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静かなる良人 [赤川次郎]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

浮気をして家へ帰ると、夫は血まみれで倒れており、一言「ゆきこ」と言い残して息絶えた。
冷たい世間の眼と間抜けな刑事の尾行のなか、後ろめたさから自ら犯人捜しにのりだした
妻の千草であったが、犯人捜し過程で、「いい人」だけど退屈で面白みのない人間、
と思い込んでいた夫の意外な一面を知る……。千草は果たして夫を殺害した犯人を
捜し出すことができるのか?夫婦の絆を描いたユーモア・ミステリの傑作。

普通は物語の最中に殺人が起こり、それを解いていくのが、大半のミステリかと思います。
しかし、本書は妻が浮気をして帰ると、真面目な夫が殺害されていて、
しかも最後に遺した言葉が女性の名を想起させる「ゆきこ」。
そして次々と舞い込む、夫の知らない一面・・・

千草は夫を殺した犯人を突き止めるというより、自分が全く知らなかった夫の
顔を探すために、(世間からどう思われようと)積極的に行動していきます。
それがさらなる事件も引き起こす引き金にもなるのですが、
夫が亡くなった後に、自分にはもったいない夫で、これ以上の男はいないと豪語する千草
の台詞は、ある意味とても皮肉が効いています。
落合刑事がまたいい脇役で、最後に千草を口説くのがまたおもしろい。

赤川作品はまだまだ未読本がたくさん。これからも読んでいきます。


静かなる良人-新装版 (中公文庫)

静かなる良人-新装版 (中公文庫)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2019/12/19
  • メディア: 文庫



静かなる良人 (角川文庫)

静かなる良人 (角川文庫)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2012/10/16
  • メディア: Kindle版



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仮装の時代 富士山麓殺人事件 [西村京太郎]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

この世には勝者と敗者しかいない。あらゆる策を弄して自分は勝者になる
―幼時に両親を失いアルバイト生活を送る早川吾郎は、新聞・テレビ界を牛耳る
“マスコミの帝王”五味大造を叩き潰すことを決意する。手始めに五味の愛娘・奈美子に近付き、
背後にうごめく疑惑を探ることに。手を変え品を変えて五味を罠にかける早川、
反撃に転じる五味。手に汗握る死闘の行方は!謎とサスペンス満載の傑作長篇!初期代表作!

本作はどういう作品になるのか、とても難しい作品です。
ググると、ピカレスク・ロマン(悪漢小説)と書かれています。

とにかく主人公の早川吾郎の野心がすごい。娘である奈美子への近づき方だけでなく、
五味大造に直接ケンカを売る場面なども中々大胆です。
しかし、五味も言うとおり、単なる負け犬の遠吠え的な面は自他ともに認識しており、
五味の弱みをどうにか掴もうとするところが、本書の分岐点でもあります。
正義感溢れる貴生知勝とのコンビが、驚愕のラストをもたらすことになるのですが、
果たしてこれは早川の望んだことだったのでしょうか?

一方で、早川・美奈子・江崎の三角関係も描かれていて、これがまた1つの物語に
なっています。特に、野心一筋の早川なのに、彼に微妙な揺れをもたらす恋や愛という
感情があるところが、早川という人物に少し人間味を感じます。

しかし、美奈子からの手紙で究極の選択をした早川が選んだ道が、
結果的には上記の驚愕のラストを迎えることになるのは、ある意味必然だったのでしょう。

西村御大の初期作品群は本当におもしろいものばかりです。
本書は全くしりませんでしたが、徳間文庫さんの復刊は本当に有り難い。
これからもどうぞ名作の復刊をお願いします。



仮装の時代 富士山麓殺人事件 (徳間文庫)

仮装の時代 富士山麓殺人事件 (徳間文庫)

  • 作者: 西村京太郎
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2019/12/06
  • メディア: 文庫



仮装の時代 (光文社文庫)

仮装の時代 (光文社文庫)

  • 作者: 西村 京太郎
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2020/02/16
  • メディア: 文庫



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探偵さえいなければ [東川篤哉]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

さまざまな着ぐるみが集う烏賊川市のビッグイベント「ゆるキャラコンテスト」。
その準備中に、一人の出場者が胸を刺されて死んでいるのが発見された!
事件解決のリミットはコンテスト開始までの一時間。
探偵の鵜飼は真相解明に乗り出すが―。(「ゆるキャラはなぜ殺される」)
おなじみ烏賊川市の面々がゆるーく活躍する、大人気ユーモアミステリー傑作集!

久しぶりの烏賊川市シリーズです。待ってました!
鵜飼杜夫に戸村流平、鵜飼事務所の入るビルのオーナ-・二宮朱美の3名が謎を解く、
というよりも巻き起こる、でしょうか(笑

本書は短編集ですが、それぞれにしっかりと見せ場があります。
「倉持和哉の二つのアリバイ」では、泥酔状態にありながらも、驚異の記憶力を魅せる鵜飼。
「とある密室のはじまりとおわり」で、相変わらず酷い目に遭う戸村流平。
「被害者によく似た男」では砂川警部が、一応面目躍如の活躍を(笑
いや、実際砂川警部と志木刑事、この短編集では中々の活躍を見せてるんですよね。

さて、そんなユーモア溢れる短編集ですが、少し自分勝手な深読みを
してみると、
「博士とロボットの不在証明」、これでは朱美さんが見事に大活躍なのですが、
博士とロボット(ロボ太)のおかしいやりとりだけでなく、
最後のシーン、ロボ太がステレオタイプのようなロボットになって終幕というのは、
皮肉が効いています。ロボ太は人間のようにずる賢く、自分の立場が悪くなって
こうした態度を取ったと見えるわけですが、科学が発達し、AI○○なんてのも
登場した現在、人間の言う事を真に受けて聞くロボットが居なくなり、
自分に都合の良い行動を取るロボットが登場してもおかしくありません。

そして「ゆるキャラはなぜ殺される」という、高木彬光「人形はなぜ殺される」
の本歌取りの作品では、ゆるキャラという、殺人を犯しそうも、何か事件が起こりそうも
ない現場で、事件(殺人事件)が発生し、ゆるキャラ(の格好をした人物たち)が
鵜飼&朱美と問答をしつつも、鵜飼が事件を解決する、という流れなのですが・・・
ラスト、鵜飼の推理が誤りで、真犯人が逃亡する場面が描かれるのは、
ゆるキャラという外見に騙された鵜飼ら「探偵」がしてやられた場面でもあります。
解説にあるように、確かに本編は「探偵さえいなければ」捕まっていた、という
他短編とは異色の作品となっています。

やはり烏賊川市シリーズは東川先生の看板作品ですね。
これからもずっと続いてほしい。


探偵さえいなければ (光文社文庫)

探偵さえいなければ (光文社文庫)

  • 作者: 篤哉, 東川
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2020/01/08
  • メディア: 文庫



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無垢と罪 [岸田るり子]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

小学校の同窓会で、二十四年ぶりに初恋の女性と再会した。しかし、その翌日、彼女は
既に死んでいたことを知る。同窓会の日、語り合った女性は、いったい誰なのか?(「愛と死」)
転校生を目で追ってしまうのは、彼が落とした手紙を拾い、その衝撃的な内容を
読んでしまったことからだった(「謎の転校生」)。幼き日の想いや、
ちょっとしたすれ違いが、月日を経て、意外な展開へ繋がる連作集。

これは稀に見る快作の連作短編集。
過去と現在を行き来しつつ、1つのある未解決事件の真相が明かされていくというストーリーで、
物語にどんどん惹き込まれていきました。

そして、その1つの未解決事件に関係した人々の、過去、そして現在を映し出す話にも
なっていて、これもまたとても興味を惹くのです。

「愛と死」では、久しぶりに同窓会に出た西川哲哉が、目的の女性・杉田佐織と
出逢い、そして後悔する物語かと思いきや、実は彼女はすでに亡くなっていた。
彼女の名を騙っていたのは誰なのか、そしてその目的は?

「謎の転校生」。真田清と名乗るその転校生の落とし物。手紙に書かれていた宛先は
杉村雄一という名前だった。彼は何者なのか?荻田孝子は彼の謎を解き明かそうとするが・・・
実はこの話、最終話まで読むとわかるのですが、本書のキーとなる話です。
出てくる人物たち全てが。

そして物語の核心となる未解決事件が登場する「罪と罰」。ここから本書が怒濤の展開を見せます。
次作「潜入捜査」では、「謎の転校生」の真田清視点での物語。

そしてエアクッションのように挟まれた「幽霊のいる部屋」
第1話「愛と死」で結末が描かれた杉田佐織の、西川哲哉との邂逅を描く物語。
そして本当に悲しい結末を迎えます。
しかし、未解決事件で殺された平中ゆみ江の「思い」がここで判明することに。

最終話「償い」で、再び第1話と同じ時間軸に。
孝子、百合美、雄一、里香と関係者が揃う中、百合美から聞かされた幽霊の話を
偶然出会った雄一・聖子夫妻に話したことで、真犯人が浮かび上がります。

短編好きな方にはぜひご一読をオススメします。

解説にある「青い絹の人形」も読んでみたくなりました。






無垢と罪 〈新装版〉 (徳間文庫)

無垢と罪 〈新装版〉 (徳間文庫)

  • 作者: 岸田るり子
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2020/01/11
  • メディア: 文庫



無垢と罪 (徳間文庫)

無垢と罪 (徳間文庫)

  • 作者: 岸田るり子
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2013/06/07
  • メディア: 文庫



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