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葬式組曲 [天祢涼]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

20代の女性社長・北条紫苑が率いる「北条葬儀社」。妙な関西弁を喋る餡子、寡黙で職人肌の高屋敷、
生真面目すぎる新入社員の新実……癖の強い社員が目立つが、
遺族からは「あの葬儀社は素晴らしい」と抜群の評価を得ている。
なんと、彼らには故人が遺した“謎”を解明する意外な一面があったのだ。
奇妙な遺言を残した父親、火葬を頑なに拒否する遺族、霊安室から忽然と消えた息子――。
謎に充ちた葬儀の果てに、衝撃の結末が待ち受けるミステリー連作短編集。
文春文庫化にあたり全面改稿。

以下、ややネタバレあり。



連作短編集のお手本のような本だと思います。
ただし、最後のどんでん返しをどう捉えるかは、読んだ人次第(笑

どの話も実によく練られていて、甲乙付けがたいものがありますが、
やはり「父の葬式」は群を抜いているかなあ。
主人公の雄二郎がある真相にたどり着くまでの行程も良いし、
それを兄の賢一郎に明かさないのもまた良い。
上手く出来ますねえ。

で、連作短編集ではあるものの、第一話の「父の葬式」は喪主となるこの久石雄二郎。
その雄二郎にまともな感じと評された、北条葬儀社の新美直也が第二話「祖母の葬式」
の主人公(ストーリーテラー)となります。
この話では、餡子&高屋敷が大活躍。葬儀依頼人のウソを見事に暴きます。
ラストは綺麗ですね。

第三話「息子の葬式」は、セレモニアQの職員・副島孔太。
彼の歩んできた人生が語られるとともに、なぜ斎場職員になったのかも
そこで明かされていきます。
ここの記載が、ラストの西野の告白と合わせて、本物語もう一つの読み所です。

死体が消えたという謎に、ひょんなことからセレモニアQに現れた餡子と新美。
餡子の名推理と副島の自信の辛い体験を交えた言葉で、御堂夫婦も救われます。

「妻の葬式」の主人公は、妻・咲を自殺で失った直葬葬儀社を営む荒垣創介。
妻の声(金切り声)が聞こえることから、改めて直葬では無く葬儀を北条葬儀社に
頼みに来るのですが、北条紫苑と咲は幼馴染みという関係でもあります。

この金切り声のトリックを弄した人物を絞り込む餡子の推理はお見事。
それ以外に犯人たり得ないという事実を突きつけます。

そして、これは最後のどんでん返しにも繋がるのですが、
本物語で、咲がQ市で借りたマンションの名義人は、やはり友人の「佐喜」ひろ子のもの。
このさらっと目に入ってくるのですが、ここは本当に上手いですね。
咲と佐喜。

そして最終話は「葬儀社の葬式」。主人公はこれまで泰然自若としていた(と描写される)
北条葬儀社の社長・北条紫苑。彼女のこれまでの葬儀での真の意味がここで明らかになります。

私は、「妻の葬式」の幼馴染みの咲の自殺、というのが、
この最終話で何らかの解決が出されるのかと想像していたのですが、それ以上の破壊力でした。
作者のあとがきにあるように、続編がありそうな雰囲気を匂わせ、最後にひっくり返す。
逆に続編あって良かったと思うのですけどねえ。

本書は新型コロナウイルス感染症で、葬儀が家族葬あるいは直葬というのが増えてきた中、
全面改稿し、再文庫化された作品です。
(改稿前にはもう一つ物語の根幹があったようなのですが、それは非常に気になります。)

確かに新型コロナウイルスの描写(名称こそ出てきませんが)があるのですが、
それが物語に上手く組み込まれているかはやや?でしょうか。

どちらかといえば、元々の『葬式組曲』を再文庫化してもらい、
この新型コロナウイルス感染症下の葬式を題材として『葬式組曲2』とか続編を
出して欲しかったなあ。
確かにこの最後だと北条葬儀社が再び葬儀社としてやっていけるか非常に厳しいと思いますが、
それでも、餡子が言ったように、紫苑ならば出来るのではないか。
天祢先生にはぜひぜひお願いしたいですね。

餡子が語る有名な哲学者たちの言葉が笑います。それへの周囲の反応が一番面白い。
しかし、餡子が最終話で語る、この「哲学者たち」の言葉としてきたのは、
市井の人々の言葉だと彼は言います。
(むろん哲学者たちが言った言葉とは読者は信じてませんでしょうが・笑)
本書の内容とはずれるものの、ここも良かったですね。
名言というか綸言というか、そういうものは別に有名人からだけ発するものではないのです。





葬式組曲 (文春文庫)

葬式組曲 (文春文庫)

  • 作者: 天祢 涼
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2022/11/08
  • メディア: Kindle版






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仮面ライダーBLACK SUN [ネット]

過日の休日にイッキ観しました。

かつてリアルタイムで、午前10時か10時半からしていたBLACKを観ていた自分としては、
果たしてどうリブートしたのか、結構気になってました。
一番気になっていたのは、確か同級生、同年齢のはずである南光太郎と秋月信彦が
西島秀俊さんと中村倫也さんなのが一番気になってました(笑

箇条書きでいきます。TV版と原作版、Amazon版で使い分けます。


良かった点
・サタンサーベルの役割がかなり明確に描かれた。まあ独自解釈を入れて上手く融合させた。
・TV版における創世王について、Amazon版ではオマージュを含み観つつ、
 独自解釈を取り入れた。
・「許さん!」からの「変身」が見れたこと。
・大神官ビシュムのシャドームーンへの取り入り方がより具体的に描かれたこと。
(ただし、ラストを見るとこれもビシュムの策略の1つだったようですが)
・蘇生するのはやっぱりクジラ怪人のエキスが必要。
・最終話OPでTV版OPを再現したこと。
・怪人が異常に若い理由(なぜ西島秀俊さんと中村倫也さんなのか)。
・ルー大柴さんの演技は素晴らしい。堂波真一の悪さが際立ちました。


なんかオマージュやTV版で??だったところの解釈のうまさばかりが上がりましたね(笑

次からはかなり辛口です。
本作は、政治的・社会的問題をかなり明確に描写し、それが物語の核になっています。
怪人差別が中核にあるものの、護流五無闘争などは、かつての学生闘争でしょう。
それ以外でもルー大柴さんと寺田農さん演じる政治家はどこかで見たような人物。
まあ、ルーさんの演技はめちゃくちゃ素晴らしいので、そこは措くとして。
また、一番興ざめしたのは、ラストで怪人差別ではなく、別の差別が描かれたこと。
本質は怪人差別であり、ここで一気に現実社会とリンクしすぎてしまっているのが
個人的には残念過ぎました。

怪人差別まではいかないにしても、原作版でも怪人の悲哀は随所に描かれてきました。
これは仮面ライダー側でもです。Blackだけでなく初代などでも書かれています。

怪人差別を描くなら、最後に堂波らによる大きな事実が明らかになった後、
少しは救いのある要素を入れても良かったと思います。
(差別は簡単に無くならないので、反団体が行動を続けているのはわかりますが)

ラストも、和泉葵が目指すものは何なのか。むろん差別をなくすのは重要ですが、
創世王が居ない今、怪人はその寿命を終え、いずれは居なくなる存在になったのでは
ないのでしょうか。なんかその辺りが全然描かれていないので、よくわからないんですよね。
最後もビシュムたちはどういう目的に切り替えたのか、よくわからない。

単純に疑問なのは、
Blackやシャドームーンのキングストーンは、元々埋め込んであったものを
自らの意思で取り出したんでしょうか。
(怪人は石を体内に埋め込まれる手術を行われると語られているので、
 意思で取り出せたりするのだろうか。)
そもそも、キングストーンなどの石も人造物なんですかね。

最後に、本作はそもそも「仮面ライダー」なのでしょうか。
物語上はたぶん言葉は出てこないので。



仮面ライダーBlack(1) (石ノ森章太郎デジタル大全)

仮面ライダーBlack(1) (石ノ森章太郎デジタル大全)

  • 作者: 石ノ森章太郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/04/25
  • メディア: Kindle版



仮面ライダーBlack(2) (石ノ森章太郎デジタル大全)

仮面ライダーBlack(2) (石ノ森章太郎デジタル大全)

  • 作者: 石ノ森章太郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/04/25
  • メディア: Kindle版



仮面ライダーBlack(3) (石ノ森章太郎デジタル大全)

仮面ライダーBlack(3) (石ノ森章太郎デジタル大全)

  • 作者: 石ノ森章太郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/04/25
  • メディア: Kindle版



仮面ライダーBlack(4) (石ノ森章太郎デジタル大全)

仮面ライダーBlack(4) (石ノ森章太郎デジタル大全)

  • 作者: 石ノ森章太郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/04/25
  • メディア: Kindle版



仮面ライダーBlack(5) (石ノ森章太郎デジタル大全)

仮面ライダーBlack(5) (石ノ森章太郎デジタル大全)

  • 作者: 石ノ森章太郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/04/25
  • メディア: Kindle版



予告編

予告編

  • 出版社/メーカー:
  • 発売日: 2022/10/09
  • メディア: Prime Video



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魔眼の匣の殺人 [今村昌弘]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

その日、神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と剣崎比留子を含む9人が、
人里離れた班目機関の元研究施設“魔眼の匣”を訪れた。その主であり、
予言者として恐れられている老女は、来訪者に「あと二日のうちに、この地で4人死ぬ」と告げた。
施設と外界を結ぶ唯一の橋が燃え落ちた後、予言が成就するがごとく一人が死に、
閉じ込められた葉村たちを混乱と恐怖が襲う。
さらに客の一人である女子高生も予知能力を持つと告白し――。
残り48時間、二人の予言に支配された匣のなかで、葉村と比留子は生き残って謎を解き明かせるか?!
ミステリ界を席捲した『屍人荘の殺人』シリーズ第2弾。

『屍人荘』は結構辛口で書いた気がしますが、本書は特殊状況下(予言)というものが
厳然と(一応)存在しているというミステリであるにも関わらず、本格ミステリとして
見事な出来映えで、傑作だと思います。

読者への挑戦はないものの、事実上、犯人当てミステリがしっかりと成立しているのがお見事。
なぜ時計が破壊されたのか?この1点を明らかにすることで、犯人が特定できます。
このロジックだけでも本書は読む価値があります。

また、「三つ首トンネルの呪い」というオカルト話が出てくるのですが、この仕掛け
が秀逸で、会話を誤認させる見事なトリックになっています。
なぜクローズド・サークルが殺人事件では作られるのか、というある意味本格ミステリに
ついて回る謎が、実に上手く説明されているのも上手い。
東野圭吾さんの『ある閉ざされた雪の山荘で』のクローズド・サークルの必然性を
思い出しました。

物語の核である予言ですが、一酸化炭素中毒や山崩れ、熊に襲われるなど、
人為的なものでない事が立て続けに起こることで、匣に囚われた人々がある意味狂信してしまう
状態に陥りさせるのも見事です。予言がなければ事件が起こらなかったという
本作の特殊状況下ミステリが体現されているという、本格と特殊状況下ミステリが
非常に上手く融合した作品と思います。

ところでサキミの予言ですが、これはいつ予言されたものなんでしょうかね?
「十一月最後の二日間に、真雁で男女が二人ずつ、四人死ぬ」
これは年まで決まっていたのかどうか、よくわかりません。
事前にこの予言を村人に知らせ、後で今月起こるとさらに知らせたのだろうか。
まあ普通に考えれば、年も予言していたのでしょう。

十色の予知は、なんとなく漠然とのイメージを絵で表現するというものでしたが、
サキミのそれは、一体どういう予言なのでしょうか。
比留子や葉村は、十色の予知がどういうものか知った段階ならば、
ではサキミのは?と問い詰めても良いと思いますが・・・

それと匣に居る人々は(犯人含めて)「四人死ぬ」という事に相当な信憑性を
見いだしてますが、神服の言葉では「四人死ぬ」とだけで、それ以上死なないとは限らない、
という(まあ難癖かもしれませんが)それは考えなかったのかとも少し思いました。

最後にさらに比留子は驚異の推理をサキミにぶつけるのですが、
よく長きにわたって凌いできたなあと感心してしまいました。

ところで、また「明智恭介」の名が・・・
いや返す返すも残念すぎるのですが、もしかして大ドンデン返しがあったりするのだろうか。


魔眼の匣の殺人 屍人荘の殺人シリーズ (創元推理文庫)

魔眼の匣の殺人 屍人荘の殺人シリーズ (創元推理文庫)

  • 作者: 今村 昌弘
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2022/08/12
  • メディア: Kindle版






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殺人の多い料理店 [辻真先]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

盛岡のレストランで宮沢賢治の童話朗読会が開かれた。
取材に赴いた夕刊紙記者・可能克郎は奇妙な出来事に遭遇。
台本に賢治作品の贋物が紛れ込んでいたのだ。
参加者を震撼させた“贋作騒動”は未解決。
ところが二か月後、参加者の一人・倉村が変死する。
朗読会に出演したタレント三木七重と参加メンバーの関係に不審を覚えた克郎は調査を進めるが……。


今年の最初に『夜明け前の殺人』が同じく実業之日本社文庫から復刊されていて、
そちらは購入しなかったのですが、本書は解説にある「可能」の文字で購入しました(笑

辻作品で「可能」といえば、可能キリコ&牧薩次のポテト&スーパーシリーズでしょう。
そして可能克郎は、『仮題・中学殺人事件』で初登場した、キリコの兄。
彼が主人公の作品なんてあったのか!と購入。

解説によると、300冊近い辻作品の中でも、可能克郎は、辻御大が生み出した数多くの
名探偵と顔見知りという、まさに辻ワールドの橋渡し役のようです。
彼の足跡を追えば、辻作品の大半を網羅できるという、偉大な人物。
しかし、彼はホームズ役でもワトソン役でもないというのがまた面白いところ。

本書の中で、克郎は、自らがホームズとワトソン両役になり、事件の解決に挑むのですが・・・
良いところまではいきつつも、最後は幸運に助けられて命は助かったという始末に。

しかし彼がこのように登場する作品は数多くあるようで、解説で触れられている
作品群は、ぜひとも復刊してほしいですね。

本書は宮沢賢治尽くしです。章タイトルから、登場人物まで。
宮澤賢治についてほとんど知らない私でも、時折引用される童話など、楽しめました。
事件のトリックが、牧薩次の書いた本からというのは、中々洒落が効いてます。

さらなる辻作品の復刊が続くことを願いつつ。


殺人の多い料理店 (実業之日本社文庫)

殺人の多い料理店 (実業之日本社文庫)

  • 作者: 辻 真先
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2022/08/05
  • メディア: Kindle版






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素直な狂気 [赤川次郎]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

「受け取っていただけますか?」
お金を返そうと「あいつ」が追いかけてくる!

最終電車が迫っている。
会社員の松山は財布をなくした青年に電車賃を手渡した。

「これはあげるんだよ」
「いえ、きっとお返ししますから」

青年は言葉通り、松山の家を訪ねて金を返そうとする。
しかし、妻の沙織は人違いだという。先々週の金曜日、N駅にいたはずはないと。
松山の完全犯罪が崩れ始める……。
(「素直な狂気」)

誰もが秘める狂気を鮮烈に描き出したミステリー。

なんか勘違いしており、長編だと思っていたら短編集でした。
元々は角川文庫で発売されていたとありますが、購入した記憶がないので、おそらく初読。

全編どれも面白いですが、表題作「素直な狂気」と「ラブレター」は構図が
やや似ていますね。しかも結末も全然違うけれども、主人公の想いはそこまで違わないの
だろうなと感じました。

ただし表題作の場合、お金を貸した鈴木なる人物は本当に存在していたのか?
(ちなみに表紙も主人公の松山と鈴木が描かれています。)
というホラーな要素も含んでいます。

もちろん借りたお金を苦労してでも返しに来るのは素晴らしいことなのですが、
彼が固執した理由があまり述べられてなく、かなり不気味です。
ラストも松山が彼の幻影を見ているように、存在そのものが?ですね。
(ただし奥さんや娘さんも会っているので、しかも刑事も。実在はしているのかなあ。)
最後の幻影的なものは、松山が生み出した自分の辛さを解消してくれた存在みたいな
ものでしょうか。

ちなみに、ホラー的要素ではなく、完全ホラーなのは「わらの男」と「皆勤賞の朝」
前者は時枝のやりたいことは一体何なのか?まるで不明。
後者はこの学校の校長も相当悪いですね。昔ながらの根性論。
母親と正人を狂わせた張本人です。

しかし、正人への同級生やその姉の仕打ちから考えると、
正人やその母親がこの6年間で何かをしてきたのだろうとは推測できますが。
(電車での行為はもしかしたら正人の母親がかつてした行為なのでは?)

「拾った悲鳴」は親子が助かる話で、主人公大活躍。ほっとします。
「インテリア」は、なんというかちょっとした喜劇を見ているようですね。
いや実にうまい。背景を描かず、この母子関係を想像させるようになっているのも。

徳間文庫さん、これからもよろしくお願いします!


素直な狂気 (徳間文庫)

素直な狂気 (徳間文庫)

  • 作者: 赤川次郎
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2022/10/07
  • メディア: 文庫






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