあまりにひどすぎる・・・

最終章の「ハッピー・エンド」のタイトルの皮肉が秀逸過ぎます。
確かに池沢にとっては、そうかもしれません。
しかし、他の人たちにとっては、全く逆の結果に・・・

ただ、不謹慎かもしれませんが、めちゃくちゃ面白かったです。
あまりの突飛すぎる話の連続に、一気読みでした。

さて、本年もたくさんミステリを読めたらいいなあと思っております。



死体は眠らない 〈新装版〉 (徳間文庫)

死体は眠らない 〈新装版〉 (徳間文庫)

  • 作者: 赤川次郎
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2019/12/06
  • メディア: 文庫



死体は眠らない (角川文庫)

死体は眠らない (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2000/12/08
  • メディア: Kindle版



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