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衣更月家の一族 [深木章子]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

別居中の妻の潜伏先を察知した男が、応対に出た姉のほうを撲殺――110番通報の時点では単純な事件と思われた。だが犯人が直接目撃されていないうえ、被害者の夫には別の家庭があった。
強欲と憤怒に目がくらんだ人間たちが堕ちていく凄まじい罪の地獄。
因業に満ちた世界を描ききった傑作ミステリー!

またまた久しぶりの更新です。
前作の『鬼畜の家』からだいぶ経ってしまいましたが、深木さんの第2長編。
以下、ややネタバレ。



一見すると何の関係もない3つの「家」で起きた事件ですが、
プロローグで語られる「衣更月家」の顛末があることから、
廣田家、楠原家、鷹尾家それぞれの殺人に、この「衣更月家」が関係してくるのは
間違いない、読者へそう思わせるためのプロローグな訳です。

どんな因縁があるのだろうか・・・と(勝手に思い込み)僕は読んでいたのですが、
この結末はかなり予想外でした。
特に廣田家の殺人の犯人、かなりの切れ者で実に巧妙です。
楠原家、鷹尾家より、やはりこの廣田家の殺人の見方が
探偵榊原の推理で見方が全く変わってしまうところが素晴らしい。

あと、個人的には前作の『鬼畜の家』もそうなんですが、
家の何らかの因縁なのかというのを醸し出しておきながら、
真相はまるで違うところが良いのですよね。
むろん全く家が関係無いわけではありません。
(今回も動機は相続問題ですから。)

榊原が登場する作品はまだあるようなので、そちらも購入したいと思います。


衣更月家の一族 (講談社文庫)

衣更月家の一族 (講談社文庫)

  • 作者: 深木章子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/02/12
  • メディア: Kindle版



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台風の目の少女たち [赤川次郎]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

9月。台風が近づいてきている中、山間の町に住む高校2年生の須川安奈は、
母とともに体育館へ避難する。そこでは、東京の大学へ進学した恋人の章が謎の美女と一緒にいたり、
母が誰かと駆け落ちを計画していたり、父が部下の女性を伴って帰ってきたりと、
トラブルが続出。さらには殺人事件まで発生してしまい―。
安奈たちは、無事に嵐を切り抜けられるのか!?避難所を舞台に関係者たちの思惑が交錯する、
一夜限りの長編サスペンス。

辻真先先生が解説を書かれているのですが、物語の校正技術にグランドホテル形式
というのがあるようです。
大勢の登場人物を限定された場所に集めた作者が、そこへなにかの一石を投ずる。
石の正体は人間同士の愛憎であったり、火災であったりします」とのことで、
本物語では、それが台風であると。

しかし、赤川作品は、本物語に限ったことではありませんが、関係者の人間関係だけで
見事に物語を構成してしまいますから、辻さんの指摘の、いわば愛憎がすでにある状態に、
台風という、しかも近年に非常に多い、○○年に一度という非日常が放り込まれている
のです。
角川文庫では、これに近似しているのは『夜』でしょう。
あれもパニックホラーないしパニックミステリの部類に入ると思いますが、
これを読んでいて、まず真っ先に思い出しました。

台風によって暴かれる秘密も本書では語られていて、元々の愛憎劇(安奈と雅美、弥生と??)
にもさらに拍車がかかり・・・
松田拓郎の父親があっけなく死んでしまうシーンは、自然災害の恐ろしさを改めて知ると
ともに、拓郎がああなってしまうのも致し方ないと同情してしまいました。

ところで、本書の主役は一応須川安奈なのでしょうが、赤川作品常連からみると、
どう考えても琴平雅美が主人公に見えてしまう(苦笑
彼女の言動は(赤川作品によくある)突拍子もないものにみえて、上手く周りをまとめていく
という凄さがあるのです。
ラストまで読んでも、彼女への深掘りは実はなく(彼女自身が少し過去を話したりしますが)
その点はもう少し掘り下げて欲しかったなあと思うところ。

最後、生き延びた人たちが描かれ、それぞれの想いも語られたりし、一応ハッピーエンド
的な終幕となります。
しかし、赤川さんには、この後、自然災害に遭った人々の復興を描いてほしいと思いました。
日本の様々な所で行われている「復興」。これを現実とフィクション交えて、
描いてほしいですね。


台風の目の少女たち (角川文庫)

台風の目の少女たち (角川文庫)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/09/24
  • メディア: 文庫



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エラリー・クイーンの新冒険 [海外ミステリ]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

人里離れた荒野に建つ巨大な屋敷が、一夜にして忽然と消失するという不可解極まる謎と
名探偵エラリーによる解明を鮮烈に描き、クイーンの中短編でも随一の傑作と評される
名品「神の灯」を巻頭に掲げた、巨匠の第二短編集。そのほかにも野球、競馬、ボクシング、
アメリカンフットボールが題材のスポーツ連作など、これぞ本格ミステリ!
と読者をうならせる逸品ぞろいの全9編収録。

またまた久しぶりの更新です。
以下、少しネタバレ。





横井司さんの「あとがき」をみると、『冒険』と『新冒険』の成り立ちや収録作品の
紹介があるのですが、この『新冒険』、確かに分が悪いですね。



ただ、やはり最初の「神の灯」が素晴らしい。傑作の一言に尽きます。
本書はこの作品で成り立っていると言っても過言ではありません。

ソーン弁護士による、クイーンへ助けを求めるところの描写は鬼気迫るものですし、
その後の屋敷焼失という超特大の謎。
ただ、本書をよく読むと、この前振にあるトリックが(しかも本物語の真の核心トリック)
個人的には強烈でした。
それでいて、謎を解くパズルピースは物語の中にしっかりと埋め込まれている。
最後の、クイーンの極めて合理的で論理的な推理がまたお見事。

「がらんどう竜の冒険」も見逃せない、いや読み逃せない作品です。
無くなった、たった1つのドアストッパーから、一気に推理を組み立てるエラリーのかっこよさ。
いやすごい。受付伝票から何を読み取れたのか。オススメです。

スポーツシリーズはやはり野球の「人間が犬を嚙む」がオススメ。
クイーン警視とヴェリー部長刑事、そしてエラリーの三者三様の野球談義と、
ほぼ同時並行で事件の謎も解いていくという、かなりカオスな作品でもあります。

それにしても「神の灯」はすごい。必読です。



エラリー・クイーンの新冒険【新訳版】 (創元推理文庫)

エラリー・クイーンの新冒険【新訳版】 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/07/22
  • メディア: 文庫



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7人の名探偵 [ミステリ]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

新本格ミステリの端緒を開いた『十角館の殺人』刊行から三十周年を記念して
出版されたアンソロジーが、ついに文庫化。
綾辻行人、歌野晶午、法月綸太郎、有栖川有栖、我孫子武丸、山口雅也、麻耶雄嵩、
新本格第一世代のレジェンド作家七人の夢の競演。
「名探偵」をテーマに書かれた各作家の個性あふれる短編集。


待望の文庫化!
それにしても『十角館の殺人』から早30年ですか。
時が経つのは早いもので、第一線で活躍されてこられた方も、もうすぐ還暦の方も居るという。
新たな世代が登場しているのはうれしいことですが、やはりこのムーヴメントを
生み出したこの7人の方々の作品、特に綾辻さん、有栖川さん、法月さん、我孫子さん
などは、私にとっては別格です。

私の世代ですと、『金田一少年の事件簿』で、ミステリに触れ、新本格へ入っていった
人も多いのではないかと思います。
個人的極めつけは、我孫子さん原作・監修の「かまいたちの夜」。
サウンドノベルという新ジャンルを開拓しただけでなく、ミステリの面白さを
教えてくれたSFCソフトです。
(『あなただけのかまいたちの夜』2冊共、抜群に面白いです。)

さてまあ昔を思い出すのもあれなので。
本作で変わらずの論理展開をみせてくれるのは有栖川有栖先生の「船長が死んだ夜」
悩む名探偵ここにあり!を示してくれた法月綸太郎先生の「あべこべの遺書」
このあたりが個人的オススメ。

麻耶雄嵩先生のメルカトル鮎シリーズ、実は初読です(汗)
いや、これがシリーズお馴染みの展開なのか?犯人は分かった。しかし説明が超不足!(笑

我孫子先生は変化球的作品で、仮想世界におけるシャーロック・ホームズと
モリアーティ教授を描きます。
仮想世界と書きましたが、すでに現実世界でも起こりうる事象なのかもしれません。
しかし、バグ的な要素で速水三兄妹や鞠小路鞠夫を入れてみたりしたら、
果たしてどうなっていただろうか??


そして最後を締めくくるのはやはりこの人、綾辻行人先生。
この話、どこまでがフィクションで、どこからがノンフィクションなのか?
ちなみに綾辻さんが出会った人物はすぐにわかりました(笑
ある意味すごい出会いだよなあ・・・

皆さん、作品を生み出すのは本当に大変だと思いますが、
これからもどうぞお体に気をつけて、新本格作品で楽しませてください。


7人の名探偵 (講談社文庫)

7人の名探偵 (講談社文庫)

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/08/12
  • メディア: Kindle版



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