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スノーバウンド@札幌連続殺人 [平石貴樹]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

札幌の街中でナンパされ、誘拐された久美子の「目の前」で、誘拐犯である浩平が殺された。
その犯人も見つからないうちに、久美子の父親が殺されるという第二の事件が起きてしまう。
旅行に来て、事件に関わった弁護士・山崎千鶴は、当事者たちに話を聞いていくのだが――。
関係者たちが自身の言葉で事件をノートに記す、という形で進む、驚愕の本格ミステリ!

またまた久しぶりの更新。
それにしても酷暑どころではありませんね。外が危険。
エアコン効かせて、読書か睡眠、そしてゲームが安全です。

以下、ネタバレあり。





という訳で久しぶりの平石先生。松谷警部3部作以来でしょうか。
本書は解説によると、「山崎千鶴三部作」の1作のようで、
すでにもう1冊は文庫化済み。こちらはそのうち購入します!

本書は事件関係者の「手記」。しかも1人の独白ではなく、リレー形式による
手記という、中々珍しい形式を取っています。
この「手記」という形式は、虚実入り乱れであるということを、読者は当然ながら
それを前提に読まなければなりません。
また本書では「付記 NO.1-里緒」が、事実上の読者への挑戦状となっています。

動機については、被害者のダイイング・メッセージから推測でき、
おそらくはそれがあるからこそ、山崎千鶴は犯人を明かさなかったのでしょう。
一方で、「手記」という体裁をとった、それを逆手に取ったのが、
犯人が複数人というところでしょうか。
しかも、1人は「手記」の語り手には登場しないのです。

さらに、もう1つ。
私はこのトリックは泡坂妻夫御大のヨギ・ガンジーで仕掛けられた壮大なトリック。
それに近いトリックには驚きました。
平石先生がこういうトリックを使うとは思わなかった。

「手記 NO.3」では千鶴の悲しい結末が語られるのですが、それを読むためには、
3部作のラストを飾る、『スラムダンク・マーダーその他』をぜひとも復刊をお願いします。


スノーバウンド@札幌連続殺人 (光文社文庫 ひ 21-3)

スノーバウンド@札幌連続殺人 (光文社文庫 ひ 21-3)

  • 作者: 平石貴樹
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2023/02/14
  • メディア: 文庫






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めざめ [赤川次郎]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

陰惨な事件に巻き込まれ両親を失った11歳の美沙は心に深い傷を負う。
命を落としたはずの母・美知代は病院で意識を取り戻すが、
その体は14歳の中学生・修のものだった!
6年後、修はようやく探しあてた美沙の様子に衝撃を受ける。
固く閉ざした娘の心にぬくもりを取り戻すことはできるのか?
親子の絆と再生を描く感動の長編小説。

またまた久しぶりの更新です。

赤川次郎作品は、こういう非常にシリアスというか、大半救われない中で、
一筋の光明を見いだす物語が、結構あります。
解説でも語られていますが『怪談人恋坂』は、リアルタイムで読んだ覚えが
ありますが、あれは姉が自殺、幽霊として出てくるも、衝撃の告白と、
今でも覚えています。

昨今の幼児・児童虐待、放置子、ネグレクト、さらには毒親と、
親子の関係は相当脆くなっている状況なのではないかと思います。
本作では、美智代が修の身体を借りてまで、娘を見守りたいという
執念で、さらに転生後も執念を出し、自分の娘の心の壁を取り外そうという
母親の愛を感じます。

赤川先生の作品は、全くの他人なのに、非常に優しい人たちが数多く登場します。
三毛猫ホームズのホームズ、片山刑事兄妹、石津刑事、
花嫁シリーズの塚川亜由美とドン・ファン、両親。
彼彼女たちのような優しさを持った人たちと、
本作品における美智代のような存在が、
陰惨な物語でも、読んでいる私たちをどこかほっとさせているのだろうと思います。


めざめ (中公文庫 あ 10-17)

めざめ (中公文庫 あ 10-17)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2023/03/23
  • メディア: 文庫






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Y駅発深夜バス [青木知己]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

運行しているはずのない深夜バスに乗って、
彼は摩訶不思議な光景に遭遇した――
あの手この手で謎解きのおもしろさを描いた〈ミステリ・ショーケース〉
手間暇かけた五つの短編ミステリを御賞味ください。

運行しているはずのない深夜バスに乗って、彼は摩訶不思議な光景に遭遇した――
奇妙な謎解きとその鮮やかな解決を描く表題作、
読者への挑戦状を付したストレートな犯人当て「ミッシング・リング」、
女子中学生の淡い恋と不安を描く「猫矢来」、怪奇小説と謎解きを融合させた傑作「九人病」、
自慢のアリバイ・トリックを用意して殺人を実行したミステリ作家の涙ぐましい奮闘劇「特急富士」。あの手この手で謎解きの面白さを提供する、著者渾身の〈ミステリ・ショーケース〉。


初めて読む作家さんです。
常にこのブログでは褒めてばかりじゃないかと思われそうですが、
いずれも作風が違う、ミステリの質が違う、
これだけ毛色の違う傑作短編集は久しぶりに読みました。
(いつも言ってるかも・・・)

表題作はホラーミステリ。主人公の坂本が乗った深夜バスは本当に運行していたのか?
後半に怒濤の展開が待っていますが、本作で最も怖いのは、パーキングエリアでの
坂本の体験が、一切説明されていないこと。そのため本作はホラーと言って過言で
ないのではと感じました。

「猫矢来」。論理のアクロバットの傑作。とにかく不気味な行動をする隣人と、
主人公の里奈が学校でいじめに巻き込まれそうになっていくこと。
この2つから、果たしてどう物語が展開するのかと思いましたが、
後半の展開は全く予想だにしないものです。
一方で、いじめという社会問題、加害者及びその家族を取り上げているという点では
他作品と一線を画している印象。

「ミッシング・リング」。読者へ正面から挑む犯人当て小説。
しっかり「読者への挑戦」が幕間に挟まれます。そして描かれる館の平面図。
次々と連続殺人が起こるのを想像してしまった自分が恥ずかしい(苦笑)
アリバイ崩しという、ミステリの初歩の初歩で、見事に読ませる作品。

「九人病」。突然民俗学ミステリが登場で、これまた驚き。
現代社会でそんな病があるのか?と疑いたくもなる話ですが、
1つの怪談として作中では話されながら、
ネタバレ後の、(ある意味必然の)結末までが、1つの怪談として成り立っていますね。


「特急富士」。トラベルミステリーも登場かと、作者の懐の深さに驚きましたが、
さらにこの作品は、犯人の視点で描かれる、いわば刑事コロンボ方式。倒叙ミステリ。

犯人の二人とも、アリバイのために丹念に計画したトリックより、
被害者から託されたものでジエンドとなるのが、終わり方として実に痛快。
コロンボの「二枚のドガの絵」のようなラストです。

どれをオススメとするか、非常に悩みましたが、この時期の暑さを踏まえると、
表題作と「九人病」。後者は感想でも書いたように、怪談を読んでいるような
気分になりました。



ミステリとしての白眉は、やはり「猫矢来」。

Twitterを拝見すると、兼業作家さんのようですね。
これだけ良質なミステリを楽しめて、満足です。
次の作品も期待です。


Y駅発深夜バス (創元推理文庫)

Y駅発深夜バス (創元推理文庫)

  • 作者: 青木 知己
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/05/19
  • メディア: Kindle版






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