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あなたは誰? [海外ミステリ]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

「ウィロウ・スプリングには行くな」匿名の電話の警告を無視して、
フリーダは婚約者の実家へ向かったが、到着早々、何者かが彼女の部屋を荒らす事件が起きる。
不穏な空気の中、隣人の上院議員邸で開かれたパーティーでついに殺人事件が…。
検事局顧問の精神科医ウィリング博士は、一連の事件にはポルターガイストの行動の
特徴が見られると指摘する。本格ミステリの巨匠マクロイの初期傑作。

またちょっと間隔が空いてしまいました。
以下、ややネタバレ。






原題は「どちらさまですか?」という、電話を受けた際に言う言葉だそうです。
この原題・邦題が表す意味こそ、本作で描かれる事件の核心を見事に突いているのですが、
それは、この核心が明らかにされない限り、まずわかりません。

そして、異常なまでに容疑者が少ないのも、マクロイの特徴です。
フレイはなぜ脅迫されているのか?なぜウィンチェスターが殺害されたのか?
マキシム・ルボルなる、謎の人物の正体は?
ウィンチェスターが狡猾な恐喝犯であることが明らかになっても、事件の全体像は
まるで見えません。まさに霧の中。

しかし、本事件に隠された、上記の核心をウィリング博士が指摘することで、
漠然とではありますが、その核心(「副人格」)が何らかの動機を持っているんだろう、
という所まではわかりますが、ところが私にはその先はとても行き着かず。

容疑者の描かれ方もこれまた上手くて、それぞれが自分らしく生きているかといえば、
そうではない。どこかやりたくはないけれども、やっているという、意志に反した
行動を取る者や、自分の感情を抑えつけている者等々・・・
核心をウィリング博士が明らかにすると、誰もがもしかしたら自分ではないか?
と疑い出すのです(第十章 誰も眠れない)。

副人格、つまり多重人格が本書のテーマなのですが、それを本格ミステリに
用いるというのは、謎解きをメインとする小説ではアンフェアではないのか?
という意見もあるのではないかと思います。
ところが、本書はこの多重人格を扱いつつも、事件の真相そのものは
大どんでん返しといっても過言ではありません。
フレイが受けた脅迫、ウィンチェスターの殺害、これらが一気に反転し、
物語は終幕を迎えます。
かなり悲しい結末なのですが、一つだけ、アーチ-とエリスが幸せになるのが
救いでしょうか。
この反転も見事ですが、犯人の決め手となるある事実をウィリング博士が
看破するのですが、これが秀逸。それだけでも傑作といっていいでしょう。

ところで、アーチ-とウィリング博士は親しく、そして敬語も特に使わず
会話をしているのですが、同じくらいの年齢なんでしょうかね。
今までウィリング博士シリーズを読んできましたが、
「新弁護士ペリーメイスン」のレイモンド・バーを勝手に投影していました(苦笑)。
まだ初期の作品なので、結構若い頃なのかなあ。


あなたは誰? (ちくま文庫)

あなたは誰? (ちくま文庫)

  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2015/09/09
  • メディア: 文庫



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夜会 [赤川次郎]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

川で溺れている男の子を助けた水泳世界大会金メダリストの沢井聡子。
そのお礼にと少年の母親に招かれ贅沢な夏休みをすごしていた。姉に早く戻るよう言われるが、
数日後に迫る男の子の誕生会までは居ることに。一方、友人の焼身自殺の真相を追う
高校生の佐山清美はあるパーティに参加することになった。
それは聡子が助けた少年の誕生会だった。二人が目撃した「夜会」の真実とは?

このところYoutubeサーフィンしていて、本をあまり読んでません(笑
本書も結構前に読了したもの。

以下、ややネタバレ。




この「夜会」、昔読んだ記憶があります。
特にクライマックスはよく覚えていて、さて何で読んだのだろう?と。
Amazonで調べると、本書は徳間書店からしか刊行されていないようで、
おそらくトクマノベルズを購入したんだと思います。
当時は文庫でなく、新書版も積極的に購入していたのです(笑)。

再読になるのですが、本書は内容(結末)的にはホラーに分類されるのだと思います。
ただ、それ以上に、突然有名人(主人公の沢井聡子は当時全然注目もされておらず、
無名だったのにもかかわらず、金メダルを取る快挙を成し遂げています。)に
なった主人公やその周辺に訪れた大きな変化が主題なんでしょう。
最後に、亡くなった間宮しのぶ(の幽霊?)から、「人生のピークは、一つだけじゃありませんよ」
と諭されたこともあり、考えを改めることができました。
しかし、唐突に変わってしまった環境で、自分や周囲も突然変わってしまうことへ
簡単に対応できる人はいないでしょう。沢井家は結果的には悪い方へ変わってしまったのです。

また奇妙な植物が敵(?黒幕)として登場するのは、次の文からその理由がわかります。
252頁「柳田も父も「聡子」から養分を吸い上げて生きてきたようなものだ-人の心の中にも、
あの植物は根を張っているのかもしれない。」
本当はあんな奇妙な生物は居らず、人間が生み出した欲の塊みたいなものだったのかも
しれないという、ちょっと突拍子もない考えまで浮かんでしまいました。
しかし赤川さんは上手いですねえ。ホラー小説なんだけども、人間社会とうまく関連づける
というか、人ごとではないんだよ、というのを描くのが実にうまい。流石です。


最後に気になった点。姉の初子は元に戻ったんでしょうか?
明らかに倉田のせいであちら側に行ってしまった描写があったんですが・・・
彼らが消滅したことで、その効果も消えたのでしょうね。



夜会 <新装版> (徳間文庫)

夜会 <新装版> (徳間文庫)

  • 作者: 赤川次郎
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2020/05/12
  • メディア: 文庫



夜会 (徳間文庫)

夜会 (徳間文庫)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2020/06/21
  • メディア: 文庫



夜会 (トクマ・ノベルズ)

夜会 (トクマ・ノベルズ)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2020/06/21
  • メディア: 新書



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消人屋敷の殺人 [深木章子]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

明治初頭、日影一族の棟梁の隠居所だった武家屋敷が官憲に包囲されたが、一族は忽然と姿を消した。
奇怪な伝承に彩られ、断崖絶壁の岬の突端に建つこの館を人は「消人屋敷」と呼ぶ。
ここに隠遁する覆面作家を訪ねた女性編集者が失踪、三ヵ月後、謎の招待状で五人の関係者が集まった。嵐で巨大な密室となり、また不可解な人間消失が起こる。
読者を挑発する本格ミステリ長篇、驚愕の結末!

ちょっと日にちが空いてしまいました。
『猫には推理がよく似合う』以来の、深木章子先生の作品です。
タイトルに惹かれて購入。
以下、ややネタバレあり。



屋敷の名称にまつわる日影一族の伝説は、そんなに大した話ではなく(失礼!)
まあ、そうだよね、という位でしょう。
それよりも、もう一つの「消人」の意味の方が面白いですね。
単に当主がサディストだったのか、それとも空を目指したのか・・・
新城の推理が正しければ、後者になりますが、果たして?

肝心の屋敷で起こった殺人事件ですが、ここは叙述トリックで、
うまく騙しをいれてます。
しかし、最後に新城誠が、新城篤史と幸田淳也のある関係を真っ向から否定した場面が
あるのですが、そうすると、暗闇の屋敷の一間で、
二人で過ごした場面がどうもしっくりこないんですよね・・・
これも結局謎のまま。ただし、誠の否定は篤史が消人屋敷に住む前の篤史、の認識なので、
彼らの生活がどうであったかは、実は物語に描かれた場面から想像するしかないのですが。

これを読んで、講談社文庫の深木章子先生の作品も購入してみました。


消人屋敷の殺人 (新潮文庫 み 64-1)

消人屋敷の殺人 (新潮文庫 み 64-1)

  • 作者: 深木 章子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/04/25
  • メディア: 文庫



消人屋敷の殺人

消人屋敷の殺人

  • 作者: 章子, 深木
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/10/20
  • メディア: 単行本



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サーチライトと誘蛾灯 [櫻田智也]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

虫オタクのとぼけた青年・魞沢泉(えりさわせん。)。
昆虫目当てに各地に現れる飄々とした彼はなぜか、
昆虫だけでなく不可思議な事件に遭遇してしまう。
奇妙な来訪者があった夜の公園で起きた変死事件や、
〈ナナフシ〉というバーの常連客を襲った悲劇の謎を、
ブラウン神父や亜愛一郎に続く、
令和の“とぼけた切れ者"名探偵が鮮やかに解き明かす。
第10回ミステリーズ!新人賞受賞作を含む連作集。


以下、ややネタバレ。


この作品集はすごい。傑作です。久しぶりに早く続編がものすごく
読みたくなりました。
泡坂妻夫御大の作風・衣鉢をここまで見事に継ぐことができる作家さんが
居るとは思えませんでした。泡坂ファンとしては素晴らしいの一言に尽きます。

あとがきでご本人は電車の中で泡坂先生に偶然お会いしたエピソードが語れていて、
それがまたよいのです。
そして解説でも泡坂作品への事は触れられていますが、米澤穂信先生の「初めて読んだ」
という感想は、御大の衣鉢を継ぐことができる方など、これまで居なかったことを
示しています。

探偵役を(図らずも)務める魞沢泉と、各物語に登場するキャラクターとの会話は、
まさに亜愛一郎が繰り出す、筆者の言う「とぼけたセリフの応酬」!
表題作の、最初の吉森との会話など、一体なにを言っているのかと思う始末でした(笑

しかし、これらの会話や、魞沢の行動そのものが、突拍子に見えて、
各物語で起こる事件の真相を見抜いていく行為そのものなのです。
もっとも、突拍子もない行動だけの場合もありますが・・・

出てくる言葉も、亜作品に近い。「ホバリング・バタフライ」で登場する
アマクナイ岳、アマクナイ倶楽部というとぼけた名称など、その最たる一例でしょう。

本書の中でも群を抜いているのは、第71回日本推理作家協会賞候補作となった
「火事と標本」でしょう。
兼城譲吉の旅館に泊まっていた奇妙な客人、火事現場で偶然落ち合ったため、
冷えた体を温めるため、銚子をやろうといったのに、拍子木と聞き間違える抜けた客。
火事と、その奇妙な客が興味を示した標本から、兼城は標本をくれたある人物と、
それにまつわる事件の話をするのですが・・・

この話、奇妙な客(最後まで名前は出てきませんが、魞沢ですね)の推理は、驚愕です。
放火しての心中事件であるということに違いはないものの、真の動機は違うのだという
魞沢の推理、そこで明かされるのは、昆虫標本を惹起させるもので、見事な推理で
ある一方、悲しさと恐ろしさも兼ね備えています。
この物語が傑作なのは、この先。二ツ森祐也の行動から、兼城は、祐也が自身の残酷さから
絶望したという解釈は、決して間違ってはいないのでしょう。
それはなぜ写真を残したのかを含めて、です。

最終話の「アドベントの繭」も、犯人を突然指名する魞沢の推理は、
見事としか言いようがありません。
ただこの事件はあまりに悲しすぎる。そして魞沢のとぼけた一面と全く違う一面が
垣間見え、他の物語とは一線を画してる印象を受けました。

読むのが楽しみな作家さんが増えるというのは、有り難いことです。
問題は本の置き場がどんどん無くなるくらいですが(苦笑


サーチライトと誘蛾灯 (創元推理文庫)

サーチライトと誘蛾灯 (創元推理文庫)

  • 作者: 櫻田 智也
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/04/20
  • メディア: Kindle版



サーチライトと誘蛾灯 (ミステリ・フロンティア)

サーチライトと誘蛾灯 (ミステリ・フロンティア)

  • 作者: 櫻田 智也
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/11/13
  • メディア: 単行本



サーチライトと誘蛾灯 ミステリーズ!新人賞受賞作

サーチライトと誘蛾灯 ミステリーズ!新人賞受賞作

  • 作者: 櫻田 智也
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2013/10/11
  • メディア: Kindle版



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