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卒業旅行 [赤川次郎]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

四年前の約束通り、卒業旅行の打ち合わせに集まった四人。
父親たちが会社の同僚で同じ社宅に住み、K女子大に揃って入学した親友同士だ。
しかしある事件がきっかけで、それぞれの運命がわかれることに。
加奈子と友江は今も大学へ通っているが、かおると由紀子は中退し家計を助けるために働いている。
久々に旧交をあたためる四人だったが、再会が思わぬ悲劇を引き起こす。


赤川作品が続きます。それもノンシリーズ。
以下、ややネタバレ。




タイトルにある「卒業旅行」は、本当に最後の最後に登場するだけで、
本書はこの「卒業旅行」に至るまでの、加奈子、由紀子、友江、かおる4人の4年間と、
それぞれの家族の4年間が語られていきます。

現在と過去がそれぞれ交錯しつつ物語は進みます。
本書は、『夜に迷って』以上に、どういう結末を迎えるのか、どういう物語が描かれるのかが
掴みにくい作品に感じました。
すでに、4人を引き裂くことになった出来事は過去のことなのです。
しかし、読み進めて行く上で、友江の「彼氏」的立場である奥村の登場で、
やや現在の物語へも変化が生じていくことに・・・


とはいえ、本書最大の見せ場は、最初から描かれていたある人物が
実は亡くなっていたということでしょう。しかも、その人物は4人だけでなく、
彼女たちの家族をも救っていたのです。

この人物の想いは物語では語られません。しかし、彼女含めた家族は
この人物のおかげで前を向いて生きていくことが出来るようになったのです。

赤川作品で幽霊が登場する話はたくさんありますが
(『幽霊はテニスがお好き』『怪談人恋坂』『三毛猫ホームズの降霊騒動』などなど)、
かなり初めからオープンなのが多いのですよね(笑
なので、本書はかなり意外な所を突かれました。
ノンシリーズはやっぱり良い。一気読み確実です。



卒業旅行〈新装版〉 (徳間文庫)

卒業旅行〈新装版〉 (徳間文庫)

  • 作者: 赤川次郎
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2020/11/06
  • メディア: Kindle版



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夜に迷って/夜の終りに [赤川次郎]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

可愛い中学生の娘と次期社長の夫とともに、社宅で暮らす沢柳智春にとって、
たった一度の浮気は気の迷いにすぎなかった。過ちは水に流して幸福な家庭の主婦に戻り、
義父の隠し子の幼稚園探しや義弟や実弟のトラブル解決に暗躍し、実家の父母の悩みに向き合いながら
家族を守ろうとする智春。しかし、いつの間にか、悪意と嫉妬に染まった噂が広まっていく。
家族のしがらみにとらわれ、追いつめられていく緊迫のサスペンス。

高校生の沢柳有貴は、3年前の殺人事件を機に記憶を失った母と二人暮らし。父は別居して、
若い恋人に夢中だ。ある日、殺人事件の犯人の夫が何者かに殺された。
さらに、有貴が通り魔に狙われ、父の会社では盗聴器が見つかり、
一家の経営する会社に窮地が訪れる。"家"を守るために秘密を抱えた"家族"の行く末は。

私が読んだのは新装版ですが、元は光文社から刊行されていて、
前者の『夜に迷って』が1997年、『夜の終りに』が2000年と、物語の時間軸と同様、3年の月日が空いています。
以下、ややネタバレ。





赤川作品はこうした続編は描かれていて、
『招かれた女』と『裁かれた女』。こちらは15年もの歳月が物語上流れています。

『魔女たちのたそがれ』と『魔女たちの長い眠り』、私オススメの2作品ですが、
『たそがれ』で終わっていてもしっくりくるところですが、
『長い眠り』のラスト少し不気味な感じを残したところも良いですね。

『殺人よ、こんにちは』と『殺人よ、さようなら』。
昔読みました。確か海辺の別荘か何かで起きる事件だったような・・・

『ふたり』と『いもうと』。いずれも未読という申し訳ありません。
他にもあると思いますが、ひとまずこのあたりで(他にあればお教えください)。

本作品、特に『夜に迷って』は本当に智春やその家族の日常が描かれていき、
そこにちょっとした(ではないものもありますが)「非日常」(不倫や再就職、婚約etc・・・)
が介入することで、徐々に幸せな日常が変わっていく様が、実に見事に描かれていきます。
最後に殺人事件は起こりますが、それまでは本当に何も起こりません。
しかし読者には智春が追い詰められていく様や、その関係する人たちが変化していることが
わかり、果たしてどういう結末で締めくくられるのか?疑問に思うでしょう。

後編にあたる『夜の終りに』の方がよりミステリでしょうか。
しかし、ある意味前作の時間を再び動かすこととなる奈良の死が通り魔殺人であった
というのは皮肉が効いています。
奈良敏子の出所、久保田と呼ばれる人物の庇護など様々な変化が起こる中、
置かれた環境によって、人の心も変化してしまったというのが本作品の核でしょうか。

ただ、智春の祖父母や弟(浩士)の方がそこまで深く描かれなかったのは少し残念ですね。
まあそれは求めすぎかもしれません。

しかし、だいたい赤川作品は読んでいるのですが、まだこういうのもあったのか(苦笑)
最近のシリーズもの(特に三毛猫ホームズや花嫁シリーズ)は、赤川先生の
現代社会への危機感や危機意識みたいなものが、如実に表れているのが多いように感じます。
拙ブログでも何度か過去作品のような作風が読みたいと書いたことがありますが、
こういうノンシリーズを読むと、余計にそういう思いが強くなりますね。



夜に迷って (中公文庫)

夜に迷って (中公文庫)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2020/08/21
  • メディア: 文庫



夜の終りに (中公文庫)

夜の終りに (中公文庫)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2020/09/24
  • メディア: 文庫



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インド倶楽部の謎 [有栖川有栖]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

生まれてから死ぬまで、運命のすべてが記されているという「アガスティアの葉」。
神戸で私的に行われたリーディングセッションに参加した“インド倶楽部”のメンバーが
相次いで殺される。前世の記憶を共有するという仲間の予言された死。
臨床犯罪学者・火村英生が論理の糸を手繰る“国名シリーズ”第9弾。

またまた久しぶりの更新です。
読書の秋!なんて書いてますが、以外と読めてないです・・・

そして久しぶりの国名シリーズ。エラリー・クイーンの短編集を読んだ後に、
日本のエラリー作品を読むという、贅沢な日常ではあります。

全く余談ですが、本書を勝手に短編集と思い込んでました(苦笑)
(あとがきで有栖川先生も仰っておられますが、火村&作家アリスシリーズは短編多し)
国名だと、『スウェーデン館の謎』と『マレー鉄道の謎』だけではないでしょうか。
なので、「第一章 神秘が語られる」を短編タイトルと勘違いしてました(汗)

しかし相変わらず容疑者が少ない!『狩人の悪夢』よりも多いですが、
作家アリス先生が命名した「インド倶楽部」メンバー複数名のみ。

アガスティアの葉、聖者アガスティアが全ての人々の運命を記したとされる葉で
「インド倶楽部」メンバー3名を占うナーディー・リーダーのラジーブ氏。
これがまた胡散臭い印象で、泡坂妻夫先生のヨギ・ガンジーを想像してしまいました(失礼!)

花蓮が聞いた父と母、間原郷太(マハラジャ)と妻・洋子の占い後の会話が
何かしらの事件を惹起させ、ラジーブ氏の代理人的立場であった出戸氏の死体が
発見されます。

23年前に起きた、間原郷太の前妻・寛子の事故死と、それを調べに行く野上部長刑事。
(全く余談ですが、土砂崩れによる死というのから、『後鳥羽伝説殺人事件』を思い出しました。)

読んでいる誰もがここに出戸氏と坊津氏殺害の動機があるものと思うのですが、
そこは有栖川先生。
動機という面から事件を解きほぐすのではない、これは『狩人の悪夢』でも火村が
披露した、詰め将棋のような推理ですが、本作でもこれは健在。
火村は、誰が二人を殺害できる、「犯人である条件を具えた唯一の人物」が
誰なのかを突き詰めていき、真犯人の逮捕(自白?)に到達します。
動機から辿っていくのではない。あらゆる可能性を排除していき、残った人物が犯人であるという
火村のまさに論理的推理の真骨頂です。

一方で、本作では単なる導入的なものとしか(私は少なくとも)思っていた「前世」という
「インド倶楽部」のメンバーを繋ぐ靱帯が、極めて重要な意味を持っていたというのが
個人的には本書最大の読ませどころと感じました。

ところで、本書では作家アリス先生が、これまでの火村の活躍の事件名を
勝手に命名していることを暴露していますが、メタ的な要素にも感じ、中々おもしろいですね。
しかも、これが事件を解く鍵にもしてしまうのは、さすが。

『カナダ金貨』の文庫化が待ち遠しいです。ソラシリーズもぜひ!


インド倶楽部の謎 国名シリーズ (講談社文庫)

インド倶楽部の謎 国名シリーズ (講談社文庫)

  • 作者: 有栖川有栖
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/09/15
  • メディア: Kindle版



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