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遺品博物館 [太田忠司]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

あなたの「遺品」収蔵します。死者の物語を宿した品々と引き換えに
学芸員がもたらすのは、救済か破局か――熟練の技巧が冴え渡る、
死者と生者を繋ぐ八つの物語。

地元の名士である老医師からいがみ合う遺族への最後の贈り物、
過去に起きた殺人の記憶を秘めた細工箱、十歳で命を落とした少年が最後に遺した宝物……
老若男女問わず、「死」の後には必ず「遺品」が遺される。そして生前の名声に関係なく、
死者が蓄えた物語が込められた遺品を収蔵するのが「遺品博物館」である。
学芸員の吉田・T・吉夫が遺品と引き替えに残された者たちにもたらすのは、安寧か崩壊か――
熟練の技巧で抉り出す、死者と生者を繋ぐ八つの謎物語。


太田先生の『奇談蒐集家』を思い出しました。
学芸員の吉田・T・吉夫、いかにも怪しげな印象でした(笑)
しかし本作は、『奇談蒐集家』にあったSF、怪談的要素はほとんどなく、
ほぼミステリ短編集といって過言ではありません。
というか、イヤミス多めかも。

「川の様子を見に行く」は、よくニュース等で見かける言葉であり、
ネット掲示板などではネタ的に使われますね。
この話、中々過去からの根が深い話なんですが、やはりラストが秀逸過ぎます。
自ら足を滑らせて、川に落ちてしまうという、吉田の言葉も嫌味十分。

「ふたりの秘密のために」「不器用なダンスを踊ろう」この2編は
幸せな結末というか、少しほっこりする物語。
後者の吉田の「謎解き」が素晴らしく、またミステリ的には校正という点から
故人の考えを推理しているところが面白い。

この間に挟まれている「燃やしても過去は消えない」が中々にどす黒さがある
話なので、余計にこの2編が目立つんですよね。
「燃やしても」は故人の本当の正体とその性格を利用する、2つの話が書かれていて、
吉田の最後のセリフが強烈な嫌味で、ある意味最後の一撃です。

「何かを集めずにはいられない」は『奇談蒐集家』に似た印象を受けました。
本作はコレクターがメインのお話で、様々な(ここが重要)コレクターが登場します。
登場人物は、実は誰もが浅ましい(笑
レトロな玩具を求めに来た須山たち。「ハイエナ」と呼ばれてます(笑
遺品の寄贈者の話を聞いて自分の記憶の棚に収める、吉田・T・吉夫。
まあ彼は、その記憶を何かに利用しようと思っているようではないので、浅ましいからは
除外ですね。
人間の感情を集める太刀川。彼は『奇談蒐集家』の恵美酒に近いかもしれません。

「大切なものは人それぞれ」。これまでも吉田の推理は出てきましたが、
本作の吉田の推理も冴えに冴えています。
始まりから、この作品でどんでん返しがあるのかと思いましたが、そんなことはなく(笑
しかし密室の謎やイミテーションの指輪に交換した動機など、見事に解明します。

しかし、遺品博物館はどこが運営主体なんでしょうね。
本作は続編も望めると思うので、もし可能なら、博物館そのものへの謎に
迫ってもらいたいですね。



遺品博物館 (創元推理文庫)

遺品博物館 (創元推理文庫)

  • 作者: 太田 忠司
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/02/27
  • メディア: Kindle版






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雪密室 新装版  [法月綸太郎]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

雪と鍵。
二重の密室状態から、犯人が消えた。

父は警視、息子は作家。
法月親子は密室殺人のトリックを解き明かせるか?

雪の山荘へ招かれた法月警視。客人が揃った夜、招待主の美女の死体が離れで発見される。
部屋は施錠され、雪の上には発見者の足跡だけ。不可能状況から自殺で処理しようとする
地元警察に対し、殺人を疑う法月警視は、綸太郎とともに密室トリックの解明に挑む。
大人気「法月綸太郎」シリーズ、始まりの一作。


法月綸太郎シリーズの第1作。初読です。
これまで読んで来たシリーズ作品、いずれの型にも当てはまらない、
これが法月綸太郎シリーズか??と思わせる、まさに第1作目らしい作品ではないでしょうか。

とにかく法月警視の息子への信頼感が高すぎる(笑
あいつならば、この不可能状況を打破できるはずだ。あいつが来るまでなんとか
時間を稼がねばならん。警視はこの一心で考えつくありとあらゆる手段を尽くします。
(特に最後の無謀な告白はすごい!)

倫太郎の推理に迷いはなく、貞雄警視も彼に全幅の信頼を寄せている。
いや法月綸太郎シリーズでこんな作品が読めるとは思いませんでした。
(もっとも警視はなんだかんだ言いながら、息子を信じているのはシリーズ変わりませんね)

トリックも、明かされてみるとな~んだ、と思ってしまうかもしれませんが、
やはり、最初の警視への誤認トリックが秀逸。
しかし突発的な殺人にもかかわらず、よくまあここまで上手くトリックを構築したなと
犯人側にやや脱帽します。

悩む法月綸太郎しか知らない方は、ぜひ本作をオススメします。


雪密室 新装版 (講談社文庫)

雪密室 新装版 (講談社文庫)

  • 作者: 法月綸太郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2023/02/15
  • メディア: Kindle版






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沈黙の目撃者 [西澤保彦]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

“特殊設定”ミステリーの快作!

死体×ビアマグ=謎!?

「だから西澤保彦の小説がもたらす怖ろしさは、
じっと噛みしめる価値がある」
                 ――霜月 蒼氏 解説より

なぜここに、ビールのロング缶とビアマグが置いてあるんだ?
世話になった先輩の絞殺死体を前にして、彼は首をひねる。
先輩はたしか、下戸だったはずなのに――。

ビールグラス、マグカップ、タンブラー。
見慣れぬコップを見つければ、不思議な事件のはじまりはじまり……。

ミステリー界の鬼才が贈る、予測不能の衝撃展開!!
以下、ややネタバレ。




西澤節全開の作品です。
特殊設定、読みにくい名前、そして性描写と性的嗜好。
これらが全て詰まってます。

表題作は、本書における特殊設定の説明の物語であり、
かつ見事なまでの論理のアクロバットが楽しめる傑作。
事件の真相の一端が明らかになるのが、数十年後というのも、本作の
特殊設定を受けていますね。
それと、性的嗜好もしっかり描写されており、この表題作で
西澤作品全部入りみたいなものかもしれません。

「まちがえられなかった男」は、ホワットダニットであり、フーダニットでもある作品。
会話の中にある重大なヒントが素晴らしい。金田一耕助のあの作品を思い出しました。

「リアル・ドール」は性的嗜好全開の作品。
これ映像を想像すると恐ろしいですね。
「彼女の眼に触れるまで」
これも同様。登場人物全員狂ってます(笑
こちらの方がミステリの要素がかなり入っているのですが、
それでも彼彼女たちの心境や動機は、流石に理解するのは難しい。

「ハイ・テンション」
これも論理のアクロバットが仕掛けられた作品。
なぜ憑依していた人間が、次々と殺されているのか?
二人だけのサインでありながら、それが他人にとってはまるで違う意味を
持ってしまったという。
性的嗜好の描写はあるものの、こちらは少しもの悲しくも、ラストは綺麗な終わり方
かなあと思います。

西澤作品は『夢魔の牢獄』を最近購入しまして、こちらも楽しみですね。


沈黙の目撃者 (徳間文庫)

沈黙の目撃者 (徳間文庫)

  • 作者: 西澤保彦
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2023/01/12
  • メディア: 文庫






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友が消えた夏 終わらない探偵物語 [門前典之]

まずはAmazonさんの紹介ページから。

断崖絶壁の館に並んだ首なし白骨死体!
「まさか!」のつるべ打ちに驚愕必至
三冊分のトリックが詰めこまれた奇想の本格推理!

一級建築士で探偵の蜘蛛手啓司は、相棒の宮村達也からある事件の記録を渡される。
名門大学演劇部の劇団員たちが、夏合宿中、一夜にして首なし白骨死体と化した衝撃的な事件。
その詳細な記録が、連続窃盗犯の所持品から見つかったのだ。犯人と目された人物の死体も発見され、事件は一応の決着を見ていたのだが――。
本格界の鬼才が剛腕から放つ前代未聞のトリック!

新年度でバタバタし、初めての更新が遅くなりなってしまいました。
今回は新年度ということもあり、初めて読む作家さん。
オススメに出てきて、解説を読んでこれは!ということで即購入。

門前さんの作品では、初めての文庫作品ぽいですが、
登場するキャラは、これまでの作品にも登場しているのかなあ。
蜘蛛手啓司、この作品だけでは奇天烈とまではいきませんが、変わってますなあ。

事件の詳細な記録を読んで、その事件を解き明かすという、しかも
この詳細記録は手記ではなく、録音を起こしたもの。
しかし、ここにあるトリックが隠されているんですね。
これ絶妙というか、だいたい手記だとかにはそういうものはあるだろうと想像しますが、
語り手を務める人物の、それぞれの呼び名に注目するというのが上手い。
そして、その先にあるこの録音された記録の正確性から、さらに先を見据えての推理は
お見事としか言いようがありません。

閉じ込められた館の内部図や事件現場の図、いやあ、見ているだけで
門前さん本格大好きなんだろうなと、事件の事をほっぽり出して思ってました(笑

物理的トリックよりも、やはり鶴扇閣の事件とタクシー拉致事件、そしてイントルード
での老女殺害事件、この3つがどう関係してくるのか?が一番の読み所。
ここはあえて触れませんが、この動機は納得しそうで、でもそういう実行はできないなあ。
本人の言う病気が本当なのかがまず疑わしいですが、本人がそう思っている以上、
このリセットは繰り返される訳です。
そして、ラストに現在の危機を解決するため、蜘蛛手が立ち上がるのですが、ここでエンド。

まだ文庫化していない、鮎川哲也賞最終候補作や受賞作、いずれも早く読みたいですね。
待ち遠しい。


友が消えた夏~終わらない探偵物語~ (光文社文庫)

友が消えた夏~終わらない探偵物語~ (光文社文庫)

  • 作者: 門前 典之
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2023/02/14
  • メディア: Kindle版






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