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リア王密室に死す [梶龍雄]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

7人のエリート学生の友情を引き裂く毒注射の
密室+焼かれたノートの謎
話題の〝龍神池の小さな死体〟と対になるもうひとつの逆転劇

「リア王が変なんだ!中で倒れてる!」京都観光案内のアルバイトから帰宅した
旧制三高学生・木津武志は、〝リア王〟こと伊場富三が、蔵を転用した完全なる密室で
毒殺されているのを発見する。下宿の同居人であり、恋のライバルでもある武志は第一容疑者に-。
絶妙の伏線マジック+戦後の青春をリリカルに描いた
〝カジタツ〟ファン絶賛の名作復刊。


またまた久しぶりの更新になってしまいました。
この梶龍雄作品は、<青春迷路ミステリコレクション>と<驚愕ミステリ大発掘コレクション>
の2系統で<トクマの特選!>から刊行されています。

前回が後者の作品でしたので、今回は前者の作品を読みました。
まず最初に、この2つの分け方を見ると、いかにも現在の新本格ミステリが後者のように
感じますが、全く違います。
本書『リア王密室に死す』は、タイトルに「密室」があることからも、
そして、その驚くべき構成からも、紛れもなく新本格・本格のミステリです。

そこに、旧制高校生(今のまあ大学生)の生活、青春群像、そして淡い恋。
これらが実に上手く融合し、傑作を生み出しています。

本書は大きく前篇と後篇に分けられ、
前者は「ボン」こと木津武志が、「リア王」こと伊場富三を殺害した容疑が
掛けられ、その窮地を救い出すところから始まります。
登場人物全てにニックネームが付いているのが、いかにも当時の大学生ぽいなあと。
解説の大山誠一郎さんは、このニックネームについて『十角館の殺人』を挙げています。

ボンのアリバイを確認するところから始まり、それと同事に物語も始まります。
大山誠一郎さんの解説が全てなので、もはや書き足すことはないのですが(苦笑)
本当に絶妙な伏線が張られていて、感嘆します。
リア王が東京大空襲により火事がトラウマ、非常に苦手であるというのが
寮が火災になったときに語られますが、
なにせ物語の舞台は戦後すぐ。戦争の悲惨さを語れるような状況では当然ありません。
むろん、ヤミ市も出てきます。
この伏線が実に上手く隠されていて、最後の密室の謎に結びついていくのです。

前篇の「ナ・チ・コ」がまたボンとナチコのなんというか、微妙な関係から親密な関係、
さらにライバルだったリア王との会話とか・・・とにかくここはミステリを読んでいるのか?
という錯覚に陥りました。

そして驚きはこの「ナ・チ・コ」終了後、後篇のスタートです。
「昔の人たち」と題され始まる後篇は、なんと30数年後の現在が舞台です。
そこに驚くべき探偵役が登場します。
事件の謎を解いていく過程だけでなく、この後篇ではどうやっても過ぎ去ってしまった時間を
元に戻すことはできない、そんな無力感に襲われます。
ボンだけでなく、ナチコやカミソリ、バールト、マーゲン、カラバン、有馬夫人・・・
彼彼女たちにとっての「時」の重さを痛感する結末になっているのも非常に印象的でした。

また、後篇にも大学生が登場するのですが、これがこの旧制高校生との対比が実に面白くて、
梶さんもその辺りは狙って、あえて書かれた当時の大学生を登場させたんだろうなと。

物理トリックである密室は、今でも十分に通用する見事なトリックで、
かつ、カミソリが前篇で看破する謎解きも、(確かに不十分な点は感じるものの)
後篇の事情を読んだ上で考えるならば、あれ以上の謎解きはないでしょう。

事件の謎と解いた探偵役と、30数年にわたり、自身がある種苦しんできた事件の謎が
解けたボンこと武志の対比もまた感慨深いです。
探偵役には告げず、ボンはある行動に出るのですが、ここでもボンにとっては
辛い思い出になったのではないでしょうか。

いや、素晴らしい作品でした。徳間文庫さん、ありがとうございました。


梶龍雄 青春迷路ミステリコレクション1 リア王密室に死す 〈新装版〉 (徳間文庫)

梶龍雄 青春迷路ミステリコレクション1 リア王密室に死す 〈新装版〉 (徳間文庫)

  • 作者: 梶 龍雄
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2022/09/08
  • メディア: 文庫






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ダイヤル7をまわす時 [泡坂妻夫]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

【生誕90年記念出版第1弾】
泡坂ワールドのすべてを愉しみ、
愛することができたのは、
この本に出会えたからだ――櫻田智也(解説より)
読めば必ず騙される!
名品『煙の殺意』に匹敵する短編集

戸根市で対立する暴力団・北浦組と大門組は、事あるごとにいがみ合っていた。
そんなある日、北浦組の組長が殺害された。しかも殺害現場で、
犯人が電話を使った痕跡が見つかる。犯人はなぜすぐに立ち去らなかったのか、
どこに電話を掛けたのか? 
「読者への挑戦」付きの、正統派犯人当て「ダイヤル7」。船上で起きた殺人事件。
犯人はなぜ死体をトランプで装飾したのか? 
トランプの名品〈ピーコック〉をめぐる謎を描く「芍薬に孔雀」など7編。
貴方は必ず騙される! 
奇術師としても名高い著者が贈る、ミステリの楽しみに満ちた傑作短編集。

泡坂妻夫先生の本書と、櫻田智也先生の『蝉かえる』が同時文庫発売とは、
明らかに東京創元社さんは狙ってますね。
なお、『蝉かえる』はまだ未読。まずは御大のお手本をと(笑

ここ数年、都筑道夫先生作品と同様、泡坂妻夫先生の作品も数多くが復刊され、
嬉しい限りです。
創元推理文庫を中心に、河出文庫からも刊行されました。
しかし、まだまだ作品は多くあり、本書も当然ながら未読でした。

タイトルの「ダイヤル7」は、先生作品では珍しい犯人当て小説!
当然のことながら、わかりませんでした(苦笑

今の若い世代が読んでも、まずわからない「ダイヤル」式の電話ですが、
鑑識の意地の捜査で、触れているダイヤルがわかり、そして、なぜ
犯人が殺人を犯した後に電話をしなければならなかったのか?ここに全ての謎が
詰まっています。
ところで、本作はある場で聴衆がいる前で、塚谷さんの依頼で、長く警察に勤めていた
久能なる人物が語る内容になっています。
ここは犯人当てとは直接的に関係ないものの、ラストまで行くと決して犯人当てだけでは
終わらない結末となっています。

「芍薬と孔雀」は、奇術師の顔を持つ御大ならではの作品です。
そしてトランプが事件の鍵を握るのも流石。
しかもこの作品。謎の解けていく過程が見事で、本書所収内で一番かと思います。

「飛んでくる声」は「意外な結末」の好編。
さらには「意外な探偵」も登場します。

「可愛い動機」、動機がものすごいところから来てますが、
今の世の中では珍しくないかもしれないと思ってしまうところが怖いですね・・・

「金津の切符」はコレクター同士の諍いを描く物語。
倒叙形式で書かれていて、箱夫の心情がそれなりにわかるだけに、すこし辛い作品ですね。
しかし刑事のラストの謎解きは、刑事コロンボのラストのような驚きがあります。

さて本作の中で私のオススメは「広重好み」です。
この作品は、亜愛一郎シリーズの「DL2号機事件」を、個人的には彷彿とさせました。
殺人や盗みなどの犯罪は一切描かれないものの、このタイトルの意味と結末は
泡坂先生にしか書けないのではないか。

「青泉さん」は、彼によって周囲の人生が変わる物語。
殺人が起きてはいますが、そこが主眼ではなく、「青泉さん」の生き方が主眼です。


ダイヤル7をまわす時 (創元推理文庫)

ダイヤル7をまわす時 (創元推理文庫)

  • 作者: 泡坂 妻夫
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/02/20
  • メディア: 文庫






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欺瞞の殺意 [深木章子]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

このミス、本ミスW受賞の注目作。往復書簡で真相に迫る、本格ミステリー

昭和41年。地方の資産家楡家の当主がゴルフ中に心筋梗塞64才で逝去。
親族しかいない法要が屋敷で執り行われるがそこで殺人事件が起こる。
長女と孫(早死にした長男の子)がヒ素で死んだのだ。調査を進めると、
殺された長女の婿養子の弁護士のポケットから、ヒ素をいれたチョコレートの紙片が発見された。
「わたしは犯人ではありません。あなたはそれを知っているはずです――。」

無実にもかかわらず「自白」して無期懲役となったその弁護士は、
事件関係者と「往復書簡」を交わすことに。
「毒入りチョコレート」の真犯人をめぐる推理合戦は往復書簡の中で繰り広げられ――、
やがて思わぬ方向へ「真相」が導いていく――。
「このミステリーがすごい!」2021年版 国内編(宝島社)と
「2021年本格ミステリベスト10」国内ランキング(原書房)で堂々7位のW受賞作品。
A.バークリーの『毒入りチョコレート事件』をオマージュとした本格ミステリ長編。

以下、ネタバレあり。








更新が止まっていました。
Switchのゼルダをしていて、読書が二の次に・・・(苦笑)

意図した訳ではないのですが、なんと2作連続で、多重解決ミステリとなりました。
その大半が治重と橙子による書簡ですが、彼彼女との40年以上前の自身の思いを吐露
する手紙から、楡家の殺人事件へ迫っていく過程。そして治重と橙子による推理合戦と、
息を飲む展開が続きます。

関係者がほとんど亡くなっている状況、かつ誰が毒を治重の背広のポケットに入れたのか?
この非常に限られた状況下で、この二人、どこまで推理力を巡らせるのか!!

特に澤子犯人説は驚愕の説でした。自らの命を賭けてまでやるのかという。
そして、治重がこの書簡に仕掛けたもう1つのトリックがあまりに見事です。

一方、楡家の殺人事件は、本当に橙子が起こしたことなのかどうか。
ここは個人的には少し謎として残りました。
本人が否定していない、そして動機もある意味単純で愛するが故に・・・という。
しかし、澤子=犯人というのが、あまりにしっくり来るんですよね。

過去の事件をどこまで明らかに出来るのかという、現実社会でも難しい謎を
弁護士としての顔を持つ作者ならばこそ、フィクション上でもそれを活かしつつ、
あまりに見事な心理戦を読ませてもらえました。


欺瞞の殺意 (角川文庫)

欺瞞の殺意 (角川文庫)

  • 作者: 深木 章子
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2023/02/24
  • メディア: 文庫






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