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収穫祭 [西澤保彦]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

1982年夏。嵐で橋が流れ孤立した首尾木村で大量殺人が発生。
被害者十四名のうち十一人が喉を鎌で掻き切られていた。
生き残りはブキ、カンチ、マユちゃんの中学生三人と教諭一人。
多くの謎を残しつつも警察は犯行後に逃走し事故死した外国人を犯人と断定。
九年後、ある記者が事件を再取材するや、またも猟奇殺人が起こる。凶器は、鎌だった。

事件後、村や母の記憶を失ったブキは、東京の大学院を中退して帰郷し高校で英語を教えていた。
そこで起こった同僚の殺害。凶器は鎌。同一犯による連続殺人の再開か、模倣犯か?
母のポルノ写真から、ブキが記憶を取り戻し欲望を暴走させた時、
カンチ、マユちゃんと運命が再び交錯、事件から二十五年後、全貌を現す!殺人絵巻の暗黒の果て―



以下、ややネタバレ。
上下巻分冊でもものすごいボリュームの長編です。全5部構成。
とにかく唐突に始まる大量の猟奇殺人の第一部。豪雨で橋が崩れ落ち、逃げ場を失う
3人の中学生、伊吹省路、小久保繭子、空知貫太。
犯人は誰なのかを恐怖の中突き止めようとする中、
伊吹の想像上の欲望(性的欲望)が生々しく描かれるのが特徴。
伊吹がみせた繭子への性的暴行未遂に、繭子がなんら反応を示さなかったのが、
本作の真実を垣間見せた一場面なのかもしれません。

第二部は繭子の章。事件から9年を経て、第一部で犯人とされていたマイケル・ウッドワーズ
の父親が、息子が本当に犯人だったのかの再調査が始まります。
最初に接触があったのが繭子。
ただこの第二部。繭子自身は第二部最初から事件の記憶欠落と改変に陥っており、
徐々に本当の記憶を取り戻していくというストーリーになっています。

繭子の特殊な性癖が明らかになるところが事件解決の鍵でもあるのですが、
結末があまりにも突飛すぎるので、唖然としました。なんだこのラストは・・・
一体次にどう繋がるのか想像つかない終わり方です。
一方、第一部にも登場した彼彼女らの中学校の教師であった川嶋浩一郎が
真犯人として浮上しますが、彼自身は最期まで否定。
伊吹への性的暴行や、繭子への未遂含め、彼は相当悪なんですが、では犯人は?

実は犯人はもうこの段階で消去法的にわかるようですが、私にはさっぱりでした(汗)
で、第二部はあまりに唖然とするラストでもあり、第四部での事件にも繋がっていくのです。

第三部は、伊吹省路が主人公。伊吹もやはり記憶の欠落と改変に陥ってますが、
母親の従兄弟が彼の前に現れたことにより、彼の時間も再び動き出します。
再び起こる鎌による放火連続殺人。模倣犯なのか、それとも首尾木村での犯人の仕業なのか?
このあたりの謎も加わり、さらに伊吹は自分の知らなかった母親と祖母の顔を知ることに。

繭子もそうなのですが、伊吹も元々少し特殊な性癖をもっていたのでしょう。
そうした場面も度々描かれます。しかし、彼の推理は実に見事で、当時母と祖母が何を
していたのか、さらには模倣犯の正体も突き止め、二人で繭子へのメッセージを
ネットへ書くところで第三部完。
というか、ここまでわかっていて、どうして真犯人の狙いにまで行き着かなかったかは甚だ疑問
なのですが、それは省路の、彼女のへの募る想いが眼を曇らせてしまったのかもしれません。

第四部は、真犯人による、本当に殺したい人を殺す話。
この部は壮絶です。自分の子であるとか、そんなものはお構いなし。
第二部で覚醒(真の目的を思い出した)彼女が、真の標的を殺すのですが、
それまでの準備があまりにも周到というか、ここまで時間をかけるのかという凄さ。

第五部は、表題作の意味の回収と、彼女がこんな事件を起こしてしまった動機を
垣間見ることができる部。
正直、このタイトル回収はともかくとして、動機の部分というか、
村の嫌な部分がもう少し見えても良かったのではと思います。

それと、最期は三人が再び出会う、が良かったかなあと。それがバッドエンドであろうとも。


収穫祭〈上〉 (幻冬舎文庫)

収穫祭〈上〉 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 西澤 保彦
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2010/10/08
  • メディア: 文庫



収穫祭〈下〉 (幻冬舎文庫)

収穫祭〈下〉 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 西澤 保彦
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2010/10/08
  • メディア: 文庫



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福家警部補の追及 [大倉崇裕]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

善良な”犯人たちの完全犯罪に隠された綻びを、福家警部補はひとり具に拾いあげながら
真相を手繰り寄せていく――。未踏峰への夢を息子に託す初老の登山家・狩義之は、
後援の中止を提言してきた不動産会社の相談役を撲殺、
登り慣れた山で偽装工作を図る(「未完の頂上」)。
動物をこよなく愛するペットショップ経営者・佐々千尋は、
悪徳ブリーダーとして名を馳せる血の繋がらない弟が許せず、
遂には殺害を決意する(「幸福の代償」)。――
ふたりの犯人を追い詰める、福家警部補の決めの一手は。
「刑事コロンボ」の系譜に連なる倒叙形式の本格ミステリ、シリーズ初の中編2編からなる第4集。

以下、ややネタバレ。






シリーズ初となる中編集ですが、倒叙ミステリは、犯人をいかに追い詰めていくのかを、
丁寧に丁寧に、それでいて、読者へは少し隠すという中々難しい叙述を求められるのです。

かつて刑事コロンボのノベルズ版(二見書房刊)が、ほぼ全て長編で刊行されていたように、
本来は長編向きのスタイルなのかもしれません。

本書に収められtた2編は、いずれも犯人側としては、他に取りようがないため
殺人を犯しますが、犯人の思惑は関係なく、福家の捜査は常に不変。

「未完の頂上」は、犯人を追い詰めるのに、犯人に最も親しい、そして守りたい人物を
攻めるという、今までのシリーズとは少し違う方式です。
むろん、福家は犯人の自白を見据えてでしょうが、仮に犯人を追い詰めるとしたら、
他に方法はなかったかなあ・・・と少し考えてしまいました(笑
基本は理詰めで来ているので、福家にしては珍しく情で最後は来たなと言う。

ところで本作では、福家が山登り・ボルタリングでも異常な凄さを発揮したり、
彼女のとの会話や、彼女の何気ない一言で、接した人物たちに良い変化が訪れる
場面が描かれます。
ここは賛否両論あると思いますが、福家を完璧な探偵にしつつある感もあって、
もっと抜けている感を出してもらっても良いのでは、と思いました。

その点、「幸福の代償」では犬が苦手という得手不得手が描かれているのが好印象。
本作は「犬が鳴かなかった」という一点から、一気に事件を再構成していくのが見事。
動物が登場ということで、あの須藤警部補が再び登場!薄巡査は研修だそうです。
薄巡査と福家のコラボはいつ読むことができのか、楽しみで仕方ない(笑
ラストの犯人の追い詰め方も、私はこちらの方が断然好きですね。

読んでいる時間は実に至福でした。続編も楽しみにしています。


福家警部補の追及 福家警部補シリーズ (創元推理文庫)

福家警部補の追及 福家警部補シリーズ (創元推理文庫)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/05/20
  • メディア: Kindle版



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花嫁をガードせよ! [赤川次郎]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

女性警察官の西脇仁美は、命を狙われていた政治家の蔵本をかばい撃たれてしまう。
その現場に偶然通りがかった女子大生の塚川亜由美と愛犬ドン・ファンによって
一命をとりとめるが重傷を負ってしまい、それが原因で婚約破棄になりそう。
命がけで捕まえた犯人だが、取り調べ中に自殺をしてしまい―。
大人気シリーズ第31弾!(「花嫁は日曜日に走る」を併録)

花嫁シリーズもついに31作目とは。
赤川先生のシリーズはどれも息が長いですね。
ただ、個人的に「九号棟の仲間たち」や「1億円もらったら」など、
もう終了してしまったシリーズの方に好きなものがあったりするんですよね(苦笑
「1億円」は現代社会では、どういう描かれ方をするのか読んで見たいところです。

本作では珍しく亜由美の恋人である谷川准教授が登場。とはいっても冒頭だけなんですが。
表題作は政治への風刺。蔵本のような政治家が、今の日本にどのくらいいるでしょうか?
黒幕が具体的に描かれていないのと、ラストはこれからだ!的な感じで終わっているのが、
赤川先生らしい。今の日本は本作をハッピーエンドで描けないともしかしたら
感じているのかもしれません。

「花嫁は日曜日を走る」はオリンピックへの痛烈批判。
花嫁は主人公ではなく、途中から出てくる神西みどり、になるんでしょうか?
それにしても教員である松永の動機がすごい。
昨今の教員の不祥事ニュースから考えると、このくらいの教員はもしかしたらわんさか
居るのかもしれません。むろん真面目でまともな方々が大半でしょうが。
この場合ドン・ファンは吠えただけなので、特に罪には問われないんでしょう(笑

しかし、そろそろ原点回帰的なミステリ色の濃い花嫁シリーズも読みたいですね。
「紙細工の花嫁」、「迷子の花嫁」なんかも良かったです。
あと、表紙絵は前の方が良いです!


花嫁をガードせよ! (実業之日本社文庫)

花嫁をガードせよ! (実業之日本社文庫)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2020/06/05
  • メディア: 文庫



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迷子の眠り姫 [赤川次郎]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

体育祭に備えてクラス対抗リレーの練習に出かけた昼下がり、誰かに川に突き落とされ、
「あの世」に行きかけた高校一年生の笹倉里加。病院で目を覚ますとなぜか
不思議な力がそなわっていた!自分の背中を押した犯人の正体、家族や友達に迫る危機に、
不思議な力が味方する!?異色の青春ミステリー長篇。

少しの間でも「あの世」を見てしまったことで、何か不思議な力を
手に入れた、主人公の笹倉里加。
その能力とは、遠くにいる友人やその周囲の行動・会話を聞く事ができる場所に
居たりする、なんとなく幽体離脱に近い感じもありますね。
しかし、彼女を救ってくれた祖母から、能力のことを話さないよう言われていて、
彼女自身は、気になった、感じたという表現でぼやかしています。

彼女の周囲で(自分の家庭を含め)起こる様々な問題は、彼女が力を
手に入れる前から起きていたものでした。
その問題を力で知ることができることで、彼女なりにそれらをうまく解決に
導いていく、というのが大まかな流れです。
しかし、彼女の性格から考えると、おそらくそんな能力が無くても、
自分他人関係無く、問題を精一杯解決していこうとするでしょう。

この物語の核心は、彼女の能力にある訳ではありません。
話が進むにつれて、彼女と徹の関係、また親友との関係に変化が生じてくるのですが、
このあたりが赤川さんが描きたかったとこなのだろうと、勝手に思いました(笑)。

「私、特別な力をもってるなんてうぬぼれてたけど、親友の気持ちもわからなかった」と
いう台詞は、「恋心」という物語後半の核の中、彼女自身が言うことで
非常に深いものがあります。

家族が崩壊しようとしたり、麻薬の密売にかかわったり、赤川作品の主人公(女子高生)
たちは、本当に理不尽な境遇ですが、その中で強さや弱さも垣間見えているところが、
なんとなく読者の共感を得るのかもしれません。



迷子の眠り姫-新装版 (中公文庫)

迷子の眠り姫-新装版 (中公文庫)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2020/03/19
  • メディア: 文庫



迷子の眠り姫 (C★NOVELS)

迷子の眠り姫 (C★NOVELS)

  • 作者: 赤川次郎
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2012/12/19
  • メディア: Kindle版



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改訂完全版 毒を売る女 [島田荘司]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

娘は名門幼稚園に入り、家も手に入れた。医者である夫の仕事も順調で、
全てがうまくいっているはずだった。あの女があんな告白をするまでは―。
人間が持つ根源的な狂気を描いた圧巻の表題作をはじめ、
御手洗潔シリーズの傑作「糸ノコとジクザグ」からショートショートまで、
著者の様々な魅力が凝縮した大充実の傑作短篇集!


以下、ややネタバレ。


表題作は、大道寺靖子の行動が若干支離滅裂。
いや、パニックになっているのはわかるんですが、ひたすら手作り料理を
持ってくるより、状況を理解して、早く伝えればいいのになあ、と。
それにしても、梅毒ってのはこんなに恐ろしい病なんですね。
今は薬で良くなると思っていましたが、いや現代は治るんですかね?

オススメは「渇いた都市」。最初の場面は最後に繋がるのですが、
偶然てのは恐ろしいのと、完全犯罪というのはやはり難しいという。
田中昴作というか、遊んでない男性が女性に嵌まってしまうのは、良くあるんだろうな・・・
しかし、どうでもいい見栄を張るのはよくわかりませんね。

「バイクの舞姫」は、結局妹の存在も幻だったということなんでしょうか??
あくまで美術館へ彼を導くためだけの存在だったのか。ちょっと謎が残る結末でした。

「糸ノコとジグザグ」は、あの御手洗潔が名前は出ませんが登場します。
あんなトリッキーな人は、彼しかいないでしょう。
演説先生として紹介されていますが、肝心の事件解決の際は、
眠かったので、結論だけ述べたという(笑

「土の殺意」には、御大の双璧をなす吉敷竹史が登場。
これは今でもあり得る話で、固定資産を保有している方々は、
どう節税していくか、本当に悩むところですね。

御大には、短編集をそろそろ刊行してほしいですね。
御手洗潔のダンス、メロディ、挨拶、追憶と刊行されていますが、
ぜひ最新作は御手洗潔の短編集をお願いします。


改訂完全版 毒を売る女 (河出文庫)

改訂完全版 毒を売る女 (河出文庫)

  • 作者: 荘司, 島田
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2020/06/26
  • メディア: 文庫



毒を売る女 (光文社文庫)

毒を売る女 (光文社文庫)

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2017/02/24
  • メディア: Kindle版



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